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天国と地獄

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第一章

                 天国と地獄
 根室千佳にだ、クラスメイトの上田祐奈が糊を貸して欲しいと言うと千佳はにこりと笑ってそのうえで自分の糊を差し出して彼女に言った。
「はい、どうぞ」
「有り難う、ただね」
「ただ?」
「最近千佳ちゃん機嫌がいいわね」
 糊を受け取ってから千佳に言った。
「そうでしょ」
「そうかしら」
「だっていつもにこにこしてるし」
 祐奈はまずはこのことから話した。
「それにね」
「それに?」
「千佳ちゃん頼まれたら貸してくれたり助けてくれるけれど」
 本質的に心優しくて善人だというのだ。
「その前に絶対にカープのクイズ出すでしょ」
「山本浩二さんの背番号なり衣笠祥雄さんの背番号なり」
「そうしてくるじゃない、もっとも不正解でも貸してくれたり助けてくれるけれど」
 やはりいい娘であるのだ、本質的に。
「絶対に聞くでしょ」
「だって私広島ファンだから」
「所謂鯉女ね」
「そうよ、この通りね」
 見ればクラスの中だが広島東洋カープの帽子を被っていて制服のあちこちから赤いものが見える、ミサンガも赤い。
「私の身体にはカープレッドの血が流れてるのよ」
「いや、血は元々赤いでしょ」
「だから赤いのよ」
「何か意味がわからないけれど」
「けれど赤い血とカープの赤だからいいでしょ」
「そう言われるとね」
「けれど機嫌がいいことは確かよ」
 千佳自身このことは否定しなかった。
「今年はずっと毎日が最高よ」
「カープ強かったしね」
「優勝よ、優勝」
 にこやかに笑って言う。
「二十五年ふりなのよ」
「私達が生まれるずっと前ね」
「それで優勝したから」 
 だからこそというのだ。
「幸せでない筈がないでしょ」
「そうよね、もうね」
「毎年厳島神社に参拝して」
 わざわざ広島まで行ってだ。
「そして優勝を祈願してね」
「それが適ったのね」
「これまで苦しかったわ」
 涙さえ流してだ、千佳は祐奈に語った。
「巨人に選手を掠め取られてエースはメジャーに行って選手はどんどん故障してね」
「お金はないし」
「赤貧赤貧と言われ続けて」
 涙を流しつつ語っていく。
「それがなのよ」
「遂によね」
「優勝よ」
「まさかね」
「期待していてもどうせってね」
 優勝はというのだ。
「無理だっても思っていたけれど」
「そして毎年ね」
「他のチームの優勝を見て」
 悔しい思いをしていたのだ。
「それがね」
「優勝ね」
「悲願達成よ」
「まさに悲願ね」
「あとはもう二つの悲願よ」
「クライマックスに勝って」
「巨人が出て来ても横浜が出て来ても」
 どちらにしてもというのだ。 
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