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テイルズ魔術をプリヤ世界にぶちこんでみたかった。

作者:あしゅき
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現代科学超越摩訶不思議浮遊物体

 雲に隠れた月が顔を出した夜のこと。僕の前にはアインツベルン家がその姿を表していた。
 いくつかの窓の向こうが電気で照らされているところから見て、まだアインツベルン家の夜は長いらしい。いや、確かに長そうだな。あのお手伝いさんと士郎さんの夜は特に。ケッ、毎度毎度家に行く度に見せつけやがって。聞くたびに違う違うと否定はしているが絶対嘘だ、そろそろしっぽりするためにお風呂に入っているに違いない。大人ってやっぱり汚い。

 いやそんなことは二の次だ。イリヤスフィールの部屋の窓を見る。電気が消されているのを見る限り、もう寝てしまっているのだろう。ということは、あの光と彼女は恐らく関係ない。不安の風で凪いでいた心が安心感で満たされていくのがわかる。

 しかしまだ帰れるわけじゃない、あのツインテールが僕よりも早くこの家についているはずなのだ。あれの目的が何かは僕には測ることすらできないが、アインツベルン家がその標的に狙われていることぐらいは理解できる。

「リゼさんのパンツを盗むことは僕が許さないぞ……!」

 なんの意思だか電波だか知らないが、あのツインテールは同性だって構わず食ってしまえるような気がする。必要なことだからとか言いつつ嫌悪感一切なしにノリノリで女性を犯せるような、あれはそんな感じの女な気がするぞ。

 ――いや、というか僕の回りはそんなのばっかりじゃないか。金髪の竹刀を持った女子高生しかり紫髪の女子高生しかり、そういえば同級生にも一人いたか。
 まぁ、今はいい。


 正門から堂々とアインツベルン家の敷地に入る。普通であることがどれだけ恵まれているかがよくわかる一戸建てを目の前にしたとき、ふと思う。そういえばあの光は本当にアインツベルン家から出たものだったのだろうか。
 そういえばあの時の僕は方角があっているという理由だけでこの家に何かあったんだろうと思っていたような気がする。つまりこれといった確証もなしにここまで走ってきたから、もしかしたら光の元は隣の家かもしれないし向こう側の家かもしれない。

 ――いや、違うな。僕には確信がある。あれは間違いなくアインツベルン家から発せられたものだ。前述の通り確証はないけれど、この胸が、僕の直感が叫んでいる。

 ――アインツベルン家はトラブルメイカーの血筋だ、と。

 ふとその時、聞き覚えのある小さな悲鳴が聞こえる。いや、いつも聞いている声が悲鳴となって紡がれたのを聞いた。

「ッ。イリヤ!」

 僕の左側から聞こえたということは、場所は中庭ではなく浴室の窓前。どうしてそんなところにいるか等の疑問はそんなことはどうでもいい、対した問題じゃない。それにそんなことに意識を割いている暇も意味もない。僕の足は絶望的に遅いのが売りだが、今この瞬間だけは全力をもってそれを挽回させる。

 白塗りの角の向こうに漠然とした人がいる気配というものを感じる。人数とかはわからないが、きっとそこにイリヤがいる。
 僕なんかに何ができるかはわからない、けれど考えるよりも体が先に動くべきなのは、それだけは理解できる。今がその時であるということも。

「イリヤッ!」

「えっ?」

「ふぇ?」

「――――」

_____ 僕(男)
     |
     |白(裸) 赤(大人)
     |

「――――――へ」

「へ?」

「変態だーーーーッッ!! 怪人赤百合ロリコン女だーーーッッ!!!」

「変態はそっちだよバカァァァー!!」

 叫びと同時に光る石を豪速球で放つイリヤスフィール。呆然と叫んでいただけの僕にはそれを避けることはできず、ただそれを額を持って受け止めるしかなかった。

 流石に理不尽がすぎるんじゃないだろうか。倒れ行く僕の嘆きは、誰にも届くことはない。

◆◆◆

 その夜は詩的に語るのならば、始まりを高らかに歌っていたに違いないだろう。それはもう大きな声の讃美歌であろうなぁ。ついでに言うとその表情はムカつくことこの上ない破顔したもので、もっと言えば歌の内容は「ぎゃ」と「は」で構成されたなんともつまらぬワンパターンで構成されていること間違いなしだ。

 笑いこけやがって糞野郎共が。

「そんな風なことを考えたんだけど、お前はどう思う? やっぱりろくでもない僕にはピエロというのが一番の天職だったりするんだろうか?」

「だ、だからごめんってばぁ……」

「いや僕は絶対に許さないぞ。お前が明日のプリンを差し出すと言うまで絶対に許さない」

「それはあんまりにもみみっちすぎるんじゃないかな!? 私がプリン好きだってこと知っててそれを言う辺りに性格の悪さが滲み出てるよ! ろくな大人である以前にろくな子供じゃないよ!」

「なんとでも言うがいいさ。僕の心の傷は深淵並みだぞ、お前のせいでな!」

「給食のプリン一個で埋まる深淵って何よ………」

 大体今更裸の一つがなんだと言うのだ。僕たちは同じ人の監視のもとで同じ浴槽に入り、あまつさえ同じ浴槽で抱きつきあったりしてたらしいと聞いたぞ。だから僕たちはもっと裸の付き合いというものをしていても可笑しくはないのだ。今度は一緒に風呂入ろう、そしてどさぐさに紛れてリゼさんにも入ってもらおうそうしよう。

 どうやら僕の精通の日は近いらしい。

「はいはいそこまでよ。元はといえば私が悪いと言えるところもあるし、ここは私の顔に免じて許してちょうだい」

「もう少しバストアップしてから話せよ絶壁に咲く百合女郎が」

「あんただけはここで殺すと誓うわ。今、ここでッ!」

「あーもう落ち着いてってばー!」

 そうして話すまでに必要になった所要時間、プライスレス。

「――それで、その明らかに現代科学を超越した不思議浮遊物体を見たからには、僕にも当然説明があって然るべきだよね」

「えぇ。それにしても、あんたこの子とは正反対ね……良くも悪くも」

「おかげで苦労してるよ。良くも悪くもね」

「絶対に遠回しに馬鹿にしてるよね? そうなんだよね?」

 この流れで確信できない時点で馬鹿だと回りに言いふらしているようなものだと言うことが何故わからないのだろうか。美徳であるといえばそれまでだろうけれど。

「ま、ここまで見られたのなら話すしかないわね。丁度状況についての説明と、これに聞きたいこともあるし。オラ逃げんじゃないわよ」

 浮遊物体がぐわしと捕まれる。プラスチック製か鉄製のどっちかと思っていたのだが、あそこまで伸びたり縮んだりしているところを見ると、どうも僕の知っている物で作られているわけではないらしい。

『ぐっ。ぼ、暴力には……テロリズムには決して屈しない……ッ! マジカルステッキルビーちゃんは健気で儚きが信条なのですから……!』

「はっ」

『会ったことも話したことも見られたこともないショタに鼻で笑われる体験が来るとはさしもの私もあるとは思ってませんでしたよ』

 っていうかなんでもいいから早く話を進めろよと。尺が押してるんだよこっちは。そんなものはどこにもないけれど。まぁ強いて言うなら睡眠時間の尺か。

「さて、自己紹介からするべきかしら。私は遠坂凛、魔術師よ」

「……(キリッ)」

「しばくわよ糞ガキ」

 キレる十代というのは本当に怖いなぁ。まぁ今のは話の筋を折った僕が悪い、素直に降参しておくとしよう。両手をあげて無抵抗を示すポーズ。

「魔術師……?」

「いい加減難しい単語が出てきたら真っ先に僕の方を見るのやめろよ。……まぁ、言葉とかそういう厳密的なことを言えば違うんだろうけど、現国的には魔法使いみたいなものと思っておけばいいんじゃないか?」

「魔法使い……マジカルルビー参上……」

 瞬間、イリヤスフィールに痛みの電流走る。目の前には鬼の表情をした遠坂凛が立っていて、その手は俗に言う手刀の構えを取っていた。そうしてすぐに降り下ろされたのはお仕置きのチョップ、彼女は僕のようにポーカーフェイスを気取ることが出来ないから、すぐに顔に出てしまって嘘はつけないタイプの人間だ。色々と損しているなぁと思う。

「あんな恥ずかしい格好するような人間だとは思わないでほしいわね。これでも、時計塔じゃ首席候補なんだから」

「私も恥ずかしい格好させられたんですけど……」

『大丈夫ですよ、イリヤさん"は"似合ってましたから』

 遠坂凛(lv51) の にらみつける。しかし現代科学超越摩訶不思議浮遊物体には効果がないようだ。というか、"は"ってことは遠坂凛もその恥ずかしい格好をしていたということだろうか。
 年考えろよ。

「シッ!」

「僕が当たってやる義理はない!」

『恐ろしいぐらいに早いスウェー、私じゃなきゃ見逃してますね』

 というか本当になんなんだよこの浮遊物体、さらっと喋ってるところを見ると本当に現代科学を蔑ろにしてるような存在だなこいつ。これが魔術の力という奴なのだろうか。

「で、魔術師殿。この浮遊物体はなに?」

「それはカレイドステッキのルビーよ。役割は色々とあるけど、それを説明するには私がここにいる意味から説明しないといけないわね」

「凛さんがいる、意味?」

「そう、ここからが本番よ」

 そうして遠坂凛はどこからともなく眼鏡を取り出しては自らに装着する。先生気取り、のようなものだろうか。尊敬している先生が眼鏡をつけているとか、そういう理由からか? はいそこ、一人とステッキ。雰囲気作りとか言ってあげるな。

「結論から言うと、私たちは時計塔からの指示でこの町にカードを回収しにきたのよ」

「カード、ですか?」

 これのことね、と言って遠坂凛は一枚のカードを提示する。それはトランプのように上下に対応しておらず、タロットのように意味のある数字も匂わせるような絵もない。
 描かれているのは凛とした女戦士が弓を引いている、力強さを感じさせるシンプルなイラスト。デパ地下で売られているようなものにしては大きすぎるし、専用店で売っている商品にしては手が懲りすぎている。個人が趣味で作るには、あまりにも異質すぎる。

「えっと、A……r……」

アーチャー(Archer)だよ、お前ほんとにドイツ人かよ」

「しょ、しょうがないじゃん! 母国語は日本語みたいなもんなんだし!」

「はいはい漫才はもういいでしょ。で、あんたはこれが何に見える?」

「……少なくともトランプやタロットのような市販のカードじゃない。それぐらいしかわかないよ」

「タロットじゃないってわかってるなら十分ね。そ、これはタロットなんかじゃないわ。これは極めて高度な魔術理論で構成された、特別な力を持つカードなのよ」

「特別な力って?」

「えぇ。それこそ街一つくらい簡単に滅ぼせるぐらいのね」

 街一つ滅ぶ、か。なんだか大事過ぎて小学生には想像し難い状況になってきたな。イリヤスフィールは戦慄しているけれど、多分あれは創作でいうお決まりの反応というものを無意識に返しているだけだ。現実もちゃんと見れているかどうか。
 まぁそれを言えば、未だに中々にこった設定をした作り話だなと思っている僕も僕だが。

「……っ! そっか。つまり凛さんは、街に仕掛けられた爆弾を秘密裏に解体していく、闇の爆弾処理班みたいな感じなんだねっ」

「よーしよし、よく理解できたな~。偉いぞ~」

「えへへ~」

「……かなり斬新な解釈だったけど、それ褒めて大丈夫なの?」

 それでもいい。それで例えイリヤスフィールの書く感想文が想像と現実が入り交じったような、僕の夢のようなやけに生々しいものを書くようになったとしても、僕の手間がなくなるのであればそれで十分だ。

「それで、その街一つ軽く滅ぼせる相手に対応するために用意されたのが、それ?」

「話が早くて楽ね。そう、このバカステッキよ」

 カレイドステッキルビー、聞けばなんでも遠坂凛のような魔術師でも遠く及ばない存在が作った、最高技術の結晶であり最高位の魔術礼装であるらしい。
 主な機能としてはマスター認証を許された担い手の戦闘形態への転身、つまりデュアルオーロラウェーブとかピーリカピリララポポリナペーペルト等による魔法少女への変身。そしてイメージと魔力を直結させて魔法として行使し、放ったり発動したりすることができる、とのことだった。

「それのマスターとして選ばれたのが、こいつなわけ?」

『はい。イリヤさんこそが、私の新しいマスターです、そこの元カノとは違っていい子ですし、何より面しr、可愛いですしね!』

「誰が元カノよッ!」

「もうちょっと具体的で嬉しい理由がよかったよ……」

 果たして選んだのは本人の意思か、それとも詐欺か。どちらでもいい、僕としては反対であるという意見は変わりないのだから。
 しかし、表立って批判するような真似はするまい。

 確かにイリヤスフィールは馬鹿で脳筋で不利益ばかりを人に押し付けるようなろくでなしだから何かの役に立つとは到底思えない、本当の意味での足手まといになって挙げ句のはてに用済みにされて闇に捨てられてしまうかもしれない。

 だが遠坂凛はそんなことをするような人間ではない、そんなことは僕にだって分かっている。だがそれは今現在での暫定的な判断に過ぎないのだ、これからがどう転ぶなんて誰にもわかりやしない。
 だからこそ僕は着いていかなくてはならない。力はないし、判断力もないし、知恵だって小学生相応だ。力と状況を掴みとったこいつと僕では訳が違う。

 それでも着いていく他ない、捨てられてしまう時は僕が言葉を尽くすために。壁にぶち当たってしまった時は僕が激励してやるために。そしていつか理由を求めてしまった時に、僕がそれを自覚させるために。
 僕のような役に立たない豚にだって出来ることがあるはずなのだ。

「そういうわけで、このバカステッキがどうにかなる時まで変わりにあんたになんとかしてもらうから、覚悟しておくようにっ」

「……へ? えぇぇぇええっ!?」

 今は、そう思いたい。 
 

 
後書き
原作との相違点
『金髪の竹刀を持った女子高生』:一体何トリアなんだ……
『紫髪の女子高生』:一体何ューサなんだ……
『現代科学超越摩訶不思議浮遊物体』:ショタもいける 
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