真田十勇士
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巻ノ五十八 付け城その二
「何か築いておるな」
「壁を築いてな」
「石垣も建てておる」
「門までな」
「矢倉もじゃぞ」
「まさか」
ここでだ、彼等も気付いた。
「まさかと思うが」
「いや、まさかじゃ」
「他には考えられぬ」
「うむ、そうじゃな」
「それしかないぞ」
「どう考えてもな」
「このことはじゃ」
すぐにだ、彼等は血相を変えて言い合った。
「殿にお話しようぞ」
「大殿にもじゃ」
「これは一大事じゃ」
「すぐにお伝えせねば」
こう話してだ、そしてだった。
彼等はすぐに氏直、彼の父である氏政に報告した。氏政はその話を聞いてまずは笑ってこう言った。
「そんなことがあるものか」
「いえ、ですが」
「まさに」
報告をする家臣達は口々に言う。
「築かれようとしています」
「実際にです」
「あの山に」
「ではじゃ」
ここまで聞いてだ、氏政は。
真剣な顔になりだ、家臣達に言った。
「今よりわしも観よう」
「是非御覧になって下さい」
「大殿もです」
「これはまさにです」
「そうして頂きたいことなので」
「よし、行くぞ」
矢倉の一つ、そこに最も近い場所にとだ。氏政も応えてだった。彼は氏直と主な家臣達を連れて馬を飛ばしてそうしてそれを見た、すると。
小田原の傍の山にだ、今まさにだった。
城が完成しようとしていた。氏政はそれを観て言った。
「まさかこれは」
「墨俣ですか」
「あの噂に聞く」
「一夜城ですか」
かつて秀吉が織田家の家臣だった時に稲葉山城を攻める時にやったことだ、稲葉山城の傍に瞬く間に城を築いてみせて稲葉山城にいた斎藤家の者達の度肝を抜いたのだ。
「あれをしたのですか」
「まさに」
「しかもじゃ」
氏政はその城を見つつさらに言った。
「あの城は確かな造りじゃ」
「確かに」
氏直も言う。
「多くの兵が入ることが出来ます」
「壁も石垣も確かでな」
「瞬く間に出来ましたが」
「かなりの兵が入る」
「あの城が付城となれば」
氏直はさらに言った。
「何年も籠城が出来るかと」
「ではじゃ」
氏政は驚愕した顔のまま己の子に応えた。
「関白殿は」
「そうかと」
「何年もか」
「この城を囲むおつもりかと」
「何ということじゃ」
「父上、何年も囲まれてはです」
流石にだ、そこまで至るとだ。氏直は父に言った。
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