IS―インフィニット・ストラトス 最強に魅せられた少女
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第12話 私、織斑先生と怪しい会話をします。
周囲が翡翠の輝きに埋め尽くされる。開放された二条の荷電粒子ビームは、融合すると同時に斥力バリアで形成された仮想砲身に突入。リング状の加速帯一つ一つを通る度に、乗数的にその速度を増していく。光速の五パーセントにまで達したそれを視認する事は最早不可能。ISのハイパーセンサー、いや、高速戦闘用の高感度ハイパーセンサーでさえ、撃たれた後にようやく警告を発する。
当然、この攻撃はメリットばかりではない。PICの全てを機体固定と反動制御に費やし、機体にドッキングさせたウイングスラスターの大小合わせて12基のスラスター群が全力でカウンタースラストを行ってなお、機体の足がアリーナの客席にめり込む。同時にエネルギーはほぼ無傷に近かったものが残り三割にまで激減した。
遮断フィールドは気休めにもならずに突破され、無人機は回避どころか反応も出来ずにその胸を貫かれた。次いで、蒼い光条が五本、四肢と頭に正確に突き刺さる。貫通したビームはアリーナの地面を穿ち、数秒間の照射の後に、残光を振り撒きつつ消えた。
「………状況終了。」
涼しい顔をして呟く楓に、セシリアは内心戦慄を覚えていた。ISの全機能を用いても反動を殺しきれないあの攻撃と、それを完璧に制御して見せた楓に。
あの衝撃ではただ射っただけでは当たらない。反動まで計算に入れて撃つ必要がある。そして、あれだけの高速の攻撃、僅かに狙いがぶれても着弾が逸れる。それを彼女は、敵に気取られない様に、火器管制のセンサーリンク―――つまりロックオンを切っていた。目視で命中させたのだ。
「全く……化物と言われた方が説得力がありますわね。」
「あら?私は“まだ”人間よ。」
「………人外になるご予定がおありで?」
「あー、だって織斑先生なんて完全に人間辞めてるじゃない?」
「………それもそうですわね。」
楓の台詞に納得するしかないセシリア。そんな二人をよそに、一夏と鈴は物言わぬ無人機―――その胸を貫いた閃光が穿った穴を見つめていた。あまりにも高い熱量に晒され、土がガラス化している。穴の奥は見通せないほど深く、それでいて一切のヒビも凹みも、穴の周囲には存在しない。つまり、一切の無駄な破壊なく、一点に全てのエネルギーが炸裂したことになる。
「これって多分………。」
「絶対防御……抜いてくるわね……。」
二人で顔を見合わせて頷く。一夏の零落白夜も、対人リミッターを外せば絶対防御さえ無効化できる。しかし、この攻撃は違う。『純粋な威力で』絶対防御を突破した。
「唯一の救いはホイホイ撃てないことね。チャージの手間とか動けないことも考えたら、それこそ先制で狙撃仕掛けるぐらいしか使い道ないわよ。」
とは言え、玉鋼と楓の圧倒的実力を示すには十分だった。火力、パワー、装甲、スピードのどれもが、平均的な第三世代機のそれを上回る。それに加えて楓の距離を選ばない戦闘スタイル。二つが合わさることにより汎用を越え、万能と言っても差し支えないレベルに達していた。
「……何でだろうな?」
「どうしたの?一夏。」
「いや、どうやったらこんなに強くなれるんだろうなって。」
「そうねぇ……ま、楓は今の一年生じゃ断トツの搭乗時間だからね。」
「え、そうなのか?」
「たしか……12歳から候補生やってるらしいわよ。」
「マジか!?」
丸三年、それだけのIS搭乗者としての『キャリア』を積んでいるのだ。特に玉鋼は第三世代機の中でも開発が早く、楓が乗ってから半年以上経過していた。
その上、本人の『最強』への渇望。現状の一年生の中では、楓の技量は群を抜いて高いものとなっていた。
「正直、私より強いかもねぇ。」
「…………遠いな。」
一夏はそっと呟く。あの、クラス代表決定戦で、その遠さは理解した筈だった。しかし、神宮寺楓という少女の強さは、一夏の想像の範疇を遥かに超えていた。
それでも、と一夏は声に出さず思う。それでも、自分はそこに行きたい。最愛の姉が足を踏み入れたその領域に辿り着き、その景色を知って初めて、自分は本当の意味で姉を守ることができる。そんな、確証もなにもない確信があった。
IS学園地下特別区画
「山田先生、例の無人機の解析は?」
「はい、機能中枢が完全に破壊されていて、自律行動のメカニズムは不明です。使用されていたコアは…………未登録のものでした。」
「そうか……やはりな。」
「………って事は犯人はやっぱり?」
「じ、神宮寺さん!?どうしてここに!?」
「慌てなくていい、私が連れてきた。」
織斑先生に連れられて、IS学園の地下、政府はおろかIS委員会すら知らない秘密の部屋に来た。まあ、ここだけで30個以上のコアを管理している以上、こういった秘密は必要悪だろう。
「神宮寺、お前を連れてきた意味はわかってるな。」
「……なんて言っておけばいいですか?」
「………『コアは二つとも破壊した。』そう伝えてくれ。」
「了解しました。駄目姉先輩にも協力してもらいます。」
「頼んだ。………すまんな、生徒のお前に押し付ける事じゃないんだが。」
「いえ、慣れてるので大丈夫です。」
そう答えると織斑先生が申し訳なさそうな顔でこちらを見た。………迷いは振り切ってもそう簡単には割り切れない……か。
「………一年生の中で『こういう事』が出来るのはお前だけだ。もう少ししたら一人増えるんだが。」
「………その人も“実戦”を?」
「ああ、ドイツ時代の教え子でな。性格に難はあるが……お前なら上手くやっていけるだろう。」
「ドイツ……ああ、黒兎ですか。」
なるほど、あの部隊を鍛えたのが織斑先生か………一、二度合同訓練をやったけど……だれが来るかな?
「……これから忙しくなるだろうが、宜しく頼む。神宮寺『一尉』。」
織斑先生の言葉に敬礼を返して、私は部屋を後にした。
後書き
伏線のばら蒔き方……下手か。
そんなこんなで伊10です。
すこし解説を
玉鋼にはモード移行がいくつかあります。今回のバスターモードは機動力を捨て、火力と防御力を向上させたモードです。今回の様にフルパワー射撃を行える他、移動砲台の様な使い方も出来ます。機動に回すエネルギーを射撃に回すので、チャージサイクルが短くなり、拡散や収束モードで速射モード並みの連射が効きます。
他にもいくつかモードを出す積もりです。あくまでも玉鋼のエネルギーバランスやPICをいじるだけなので、戦闘中に簡単に切り換えられます。
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