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FGOで学園恋愛ゲーム

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二十話:食べログ

 
前書き
八話のジャンヌ・オルタのお誘いを受けることで√に入ります。
では、どうぞ。 

 

「食べログって知ってる? 最近はまってるのよ。おごり高ぶった有名店をボロクソに評価をして地獄にたたき落とす最高の趣味なんだけど、あんたも付き合いなさい」
『いいよ。それでどこに行くの?』
「そうね、初めは―――」

 終業式の日にジャンヌ・オルタの食べログに付き合うことを決めたぐだ男。
 満足気に笑うジャンヌ・オルタの横顔に微笑んでいた彼は知らなかった。
 これが新たなる戦いの幕開けだということを……。





「ここが激辛ラーメン店ね。ふふふ、どうせ激辛とか言って味はいい加減なんでしょうね」
「お姉様が居ればどんな料理も甘く感じられるので問題ありませんね」
『怖いもの見たさで痛い目に合わないように』

 暖簾をくぐりこの夏一軒目の店に入る。
 漂う匂いはどれも鼻腔をくすぐるばかりで激辛の兆しは未だに感じられない。
 しかし、三人は知らなかった。
 真の辛さとは口に運ぶその瞬間まで一滴たりとも逃がさないのだと。

「さて、メニューは……ってなによ、これ?」
『全部麻婆がついてるね』
「はぁ? ふざけてるのかしら。まあ、いいわ。どうせ、食べるものは決めてきてたんだし」
「すいません。この激辛麻婆ラーメンというのを3つほどお願いします」

 テーブル席に座り三人で同じラーメンを頼む。
 店主である年齢不詳の女性は非常に良い(・・)笑顔で注文を受けると厨房に向かっていった。

「それにしても、古臭い店ね、ここ」
「趣深いということですね、お姉様」
『ワザと悪く言えるのは一種の才能だね』
「うるさいわね。私は素直な感想を言っているだけよ」

 分かっています、といった優し気な笑みを二人に向けられ頬を赤らめながら睨み付けるジャンヌ・オルタ。
 しかし、二人にとっては可愛いだけでありブリュンヒルデに至っては鼻血を流している。

『はい、ティッシュ』
「ありがとうございます」
「……こうして見るとあんたが普通に見えるから頭が痛いわ」

 ぐだ男から差し出されたティッシュを優雅な仕草で受け取るブリュンヒルデにポツリと零す。
 ジャンヌ・オルタからすれば四六時中暴走しているブリュンヒルデであるが。
 平常時ではまさに絵に描いた美少女のためにその異常性に気づくものは少ない。

「これはただ迸るお姉様とのインスピレーションが溢れ出ただけですのでご心配なさらず」
「寧ろ、別の意味で心配なんだけど。……はぁ、黙っていたら完璧な美少女なのにねえ」
『鏡ならここにあるけど?』
「うっさいわね! 焼き殺すわよ、あんた!」

 黙っていたら完璧な美少女という言葉に鏡を差し出すぐだ男。
 口が悪いジャンヌ・オルタもその部類に入るというブーメランだが当然不評を買いおしぼりを投げつけられてしまう。

「たく、これなら連れてこないほうが良かったかしら?」
「そうすると、私とお姉様が二人きりのランデブー……困ります」
「やっぱり二人よりも三人の方がいいわよね」
『すごい変わり身を見た』

 妄想世界へトリップを始めたブリュンヒルデに手段を択ばないジャンヌ・オルタ。
 そんな学生らしいようで、らしからぬ下らない会話はあるものの登場で終わりを告げる。

【激辛麻婆ラーメン3つお待ちどうさまアル】

 三人の前に置かれるラーメン。否、麻婆豆腐。
 グツグツと煮え立ち地獄の窯の中を連想させる禍々しさ。
 どこまで見ても赤一色で豆腐ですら赤く染まっている。
 丁寧に調理されたのは一目で分かるが、心が理解できなかった。
 ラーメンという文字が消え去った激辛麻婆の威容を。

「……なによ…これ」
「麻婆豆腐ですね……」
「ラーメンはどこよ……」
『下に沈んでいるのが少し。本体が麻婆豆腐だね、うん』

 店長に文句を言う気すら起きない、いっそ清々しいまでの麻婆。
 これからこの赤い物体を食べるのかと思うと心が欠けそうになる。
 しかし、ブログのために逃げるわけにはいかずそっと蓮華を手に取る。

『俺が先に行こう。なに、すぐに戻ってくるさ』
「あんた……死ぬ気?」
「いけません、その先は地獄です!」
『我に七難八苦を与えたまえ!』

 まずは自分が毒見となって麻婆を口に運ぶぐだ男。
 二人が制止しようと手を伸ばすが既に彼の口の中に麻婆は消えていた。

『ギャァアアアッ!!』

「悲鳴!? 普通料理の感想って辛いとか不味いとかよね!?」
「辛みは痛覚の錯覚ですが……まさかこれほどまでに人体にダメージを与えられるとは。お父様ですら、こんなものは作れない…!」

 舌に乗った瞬間に全身が棘で串刺しにされたような痛みがぐだ男を襲う。
 何とか飲み込むが、麻婆は溶岩のように胃にへばりつき体内を焼き焦がす。
 
 だが、ここの麻婆はただ辛いだけではない。
 飲み込んだ後に胃に溜まる確かな充実感と痛みの後に残る旨味。
 死ぬほどの激痛に耐えなければならないがこの麻婆豆腐は―――

『悔しい…でも、美味しく感じちゃう…!』
「……は?」
『一口で意識が飛びそうになるけど……味自体は美味しい』

 全身から奇妙な汗をかきながら水を飲み干すぐだ男だが、確かにその顔には充足感があった。

「ほ、本当かしら? で、でもブログのためには食べないことには……くっ!」
「お姉様……わ、私が代わりに食べましょうか?」
「冗談じゃないわよ! このぐらい食べてみせるわよ!!」
「待ってください、私も一緒に逝きます…!」

 ブリュンヒルデが代わりに食べることを進言するが逆にそれが彼女の闘争心に火をつける。
 蓮華を引っ掴み勢いよく麻婆豆腐を口一杯に頬張り―――机に突っ伏す。

「父さん…姉さん……意地張ってごめんなさい」
『ジャンヌ・オルタがあまりの辛さに懺悔を始めた…!?』

 意識が吹き飛び、普段の彼女では考えられない素直な言葉が零れ出てくる。
 人間死ぬ前になると色々と後悔するのだ。
 一方のブリュンヒルデは何事もないように座り続けている。
 だが、それは所詮見た目だけだ。

「…………」
『座ったまま尚、君臨するのか……ブリュンヒルデ』

 蓮華を咥えたまま意識を失いながらも座り続ける戦乙女の姿にぐだ男は涙を流す。
 ただの一口でこれである。完食すればどうなるのか。
 三人がそこまで考えたところで店主の悪魔の声が降ってくる。

【お残しは許さないアルよ】

 恐怖には鮮度というものがある。
 残された希望がもぎ取られた時、人間はこの世で最も恐ろしい感情を抱くのだ。
 しかし、恐怖に打ち勝つのもまた人間に許された選択である。

「や、やってやろうじゃないのよ……後でボロ糞に書いてやるんだから…!」
「原初のルーンで味覚を変化させればこの程度…!」
『目の前の麻婆も間食できずに人理救済なんてできるかよ…!』

 三人はそれぞれの確固たる意志をその手に持つ蓮華に乗せる。
 そして、戦友と一度視線を合わせ最後に小さく頷き合う。

『生きてまた会おう』
「ふん、せいぜい死ぬんじゃないわよ」
「お二人ともご無事で」

 今生の別れを済ませ“この世すべての辛味(マーボードウフ)”に勇者達は無謀にも立ち向かっていくのだった。


「………あの子達は何をやっているんだ? いや、僕みたいな年寄りには若者は理解できないか」
【はい、衛宮さん、お代わりあるよー】
「ああ、ありがとう。しかし、ここの麻婆豆腐は上手いな。アイリの手料理は愛は詰まっているんだが劣化ウラン染みているからなぁ……まあ、残したことはないんだが」


 三人の若者達が死地に赴く中、擦り切れた元正義の味方は一人ぼやくように惚気ながら激辛麻婆に舌鼓を打っていたのだった。





『お腹がずんがずんがするです……』
「これでも食べて傷ついたお腹を癒しましょう」

 お腹を押さえて麻婆の後遺症に苦しむぐだ男。
 そんな彼にコンビニで買ったチョコアイスをそっと差し出すブリュンヒルデ。
 因みにメガネの形はしていない。

「ちょっと、私の分はないのかしら?」
「お姉様は私と一本のアイスを溶かしあってそのまま口移しを」
「やるわけないでしょ!」
「冗談です。はい、お姉様にはこれを」

 クスクスと笑いながらアイスを二つ差し出す。
 ジャンヌ・オルタはジト目で睨みながらもその中からあずきバーを選び受け取る。

『ジャンヌ・オルタ、あずきバーは気をつけてね』
「はあ? 何を気をつけるっていうのよ。ただのアイスでしょ」

 何をバカなことを言っているのだと呆れた目を向けながら袋を開け取り出す。
 しかし、あずきバーはただのアイスではない。

『―――侮るな。奴は時として人間に牙を剥くぞ』
「は? なに馬鹿なこと言ってるのよ。そんなこと起こるわけないわよ」
『昔は君のような挑戦者だったのだが、歯を折られてしまってな……』
「なによ、それ! 本当にアイスなわけ!?」

 あずきバーは歯の弱い人間では到底太刀打ちできる存在ではない。
 夏の暑さに紛れながら彼らは幾人もの歯をその誇りと共に打ち砕いてきた。
 人類の英知が生み出した究極の一。英雄王の蔵にも入っていると言われる代物だ。

『アイスの身でありながらサファイアの硬度を超えた存在……それがあずきバー』
「ふ、ふん。あんたが折れても私がそんなバカなことになるわけないでしょ!」
『後、水飴でも歯が取れるから良い子のみんなは気を付けてね』
「あんた歯取れすぎでしょ……」

 震え声になりながらも意地を張って平気なフリをするジャンヌ・オルタ。
 ここで少し融かしてしまうのは自分が恐れていると思われる。
 そう考えたジャンヌ・オルタは恐怖を振り切り、勢いよくあずきバーにかじりつく。

「硬ッ!?」
『大丈夫、おっぱい揉む?』
「セクハラ発言してんじゃないわよ! というかあんた男でしょうが!」
「お姉様にならいつでも喜んで!」
「あんたは黙っときなさい!」

 想像していた以上の硬さに涙を滲ませながら叫ぶジャンヌ・オルタ。
 そして便乗して悪乗りするぐだ男にブリュンヒルデ。
 アイスの一本で場は混沌へと導かれてしまったのだ。
 あずきバー融かすべし、慈悲はない。

『それで歯は大丈夫なの?』
「フン、大丈夫に決まってるでしょ。あんたと一緒にしないでちょうだい」

 ぐだ男を見下しながらあずきバーを融かすためにチロチロと舐めるジャンヌ・オルタ。
 そんな小動物的な仕草にぐだ男とブリュンヒルデは温かい視線を向けるが肝心の本人は融かすのに一生懸命で気づかない。

『いいよね、ジャンヌ・オルタ』
「はい……」
「…? 何よ、あんた達。変な目をして?」

 怪訝そうな顔をする彼女に首を振り二人して笑う。
 ますます、顔をしかめるジャンヌ・オルタであったがすぐに無視をして目の前にアイスに意識を戻すのだった。

『それで、ブログは書けそうなの?』
「ええ。過去に類のないレベルで扱き下ろしてやるわ。あんなの人間の食べ物じゃないわ。あれを好んで食べる人間なんて外道よ、外道」

 麻婆の味を思い出して顔をしかめながら毒を吐くジャンヌ・オルタ。
 しかし、ぐだ男もその意見には全面的に賛成なので何も言わない。
 あれを好むのは外道の代名詞の神父か魔術師殺しぐらいなものだろう。

「それで、次は何を食べに行きますか?」
「そうね……取り敢えず激辛系はもうやめましょう」
『右に同じ』

 もう、一生分の辛みは満喫したとでも言うようにげんなりとした表情を見せる三人。

「では、次はスイーツなんてどうでしょうか?」
「確かに悪くないわね。じゃあ、適当に驕り高ぶっている場所でも探しておくわ」
『楽しそうだね』
「あたりまえよ。自分は偉いと思っている奴を絶望の淵に叩き落すこと以上に楽しいことはないですもの」

 どこまでも邪悪な言葉を言ってのけるジャンヌ・オルタ。
 だが、手元のスマホで良さ気な店の品を楽しそうに検索しているので台無しである。
 ところどころで美味しそうなどという言葉も聞こえてくるがツッコミを入れると怒るので何も言わない。
 こういうのは遠くからニヤニヤとしながら眺めるのが通なのだ。

「じゃあ、今日はここで解散ね。次も私に付き合いなさいよね」
「勿論です。付き合うなと言われても付き合います。主に背後3メートルから」
「それはただのストーキングでしょうが!?」
「……?」
「何を当然のことをみたいな顔をするんじゃないわよ! 私がおかしいみたいじゃない!」

 まるで漫才のようなやり取りをする二人にぐだ男は人ごとだと割り切り笑う。
 しかしながら、すぐに他人ごとではないことに気づかされることになる。

「清姫さんも行っていますので。ほら、今も―――ぐだ男さんの3メートル後ろに」
『今明かされる衝撃の真実ゥウ!?』

 ブリュンヒルデの爆弾発言に驚き振り返るぐだ男。
 すると、壁の横から顔を出す清姫と目が合いニコリと笑みを向けられる。
 その顔は非常に可愛らしいのだがなぜだかぐだ男の背中には冷たい汗が流れるのだった。

「……それじゃあ、私は帰るわ」
『今、見て見ないフリして俺を見捨てたよね?』
「えー、なーにー? きゅうにみみがとおくなったんですけどー?」
『きよひーの前で嘘は禁句だよ!』
「うるさいわね、嘘ぐらい別にいいでしょ。嘘の一つも認められないのは病気よ。せいぜい頑張ればいいわ」

 窮地に立たされたぐだ男を見捨ててジャンヌ・オルタは家路につく。
 面倒ごとから逃げて他人に押しける完璧な作戦。
 しかし、そんな彼女を待ち受けていたものは過酷な運命であった。

「ただいま」
「おかえりなさい」

 自宅にたどり着いた彼女を姉のジャンヌが出迎える。
 エプロンを身に着けているのでちょうど夕飯の準備をしている最中らしい。

「もう少しで夕飯ができるので待っておいてください」
「ふーん、今日は何なの?」

 ジャンヌは妹の問いかけにニッコリと笑みを浮かべて答えるのだった。
 ジャンヌ・オルタの表情を一瞬で青ざめさせる一言を。



「―――麻婆豆腐です」


 
 

 
後書き

次回も食べログですかね。
この√だときよひーの出番も増えそうです。 
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