暁ラブライブ!アンソロジー【完結】
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言の葉 【ひまわりヒナ】
前書き
本日は『星空凛と青春を』や『高坂穂乃果は再びスタートする』を執筆しているひまわりヒナさんです。テーマは『バッドエンド』。
初めまして。
別のサイトで活動している、ひまわりヒナというものです。
今回はこのような企画に参加できて、大変嬉しく思います。
普段投稿している作品の書き方は主に3人称なのですが、語りという自分にとっては新しい書き方に挑戦してみました。
独特の雰囲気を出せたと思うので、それを楽しんでいただければ幸いです。
私には2人の幼馴染がいました。
1人は元気で明るくて優しくて笑顔で、そしていつも私を支えてくれる女の子。
もう1人は大人しく、でも友達の事となると熱く真剣に向き合ってくれる、そんないつもの見守ってくれる男の子。
私達は一緒でした。小学校の頃、ある公園で偶然出会ったあの日から、ずっと一緒だったんです。
小学校6年間、そして中学校3年間。
お互いの事で知らない事はない、そう言っても過言ではない程の時間を過ごしてきました。それ程に私達は強いつながりを持つことができました。
そしてその時間と共に私と彼女は同じ思いを積み立てていきました。彼への、強い思いを。
そんな私達の中で大きな変化が高校生になった時起こったのです。
この時、私の願いが叶いそして生まれました……
––––––言の葉––––––
中学の頃です。
私とそして幼馴染の1人である女の子は同じ高校を目指していました。しかしそこは女子高で、どんなに願おうと男の子は入ることができなかったのです。
でもそれは私達が高校を変えればいい、そうすれば私達はまた一緒だ、そんな事を思っていた時その男の子は言ったんです。
「僕はこの高校を目指したい」
そのパンフレットに載っていたのは、とても私達2人では届くことのないようなレベルの高校でした。
今まで一緒だった私達は……いえ、私だけは彼の言葉にすぐに、『うん』『分かった』『頑張って』そのような言葉をかけられませんでした。
会う事が出来ても、彼と距離がある事実が私に耐えられるか分からなかったのです。
でも––––
「うん!頑張って!」
でもすぐに彼女は言えたんです、頑張って、という一言を。
私はその言葉に続くように、ただ笑顔で頷く事しかできませんでした。
そしてこの日を境に、私達が高校を分かれるというのは避けられないものになりました。
高校へ進学すると、交流は今までの事が嘘のように少なくなりました。
「高校、進学できたよ」
「私も!」
「やった、皆合格できたね!」
そんな合格報告はしましたが、それ以降しばらくの間連絡は一切ありませんでした。
彼には勉強に集中してもらいたかったので、私達は連絡を抑えるようにと考えていたのです。彼も多くは語ってくれませんでしたが、しばらくの間連絡は取れそうにないと言ったので、高校入学をきっかけに連絡はバッタリ止まりました。
怖れていたことが現実味を増していきました。だんだん離れているのではないか、そんな気がしていたのは多分、私だけじゃなかったと思います。
しかしある時、そんな私達の関係を再び引き寄せてくれる出来事が起きたのです。
その出来事とは私達が 【スクールアイドル】 になること。
少し暑さを感じるようになってきた、5月の上旬の事でした。
「それ、本当……!?おめでとう、あはは、そっか!本当におめでとう!!」
私達は彼を驚かせたくて、わざわざ時間を取って集まってもらって、その報告をしました。
彼はその事をまるで自分の事のように喜んでくれました。
その理由は、私。アイドルが大好きで、アイドルに憧れているという事を知っていてくれたからだと思います。私はその憧れをずっと2人の側で言ってきていたから……
報告と同時に、私は嬉しくて涙を流しました。
アイドルになりたいその夢が叶ったから。
そして彼を笑顔にすることができたから。
いつも彼は私達を笑顔にしようとしてくれていました。どんなときもずっと。
だから今度はこっちの番、こっちが彼を笑顔にさせてあげたい。そんな気持ちが私にはありました。
……もしかしたら、彼女も。ううん、彼女ならきっと多分そう。だって彼を好きになったらそう思うはずだから。
これを機に私達の関係は再スタートしました。
もちろん、勉強などに関して全く考慮しなかったわけではありませんが、その連絡頻度はほぼ毎日になりました。
その理由は所属グループμ'sにはもちろんの事ながら男の子はいません。先生方も女性ばかりで、いたとしてもお年寄りの方ばかり。なのでこれから活動して行く上で、若い男の子の意見はとても参考になるものだったので、頻繁に彼の力を借りていたのです。
ただ1番の理由としては間違いなく、私達と連絡を取りたい、という彼の意思でした。
「2人のステージを僕は見たい、ぜひ協力させてほしいし……その、また前みたいにさ、毎日一緒に色々話したい」
その一言は私達にとってこの上なく嬉しいものでした。
そうと言われれば、と、オフの時は必ずと言っていいほど一緒に出かけたり、学校以外の練習の時は一緒に練習に付き合ってもらったり、今日は何かあったかと毎日連絡し合いました。彼の声を聞いていない時間の方が少ないのではないか、と思う程に。
私達はそれだけ仲が良かったのです、そう、仲が良すぎるぐらいに。
言葉を変えれば、互いに依存していた、その方が正しいのかもしれません。
時が進むに連れて、加入当初6人であったμ'sは段々と人数が増え、最終的には9人メンバーのスクールアイドルとして活動して行くことになりました。
μ'sの活動目的は廃校の阻止。実は私達の学校は少子化や有名校UTXの存在などの影響から廃校の危機に瀕していたのです。
それを防ぐ手段として学校の知名度を上げる、その為に私達が有名になって盛り上げる。それが目的なのです。
そしてまず最初に当たった関門は、オープンキャンパスでした。
学校、そして私達μ'sの魅力を伝えるにはこの上ない機会。ここを逃すわけにはいかなかったのです。
経験も能力も全てがバラバラな9人、けれどだからこそお互いがお互いに補い合って、高めていくことができる。それに私はそこに彼がいてくれる、それだけで何だか力が出す事が出来ました。もしかしたら他の皆にとっても彼というファンの存在が大きな力になっていたのかもしれません。
少なくとも彼女は、私と共に過ごしてきた彼女は、私と同じだったはずです。
勢いに乗っていた私達は時間がない中、なんとか無事にオープンキャンパスを大成功で飾ることが出来ました。
けれど、その裏で。
「そう言えば、文化祭とか何時なの?そう言えばクラスは?君の活躍もすっごく見たい!」
「ぼ、僕の?あー、止めといて、僕は特に何もしないから」
「えー嘘だー!」 「本当に何もない、それよりそっちの方が重要だろう」
彼女は何度か問い詰めました。けれど彼は意地でも話さない気なのか、頑なに語ろうとはしませんでした。
何でだろう?と彼がいなくなった後、私達は話しました。
「きっと恥ずかしいんだよ」
「ふふ、そうだね。クラスは分からないだろうけど、何時やるかは調べれば分かる事だし、サプライズって事でこっそり覗きに行こっか」
「ナイスアイデア!楽しみだね–!」
今思えばこの時に気づくべきだったんです。
私達は長年一緒に過ごしてきました。お互いに知らない事はないと言えるぐらいに、長い長い時間を。
隠し事をする事もほとんどありませんでした。プライベートに過度に干渉する事はお互いに嫌な気持ちになるかもしれないからやめようと、でもそれ以外は全部話せる、そんな関係でいよう。
そう、約束したんです。約束できたんです、私達は。
だから気づくべきだったんです。
彼が隠そうとしているのは、恥ずかしいから、そんな単純な理由じゃないという可能性に。
オープンキャンパスのライブは見事に成功。
その成果は廃校の先延ばしと同時に見直しが行われるというもので、全員で喜び合いました。
もちろんその中には彼の姿もありました。
彼は私達をとても祝福してくれて、昔から少し涙腺が弱いせいか、涙を流しながら本当に嬉しそうに祝福してくれました。
私はそんな彼の純粋で、素直なところに再び惹かれていましたが、その気持ちを隠して同じように泣いて笑っていました。
さらなる強化を目指すべく、私達は合宿を行う事にしました。
行先は同じ1年生で親友、西木野真姫ちゃんの別荘。お金持ちだとは知っていたけれど、ここまで!?という印象を受けた事を今でも昨日の事のように覚えています。
この合宿、その目標はもちろんμ'sの強化合宿。その上で1つ、議論が起こりました。
それは彼を連れて行くかどうか。
その時私の思考はその事のみで埋め尽くされました。
一緒に行きたい?、もちろん一緒に行きたい。
彼といると楽しい?、もちろん楽しい。
だったら私が主張すべき事は
––––彼と一緒に行きたい。
け れど、けれど?
少し怖い、何が?
分からない、いや分かってる。
昔から怖い、そう昔から怖い。
誰かに彼が、取られてしまうんじゃないか。
だから、私は、
その可能性を少しでも無くしたい。
「一緒にいると楽しいから、連れて行きたい!」「勉強!い、忙しいんじゃ、ないかな」
彼女と発言が被りました。その発言の内容は全くの逆方向でした。
彼女は素直な気持ちをそのまま、ただそのまま声に出す事ができていた。
私は、その気持ちに、嘘をついた。
同じ方向を向いているはずなのに、私達のとる行動は逆方向を向いているんです。
「……確かに、それもそうだね」
「あ、え、っと、ご、ごめんね。せっかく楽しい気持ちを」
「ううん、悪くないよ!それにちょっと我儘過ぎたっ!」
私はこの時ある事に気付きつつありました。
あるビジョンがうすらうすらと見えていたんです。
そのビジョンはまるでパズル。
少しずつ私の中で埋められていくパズル。
そこにあるのは既に出来上がった彼の姿と、まだ埋められていない彼の隣。
彼の隣にいるのは、いるべきなのは––––誰?
結局彼は不参加で合宿は終わった。
もっとも何にも連絡なしにというのは、可哀想なので予め参加する意思があるかどうか連絡をしたところ、用があって来れないという事だったので、少し言い方は悪くなりますが結果として都合が良かったのです。
兎にも角にも、合宿を終えた私達が次に目指すのは学園祭でした。
オープンキャンパスとは違うイベント。これもまた知名度を上げるためにはこの上ないチャンス。
その頃には彼はμ'sにとって欠かせないサポート役として、皆の信頼を得るほどになっていました。
それもそのはずで、毎日のように郊外での朝練は来てくれるし、歌やダンスの評価を素人とは言え、必死に勉強して気付いた点などを言ってくれたし、時には勉強や愚痴、色々な話にも乗ってくれている。
間違いなく10人目と言えるような存在。
私はとても嬉しかったです。
彼がいつも笑っていてくれるから、
笑わせてくれるから、
力になってくれるから、
いつも側でずっと側で見守ってくれているから。
私にはそれで十分……なはずなのに、もやもやした気持ちは無くならない。
その気持ちを静かに抱えながら、私は過ごしていました。
μ'sの方は好調でした。
ダンスも歌も完璧、皆の息も合っている。これならいける、これなら問題はない。そう思っていましたが……
悲劇が起こりました。
「穂乃果!」「穂乃果ちゃん!」
私達のリーダー、穂乃果ちゃんが。
ライブを終えたと同時にその場で倒れてしまったのです。海未ちゃんもことりちゃんも皆すぐ様駆け寄りました。
そのライブ会場にはサポート役として欠かせない存在になってきていた彼の姿もありました。
しかし穂乃果ちゃんが倒れた時、近くに彼の姿はありませんでした。私は穂乃果ちゃんが保健室へと運ばれるのを見届けた後、すぐに彼の姿はどこだろうと視線を動かしました。
彼はライブを見ていた時と同じ場所にいました。
大雨の中、傘から手を離し、びしょびしょになりながらも、ただただその場に立っているだけの彼が。
その姿はまるで魂が抜けたようでした。
私は心配になってすぐに駆け寄りました。
「だ、大丈夫?」
私が最初にかけた言葉に彼は反応しませんでした。
ただただ視線をライブのステージに止めたまま、彼だけ時が止まっていたかのようで、私はどうした良いのか、なんて声をかければ良いのかただただ焦るばかりで、私は彼の側でじっとする事しか出来ませんでした。
「君のせいじゃないよ!!」
そう言ったのは、少し遅れてやってきた、私と彼の幼馴染。
その時私は分かったのです、あぁ、彼は責任を感じていたんだ。皆のサポートを一生懸命していたから。
……いや、そんな事はなんとなく分かっていたはずなんです、本当に私が分かった事は、彼にかけて上げるべき言葉はなんだったのかという事。
私はすぐにかけてあげるべき言葉を彼に伝える事が出来ませんでした。
この時、私の目に映っていたのは雨の中にいる2人の姿だけでした。
学園祭での悲劇、それが起きてしまった事を重く見た私達はμ'sの活動を停止しました。
ラブライブのランキングに載っていたμ'sの名は消えました。
けれど同時に良い事もありました。廃校の阻止に成功したのです。そう、μ'sの目的を達成することができたのです。
あの出来事でショックを受けていた穂乃果ちゃん、そして彼もその事を本当に喜んでいて、μ'sの活動は停止してしまったけれど、とりあえず前を向いて歩いていけるかもしれない。
けれど問題がすぐに起こってしまいました。それはことりちゃんの留学の話が出ていたことでした。
彼女の異変に気付くことができなかった穂乃果ちゃんは一気にやる気を失ってしまい、その事から海未ちゃんとも亀裂が起き、いつも仲良しだった3人はの姿はその時にはありませんでした。
私はその時3人の事が心配でしたが、同時に彼の事も心配でした。
というのも、再び今の事態に責任を彼は感じていたからです。
確かに彼はいつもμ'sの側にいてくれて、ずっと力を貸してくれていて、皆の補佐として存在し続けた彼。それに彼が思いやりのある人物であることを知っている私は、そうなってしまうのも無理はないのかな、と思いながらも、何か引っ掛かりを感じていました。
そして彼の事の様子を心配した私は幼馴染である彼女と話をしました。
彼女もやはり心配していました。しかし少し、私とは違いました。
彼女はふと言ったんです。
「時間、かな」
私は何のことだか分かりませんでした。
しかしその言葉のおかげで、何かが分かりそうな、そんな予感がしたのも確かでした。
そしてその答えを自分で見つけるよりも先に、彼女は言葉にしてくれました。
「一緒にいてくれる時、少し思ってたんだ。自分の時間をちゃんと過ごしてるのかなって」
その言葉を聞いた時、すぐに言葉が出せませんでした。
私の頭の中が一気に動き出し、今までの記憶を引っ張り出して、彼との記録を改めて振り返りました。
練習の記録やサポート、学校以外の活動への参加、ほぼ毎日の電話、勉強の補助。
彼が私達にもたらしてくれたモノを思い出すと、あることに気づきました。
あまりにも彼は私達といすぎだと。
そうか、時間。彼は彼の為の時間をどこで使っているのだろう?学校にいる時以外を除けば、彼はいつも私達と共にいる。じゃあ彼はどのタイミングで自分のことをしているのだろう?
そして私は、そんな単純なことを何で気付けなかったのだろう?
「大丈夫だよ。彼なら上手く、やってる」
あれ、私は何でこんな言葉を口にしたのだろう。
いくらなんだって時間を使いすぎだ、何か裏があるそんな気がする。でも何で、私は話題をそこで終わりにしようとする?何故私は彼女にそんな言葉をかける?
「うーん、そうかなぁ。まぁ考えても今は分かんないや、今日はお休みー」
「う、うん、お休み」
電話を切って、少し息を吸って、冷静になって考えた時、私は気付きました。
私は気付けなかった事実を受け止められず、気付けた彼女に少し嫉妬していたんだって。私が先に彼の本当の気持ちに気付いてあげたい、その為にこれ以上彼女を核心部分まで進めたくないという気持ちが僅かにあったんだって。
私よりも彼女の方が彼の事をよく分かってるんじゃ……そんな不安な気持ちになるのには十分だったのです。
結局彼の事は分からないまま時間は過ぎ、気が付けば穂乃果ちゃんとことりちゃん、そして海未ちゃんはいつも通り仲良しに戻っていました。再び、μ'sを結成させるそれにまで至る事ができたのです。
けれど私の中ではそれは完全なものとはなっていませんでした、彼について欠けている部分が多かったからです。
それでもそんな疑問を残して、時間はどんどん過ぎ去って行きました。
穂乃果ちゃんが生徒会長になったり、2度目の合宿を行ったり、新しくできた曲ユメノトビラを披露して予選を突破したこと。色々なことが目まぐるしい程起こりました。
しかし、やはり解けないのです。私の中で、いや2人の中で大きな疑問の1つがずっとずっと、解かれようとしない。大きな疑問の1つがずっとずっと、解かれようとしない。
いえ、本当は私は……私達は……
そんな時です、「文化祭に行こう!」と彼女が言い出したのは。
彼の学校の文化祭は予選が終わった後である事は、学校の名前を知っていたので既に調べてありました。
前に考えたサプライズ、それを行おうと私たちはしたのです。
そして等々その日がやってきました。
その日は雲がかかっていて、降水確率も高くいつ雨が降ってもおかしくない、暗い天気。せっかくの文化祭なのに残念だな、そんな気持ちと同時に何か嫌な予感がしてたまらなかった事を今もよく覚えています。
しかし私はその予感は何かの勘違いだろう、そう思い、彼女と共に彼の学校へ向かいました。
名高い有名校であるそこは、設備も充実していて何も情報なしであれば探すのには苦労するだろうと思いましたが、1年生のクラスに行けばいつかは見つかるだろうと思い、文化祭の雰囲気を楽しみながら彼を探していました。
しかし全部のクラスを回っても彼の姿はどこにもありませんでした。
では部活?そう考えましたが、彼は部活に入っていないというのを聞いていたので、その選択肢はありませんでした。
だとしたらあぁ、彼も文化祭を今回っているのか、その考えに至るのは自然でしたが、何かがその私の考えを止めようと必死になっていたのです。
それは本当に?それは間違いなのでは?
考えとしては正しいはずなのに、それを肯定し彼を探しに回ろう、そんな簡単な提案を出せなかったのです。
「……行こう」
彼女は静かにそう言って私の手を引っ張り、学校から一緒に出ました。
私はこの時、何故学校から出たのかということではなく、彼女も私と同じ何かの違和感を覚えたのだと考えていました。
彼女と考えは一緒、しかし行動に移す点だけは違いました。
私達が向かったのは、彼の家でした。
しとしとと小さな雨粒が落ちてくる中、傘を閉じて持ちながら、そっとインターホンを鳴らしました。それに対応してくれたのは、彼のお母さんでした。
「今、あの子はこの家には」
「突然すいません、でも知りたくて!彼は、あの高校に……ちゃんと合格できたんですか」
彼女がした質問は私がしようとしていた質問と全く同じものでした。
気になってはいたんです。今まで彼がずっと私達からその高校を遠ざけるように、話題を持ち出そうとしなかったこと、『高校に進学した』としか言ってくれなかった事に。
そしてずっと私達が彼の言葉が聞きたくて、彼と一緒にいたくて、協力という名目で彼に依存していたように。彼が私達に何が理由で私達に依存してしまっていたのか。私達に何を求めようとしていたのか。
彼なら大丈夫、そんな安心があった私達はその可能性に目を向けようとしていませんでした。
いや、正確に言えば自分達のことばかりで彼の事を見てあげられなかった。
機会はいくらでもあった、なのに私達は、私は……!
「あの子、やっぱり言えてなかったのね。別の高校になってしまったってこと」
予想は合っていた。
彼が私達に嘘つくことはほとんどない。実際に『高校に進学した』というのは事実。
けれど目的の高校には、たぶん届くことができなかったのだろうと思います。
私達にそれを言う事は、できなかった。それは––––
私がそのことを考えようとした時、彼のお母さんの顔色が変わった事に気がつきました。
そしてその視線は私達ではなく、私達の後方に位置していました。
私達はすぐに振り向きました。何が私達の後ろにあるのか、 “誰が” そこにいるのか、それがすぐに分かったから。
「 」
目が合った瞬間、まるで時間が止まったように私達は動くことができませんでした。
その一方で次第に強まっていく雨音。
すぐ帰る予定だったのか、大丈夫だと思ったのでしょう。彼は傘を持っておらず、雨は立ち止まる彼に強く降りかかっていました。
私の思考はぐちゃぐちゃでした。でも確かに動いていました、必死に。
なんて?何を?どんな風に? 私はどんな言葉を彼にかけてあげればいい?
どんな言葉が?
早く、早く彼に言葉を
私が先に……!
先 に?
私が自分の思考を疑った瞬間でした。
「待って!」
彼はその場から逃げるように走り出しました。
突然の彼の行動に戸惑いを隠せなかった私達は素早く行動に移す事はできませんでした。しかし、彼が目の前から消えてしまった、その事実を受け止めた瞬間自然と足は動いていました。
「手分けして探そう!」
「うん!」
その場から辺りを見ても彼の姿は見えませんでした。なので手分けして探した方が良い、その発想に至り、私達は反対の方向へ走り出しました。
この瞬間が私にとって重要な分かれ道であったことに気づくことのないまま。
私は必死に探しました。
傘をさすことも忘れて、雨の中を走り、彼の名前を呼び続けました。
会いたい、彼に会って、ちゃんと言葉をかけてあげたい。
その気持ちの一心で。
でもその中に小さく、けれど確かにある思いがありました。
『彼女よりも先に』
という思いが。
私はそれに薄々気付きながらも目を背け、ただひたすら走りました。
そして辿り着いたのは、私達が初めて出会った公園でした。
私が走り出した方向とは真逆の方向に位置するここに、私が何故辿り着いたのか?それは今でも分かりません。
とにかく走って走って、走り続けて。彼の為にと走った私の足は、自然とここに辿り着いていたのです。
私は最初に彼の姿を確認しました。
やっと見つけた、その嬉しさのまま彼の前に出ようとしましたが、その足はすぐに止まりました。
彼女の姿が見えたからです。
私は隠れました。何故か隠れたかった、顔を出そうという気になれなかったのです。
「高校の話、聞いたんだな」
「うん、聞いた」
うん、聞いたよ
「志望校、落ちたんだ。でも何とか受かってた高校があって、本当はそこに通ってる」
「」
なんで
「笑っちゃうだろ、入りたかった所とはレベルがかなり低い高校にさ。落ちちゃったから、入りましたってさ。入れてくださいってさ」
なんでそれを私達に––––「悔しかったんだよね」
「必死に勉強したのに、約束もしたのに、それでも合格することができなかった。そんな自分が悔しかったんだよね、すっごく辛かったんだよね、悲しかったんだよね」
……分かってる
「ずっと苦しくて、その事実に真正面から受け止めることができなくて、だから誰かに言うことができなくて」
分かってる、分かっている、私も。だって、だって、私もずっと側に一緒にいて、ずっと見てきて、彼女と同じくらい、彼を知っていて。
「でもどうにかしたくて、それでも1人じゃどうにもできなくて、だからずっと私達と一緒に時間を過ごしてきたんだよね」
私は彼女と同じで、彼の行動の意味も分かることができた。
「けどどうにかしようとしても、上手くいかなかったんだよね。ずっとずっと抱え込むしかなかったんだよね」
でも……でも、私は、
「……でもね、もう大丈夫だよ」
それでも私は、
「もう抱え込まなくていいんだよ」
そのたった一言を言葉にすることができない。
私は彼女に嫉妬していた。
私と同じ分だけ、彼を知っている彼女を。
だから先に、先にと気持ちは動いていた。彼女に彼を取られてしまうのではないか、そんな恐怖が私の気持ちを動かしていた。
でも毎回それは叶わなかった。
私と彼女は似ている。
私と彼女は薄々気づいていた。彼が私達を必死にサポートしていたのは何かに救いを求めたかったんだってことに。
私と彼女は彼をよく知っている、知らないところはないと思えるぐらいに。
私と彼女は彼の気持ちが想像できる、彼の性格を知り、彼の行動をよく見てきたから。
私と彼女は彼への考え方が似ている、私が見てきた彼は彼女が見てきた彼でもあるから。
けれど私と彼女は違う。
私は
––––たった一言を言葉にすることが出来ない。
過ごしてきた時間は同じ、それは今も変わりません。彼への思いも。
ずっとずっと一緒、私の人生の中で最高の親友。
だから私は彼女の事を、恨むようなことはできませんでした。できるはずなかったんです。
嫉妬は確かにあったんだと思う、彼を取られたくないって、思っていたんだと思う。
けれどそれ以上に私は、彼女の事も大好きで。離れたくない、離したくない、唯一の存在で。
大好きで、タカラモノである親友を恨むなんてできるはずがなかったんです。
だから叶わないんです、彼の隣に私がいる未来は。
でもだから叶えられるんです、彼の隣に彼女がいる未来は。
私の複雑で歪んだピースはパズルには当てはまらない。
でも純粋で、気持ちをそのまま言葉にできる彼女の、綺麗に整ったピースはパズルにぴったり当てはまる。
この時、私は気付いたんです。
たった1つの簡単なこと。
––––3人の未来に、私の彼への気持ちは、この恋は必要ないことに。
「ごめん、ごめん!今まで黙ってて!」
だから私は
「ううん、いいんだよ」
彼女にそっと包み込むように抱きしめられた彼の元へ近づき、
「2人とも、風邪引いちゃうよ」
2人を外から包み込むように、笑って、傘を差したんです。
私はこれでいい。
私は3人のこの関係が崩れなければいい。
私に必要なのはこの関係だけ。
私が彼の隣にいる必要はない。
私は隣同士座る2人を、静かに外から見守ることができればいい。
私はそういう存在。それが私の役目でいい。
私はこの日、ようやく頭の中のパズルを埋めることができました。
「ドレス姿似合ってるよ!凛ちゃん!」
「そ、そうかな」
「そうだよね!そう思うよね!」
「え、あ、うん、すごい可愛い……と僕は思う。うん、似合ってるよ凛」
「て、照れるにゃ、でもありがとう」
「やっぱり私じゃなくて正解だったって凄く思うよ!あ、そうだ、写真撮ってあげるね。ほら、並んで並んで!」
「え、あぁ。って、花陽は写らなくていいのか?」
「いいのいいの!ほら、隣にいって。もう、何、恥ずかしがってるの。今までいっぱい一緒に撮ってきたでしょ」
私は、
「もっと近づいてー!」
『好き』のたった一言を、
「うん、そこでいいよ、2人とも!」
言うことができなかった。
「それじゃ、撮るね!」
でもそれでいいんです。
「はい、チーズ!」
––––私の思いを、もう言葉にする必要はないから
後書き
後書き
彼女の思いが伝わらないまま物語が進んでしまう、という後味の悪いバッドエンドを作りました。初めての書き方に挑戦し、独特の雰囲気が出せるように書いたのですが、いかがでしたか?
楽しんでもらう、という言葉はあまり似合わないと思うので、何とも言えない雰囲気を味わってもらえたのなら幸いです。
この度はこのような企画に参加させていただきありがとうございました。
企画2作品目、まだ始まったばかりです。どういった作品が投稿されるのか、私自身とても楽しみです!
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