真田十勇士
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巻ノ五十七 前田利家その五
「当家もな」
「玄米や麦飯もですな」
「そして干し飯も」
「そうしたものの時もある」
実際にというのだ。
「当家もな」
「ですな、我等もです」
「出陣の時は白米もありますが」
「やはり玄米の時もあります」
「干し飯の時も」
「ましてや普段はです」
信之が利家に話した、その白米の握り飯を頬張りつつ。
「麦飯や玄米が常です」
「麦飯か」
「左様です」
「実は麦飯はな」
その麦飯についてだ、利家は信之そして幸村にこんなことを話したもだった。
「関白殿もお好きでのう」
「あの方もですか」
「大層食いものに凝ってもおられるが」
「麦飯もですか」
「それが一番とのことじゃ」
「そうなのですか」
「関白殿とは長い付き合いじゃが」
それこそ共に織田家の家臣であった時からだ、利家は秀吉と仲がよく夫婦ぐるみで付き合いがあったのだ。
「若い頃は麦飯すらな」
「満足にはですか」
「足軽じゃったからな、あの御仁は」
百姓の倅だ、秀吉はそこからはじまったのだ。
「それでじゃ」
「麦飯しらですか」
「食えない時もあってな」
「そして今もですか」
「麦飯が大層お好きで一番の馳走とさえ言われておる」
「そうなのですか」
「うむ、それでな」
だからだというのだ。
「麦飯を今もよく召し上がられておる、一緒に食うのはな」
「その麦飯と」
「漬けものじゃが」
その漬けものはというと。
「ねね殿が漬けられた」
「それですか」
「それを召し上がられておるわ」
「そうなのですか」
「実は贅沢でもな」
秀吉、彼はというのだ。
「昔のままのところもある」
「そうなのですか」
「そうじゃ、そのことも知っておることじゃ」
こう二人に言うのだった。
「よいな」
「はい、わかりました」
「そのことは」
二人で利家に答えた。
「麦飯ですな」
「関白様は」
「あれが一番お好きで」
「馳走なのですな」
「あれが一番美味いとのことじゃ」
まただ、利家はまた言った。
「そういうことじゃ、わしにしてもだ」
「前田殿もですか」
今度は幸村が言った。
「麦飯は」
「好きじゃ」
今は白米を食っていてもというのだ。
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