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立ち上がる猛牛

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第三話 二つの過ちその五

「土井は出さんかった」
「そうですね」
「他の選手出してたわ」
 太平洋側を何とか説得してだ。
「そうしてたわ」
「まさか、ですから」
「しもたl、けどもう土井は出してもうた」
 西本はここでこの現実について言及した、惜しいと思えどももう土井は太平洋に出してしまった、この現実は覆ることはない。それでこう言うしかなかった。
「どうしようもないわ」
「もう出した後ですから」
「しゃあない、指名打者はジョーンズや」
 彼にするというのだ。
「それで外野は平野と小川、佐々木とそれと栗橋、軸は阿部やな」 
 阿部成宏である、巨人から移籍してきた俊足強肩の選手だ。
「このメンバーを回していくわ」
「ジョーンズを指名打者にして」
「土井が抜けた分パワーは落ちるが守備はよくなる」
「若手中心となり」
「これでいこか、内野はまず羽田と石渡を使って伊勢を一塁にしてや」
「セカンドは」
「助っ人か西村か服部か」
 西村俊二、服部敏和である。
「この顔触れでキャッチャーはや」
「やっぱりあの二人ですか」
「梨田と有田や」
 若いこの二人の併用というのだ。
「野手はこれでいくわ」
「ピッチャーは」
「大田、仲根はそのまま育てていってな」
「あと獲得した柳田と」 
 その土井を放出してまで手に入れた彼だ。
「それと」
「神部に芝池、坂東、清に井本も使う」
 若手の井本隆もというのだ、芝池博明に坂東里みる、清俊彦に加えて。
「それで軸はな」
「やっぱり」
「スズや、あいつがどうにかならな」
「うちは成り立ちませんか」
「ほんまあいつ次第や」 
 西本は強い声で若いフロントの者に言った。
「あいつはこれで終わらんからな」
「育てていくわ」
「そうしますか」
「あいつはチームの絶対の柱や」
「実績も実力も」
「これまで通りエースでいてもらう、けどな」
 鈴木についてだ、西本は語りつつだった。その顔を曇らせていった。そのうえで言うのだった。
「もうあいつは速球では勝てん」
「最近言われていますね」
 マスコミ、評論家の間でもだ。それで鈴木はもう限界ではないかとも言われているのだ。
 当然西本もこのことを知っている、だが彼はそれでも言うのだ。
「けどあいつはここで終わるピッチャーやない」
「そやからですか」
「あいつには変わってもらう、そしてや」
「これまで通りチームのエースとして」
「活躍してもらう、うちが優勝する為にはや」 
 悲願、もっと言えば誰もが見果てぬ夢だと思っているそれの為にはだ。
「あいつが絶対必要なんや」
「ほなスズのことは」
「わしに任せてくれるか」
「お願いします」
 若いフロントの者はこう答えてそのうえでオーナーである佐伯勇にも報告した、佐伯もチームのことは西本に任せることにした。
 こうして山口を獲得せず土井も放出してしまった近鉄だったがキャンプでは西本の特訓は相変わらずだった、鬼の様に厳しく鉄拳制裁すらあった。
 選手達はよく怒られ殴られた、その中でもだ。
 エースの鈴木はとかく言われた、むしろ西本は鈴木を第一に叱った。これに鈴木がどう応えたかというと。 
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