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FGOで学園恋愛ゲーム

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十七話:ガールズトーク


 自室の机に座りジャンヌはボーっと窓の外を見つめる。
 目の前には数学の問題集が置かれているが全く進んでいない。
 集中力がまるで続かない。
 理由は分かっているが、だからといって解決できるものでもない。

「ぐだ男君……」

 悩みの原因を口にし、溜息を吐く。
 告白された返事を返さなければならないが考えは纏まらない。
 自分が相手を本当の意味で特別だと思えるのかもわからない。
 頭の中の白紙に考えを書いては消してはを繰り返す。

「どうしましょう……っ! あれは…」

 何度目かも分からない溜息をついたところで窓の外の道にぐだ男の姿を見つける。
 楽しそうに笑いながら道を歩くその姿に思わず胸が跳ね上がり、頬が緩む。
 その笑顔が―――他の女性に向けられているのに気づくまでは。

「マシュさんと散歩でもしているのでしょうか……」

 ごく自然に二人で並んで歩く、ぐだ男とマシュ。
 微笑ましい光景だ。だというのに胸の奥に鈍い痛みが走る。
 以前には感じられなかった感覚に戸惑いながらそのまま二人を見つめ続ける。
 そこにいるのは自分ではないのか、と思いながら。

「清姫さんまで……」

 ぐだ男とマシュ、正確にはぐだ男の三メートルに後ろを電柱に隠れながら追跡する清姫。
 普段のジャンヌであればストーカー行為だと気づくことができたのだが今の彼女には余裕がなかった。

「そう言えば、ぐだ男君の周りにはいつも女の子がいるような……」

 今更ながらに気づくぐだ男の交友関係の広さにもどかしい想いを抱く。
 同級生に後輩、先輩に近所のお姉さん。
 果てにはストーカーとひょっとすれば自分が知らない女性とも会っているのではないか。
 そんな考えが彼女の胸に黒い影を落とす。

「ぐだ男君は優しいからおかしくないですよね」

 自分を納得させるように口に出し、ぐだ男とマシュ、ストーキング中の清姫から目を逸らす。
 しかし、心は落ち着くことなく寧ろ先程よりも苦しくなる。
 端的に言えば彼女は嫉妬していた。

「いけません……私にはぐだ男君の交友関係に口出しする資格などないのです。それに嫉妬など主がお許しになられません」

 彼の告白を保留してもらったくせにそのような感情を抱く自分が許せずに唇を噛む。
 どうしようもなく意識してしまっている。それは誤魔化しようがない事実。
 だが、嫉妬は大罪だ。負の感情など抱いてはいけない。
 そうしなければ今までの自分を否定してしまうことになる。

「……気分転換に散歩にでも行きましょう」

 このままでは何にも手がつかなくなると考え椅子から立ち上がり外出用の服に着替える。
 そして、ボーっとしたまま玄関に向かう。

「……ンヌ、ジャンヌ。聞いていますか?」
「っ! すいません、お父さん。何か用ですか?」

 無意識のうちに靴を履いていたところでジルに声を掛けられていたことに気づく。
 慌てて謝りながら視線を向けるがジルは何とも言えない表情で見つめている。

「いえ、お出かけになられるようでしたのでどちらに行くのか尋ねただけですよ」
「あ、はい。少し散歩に行ってきます。夕飯には帰ります」
「わかりました。今日は私が夕飯を作っておきますのでゆっくりしてきてください」

 明らかに自分の様子がおかしいのを感じて気遣いを見せる父親に申し訳なくなり頭を下げる。
 そして行ってきます、の言葉もなしに外に出ていく。
 ジルはそんなジャンヌの様子を黙って見つめながら大きく息を吐くのだった。

「どうやら一肌脱ぐ必要がありそうですね。……今度は陰からでなく正面から行くとしましょう」

 何やら意味深な言葉を呟きジルは剣と鎧(・・・)を取りに家の中に戻っていくのだった。





 ジャンヌは町の中を当てもなく歩き回る。
 幸いなことに空はどんよりと曇っており快適な気温となっていた。
 しかし、それを素直に喜ぶことができずに彼女は悩み続ける。
 瞳は無意識のうちに彼の姿を探し彷徨う。
 そのせいか、前方への注意が疎かになる。

「キャッ! す、すみません」
「ちょっと、しっかり前見て歩きなさいよ……て、あら、ジャンヌじゃない」
「あ、マルタ様」

 ついに通行人とぶつかってしまい謝るがよくよく見るとそれは先輩のマルタであった。
 一年生の頃から世話になっている相手であるのでつい気が緩んでしまう。

「あなたも買い物に来たの?」
「い、いえ。ただ歩いていたらいつの間にかここに……」

 尋ねられて素直に答えるとマルタは怪訝そうな顔をする。
 それもそうだろう。ジャンヌの言葉は明らかに日常にそぐわないのだから。
 彼女自身、後になってハッとするがもう遅い。
 マルタは何かがあったのだと察して彼女に微笑みかける。

「これからお茶でもしようと思っていたんだけど、あなたもどう?」
「え? あ、はい。私は大丈夫です」
「よし、決まりね。じゃあ、あそこの喫茶店に入るわよ」

 お誘いではあるが有無を言わせぬ圧力を感じ取り頷くジャンヌ。
 マルタはその態度に満足そうに頷くとジャンヌの手を引っ張りさっさと喫茶店に入っていく。
 中に入り席に着き適当に紅茶を頼んだところでマルタは息をつく。

「さて、何か悩み事かしら? 話に乗るわよ」
「ど、どうしてわかったんですか?」
「いや、あなたが明らかにおかしかったから聞いてみただけよ」
「そ、そうだったんですか……」

 真顔で答えられて恥ずかしくなるジャンヌ。
 一体どんな顔をして歩いていたのだろうかと今になり後悔するがどうしようもない。
 むしろ、見つかったのがマルタで良かったと気持ちを入れ替える。

「それで、何に悩んでいるのかしら。言えないことなら多少ボカしてもいいわよ」
「あの、一応尋ねますけど話さないという選択は……」
「あなたがそれを選び取る勇気があるのならね」

 ニッコリと笑うマルタだが、その顔には絶対に逃がさないと書かれていた。
 世話焼きの彼女は多少強引であっても彼女の悩みを解決するつもりなのだ。
 デリカシーが無いと言われればそれまでだが、人間時には強引な方が上手くいく時もある。
 ジャンヌは諦めたように瞳を閉じ、覚悟を決めて口を開く。

「あの……つい先日告白を受けまして…」
「恋バナね!? あ、コホン、ごめんなさい。それでどうして悩んでいるのかしら?」

 ジャンヌの言葉に頬を染めて乙女らしく盛り上がるマルタ。
 しかし、すぐに節度のある態度を思い出し、咳払いをして心を落ち着かせる。

「その、返事を待ってもらっているんですが答えが見つからなくて……」
「その人のことが好きじゃないのかしら?」
「いえ! その人は優しくて明るくて、誰とでも仲良くなれる良い人なんです! むしろ、私の方が相応しいか……」

 好きか嫌いかで言われれば間違いなく好きだ。
 特別なものは持っていないというのに、否、普通だからこそ輝く人物。
 自分の方が相応しくないのでは思ってしまうほどにジャンヌはぐだ男の価値を認めていた。

「んー、要するに自分なんかが相手でいいのかって悩んでるの?」
「えっと…簡単に言えばそうなります…かね?」

 特別な愛情。ジャンヌはそれが欲しかった。
 男女の愛でなくてもいい。この人が一番大切だと思えること。
 それが家族に向けるものであっても、友人に向けるものであっても。
 この世の全てを引き換えにできると思える感情が。
 だが、マルタの返答は予想外のものだった。

「本当に好きなら受け入れてもいいんじゃないのかしら?」
「へ? で、でも、私は彼を本当の意味で愛せないかもしれないんですよ!」
「落ち着きなさい。まず、あなたは自分の願いに目を向けるべきよ」

 少し声を大きくするジャンヌを宥めながらマルタは優しい瞳を向ける。

「あなたがその人の傍に居たいのか、それとも居たくないのか。大切なのはそこよ」
「し、しかし、不釣り合いの私が居ても、彼の迷惑に……」

 相手のことを思いやるばかりに苦しい顔を浮かべるばかりで素直に感情を出せないジャンヌ。
 マルタはそんな彼女に小さくため息を吐きながらゆっくりと諭すように語り始める。

「ジャンヌ、あなたの相手を思いやる心は美徳です。ですが、勝手に相応しくないと決めるのは傲慢ですよ」
「ご、傲慢ですか?」
「私はその方を知りませんが、あなたの顔を見れば素敵な人なのは分かります。だからこそ敢えて言いますよ。―――見返りがない程度で失望する奴なら愛すんじゃねえ!!」

 突然のヤンキー口調にビクッと肩を震わせるジャンヌ。
 しかし、マルタはお構いなしにガンガンと喋っていく。

「愛とは与えるものです! それは相手が返してくれることを期待するものではない。お互いが与えることで初めて恋愛が生まれるけど、それは強制するものじゃないのよ!」
「は、はい」

 力強い言葉にジャンヌは反論することもできずにコクコクと頷き続けるジャンヌ。

「相手に自由を与えて“赦す”。見返りを求めずにあなたに注ぐもの。彼はそれを理解してあなたを愛している。だというのに、あなたは自分の心ではなく彼を思いやるだけ。それは彼の愛に対する侮辱です!」

 その言葉にジャンヌはぐだ男の言葉を思い出す。自分が一番幸せになれる答えを出すこと。
 そういう条件だったはずだ。だというのに自分は相手のことばかり気遣っていた。
 確かに、彼女の悩みはマルタの言うとおりに彼の覚悟と愛に対する侮辱であった。

「彼はあなたに自由を与えているのにあなたは自ら鎖でもって心を縛っている。彼が望んでいるのはあなたが本心から望むことを為すこと! だから、まず、あなたは自分がどうしたいかだけを考えなさい!!」

 言い切って乾いた喉を潤すために紅茶を口にするマルタ。
 ジャンヌは彼に言われた約束を守れていなかったことに恥じ入り俯く。
 そんな様子にマルタは若干の罪悪感を抱いたのか、バツが悪そうに頬を掻く。

「まあ、そんなに悩むことはないわよ。なんだかんだ言って彼はそんなあなたのことが好きになったんだから」
「……望むままに動くことは罪ではないのですか?」

 ポツリとジャンヌが言葉を零す。
 そこからはダムが決壊したように言葉が流れ落ち始めるのだった。

「私は嫉妬してしまったんです! 彼の傍に他の女の子がいることに! でも、その感情に自由はない。だから、愛ではない! 怖いんです……私は彼を愛せないんじゃないのかって。……与えられるだけで何一つ返せないのは嫌だ。私は彼に幸せになって欲しい。だけど、私のせいで幸せになれないんだったら……私は彼の傍に居たくない…ッ」

 抑圧されていた感情がゴチャゴチャとした言葉となり噴出する。
 常に正しくあろうとした聖女の姿はそこにはなかった。
 正しくあろうとすればするほど相手を傷つけるのではと恐れる少女。
 
 彼女は普通の人間が持つような悪感情が持てないのではない。
 既に他者への愛で満杯になっていたコップに注がれる様々な感情が水と油のように混ざらずに地面に流れていただけだ。

 仮に注がれるものが憎悪や怒りであれば、代わりに他の者が掬い上げてくれただろう。
 しかし、彼女だけに向けられた愛は少しずつ彼女の他者への愛に混ざっていった。
 その結果生まれた自分だけの感情(嫉妬)にどうしようもなく戸惑っているのだ。

「ジャンヌ……大丈夫よ。幸せになってほしいと思うのは愛です。怖いのもそれだけ相手を想っているからこそ。後は自分の気持ちと素直に向き合うこと。そして、相手の幸せをしっかりと知ることです」
「マルタ様……」

 穏やかな声でジャンヌを導く姿は彼女もまた聖人であることを知らしめていた。

「それに少々自分のしたいことをしても罰は当たらないわよ。食べることが罪じゃないのよ。感情がコントロールできなくなって、暴食へ向かうことが罪なのよ。だから、ちょっとぐらい嫉妬したって自分でコントロールできるなら別に良いでしょ」
「そういうものなのですか?」
「そういうものよ。私を信じなさい」

 自信満々に微笑むマルタ。
 ジャンヌもそんな彼女に信を置きここに入って初めて微笑みをみせる。

「分かりました。相談に乗ってくれてありがとうございました」
「どういたしまして。とにかく、自分で納得のいく答えを見つけなさい」

 悩みを解消したことにお互い充実感を漂わす。
 しかし、ガールズトークがこのような話だけで終わるはずがない。

「ところで、誰なのよ?」
「へ…?」
「ここまでぶっちゃけたんだから言ってもいいんじゃない?」
「え、えーと……そ、そうですね」

 ニッコリと笑みを浮かべるマルタにどうするべきかと考えるジャンヌ。
 だが、すぐに話すことに決める。
 彼女に恩を感じているのもあるが、それ以上に今は―――

「私に告白してくれたのは―――」

 ―――ぐだ男のことを話したかったのだから。





 ジャンヌとマルタがガールズトークに花を咲かせている頃。
 河川敷にて二人の男が向かい合っていた。

『あの、これは…?』
「あなたのジャンヌへの想いは本物でしょう。ですが―――私はまだ認めません!」

 白銀の鎧を身に纏い木刀()を構えるジル・ド・レェ。
 同じように木刀()を握りながらも状況が未だに飲み込めずに戸惑うぐだ男。

「あなたの覚悟を試させてもらいます。私に一太刀入れることができたのならジャンヌとの関係を認めましょう。しかし、入れることができなければ―――彼女前から消えてもらいます」
『……一太刀でいいんですか?』
「ええ、一太刀です。そして何度でもかかってきても構いません」

 条件だけ見ればぐだ男に有利のように見える。
 しかし、目の前の相手を見ればそれがハンデでも何でもないことを理解させられる。


「もっとも―――100回やっても結果は全て同じですが」


 目の前にいるのは情けない父親などではない。
 かつてその剣と武勇で名をはせた正真正銘の―――英雄だ。
 
 

 
後書き


イエス「右の頬を打たれたら左の頬も差し出しなさい」
マルタ「右の頬を打たれたら左の頬も差し出しなさい」

言ってる人の違いで殴られている側と殴っている側のイメージが入れ替わる不思議(真顔)


さて、ジャンヌ√ラストスパートです。
後、少しで終わります。 
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