百人一首
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97部分:第九十七首
第九十七首
第九十七首 権中納言定家
待つのは辛いもの。待ち続けるのはさらに辛い。
風のない夕方の海岸であの人を待つ。
藻塩草を燃やす炎。その炎に身も心も焼き尽くされそうになりながら。その中で待った。
この炎はあの人を待ち焦がれる炎。どうにもならない辛い炎。その炎で身体を焦がしながら待ち続けていた。
けれどあの人は来ない。まだ来ない。ずっと来ることはない。来ると言ってくれて約束してくれたのに。それでも来なかった。
しかしだった。自分は待つことにした。この海岸で。
あの人を待ち続けた。来るのを待ち続けている。
来ないかも知れない。あの人は不実かも知れない。そういう人もいることも知っている。顔では誠実でも心は違う人は。そんな人もいる。
けれどそれでも待つのだった。あの人を。その待つ気持ちを今歌にした。
来ぬ人を まつ帆の浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ
この歌を詠った。あの人を待つ気持ちを詠った。それで本当に来るのかどうかわからないけれどそれでもあの人への気持ちを歌にした。これで心が慰められるわけではないけれどそれでもだった。歌にしてそれで気持ちを確かめた。あの人への切実な想いを。今ここに歌に留めてそのうえでさらに待つのだった。辛いことさえ受け入れて。
第九十七首 完
2009・4・12
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