Re:ゼロから始まる異世界生活
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二日目 舞い降りる姫
前書き
また……書いてしまった...(lll-ω-)チーン
出来れば感想下さい……宜しくお願いします(笑)
「おぉー。雨やべぇー」
────振り続ける雨。
眺めても雨は止まない。
止んで欲しいなんて思ってないけど振り続けてるのもどうかと思う。
「スバル君。
どうかしましたか?」
空を雨を眺めているとレムの声。
俺は振り向き。
「うん?
いや、ちょっと空を見てた」
「祝福の雨です」
……祝福?
なんか大袈裟な発言じゃね?
「恵みの雨だなー」
俺もレムと似た返しをする。
雷雲は空を覆い尽くし、太陽の光を妨げる。
────台風みてぇだ。
普通の家なら。
木造の家なら吹き飛ばしてしまいそうな。
それでもこの屋敷は『無傷』だ。
破損していない。
なんでもロズっちの守護魔法でここら一帯を災害から護っているらしい。
それでもこの悪天候を祝福の雨やら恵みの雨って例えるのはちょっと……。
────なんつうか……少し、懐かしい。
台風って感じの暴雨を眺めながらそう思った。
「てか、そろそろ時間かな?」
「はい、そろそろですね」
────雷鳴は轟き。
「なら、俺も準備しねぇと」
────雷鳴は轟き、爆ぜる。
「そろそろ乾いてる……よな?」
────雷鳴は轟き……。
この世界は終わりを告げる。
「あらバルス。
まだその服装?」
ラムは視線が突き刺さる。
痛い、痛い。その視線が痛いよ。
「そろそろ時間なのだけれど」
「……そのぉ。あのですねぇ。
ほら、この悪天候じゃん?
いくら湿ってた程度と言ってもさ……?
乾くかも知れないって憶測で────」
「そんな言い訳聞きたくないわ」
「ごめんマジでごめん!?」
殺気をズキズキ感じるのですよ?
落ち着くのでせうよ?
「そ、そうだ!
魔法で乾かせばいんでね?」
「そうね、『魔法』が使えればね」
────あれ? その発言だと。
現在、魔法は使えないご様子?
「他に着替えは無かったの?」
「あるちゃあるけど……サイズが合わないんだよな」
「ちっ」
「ちょ、舌打ち!?」
「なんでバルスは小さいの?」
「そんな事、言われても」
「やっぱり、バルスはバルスね」
「ごめんっ!なんかごめん!?」
怒ってる。
怒っていらっしゃる。
お姉様。怒りを鎮めたまえ。
「それならそのままでいいんじゃないかな?」
────この……声は?
知っている、普段は巫山戯た口調。
でも、それが彼のアイデンティティだった彼を。
「……ロズワール様」
紳士なロズワールは歩み寄り。
「うん、堅苦しい服より。
今の服装の方が君らしいし。
多分だけど。その方が話は進みやすいからさ」
話が……進みやすい?
「ですがロズワール様。
バルスの服装はお客人に失礼かと……」
「失礼も何も、スバル君の服装はこの国では見られない貴重な素材で出来ている。そんな彼の珍しい服装に彼女は興味を持つだろう」
「……ですが」
「まぁ、いいじゃないか。
今回は大目に見てやってくれ」
ロズワールはラムの肩に手を起き。
そう耳元で囁いた。
そしてラムは「はぁ、」と溜息を零し。
「本当に……ロズワール様はバルスにお優しいですね」
「そうかな?」
「はい、とても。
とても優しいです」
ラムは羨ましそうな表情で俺の服装を見て。
「ロズワール様が宜しいなら。
私はそれで構わない」
「お、おう」
なんか釈然としない。
ロズっちの援護射撃でこの服装でOKを貰った訳ですけど。
「さて、スバル君。
今回は君の手を借りる事に成るかも知れない」
普段通りのにこやかな笑顔でロズっちは話し掛けてきた。
やっぱり、目の前のロズっちはロズワールの筈なのにロズワールではない別の誰かに見えてしまう。
「俺の手って言われても。
俺は普通の人間より劣ってる劣等生ですぜ?
そんな俺の手なんて借りなくてもアンタなら一人で熟しちまうだろ」
「はははっ。私もとんだ過大評価されたものだ」
「実際そうじゃね?」
「んっまぁ、私程の腕前の魔道士は世界でも指折りだーけどねぇ」
ちょくちょく普段の口調に戻ってる。
その度にロズっちは。
「いやー。意識してもなかなか治らないものだねぇ」と呟き。
「君が思っているより、私は有能な人間ではないよ」
「またまた。
そんな謙遜なんかしなくても」
「謙遜ではないさ。
逆に私からすれば君は太陽の様な存在だよ」
……太陽?
なんとも大袈裟な例えだ。
そして俺は。
「いや、俺は『闇』だ。
真っ暗で何の取り柄もない。
ただの人間だ」
────あれ?
俺……なんでそんな事。
「それは……君らしくない回答だね」
ロズワールは新たな回答を求めされる様に言った。
「……いや、なんだろな。
さっきのは忘れてくれ」
俺は若干、駆け足でその場を去った。
────違う、違う。
俺は妬んでいる。
そして俺はその妬みを隠そうとしている。
自分だから解らない。
でも、自分だから解る。
俺は役立たずだから……だから才能を持ってる奴を羨ましいと思っている。
他人は悪くないんだ。
ロズっちも。
レムもラムも。
他人は関係ないんだ。
これは俺の問題で。俺自身で解決する案件だ。
────だから……前を見ろ。
進め、歩み続けろ。
立ち止まったら駄目だ。俺は俺の足で俺の道を進むんだ。
俺は俺が嫌いだ。
する事成すこと中途半端で、他人は出来て俺は出来ない。
そんな俺が嫌いだ。
俺は自分が嫌いだ。
したい事も出来ないのに。
したくない事も出来ない。
そんな自分が嫌いだ。
俺はナツキ スバルが嫌いだ。
無理と解っても。無駄に足掻いて失敗して、色んな奴に迷惑を掛けて。
ナツキ スバルは自分のしたい様に自分が正しいと思い込んで行動し。
その結果が一人の女の子を泣かせた。
俺はそんなナツキ スバルが。
────大っ嫌いだ。
自分という存在を肯定しようとして他人を傷付ける。
解ってる、そんな事は解ってる。
でも、理解されないのはもう……嫌なんだ。
…………耐えられないんだ。
『××××』を救うためなら何度、自分を犠牲にしても構わないと思っていた。
でも、それでも彼女は俺の行動を理解してくれなかった。
理解しようとも……してくれなかった。
解ってくれると信じた。
でも、信じてくれなかった。
信じてもらえなかったんだ。
裏切られた。
裏切られた。
裏切られた。裏切られた。
裏切られた。裏切られた。裏切られた。
裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた。
裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた。裏切られた。
────信じてたのに!
俺は自分勝手だ。
傲慢で怠惰な人間だ。
俺のRe:スタートは誰にも理解される事はなく。誰も俺の事を信じてはくれなかった。
……解ってる、解ってるよ。
信じてくれなんて言ってもすぐには信じられないかも知れない。
でも、何時か解る。
これで良かったんだって……。
何度も何度も何度も。
俺は繰り返した。
そう、繰り返し続けた。
そしてそれは一度も理解される事なく────ナツキ スバルはRe:スタートする。
耐えられない……理解されないのは嫌なんだ。
そう言ってナツキ スバルは自ら命を断つ。
理解されないのなら……そうするしかねぇじゃん。
解ってる……それが傲慢な事だって解ってる。でも、それでも誰一人として俺を信じてはくれなかったんだ!
────助けて。
────助けて。
────助けて……俺は。
理解されたい。
ただ、それだけだ。
この気持ちを。
この憎しみを。
話せればどれだけ楽に成れるだろう。
暴露できればどれだけ救われるだろう。
そしてそれを説明できればどれだけの人を救えたのだろう……。
考えるだけて────消えたくなる。
────せ。
──────殺。
───せ。
────!
────────ろ。
────こ。
俺を、殺してくれ……。
無限のループに囚われ続けるナツキスバルのRe:スタートは終わる事はない。
もし、借りにそのループが終わるとすれば。
それはナツキ スバルが意味を得る事から始まるだろう。
「今回も盛大だねー」
ラードンはその光景を何度見てきたのだろう。
常人なら発狂する程、ナツキ スバルの日常を見てきたラードンは飽きる事を知らず、映画感覚で見続けている。
「二日目。そうそうここからスバルは病んでたなぁ。これは後の二日目に支障をきたすね」
ナツキ スバルの繰り返される四日間。
それは全て別物である。
いや、殆ど別物かな。
ナツキ スバルの四日間は二日目以降から大きく変わり、終わり方も様々である。
似た死に方もあれば今まで無かった死に方もある。
二日目。
それはナツキ スバルと『雷祈』の運命の別れ道である事をラードンは知っている。
会おうと逢えなくとも彼らの運命は決まっているのだ。
どちらかは『死』
どちらかは生き続ける。
さぁ、今回はどっちが生き残るのかな?
まぁ、どちらせよ。
運命の天秤は傾いちゃうけどさ。
始まりは同じなのに結末は違うなんてね。
そのおかげで飽きはしないけど……それはそれで虚しい。
だって色んな結末を見ちゃってるんだよ?
ここをこうすればこうなるって知ってるからちょっと物足りないな。
────だからお節介するんだけど。
ナツキ スバルは一人の女の子を救おうと繰り返される四日間をRe:スタートする。
と言っても当初の予定とは大きく変わってるけどね。
それを差し引いてもこのループは価値を見出せるとラードンは信じ、このループを見届けると契約した。
期待は裏切られた。
だが、それも一興。
全てを知りえないからこそこの繰り返される四日間は価値を与えられている。
寧ろ、この繰り返しはその為だけに与えられたとさえラードンは感じていた。
否定されても、肯定されても。
彼の生きざまは変わらない。
変わるとすれば無様な死に様が増える、かな?
「姉さんは本当に意地悪な魔女だね」
妹の魔女 エキドナは軽蔑の眼差しで虫を見るような眼差しでラードンを見ている。
「なんだいなんだい?
私はスバルの生きざまを見届けているだけじゃないか?」
「そんなニヤついた顔で居られたら不愉快なんだけど」
「ズキューンッ!?
そんな変な顔だった……?」
「あぁ、死ねばいいのにね」
「その罵り方は僕にとってご褒美だよ!アザ━━━━━━━━ス!」
最近覚えた奇妙な言葉を使ってラードンはエキドナの罵倒に感謝する。
なんて哀れな姉なのだらう。
何度、幻滅すればよいのやら……。
「それで、スバルは?」
「あぁー。今は二日目の昼だよ。
そろそろ招かれた客人の来訪だ」
「過程は?」
「過程はね、前回よりナーバス思考になってる。
多分、今回も四日間で終わるね」
「スバルの『死』で?」
「だろうね……こればかりは最後まで見届けないと解んないからさ」
ラードンは「何とも言えないよね」と笑顔で言った。
「じゃあ、前回と変わった点は?」
「変わった点ねぇ。
今の所はないかな……」
「変化なし……彼は一体何回繰り返すんだい?」
「さぁね。
でも、その考え方で彼を見届けても無駄だと思うよ」
────彼は繰り返すなんて記憶すら残ってないんだからさ。
今回の事も、前回の事も。
ラードンにとっては些細な事だ。
今のエキドナにナツキ スバルの事を語る資格はない。
たかが、このループを数回した体験していない哀れな妹には。
「それにしても姉さんは疲れないのかな?」
「疲れる?
何を?」
「毎回、同じ様な結果を見る事にさ。
彼の絶望する姿を貴女は何度体験すれば気が済むのか……僕は気になって仕方ない」
「いや、もう気は済んでるよ」
「────はい?」
妹の間抜けた表情。
あれ、変な事を行ったかな?
とラードンは疑問を浮かべた。
流石、姉妹と言うべきか……その表情はそっくりだった。
「待て……うん、一旦落ち着こう」
「いや、僕は至って正常────」
「いやいや、正常じゃない。
狂ってる。姉さんは狂ってるよ」
「ちょっと?
僕は至って正常だってば────」
「そんな訳ない。
姉さんは普段から狂ってる。
いや、狂ってるから正常なんだ。
それなのに……正常? 笑わせないでくれるかな?
姉さん。
貴女は狂ってる。
昔からそうだ。姉さんのやってる事は魔女ですら嫌悪する程の日々だった。そんな姉さんが正常な訳ないじゃないか。それともこのナツキ スバルの日常を何度も繰り返して見続けて更に狂ったのかい?
そうかそうか。
それなら納得だ。こんな何もない空間で姉さんがじっとしていられる訳ない。
いくら少しずつ変化するスバルの日常でも一体、この日常は何度繰り返された?
繰り返される四日間を何度体験した?
並の人間なら発狂死する程、貴女は体験し続けた……なのに何故、貴女は諦めない?
これほど繰り返されて何故そんなに日常を見届ける? この繰り返される四日間に結論は出るのかい? それとも出てるの? 僕には理解出来ない……貴女はそれでも理解してしまうんだね。
僕の世界を貴女は安安と────超えてしまうんだね。
そうだ……そうだよね。
姉さんは僕から全てを奪った。
なのに。
姉さんはまだ僕から奪うの?
これから知り得る知識を。
まだ見ぬ可能性も……全部…………僕は、私は────」
エキドナは魔女である。
だが、一人の女の子でもある。
ラードンは。
姉は妹のエキドナから全てを奪った。
ラードンからすれば共有の様なものだと思っているだろう。
違う、それはエキドナにとっては逆奪に等しい行為だ。
姉 ラードンは妹のエキドナから了承も無しにエキドナの知識を全てコピーし、自身の物にした。
基本的に魔女との物々交換は等価交換である。
互に見合った対価を払う事で互の物をトレードする。
だが、ラードンはその了承すら得ずに知識を貪り、世界の心理を知った。
人は。
魔女は彼女をこう呼ぶ。
『逆奪の魔女 ラードン』
七つの大罪の持つ全ての特性を逆奪し、嫉妬の魔女と同等とされた。
忘れられし、色彩の魔女。
「貴女はこれ以上、何を求める?」
「何って?」
「貴女は全てを知りうる逆奪の魔女。
姉さん……貴女は何を欲している?」
「無論、全てだ」
「それは傲慢だ」
「でも、私は面倒くさがりでね」
「それは怠惰だ」
「知り得ぬ知識を貪りたい」
「それは暴食だ」
彼女に望みはない。
でも、願望はある。
望んでも戻らない過去、望んでもいない未来。
そして望まれた今。
彼女程、恵まれた魔女はいない。
死してなおラードンは己の願望を追い続け、有り得るはずのない未来を見続けている。
「僕は全てに『彩り』を与えた色彩の魔女だ。
過去も、今も、未来全ての物に私は『色』を与えよう。例え、それが世界の理を崩す事に成ろうとも」
「そうやって貴女は生き続けるんだね……」
エキドナは少し悲しげな表情で。
「忘れる事さえ叶わない。
この一瞬を────矛盾を」
そしてエキドナは消えていった。
時間切れだ。
どうせ少しすればやってくる。
何も無かった様に、普通の少女の様に、ありふれた妹としてやってくるだろう。
そう、この世界はそういう風に出来ている。
この違和感に真の意味で気付ける者は一人しか居ないだろう。
一人、ただ一人。
ラードンはこの空間で彼を待ち続ける。
最愛の少年を。
望まれた希望を。
鳴り止まぬ雷雨。
耳を澄ませば微かに聞こえてくる。
────────────。
誰かを呼んでいる。
それが誰を読んでいるのか解らない。
でも、それは再会を祝福する祝音の様な……。
耳元で囁かれる様な。
────とても優しく。
何処か、儚げな声は雷雨の中を響き渡る。
誰かを待ち続け、誰かを呼び続ける声は誰にも気付かれる事はない。
それは虚しく、誰の耳にも届く事はない。
なのに、何故。
この音は────この声はこんなにも……。
「────バルス。
次はこれを運んで頂戴」
刹那。
スバルの意識は戻った。
「何をボーッとしてるの?」
「……ぁ、いや」
スバルは手渡されてたテーブルクロスを受け取り、徐ろに足を進める。
する事は解っている。
やる事も理解している。
なのに……なんで、こんなに。
普段なら今は仕事優先と言って雑念を払うはずなのに今はそんな気分にすらなれない。
────少し、眠い……。
ちゃんと寝たつもりなのに。
朝からドタバタしてたからかな。
いや、多分それは関係ない。
きっぱりとさっぱりと関係ないと決め付け、スバルは客人用に用意された巨大なテーブルにテーブルクロスを掛ける。
普段なら文句を垂れながら作業する面倒な作業をスバルは黙々と熟し、新たな仕事を求め、ラムの元まで歩む。
そして雷鳴は鳴り響く。
もう、聞き慣れちまった。
最初はちょっとびっくりする程度だったけど今は驚きもしない。
まるで怒ってる様に雷は雨は降り続け、止む気配を見せない。
そして雷は振り落とされる。
────閃光
────爆発。
────衝撃。
スバルは瞬間的に、両手で視界を遮る。
「な、なんだ!?」
雷が庭に落ちた……?
一瞬、窓から見えた雷。
それは屋敷空上の何かを貫き落ちてきた。
何か……多分それは屋敷を護っていた結界であろうそれは少しずつ崩壊し消えていった。
────雨の勢いが増してる……。
結界は完全に消滅した。
屋敷全体が豪雨に曝される。
────雷鳴は轟き。
そしてスバルは目を疑った。
雷の光で一瞬だけ見えた。
この豪雨の中、屋敷を目指して歩いてくる女の子が────。
「「お待ちしておりました」」
レムとラムは深々と頭を下げる。
それは金髪の女の子だった。
身長は160cm程で体型は細身、床すれすれの長髪。
何より特徴的なのは服装だった。
洋風と和風を混ぜた様な。
着物の様な布、ドレスの様な細やかな下地。
お金持ち……いや、もっと皇貴な気品を漂わせてた少女は笑顔で。
「御出迎えありがとうございます」
そう言ってレムとラムに頭を下げた。
この異世界では見慣れぬ、まずありえない光景だった。
そんな出来事に戸惑うレムとラムは。
「い、いえ……そ、その」
二人はあたふたと混乱している。
馴れない事に。
憧れのあの方に感謝されるとは……。
思考回路はパニック状態。
「お久しぶりです、『雷祈』様」
空欄、空白の空間を崩す様にロズワールは現れた。
普段の口調を自重し、紳士のそれでロズワールは接するのだ。
「────ロズワール」
「立派に成られて……また、お会い出来た事を光栄に思います」
「私もです……ロズワール。
その、あの────傷の方は?」
少女は申し訳なさそうに罪悪感で押し潰されそうな声で言った。
「覚えておられたのですね……」
「忘れる訳がありません。
────私は貴方に」
────癒える事のない傷を付けてしまった……。
罪悪感が少女の心を締付ける。
一生、癒えぬ傷跡を付けてしまった。
「本当に申し訳ありませんでした……」
深く、少女は深く頭を下げ謝罪した。
当然と言えば当然だろう。
ロズワールに非はない。
どう見ても、どう考えても悪いのは『雷祈』だ。
それなのにロズワールは少女を許し賞賛した。
小さき頃の少女には解らなかった。
怪我をさせてしまったのに彼が何故、笑っていたのか。
今もその笑みの意味は解らない。
だが、それでも少女は納得できなかった。
いくら許しを乞うても許されても謝るべきなのだ。
『雷祈』はそれだけの事をした。
その罪が許されようと少女は謝り続ける。
自分が納得するまで。
ロズワールが本当の意味で『雷祈』を許すまで……。
「それは過去の事、私は気にしておりません。元はといえば私の身なりと口調に問題があったのですから。
それは私の落ち度です。
それにあの身なりと口調で『雷祈』様を恐怖させてしまった……それは私の罪です」
────それは、そうだったかも知れないけど……。
少女自身、その時の事を余り覚えていない。
薄らと記憶の片隅に残っている程度で解っているのは少女が『何か』に恐怖した事だっけだった。
少女の母親の話だとロズワールの服装と口調に怯えていた……らしい。
例え、そうだったとしても怪我をさせてしまった……一生癒えぬ傷を付けてしまった。
その罪悪感はそんな簡単に消えるものではない。
この10年間……少女は独りで悩み続けていたのだから。
ちゃんと謝りたい。
そう思っても少女の心はロズワールに会うことを拒んだ。
会おうと……逢おうと思えば何時でも会えた。そして謝罪する事も出来た。
なのに少女はこの10年間、ロズワールから目を逸らし続け逃げてきた。
ずっと逃げ続けた。
────逃げるのは嫌……でも、真の意味で謝れないのはもっと嫌。
だから少女は此処にやってきた。
本当の意味で許される為に。
「さて、時間も丁度いい。
募る話もありましょう。雷祈様、お食事は如何ですかな?」
「え、あ、はい……」
────いい、匂い。
食欲をそそるいい匂い……。
余りお腹は空いてかなかったのに急に……。
「ラム、レム」
「はい、ロズワール様」
鬼の姉妹は同時に応え。
「どうぞこちらへ」
その時の双子の姿はメイドそのものだった。
スイッチを切り替え。
少女も客人として持て成される心構えを持ち、姉妹の後を追う。
相変わらず、綺麗な屋敷だ。
以前、訪れたのは10年前だけど……あの時より綺麗になってる様な。
────緊張する。
10年前とは違う。
それは解ってたけど……こんなに丁重に扱われると緊張する。
朧気な記憶────以前訪れた時の事を思い出す。
あの時の少女は子供だった。
ひたすらに子供だった。
無邪気で臆病者で恐がりで軟弱でひ弱でわんぱくだった。
今も対して変わらない。
わんぱくでは無くなったけどそれ以外は変わらない。
大人しめで世間知らずのお姫様。
そう、少女は自負している。
その頃、ナツキ スバルは────。
オイオイ……アレなんだよ。
────女の子……ってか、あの娘は何者?
豪雨の中独り、少女は現れた。
いや、舞い降りた。
その瞬間をナツキ スバルは目の当たりにしてしまった。
────雷切は結界を貫きやってきた。
魔女……違う、アレは魔女の類ではない。
確信はないけど確証はある。
アレは人間だった。
「────なんなんだよ……この胸のざわめきは!」
脈打つ心臓の高鳴り。
落ち着け……落ち着け。
あの娘は多分……ロズっちの客人だ。
結界を破壊したように見えた……あるいは本当に結界を破壊したのか。
そんな事はどうでもいい。
────なんでこんなに。
言葉にできない。
悲しい。でも……懐かしい様な。
俺は……あの娘の事を知っている?
いや、記憶にない。俺は初対面のはずだ。
なのに、俺はあの娘を見て懐かしいと思ってしまった。
数日ぶり……いや、もっと前から知っている────?
知っている、知っていた?
なんなんだよ────なんなんだよ!!
「おや、スバル君?」
俺の行く手を阻む様に。
その声は足を止めた。
「ロズっち……」
「どうしたんだい?
顔色が真っ青じゃないか」
「いや……何でもない。
てか、さっきの客人のあいてはいいのかよ?」
「うん? あぁ、大丈夫だよ。
あの方のおあいてはラムとレムに任せてある」
おいおい、折角やってきた客人を無碍にしすぎじゃね?
……てか、やっぱりさっきの娘はロズっちの客人だったんだな。
一目見ただけだけどアレは異質と捉えられた。
この異世界にやってきてから一ヶ月程度、それでも『何』が異質で『何』が異常かは判断出来るようになった。
余りに異質過ぎて『知覚』できない恐怖を感じ取れる……それは成長の証であり、己の弱さを戒める。
ナツキ スバルは弱者である。
己の弱さを認め、己の弱さを武器に生きてきた。
だが、それは進む為であって生きる為ではない。
理解はされないだろう。
ナツキ スバルは弱者である。
才能も無ければ技量もないし、何もない……。
そう、彼には何も無いのだ。
過去────以前のナツキ スバルなら理由を持ってそれを言い訳にする事で意味を得ていた。
でも、それは仮初で……。
目を背けずにそれを直視すれば見えてくる。
形を持った思想だったということに。
「────スバル君?」
そう、俺は何者でもないのだ。
「いや、なんでもねぇよ。
そうだ、暇だしロズっちの客人に挨拶でもしてくるよ」
スバルは背中を向け、手を振り。
その場を後にした。
いや、逃げた。
なんでこんな気持ちになるのだろう……。
ここ数日、スバルは屋敷の人間から距離を置いていた。
理由は解らない。
でも、このまま過ごすのは嫌だって思ったから……。
好きで離れてるんじゃない。
ただ、そうしないと────そうでもしないと嫌な事が起こる。
そんな予感がした。
普段通り、普段通りに生活出来れば……。
ふと、そう思った。
────普段通りって普段からそうだろ……何言ってんだ俺?
マイナス思考過ぎるだろ。
「はぁー」
溜息を付き、視線を落とす。
する事やる事、全部マイナスに考えてたら世話ねぇ……まずはプラスに考える事から始めるか。
まずは客人に挨拶でもするとしてそれから先の事はそれから考えよう。
目標を作ってコツコツと。
客間を目指し、外を眺めながら廊下を進む。
最初はとても長く感じられた廊下。
今では普通、当たり前と感じてしまう。
まぁ、ここに来て一ヶ月経つから慣れちまったんだろう。
そう、あれから一ヶ月。
あれは────────。
……。
…………。
………………。
……………………。
────────そう、迷ってる所をロズっちに拾われたんだ。
「……だったよな?」
そう、そのはずだ。
コンビニを出た瞬間、異世界で……それで途方に暮れてる所をロズっちに話し掛けられたんだ。
なんでそんな事を一瞬忘れかけたんだ?
……疲れてんのかな。
挨拶を済ませたら少し休もう。
今日は朝からバタバタしてたから疲れた……。
「バルス、そこで何をやっているの?」
う、微妙なタイミングでラムに見つかった。
適当に挨拶して一眠りしようと思ってたのに……。
ラムはしょっちゅう俺に仕事を押し付けてくる。ここ数日は何故か一人で仕事してたけどこのタイミングで話し掛けられて嫌な予感しかしないのは何故だろう?
「見るからに暇そうね。
そんなバルスにピッタリなお仕事があるのだけれど」
そう言ってラムは俺のジャージの裾を掴み引っ張る。
その力はとてつもなく強く。
俺はずるずると廊下を滑る。
「引っ張るなって。
暇じゃないけど手伝ってやるから」
「そう、私の目からは死んだ魚の様な目だったから死ぬのかと思ったわ」
「なんだそりゃ?
てか、俺は何を手伝えばいいんだ?」
ズルズルズル。
破ける、俺の一張羅破けちゃう。
なのに抵抗する気になれなかった。
なるがままに……流れに身を任せる、任せたくなったのかな?
「出来上がったお料理を運んで欲しいの。それくらいならダメダメなバルスでも出来るでしょう?」
「ダメダメって……」
まぁ、認めてるけどさ。
そりゃラムに比べれば俺のステータスなんてカスキャラ同然だし。
────待てよ。
「お姉様?
その出来上がった料理ってのは馬鈴薯料理ではないでせう?」
「そうに決まってるじゃない。
何を言っているのバルスは?」
「ですよね、そうですよね」
仕込みだけでも10時間以上は掛かったであろうそれは山の様に積み重なっていた。
そして未だに料理中のレム。
うわぁージャガイモのお山だ~。
昨日から作り置きしていた肉じゃがもどきやコロッケもどき、その他もろもろの馬鈴薯料理がテーブル一杯に広がり……うん、まるで馬鈴薯地獄。
「さて、運ぶわよバルス」
「え、これ全部?」
「急がないと机の上では収まりきらなくなるから無駄口を叩かずさっさと動く」
「はいよ……たく、人使いが荒いな」
まぁ、する事が出来たのはいいことだ。
暇だったし……でも、眠いんだよな。
これ終わったら少し寝よう。
「よっと……うっ。
結構重たい」
馬鈴薯料理の載った皿を両手で持てるだ持ってみたけど……なんか見た目と裏腹に重たい。
ラムは普通に平然と運んでるのに。
キャパシティの差って奴だなこりゃ。
「もっとてきぱき動きなさいバルス」
「って言われてもこれが限界……よくそんな軽々と運べるな」
「貴方が非力過ぎるのよ。
か弱い女の子に力で負けて恥ずかしくないの?」
────か弱い……。
女の子っては合ってるけどか弱いってのは認めねぇぞ。
まぁ、でも力仕事で女の子に負けるってのは男としてどうかと思う……。
実際、力で負けてるので何とも言えないけど言われぱなしってのはよろしくない。ここは俺って実は頼れる男なんだぜ?アピールするチャンスと考え……。
「う"お"お"ぉ"ぉ"ぉ"」
重々しい料理を重々しく運ぶ。
本来なら軽々しくスタイリッシュに持って運びたいけどそんな余裕はない。
なので多少、無理をしてでも回転数を上げる作戦で戦果を事にした。
「バルス、急にどうしたの?
変な奇声を出して。元々、犯罪者の様な顔立ちがより引き立ってるわよ」
「うるせぇ……!
って今の俺ってそんな変な顔してる?」
「えぇ、普段より殺伐としてるわね」
「普段よりって……俺ってそんな普段から変な表情なの?」
「小さい子供が見たら。
お母さん……あの人の顔、怖いよって泣きわめく位ね」
「それ相当ヤバイじゃん!?」
確かに……小さい頃から辛気臭い顔ってよく言われてたけどそこまで言われるとちょっと萎えるぞ。
てか、ラムの評価なら俺って村の子供たちから怖がられるレベルの顔って事?
「今度は静かになったわね」
「お前の発言でHPゴリゴリ持ってかれたよ……」
「えいちぴい?
何を言ってるのか解らないわ」
「要するに、大ダメージって事だ。
もう、瀕死状態だよ」
「そう、なら問題ないわね」
────何が?
と返そうと思ったけど止めた。
話す余裕が無いからだ。
こんなにも重いのになんでラムの奴は平然としてるんだよ……。
そ、そろそろマジで限界ですん。
「あともう少しだから頑張りなさい」
「……あいよ」
さっきから腕がミチミチって変な音立ててるですけど。
────あと……もうちょい。
って扉閉まってる!?
「ラムさんヘルプ!」
「ホント、バルスは使えないわね」
俺の状況を見て扉を開けられないと把握したラムは「失礼します」と言って扉を開けた。
扉の向こう側は。
まず、見えたのは積み重なった皿の山だった。
「よいしょっと」
そして皿持ち運びやすいように重ねる少女。
────待て待て。
目の前で起きている状況を確認、整理しよう。
皿を積み重ねてる女の子はロズっちの客人……OK。
そして積み重なってる皿はさっきまでレムが昨日から仕込みして精魂込めて作った馬鈴薯料理が載ってた皿……え? って事は全部、食べた?
あれだけの量を?
いや、まぁ、まだまだ沢山あるけど……あるけどこの量を一人で全部食べちゃったの?
「あ、もしかしておかわりですか?
うわぁ美味しそう♪」
この発言から察するに全部食べちゃったからおかわり頂戴♪って事だよな。
いやいや────え、マジなの?
「雷祈様、それは私達使用人のする事です……お客様なのですからゆっくりとなさっていて下さい」
「そんな悪いですよ。
こんな美味しいお料理をご馳走になってお片付けの1つもしないなんてそれこそ失礼というものです。
これは私が好きでやってる事ですからやらせてくださいラムさん」
「……雷祈様が、そう仰るなら」
そしてすんなりと了承するラム。
状況を読み込めてないけど……つまりどういうこと?
「あれ、その方は初めてお会いしましたね」
そう言って女の子は歩み寄ってくる。
「私、『雷姫』と申します!
あ、『雷祈』って名乗った方がいいのかな……」
────らいき?
女の子にしては男ぽい名前だな。
「俺の名前はナツキ スバル。
ここで働かせてもらってる使用人だ!」
「ナツキ……スバルさん?
変わったお名前ですね」
「よく言われるよ、この地方じゃあ結構珍しいみたいだな────ッ」
足の爪先に激痛が迸った。
そおーっと足元を見てみるとそこにはラムの足が俺の足を踏み付けていた。
「どうかしましたか?」
「い、いや。
なんでも……ねぇよ」
「雷祈様、新しい料理をお持ちしましたので冷めないうちにお召し上がりください」
ラムは自然な笑顔でニコッと微笑み、手に持った料理の載った皿を並べていく。
そしてスムーズな手付きで積み重なった皿を持ち、
「────バルス、雷祈様と馴れ馴れしくしないで」
通りすがりにそう耳元で呟いた。
警告……なんか俺、アイツの気に触る事したかな?
まぁ、使用人の立場から考えるとラムの言った事は正しいのかも知れない。
使用人は主に仕える者。
粗相のないように主の客人とは距離を置いた方がいいのかもな。
物理的にも、精神的にも……。
俺も素早くスムーズに料理並べ、積み重なった皿を持ち、その場を後にした。
それからラムは無言だった。
話し掛けて拒絶され無視られる。
どうやら俺はラムを怒らせてしまったようだ。
何が原因で怒ったのかは解らないけど俺が要因で怒ってしまったって事は当の本人だから理解できた。
「なぁ、ラム。
悪かったって……その何が悪かったかは分かんねぇけどそのごめん」
何度、謝っても話しても彼女は無言で無視を貫き通した。
これは相当、お怒りのご様子だ。
はぁ、と軽く溜息を付き。
俺は自身の落ち度を模索する。
あの時、通りすがりに耳元で呟いてきた言葉を思い出す。
────雷祈様と馴れ馴れしくしないで……だったかな。
そこまで馴れ馴れしくした覚えなはない。だが、ラムからすればそれが馴れ馴れしく接していたと判断された……?
自分ではそんな気は無いけど他人の目からすればそう見えたのかも知れない。
あのラムがあんなに怒ってる所なんて初めて見たぞ────。
……あれ、そうだったけ?
いや、そうだろ。
何を知ったふうな事、言ってんだ俺は。
アイツは余り、感情を表に出さない奴だから怒った所を見れるなんてラッキーだろ俺……。
いや、滅多に怒らないラムを怒らせて怒った表情を見ても全然嬉しくねぇけどな。
何を考えてんだ俺?
ラムは早歩きで俺の三歩先を進む。
今は何を言っても耳を傾けてはくれないだろう。
なら、お怒りの治まった時に謝ろう。
その為にはラムより仕事を頑張ってアイツの負担を減らさねば!
ラムは基本的に面倒くさがりだからアイツの分を仕事をすれ機嫌も良くなるはず……確信はないけどそれくらいはしないとこの沈黙は耐えられない。
重苦しい空気っと俺は感じている。
何を話しても無視されるんだテンションは下がるし気分も乗らない。
ここは無理矢理でもテンションを上げてお仕事に専念せねば。
じわじわとやって来る睡魔。
ここは耐えろ。やる事終わったらすぐ寝るから今は耐えろ俺の身体。
欠伸を噛み殺し、両手で両頬を叩く。
パンパンッ。
少しだけ眠気は収まってくれた。
まだちょっと眠いけどさっきよりは随分とマシになった。
「さて、お仕事頑張りむすか!」
「……ぷっ」
笑われた。
このネタで笑われた。
その声はラムのものだった。
ラムは慌てて口元を両手で塞ぎ。
何事も無かったかのように……いや、さっきより歩く速度速くなってますね。これは俺のネタが面白くて不意に笑ってしまったのが恥ずかしかったのだろう。
その紛らわし方に俺は自然と笑を零した。
まさか普段から俺の事を『バルス』って呼んでるラムに笑われるとは。
ラムは知らないはずだ。
バルスが目潰しの呪文である事を。
ムスカが天空の城で「まるで人がゴミのようだwww」なんてほざきやがる糞野郎の名前って事を。
まぁ、だからこそ俺は笑ってるんだろうな。
鏡を見なくても分かる、自分が笑っていることくらい。
────責めて今だけは笑っていよう。
何故、そう思ったのかは解らない。
でも、なんだろう。
今は、笑える時は笑っておけ。
そう、誰かに言われた様な気がした。
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