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百人一首

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83部分:第八十三首


第八十三首

               第八十三首  皇太后宮大夫俊成
 この世が辛くて。苦しみがあまりにも多いので。それでそんな世を逃れようと思って。それでこの山奥に来た。
 静かな山奥ならばもうこの世の苦しみを忘れられると思ったから。だからここに来た。けれどその山奥で。
 声が聞こえる。それは雄鹿の声だった。その声は何故しているのかと思っていたら。
 探しているのだtった。つがいを。雌鹿を探して鳴いているのだ。
 つがいを探して鳴く声。その声を聞いていてわかった。こんな山奥でも誰かを探す声がある。世というものはこの山奥にもあるのだと。そのことがわかった。
 するとそれは自分にも当てはめて考えてしまうようになった。自分もまた。
 どうしても気にかかってしまう。気にせずにはいられなかった。家族のことも世間のことも。どうしても頭から離れはしない。気になって仕方がない。それから逃れることはやはりできなかった。
 それで今この気持ちを詠おうと思った。どうしても忘れられず離れられないのならばどうせなら。そう思って今この歌を詠むことにした。

世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる

 苦しみを避ける為に入った山奥なのにその山奥で知らされた俗世のこと。家族のこと。そういったものをまさかここでも見せられるとは思わなかった。けれど鹿の鳴き声は嫌なものには聞こえなかった。美しく聞こえた。その美しい声を聞きつつ今はこの山奥にいる。誰もおらず鳴き声だけが聞こえてくるこの山奥で。ただただその中で声を聞くだけだった。今は。


第八十三首   完


                 2009・3・29 
 
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