百人一首
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
8部分:第八首
第八首
第八首 喜撰法師
俗世がわずらわしくなって世を離れ。今は一人この山に住んでいる。
一人で小さな庵の中に住んでいる。この暮らしが実にいい。のどかで静かで落ち着くものだ。
ところが世の人々は自分をこの世に対して悩み苦しみそれから逃れる為にこの山に潜んでいると思っている。
この宇治山もそれで憂山と言っている。
このことを思うとおかしくて。自分はそんなことは全く思っていないのに世の人々がこう思っていることが。それでそのおかしさを歌にしたくて今硯をすり筆を手にして。そのうえで静かに一首書くのであった。
我が庵は 都の巽 しかぞすむ 世をうぢ山と 人は言うなり
一首詠んでみるとさらにおかしいと思う気持ちが強くなり。ついくすくすと笑ってしまう。そのおかしさを我慢できなくなっているとそこに珍しく人がやって来た。すると自然に話をしたくなった。
「実はですね」
「はい。何か?」
「これを」
その歌を手渡した。歌を渡すとその客人も微笑んでくれた。客人にもおかしさが伝わったようだ。
「成程、そういうことですね」
「はい。これを世にお伝えして欲しいのですが」
「わかりました。それでは」
客人も微笑みそれを受けてくれた。世に一人いるとこういうこともある。彼は今そのことがわかった。わかってそれをおかしいとも思いついつい笑ってしまう。そんなことを詠った歌であった。
第八首 完
2008・12・6
ページ上へ戻る