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ラブライブ!~夕陽に咲く花~

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第11話 初めまして

「μ`s...ですか?」
「そうなんだよ!この前みんなに募集かけてみたら一つ入ってて、それがこのμ'sなんだ!かっこいいでしょー!」
「確かにいい名前ですよね。」




翌日早朝。
早起きに慣れている僕はいつものように目覚ましをかけてけたたましく鳴るベルの音で起きる.....つもりだったんだけど、何故か目覚まし時計の20分前に目覚めてしまい、そのまま二度寝するのも中途半端。
僕は手早く朝食を済ませ、予定より早く家を出た。
因みに朝食のメニューは昨日の残りの肉じゃがだ。


着いた時には誰もいなくて、暫く神田明神で飼われている馬と戯れているところに先輩方は到着した。



嬉しそうな笑みを浮かべて.....









〜 第11話 初めまして 〜




「μ'sって.....なんですか?」


知識を持ち合わせていない僕は素直に園田先輩に質問を投げかける。意味有り気な単語だからきっと凄い意味があるのかもしれない!という単なる興味本意だけど。


「確か.....」と手を顎に当てて園田先輩は思い出す素振りを見せる。



「確か、昨日ネットで調べたのですが....."μ's"は9人の芸術の女神.....とかだったような気がします。私もさっと軽く調べただけなので詳しくはわからないのですが」
「9人の、芸術の.....女神、ですか」




はい、と園田先輩が頷く横で僕は「芸術の女神ってどんな女神さんなんだろう」と思考を巡らす。
多分美術とか、世界史、倫理の授業の世界の話なんだろう。勉強が苦手な僕にとっては難しいジャンルではあるけど、どうして名付け親は先輩方に"μ's"って名付けたのかだけは疑問に思った。



多分、そんなことに疑問を持たないであろう先輩.....高坂先輩は僕が来るなり、スクールバッグを置いてあるところに駆け寄り、何やら小物を手に持って戻ってきた。



───ウォークマンだ。


しかも、来月のバイトのお給料が入ったら購入しようと思ってる最新のウォークマン。
なるほど、高坂先輩はピンク色のウォークマンを買ったのか。




「ねぇねぇ春人くん。これを聞いて欲しいんだ」
「え?あ、わかりました」




 羨ましいという羨望の眼差しを無意識に向けているとそのピンクのウォークマンを僕に差し出す。
確かに今僕が一番欲しているのはこれだし、買う前に一度試しに聞いてみるのも悪くない。というか聞いてみたい。



 だから僕は遠慮なく高坂先輩からイヤホンを受け取り、そのまま耳にかけるとピアノの音が川のせせらぎのように耳に入り込んでくる。



「これは....」
「あ、わかるかな?」



 続けて、三人の綺麗な歌声が流れてくる。
間違いなく、僕の前にいる先輩方の歌声だ。ということはつまり、曲は完成したのだろうか...
誰が一体作ったのかな?



「凄い...綺麗な歌声ですね。なんていうか、プロも顔負け?」
「それは褒めすぎだよ~!」
「そうですか?僕は本当にそう思っただけなのですけど」
「ほんと!それは嬉しいなぁ~♡」



 僕はウォークマン本体を借り、画面に注目する。
ジャケットじは...まぁ、オリジナルの曲だから無くてもおかしくは無い。
だから次に視線を僅かに下へずらして曲名を見る。




「.....”START:DASH!!”ですか。なんかパッと見、これから私たちのスクールアイドルの歴史が始まるんだぞー!みたいな感じになってかっこいいですね!最初の南先輩の歌から始まる歌詞も素敵だと思います。僕はほんと、こういうのに無知なので、どこそこがこうだって力説はできないですけど...僕は僕なりに、いいなって思いました」
「いいえ。そういうシンプルな感想だけでも嬉しいです」
「すごいよね!!この歌詞は海未ちゃんが書いてくれたんだよ!やっぱり小学校の時、自作のポエムを書いてた成果が出たんだね!!」
「なぁっ!それは言わない約束でしたよね!?なんで話すんですかー!」



 多分彼女たちにとっての、いつもの日常。
高坂先輩が思わず口を滑らせて出てきた話が、園田先輩の過去の話で、恐らくタブー。
真っ赤になって高坂先輩ににじり寄る園田先輩を他所に、南先輩は僕に褒められたことが余程嬉しかったのか、頬を染めてくねくねと恥ずかしがっている。


 最近付き合いが増えてきたとは上、相変わらずこのカオスな展開にどうしたらいいのかわからなくててんやわんやするのが僕、高橋春人。






「でも凄いと思いますよ?ちなみに、この曲は誰が作ったのですか?」
「あぁ、この曲は1年生の"西木野"さんという方にお願いしました。穂乃果が強引に」
「もう海未ちゃん!それじゃあ私が無理矢理頼んだように聞こえるじゃん!」
「は、はは..実際そうだと思うよ?」



なるほど。音ノ木坂に凄い女の子がいるんだね。
普通作曲なんてほんの一握りの人しかできないと思ってたけど.....もしかして僕の勘違い?
何はともあれ、漸く全てが出揃ったみたいだ。
確か本番は来週の火曜日。あと10日も無いから先輩は朝早くからこうして必死に頑張っているんだろう.....
僕はサポート役としてここに来たわけだし、かと言って歌と踊りに関して知識が皆無だからアドバイスはできそうにない。


だから僕は来る途中コンビニで買ってきたスポーツドリンクを袋から取り出す。


「僕になにできるか、わからなかったのでとりあえず。コレをどうぞ」
「あ!ポ〇リスエット!いいの!?」
「もちろんです。受け取ってください」
「わーい!!私ポ〇リ大好きなんだ!ありがとう!」


そう言ってもらえるだけで買ってきてよかったと思う。
他の2人も感謝の言葉を述べて、暫く休憩しようとバッグを置いてあるところに戻る。




その時僕はふと、感じた。
.....石段の奥から一人分の視線を。




「.....誰、ですか?」
「ヴェェっ!?」


女の子と思われる澄んだ声、だけど奇妙な声に一瞬驚く。
どんな顔をしてるかはちょっと遠くてわからないけど.....多分、可愛いという類に入るのだろうか。
目立つ赤髪が特徴的な女の子。


「そこで、何してるんですか?」
「え、いや。べ、別に.....ただたまたま通り掛かっただけよ!」
「.....あ、はい。なんか、すいません」


質問しただけなのに何故か刺々しく怒られた。
 赤髪の少女は僕を腕を組んで睨んでいる。確かにちょっと怖いけど、なんていうんだろう...その機嫌悪そうな姿が大人っぽく見えた。
 音ノ木坂の制服で花陽や凛と同じ色のリボンを身に着けている。




「もしかして...貴女は一年生ですか?音ノ木坂の」
「だ、だから何よ。文句ある?」
「い、いや別に...そういうわけじゃないんですけど」
「じゃあ何よ」
「なんでこんなところにいるのかなぁ~って。お参りですか?」
「え?いや、そんとつもりは」



 僕が質問すると、少女は口籠り始めカールのかかった髪をくりくりと弄り始める。
恥ずかしがっているその姿は、先ほどの大人びた姿とは裏腹に年相応の表情をしていて、単純に可愛いと思った。
 

「あ、貴方こそ何よ!私がここに来ようと関係ないでしょ!」
「ま、まぁ...そうだね、うん」
「だいたいよく貴方は見ず知らずの人に気さくに話しかけられるわね!」
「だ、だって...その制服見て僕の幼馴染のクラスメートかなぁと思ったから」
















「あれ?お~い!!西木野さ~ん!!まーきちゃ~~ん!!」
「ヴェェェッ!!??」




 さっきまで向こうで寝転がってた高坂先輩の大きな声が聞こえ、”西木野さん”と呼ばれた目の前の少女は僕が声かけた時と同じような奇妙な声を発して真っ赤になった。
どうやら西木野さんは恥ずかしがり屋なのかもしれない。花陽とはまた違ったタイプだけど、根本的なところは一緒だ。....多分。



「大声で呼ばないでよ!!」
「ふぇ?なんで?」
「な、なんでって....」
「っていうか、貴女が噂の西木野さんだったんですね」


 この子がμ`sのライブで使う曲の作曲をして、先輩方から”西木野”と呼ばれていた女の子だったことにようやく気付く。

「え?そ、そうよ。私が西木野真姫だけど」
「名前...高坂先輩から伺っていましたから」
「...何話したのよ」



 と言って、西木野さんは年上である高坂先輩をジッと睨む。敬語は使わないし年上や初対面である僕に対してすごい物言いだなと思う。そういうところは社会に出ると大変そうなところだけど、僕はあまり気にしないし、多分先輩も気にしていない様子だから深く考えずに適当に考えて、そのまま流した。


「と、特に変なことは話してないよ?ただ、私たちの曲を作ってくれた子がいるんだよ~ってはるとくんに説明しただけなんだ」
「...はると、くん?」





 西木野さんにとって初めて聞いた名前。
だから僕の名前を一度反芻して、目をパチクリした後に僕のほうへ視線を向ける。
 透き通ったアメジストのような瞳が、印象に残った。



「はい、僕が。僕が春人です。高橋、春人」
「そう....」




 それだけ言って西木野さんはくるりと身を翻して来た道を戻ろうとする。
そんなところを逃がすまいと。そんなことは考えていないと思うけど、高坂先輩は「待って!」と一言声をかけて西木野さんを呼び止める。
 「はぁ...」と露骨な溜息を零して然も、めんどくさそうに振り返る。
めんどくさいならここに来なければ良かったのになぁと心の中で潜めながら。


「なんなんですか?」
「練習している姿、見に来てくれたんだね!」
「や、別にそんなつもりは───」
「あとね!西木野さんがくれた曲、私たちで歌ってみたんだ!よかったら聞いてほしいなぁって思って」
「は、はぁ!?なんで私が聞かなきゃならないのよ!イミワカンナイ!」
「まぁまぁいいからいいから」


 否定して頑なにウォークマンを受け取らない西木野さんと、強引に聞かせようとする高坂先輩。
その相反した二人のやり取りが続く中、いつの間に来たのか。南先輩と園田先輩が後ろで僕たちを見ていた。



「い、いつの間に僕の後ろにいたんですか?」
「え?先ほどからずっと高橋くんの後ろにいましたけど...」
「そ、そうですか」

 園田先輩のあっさりと、そう告げた。
まぁ、二人が背後に来ていることに気付かないくらい西木野さんと高坂先輩のやり取りに気を取られていたんだなと、適当に脳内で合理化して納得する。




「ぐっふふふ~そりゃ~!!!」
「ヴェェ!?ちょっ!何するのよ~!!」
「うぇっへっへ~。観念するのじゃ~!ええじゃいかええじゃないか~」



 変な叫び声と変なしゃべり方をする先輩後輩。
確かにその光景は微笑ましいものではあるけれど、なんとなく女の子同士でイチャイチャしているように見えて...世間一般的に呼ばれる”百合”のように見えて、これでも一応健全な男子(だと勝手に思い込んでる)だ。見ていて気まずいことこの上ない。


 花陽や凛を見ているとそういう光景は何度も目にしている。
僕は慣れているし、女の子をそういう風に見ないように常に心掛けてはいるものの予想できないこの展開は流石に厳しい。

 表情に出ていないところが唯一の救いだ。
花陽や凛が相手だと表情に出ていなくてもばれてしまうけど。



「いや...いやぁぁぁぁぁっ!!!」
「...はい。作戦成功!」
「え、え?」



 別にそういうことをしていたわけではないのは当然わかっていた。
...わかっていたよ?うん。
 どうやら高坂先輩は強行作戦に移ったらしい。
西木野さんに絡みついて、無理やり耳にイヤホンを入れてウォークマン本体を手慣れた感じで操作していく。



「もう、西木野さんはこうでもしないと聞いてくれないんだから~」
「別に私は自分の作った曲が先輩たちに歌われているってわかっただけでもよかったの!聞きたいなんて一言も言ってないし!」
「またまたそんなこと言っちゃって~。素直じゃないんだから西木野さんは」




 完全に西木野さんは茹蛸状態。
かなりプライドが高いようなんだけど、そこまで憎める相手じゃないのはたった数分のやり取りでよくわかった。
 多分この子は素直になり切れないツンデレさんなのだろう。
人生初のツンデレさんを見る僕の胸はなぜかワクワクしていた。
もっとこの子と仲良くできたらなぁと無意識に考えていた。



「それじゃ!準備はいいかい?」
「いきますよ~?μ`s!」
「ミュージック~」






「スタート~!!」












~☆~










 
────西木野真姫さん


 話を聞くところによると、今は音ノ木坂学院の一年生で両親がここら辺では非常に有名な名病院”西木野総合病院”の一人娘らしい。
 本人の口から直接聞いた話ではないけど、多分この子は頭が冴えていて偏差値が普通の音ノ木坂を受けるような頭のレベルの子じゃない。
なんで音ノ木坂に入学したのかは本人の口からではないと定かではない。けど、これはプライバシー情報。むやみやたらに詮索するのは侵害にあたる。




「へぇそうなんですね...なんか頭いいって羨ましいです」
「そんなことないわよ」
「きっとかなりの努力をしたんですよね?」
「え?ま、まぁ...それなりに努力はしたわ。パp...お父さんの後継ぎとして将来頑張らなくっちゃいけないからね」
「え?今パパって───」
「私は何も言ってないわ」
「あ、はい」




 お互い自己紹介しながら通学路を歩いている。
先程、先輩方と別れた僕と隣を歩く西木野さん。
先輩方はもう少し練習していくということで一足先に上がることになり、途中まで一緒に登校することになった。
 


「貴方...も、一年生だったよね」
「え?はいそうですけど」
「どういう経緯であの人達と関わりを持つようになったの?」
「えっと...高坂穂乃果先輩、西木野さんにウォークマンを押し付けた人がこの近くの和菓子屋さんの長女でして、その店の常連なんです、僕は。南先輩と園田先輩は最近接点を持つようになったんですけどね」




 そう語っている僕は、高坂先輩のお部屋にお邪魔して、初めて二人に出会ったあの時の光景を思い出していた。
あまり女の子の知り合いがいない僕からすると結構驚きの出会いなんだよね。



「貴方って、女の子にモテるタイプの人?」
「え?いきなりなんですかそれ。僕はモテるような人間じゃないですよ。頭は良くないし、運動も苦手です。人より秀でた特技なんてありません。よくクラスメートから『存在感薄い』って言われるくらい大人しいですから」
「さぁそれは私に言われてもわからないわ。だってそれは”他人から見た貴方”という人物像でしょ?それはその人にしかわからない。でも、私から見た貴方は...まぁ、いいんじゃない?少なくともそこら辺を歩いている男子みたいな雰囲気は感じられないし」
「雰囲気?」
「女の子を厭らしい目で見る雰囲気よ」
「は、はぁ....」





 すいません西木野さん。
別にそんなつもりは無かったんですけど、一瞬だけそういう風に見てしまいました。
なんてことは口には出さず、胸の奥底にそっとしまっておく。



「まぁ...つまり何が言いたいかというと」
「言うと?」
「.....」
「...」
「....」
「....」
「....やっぱり何でもないわ!」
「え?そこまでためて話してくれないんですか?」
「もううるさいわね!とにかく貴方はもっと自信持ちなさいよ!」




 すっごく気になる話ではあるけれど、話したくないようなので深追いはせず、言われたことに黙って頷く。
でも、出会った時と比べて少しは警戒を解いてくれたみたいでよかった。





「ところで西木野さん」
「なによ?」
「いや、そんなあからさまに嫌な顔しなくても...」
「そんなつもりは無いわよ!馬鹿にしないで」
「す、すいません」


 馬鹿にしているわけではないけど、ただ純粋に質問しようとしただけなのに嫌な顔されると僕だって少しは傷つくんです。そこまで気にすることではないけれど。




「えっと、西木野さんは音楽は好きなんですか?」
「え?何よ急に」
「あ、いやすいません」
「だからなんですぐに謝るのよ」
「いや...すいません」




 僕が”音楽”について質問した途端、彼女に纏っている雰囲気が一気に変わった。
この話はもしかするとタブーだったのかもしれない。


「そうね。音楽は好きよ、幼稚園の頃からマm...お母さんのピアノを弾いている背中を見て育ってきたもの」
「今、ママって────」
「そんなこと言ってないわ」
「あ、はいすいません」
「まったく話しそらすようなこと言わないで」




 この女の子は家では絶対両親のことを”パパ”、”ママ”と呼んでいるようだ。
でも高校生にもなって人前でその呼び方で呼ぶのは恥ずかしい、だから呼び方を変えようとしているんだけど、昔からそう呼んでいたせいもあって中々苦労している。そんなところかな?
 凛も中学時代呼び方を変えることに苦労していたし...




「それで話を戻すけど、将来は音楽に関する仕事がしたいって夢が”あった”わ」
「夢が...”あった”。なんで過去形なんですか?」
「...」



 僕の当然の質問に一度視線をそらし、足元の小石をコツンと蹴った後に今度は空を見上げる。
最後に僕の方を向いて...。








「それは、貴方に関係ないことよ」















彼女はそうバッサリ切り捨てた。










 その時、僕は察した。
これは。今の話は赤の他人の僕が踏み込んではいけない話だということを。
 人は皆、誰にだって秘密はある。花陽にも、凛にも、当然僕にも。
僕や花陽ちゃんや凛ちゃんみたいな関係同士ならまだ気軽に話せるかもしれない。
或いは、恋人同士でも自分の秘密を明かすことだって多分できる。


 そこには絶対的な信頼があるから。
僕らのような幼馴染や親友関係然り、恋人然り、夫婦然り。
お互いのことをよく理解できていて相談しても怖くない存在。




 ”僕が仮に西木野さんの立場だったら”と視点を置き換えて考えてみる。
僕と西木野さんはつい数十分前に知り合ったばかりの関係。
知り合ってここまで来るまでに少なからずとも仲良くはなった...はずだ。うん、そう願いたい。


だけど、所詮そこまで。
まだ、彼女は僕のことを”友達”とまで認識していないだろう。
きっと”知り合い”程度だ。
 そんな知り合い以上友達未満の関係相手に自分の隠していた秘密や悩みを素直にほいほい打ち明けることができるだろうか?
僕だったら少し怖い。さらに言うと西木野さんはか弱い女の子だ。
  

 そんな人相手に話したら何をされるかわからないのが今の世の中。
よくよく考えてみれば普通にわかることだった。



「...ごめんなさい。無粋な質問でした」
「え、いやそんなことはないわ。というかいちいち謝らないでよ。別に謝ってもらう為に言ったんじゃないんだから」
「でも....普通自分の秘密なんて赤の他人である僕に話すわけないじゃないですか?そういうところに気が回らなかったなぁって」
「いやだから音楽のことは秘密にしてないわよ」





....え?







「私の将来はパp...お父さんの後を継ぐことって決まってるの。だから私の音楽はもう終わってるのよ。わかってくれた?」
「...そういうのっていいんですか?」
「別にいいわよ。この話は貴方に限らずほかの人にも話してるから」
「いやそうじゃなくてですね...」





 いよいよ西木野さんは怪訝な表情で僕を見つめる。
まぁ、僕が必死になって考えて西木野さんのことを思って発言を訂正したのに見当違いだったってことはこの際置いておく。
僕が聞きたいのはそこじゃなかった。
もっと大切なところを蔑ろにしていたような気がした。




「それって、自分のやりたい夢をわざわざ諦めてその...お父さんの後を継ぐってことですよね」
「そうよ」
「それで西木野さんは満足しているんですか?」
「....」


 核心。
僕は質問をぶつける。
その質問に沈黙で返答する。


「満足も何も、私は仕方ないって思ってるわ。そういう人生もあるんだって」
「それで納得できるんですか?」




「それこそ貴方には関係のないことよ。貴方には貴方の人生、私には私の人生があるの。そんなのさっき自分で言ってた赤の他人である貴方に話す必要はないわ」




 そうだ、西木野さんの言う通りだ。
僕は黙って頷くことしかできなかった。
これ以上踏み込むのは得策じゃないし、僕らしくない。
僕は黙って先を歩く赤髪の少女の後ろ姿を眺める。










───またやってしまった。







僕は、そんな後悔の意を胸に抱きながら昔の僕を思い出す。
 





 人のプライバシーに無断に入り込みすぎて、人を不快にさせてしまう。
気を付けようと。良くないことだと。
自分に言い聞かせながらも人が悲しんでるところや苦しんでいるところを見てしまうと、どうしてもお節介を焼いてしまう。
 それがまた引き金となって今度別の人を悲しませてしまい、気づいた時には手遅れになるパターン。







これが僕のダメなところだ。







それを今回は早い段階で気づけて良かったと思う。













「はぁ...だめだなぁ僕は」




 
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