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色を無くしたこの世界で

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ハジマリ編
  第3話 初めまして

「とりあえず、コレで大丈夫よ」

 秋の言葉に、心配そうな様子で少年を見ていた二人は「よかった」と胸を撫で下ろす。
 少年の怪我は対した事は無いらしく、秋が手当てをし、今は天馬の部屋のベッドで寝息を立てている

「怪我も頬の切り傷だけみたいだし……ビックリしたわ、二人がこの子を連れてきた時は」

 秋は「ふぅ」とため息を吐きながらそう呟く。
 彼女は部活から帰ってきた天馬が見知らぬ、しかもグッタリとして目を開けていない少年の姿を見て心底ビックリしただろう。

「ごめん……でも急いでいて……」

 天馬の言葉に、彼女は先ほどの表情とは一変、いつもの様な微笑みを浮かべる。

「フフッ。天馬はそういう時ほっておけない性格だからね。もう慣れました」

 そう笑う秋の反応に、天馬は「自分はいつもそんな感じなんだろうか……」と恥じらいと申し訳無さの混じった、複雑な気持ちになる。
 と、少年にかかっていた毛布がもぞ…と動いたのに気付いて急いで視線を戻す。

「ん…………っ……」
「!」
「あら、目が覚めた?」

 見ると少年は目を覚ましていた。
 彼はしばらくボーッと天井を見つめていると、突然目を見開き起き上がる。
 かと思うと不思議そうな表情でキョロキョロと周りを見渡し初めてた。
 少年の不自然な行動に、天馬が声をかける。
 声に気付いた少年は一瞬ビクッと肩を震わすと、不安げな表情を浮かべながら天馬の方を見た。

 どうやら見知らぬ場所にいて警戒しているようだ。

「大丈夫? えっと……その……君、道で倒れてたから……」
「ぇ……」
「? 記憶に無いのかい?」

 フェイの言葉を聞くと、少年は「いや…」と少し戸惑った様に二人から目を逸らす。
 そんな少年の態度に天馬は思う。

――ここまで運ぶ時にも、ゲームに出てくるような黒いローブを着てたし、不思議な子だな……

「あ、そうだ。俺『松風天馬』! こっちは友達のフェイ!」
「『フェイ・ルーン』だ。よろしくね」
「えっと……とりあえず君はなんて名前なの?」

 今だ不安げな彼を少しでも安心させようと、天馬は尋ねた。
 と、目の前に座る秋に止められる。

「天馬、あまりしつこく聞いちゃ駄目よ。まだ目が覚めたばっかりなんだから」

 秋の言葉に天馬は「あっ」と声を上げると、慌てて少年に「ごめんなさい」と謝った。
 「まだ目が覚めたばかり……それも知らない場所にいて混乱している君の事を考えず、質問攻めにしてしまって」と言葉を続ける天馬に「大丈夫だよ」と少年は微笑んでみせる。
 そんな少年の表情を見て、天馬はホッと一安心する。

(って……俺が安心させようとしたのに逆に安心させられちゃった……)

 そんな天馬の心情を知ってか知らずか少年は話を続けた。

「ボクの名前か………………そうだな。『アステリ』……って言うんだ」
「アステリか! よろしく!」

 天馬の言葉にアステリは「よろしく」と微笑むと、「えっと」と話を戻す。

「天馬君にフェイ君。キミ達が助けてくれたんだよね?」

 「そうだよ」と頷くと、フェイが「何故あんな場所に倒れていたのか」と尋ねる。
 瞬間、アステリの表情が曇り出す。と首を横に振った。

「……ごめん。覚えてないんだ……」

 その言葉に天馬の中でハテナマークが浮かび上がる。

――覚えてない……?
――それってどう言う事だろう……

「まだ目が覚めたばかりで頭が回らないんだね……」

 フェイの言葉に「あぁ……なるほど」と納得すると「ゴメン。色々聞いちゃって」と天馬は再度謝った。
 彼はそんな天馬に「気にしないで」と呟くと、改めて部屋の中をぐるりと見回す。
 と、ある一点で視線が止まった。

「あ。ねぇ、キミもサッカーやるの?」
「え?」

 突拍子も無く言われた言葉に、天馬はまぬけな声を上げる。
 ふとアステリの視線の先を見てみると、そこには薄汚れたサッカーボールが飾ってあった。

――あぁ……これを見たのか……

 天馬はそのサッカーボールを手に取ると「そうだよ」と頷いた。
 何度も使われたのだろう、少し空気の抜け柔らかくなったそのボールは、天馬がまだ小さい時。
 木材の下敷きになりかけた所を助けてもらった思い出の品だ。
 このボールがあったから自分はサッカーを好きになれたし、雷門に入って大切な仲間に出会う事が出来た。

 そんな懐かしい気分に浸っていると「そっか」とアステリの嬉しそうな声が聞こえて来た。

「キミにとって、そのボールはずいぶん大切な物みたいだね」
「あぁ。俺にサッカーの楽しさを教えてくれた……大切な宝物なんだっ」

 そうアステリに笑顔で答える。

「そう言えば、どうして急にサッカーなんて言い出したの?」

 そう天馬が尋ねると、アステリは「ボクもサッカーが好きだからさ」と微笑む。
 その言葉を聞いて、見る見る内に天馬の表情が明るくなっていく。

「そっか! 俺、嬉しいなっ!」
「え?」

 天馬の言葉にアステリが不思議そうな顔で呟く。
 すると天馬はいつもの様に笑顔で、それでいてとても楽しそうに「だってさ」と言葉を続ける。

「初めて会った人がサッカーを好きだなんて、なんかさ! 凄く嬉しいんだ!」

 天馬がそう言うとアステリは驚いた様に瞬きをした後、クスクスと笑い出した。
 それを見た天馬は困惑した様子で「何か変な事でも言った?」と焦り出す。
 そんな彼を見ながらアステリは「違う違う」と笑いながら言葉を続ける。

「キミって面白い人だなぁって思って」
「そ、そうかな?」

 「自分の素直な気持ちを言っただけなんだけど」と続ける天馬に「それが面白いなぁって思ったの」とアステリは笑う。
 すると、隣で二人の会話を聞いていた秋やフェイまで「天馬らしい」と笑い出す。
 そんな皆の様子を見て、天馬は複雑な気持ちで考える。

(いつも思うけど俺ってそんな変かなぁ……?)

 そんな事を考えてると、さっきまで笑っていた秋がポンッと手を叩き「そうだっ」とアステリに話しかけた。

「アステリ君。もし良かったら今日、家に泊まっていかない?」
「え?」

 秋の発言にアステリは驚いた顔をする。
 アステリだけでは無い、天馬とフェイも互いに顔を見合わせて驚いた様な表情を見せる。
 秋はそんなアステリに向かって笑顔で話を続けた。

「賑やかな方が楽しいし、それに体調もまだ万全じゃないでしょう?」

 確かに彼は今さっき目覚めたばかりで体調も、それに記憶だって未だ思い出せないでいる。
 そんな状況で見知らぬ場所にほっぽり出されたら、迷子になるのは容易に想像出来た。
 「でも」と不安そうな顔をしたままアステリは秋の顔を見る。

「良いんですか? 怪我の手当てをしてくれた上、泊まらせていただくなんて……」

 「それも、こんな見ず知らずの怪しい奴を」と続けるアステリの顔は、だんだんと俯きがちになって行く。
 そんな彼を安心させる様に「大丈夫」と笑うと、秋は後ろで見ていた二人の方に顔を向ける。

「天馬もフェイ君も大丈夫よね?」

 秋の問いに二人はもちろん賛成した。
 天馬も、アステリともっと仲良くなりたいと思っていた所だったし
 それにフェイ自身も、天馬とは別の意味で彼の事は気になっていた。
 二人の言葉に秋が「ね?」と笑いかける。
 彼等の言葉や態度に不安も薄れたのか、アステリは少し考え込んだ後……

「……じゃあ、お世話になろうかな」

 と微笑んだ。 
 
 

 
後書き
【アステリ】
ある日、道端で倒れていた所を天馬とフェイに助けられた不思議な少年。
怪我をしており体調も万全では無い事を配慮した秋の提案で、天馬の部屋に泊まる事になる。

『容姿』
髪色:鮮やかな黄色
髪型:肩までの短髪。後ろ髪が横広がりに裂けており、頭部の髪が犬耳の様にはねている。
瞳色:水色のつり目 
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