時には派手に

　拍手が鳴り響いた、ブラボーという喚声も止まらない。オーケストラの指揮者も会心の顔でオーケストラに言った。
「暫く休もう」
「ですね、この拍手ですと」
「ちょっと演奏出来ないですね」
　オーケストラの面々も指揮者に笑って応える。
「それならですね」
「ちょっと待ちましょう」
「拍手と喚声が止むまで」
「少しの間」
「少し以上になるね」
　あまりにも拍手と喚声が凄くてだ、指揮者はこうも言った。
「じゃあ休もう」
「はい、ここは」
「そうしましょう」
　彼等もこう言う始末だった、歌劇場の裏方の者達も唸っていた。
「コレッリさんは色々と面倒なところもあるが」
「今日の歌はよかった」
「こんなにいい歌唱はそうないぞ」
「コレッリさん自身にとっても他の歌手でも」
「ここまでの歌はない」
「滅多にな」
　こう言うのだった、彼等も。誰もがコレッリの今のアリアには称賛しかなかった。
　ようやく拍手と喚声が止み舞台が再開されたが。
　第三幕の幕が降りようとしたその時にだ、何と。
　コレッリがその幕を止めた、それを見て裏方の面々は驚いた。
「幕を止めた！？」
「合唱が終わったから幕を降ろしたが」
「どういうことだ、一体」
「コレッリさんは何を考えているんだ」
「何かわからないが」
　いぶかしむ彼等に劇場支配人が言った。
「ここは彼に任せるか」
「コレッリさんにですか」
「そうしますか」
「ここは」
「そうしよう、彼がああすることはまずない」
　舞台を怖れる彼がだ。
「だからな」
「はい、ここはですね」
「コレッリさんに任せますか」
「支配人の判断で」
「そうしよう」
　支配人も判断した、そしてだった。
　ここはコレッリに一任された、すると。
　コレッリは幕が降りるのを止めたうえでだ、あらためてだった。見よ、恐ろしい炎を歌いはじめた。コレッリのこの行動にだ。
　最初は誰もが戸惑った、だが。
　彼が歌うのを聴いてだ、最初は指揮者がだった。
　オーケストラの面々にだ、こう言った。
「よし、それならだ」
「我々もですね」
「コレッリに合わせて」
「それで、ですね」
「演奏をしよう」　
　本来なら幕が降りる時だがというのだ。
「そうしよう」
「わかりました、それなら」
「演奏しましょう」
「これはそうしない訳にはいきませんね」
「これだけの歌ですから」
　それならとだ、彼等も応えてだった。演奏も再開され。
　観客達はそれを聴いてだ、最初は何が起こったのかわからなかったが歌と演奏を聴いてだった。
　状況を把握してだ、口々に言った。
「そうか、そうするのか」
「もう一回歌うか」
「よし、それじゃあな」
「聴くか、私達も」
「そうしましょう」
　皆休憩せずにコレッリの歌を聴いた、コレッリは幕を止めたうえでだった。
　アリアを歌いきった、そして深々と一礼をした。それから再び拍手と喚声が歌劇場を支配した。
　その拍手と喚声が終わってからようやくコレッリは楽屋に戻った、そして。
　周りの者達はそのコレッリにだ、笑顔で声をかけた。
「まさかそうされるとは」
「二度も歌われるとは」
「しかも降りるカーテンを止めて」
「凄いことをしましたね」
「ちょっとね」
　それこそとだ、コレッリも話した。