百人一首
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52部分:第五十二首
第五十二首
第五十二首 藤原道信朝臣
夜が来ることが待ち遠しくなった。
そうなってしまったのはどうしてかというと。
その理由はもう自分でよくわかっている。
あの人がいるから。あの人がやって来るから。
だから夜が好きになった。夜が来てくれるのが待ち遠しくなった。
暗闇に覆われ何もかもが見えなくなってしまった世界であの人と逢う。
誰も知らず誰にも気付かれることのない。密かな恋ではあるけれど。
それでもその夜のことが待ち遠しくなった。夜が来るのを朝から待つようになって今までは明るく楽しいものに思ってきた昼が今では味気なくつまらないものに思えるようになってしまった。
夜は楽しいものになった。けれど。
夜明けは辛い。嫌なものになった。
あの人に出会えるのは夜。けれど夜が来れば夜明けも必ず来るものだから。
夜明けが来るとあの人は帰ってしまう。別れなくてはならなくなってしまう。
だから夜明けが恨めしいものになってしまった。別れなくてはならないから。
夜は来て欲しい。されど夜明けはその夜の後に必ずやって来る。
この二つの矛盾すること、けれど共にあることに心を乱されて。今はこの気持ちを歌に託すことにした。
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな
朝が恨めしい。このどうしても堪えることのできない寂しい気持ち。歌にもそれは出ていた。夜明けは来ないで欲しい。永遠に夜であったならば。そのことを想いつつ今日も夜明けを迎えるのだった。あの人が去ってしまう夜明けを。
第五十二首 完
2009・2・18
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