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恋姫†袁紹♂伝

作者:masa3214
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第46話

 
前書き
~前回のあらすじ~

モブ軍「調子に乗ってんじゃねぇぞこの野郎(瀕死)」

ねねねのね「お~激しい(^ω^)」





モブ壊滅軍「集団重騎兵に襲われています! 助けて!」

覚醒のね「けっこうすぐ脱げるんだね」

魏国のはおー「私も仲間に入れてくれよー」

御輿「なんだこの新国!?」



大体……これもうわかんねぇな  

 
魏の宣戦布告から半月、各地の文官達がその行動を疑問視する中、ついに魏軍は袁陽領へと進軍を開始した。

 陽軍は予め編成してあった迎撃部隊を派遣。魏軍を撃退すべく息巻いた彼らだが――
 その動きを察知した魏軍は、突然軍を後退させ始めた。
 これを受けて陽軍は追撃を選択、魏軍の後を追う形で魏領へと侵攻した。

 用心深い袁紹が追撃を決定したのには幾つか理由がある。
 
 一つは自軍の規模。相手を圧倒する為に用意された大軍は、数日の移動だけでも莫大な費用が掛かる。それを用いて戦果なしでは骨折り損だ。兵達の士気にも大きく関わるだろう。
 
 二つ目は大国としての体裁。魏国は陽国に次いでの大国だが、今回の件に目を瞑るのは沽券に関わる。大陸一を誇る強国として、他に舐められるようではお仕舞いだ。
 
 三つ目は魏国の軍事力。陽国に次ぐ形で建国した魏だが、その発展は目覚しいものがある。
 年ではなく月単位で国力を増加させ続け、大陸中の注目を集めている。
 これを放っておいては、かの国の強大さは増すばかりだ。
 故に発展途上の今が叩き時であると、陽軍の軍師達による満場一致で追撃が決まった。

 袁紹個人としては、もう少し地盤を固めてから魏と決戦に臨みたかったが……。






 現在、両軍は大河を挟んで睨み合っていた。

 魏軍は官渡から河を三つ渡った先にある白馬を拠点に横陣を組み、少しでも陽軍に動きがあれば迎撃する構えだ。
 両軍共に士気は上々、しかし戦は始まらなかった。
 大河を渡る橋が一つしかないのも原因だが。何より、既に日が沈みかけていた事。
 暗闇の中での戦は同士討ちが多発する。それを嫌った両軍の、本番は明日という暗黙の睨みあいであった。
 
 そんな中、魏軍から三騎飛び出し河の岸で静止した。
 華琳だ。夏侯姉妹を連れ、静かに陽軍を見据えている。
 
 少し遅れて陽軍からも三騎飛び出した。無論、袁紹と二枚看板である。
 対岸で見つめ合い。張り詰めた空気のなか袁紹が口を開いた。

「華琳ーッ! 我だーッ! 降伏してくれー!」

「………………は?」

 迷族、両軍の中央で降伏勧告を叫ぶ。

 突然の言葉に目を丸していた華琳だが、数瞬の間を置いて重々しい溜息を吐く。
 明日自分達が何をするのかわかっているのだろうか、せっかくの緊張感が台無しである。

「貴方が降伏しなさい」

「ファッ!?」

「わりと本気の提案よ。私たちの野望に対して、この両軍の戦ほど無駄なものは無いわ。そうでしょう?」

「……」

 仮に魏軍が敗北し陽国に併合されたとしても、華琳の野望である覇は成せる。
 その逆も然り、魏国が覇を成した大陸で袁紹は満たされる世を作れる。華琳の配下として。
 なるほど確かに、互いの“野望”のみを顧みれば、両軍の戦ほど無駄なものは無い。

 しかし――

「戯け! 我が袁陽の頭を垂れさせるなど壱万光年早いわ!!」

「あら、交渉決裂ね」

 お互いが持つ、上に立つ者としての気質がそれを許さない。許すはずも無い。
 第一、下の者達が納得しないだろう。
 我が主君こそが――と、この場に居る彼らだ。
 こんな形で決着がついては、主を中心に巨大な派閥を作り、内乱の種になる筈だ。

 結局の所、相手を納得させるには力を示すほか無かった。
 華琳の提案は、袁紹のふざけた第一声に対する返しだ。




「だが、我が提案は冗談ではない。降伏せよ華琳、勝負は既についている」



 真面目な声色で聞こえてきた二度目の降伏勧告には、さしもの華琳も耳を疑った。
 相手を取り込むには力を示すしかない。そうお互いに認識していたものと思っていたからこその驚きであった。

 だがその認識も、袁紹側から見れば少し変わってくる。
 相手は陽に次ぐ大国の魏。戦う事無く降伏などすれば確かに下の者達は納得しないだろう。
 華琳を中心に派閥を作り、機を見て彼女を立てようとするはずだ。
 その行動を華琳が良しとするだろうか。彼女であれば部下を纏め、制御するはずだ。

 大体、袁陽はこれまでにも幾つか無血併合に成功している。
 その経験を元に、華琳を含め魏軍を御す自信があった。

「もう一度言うぞ華琳、勝負は既についている」
 
 袁紹の自信満々な言葉に、華琳は私塾での出来事を思い出した。

『袁紹殿は戦術に興味が無いのですか?』

 ある日、塾生の一人が袁紹に浴びせた言葉だ。

 彼の疑問はもっともである。華琳を含め、塾生の殆どが戦術論に花を咲かせる中。
 袁紹は相槌を打つ程度で、会話には積極的に参加しなかった。

『興味が無いわけではない。我にとって優先度が低いだけだ』

 そんな袁紹の返しに塾生達は顔を見合わせた。当時から賊が活発に活動していただけあって、戦術の有用性が見直されたばかり。
 仕官、あるいは太守に任命した場合、賊共をどのように蹴散らすか。
 既存の、もしくは自身で考えた戦術を使い華々しく戦果を挙げる。
 塾生達は若いだけに、戦術での圧倒的勝利にあこがれていた。
 特に、大軍を率いての戦を想定した議論には目が無い。
 そんな大戦術を実現してのける大勢力、袁家の次期当主が戦術に興味が無いなんて――

 彼らの表情を見て袁紹は苦笑する。別に興味が無いわけではない。
 戦術よりも優先すべき前提に着目しているだけだ。

『我は兵力と補給の確保、戦略的勝利こそ最善であると考えている』

『つまり、多数を率いて少数に……ですか?』

『うむ、戦の基本ぞ!』

 ドヤ顔で腰に手を当てている袁紹を他所に、塾生達は再び顔を見合わせた。
 多を持って少に当たることが基本であることくらい、彼らも承知している。
 だからこそ、その少を相手にどれだけ被害を抑えられるか。 
 あるいは多を相手に、どのような戦術を用いて対抗するかを話し合って――

『十倍の戦力差を、戦術で覆すことが出来るか?』

『!?』

 唐突に明確化された仮想敵の数字に、塾生達は息を呑む。
 無理も無い。彼らが想定する多は精々三倍までが限度、それ以上はまともな戦にならない。
 いくら善戦した所で、数の暴力に飲み込まれるだけである。

『十倍の戦力差に兵の錬度、士気、補給、将の質を揃えれば負けは無い。
 そこに戦術も織り交ぜ、勝率を上げるのだ』
 


 ――つまり貴方は、戦略的勝利を確信しているわけね。

 言って、華琳は高台に配置させていた物見からの報告を思い出した。
 彼によると、大河の向こう側は数十里に渡って陽軍で埋め尽くされているそうだ。
 間違いなく袁紹は全力で魏国を潰しに来ている。

 
 




「我が軍の将兵は“ごうけつ”!」
 
 各名将や軍師に始まり、黄巾以前から乱世に備えて鍛練を施された兵士達。
 棄鉄蒐草の計や広宗で降伏させた元黄巾賊達を取り込み、動員戦力は五十三万。
 さらに本国にも一国と同等の兵力を残してある。

「我が軍の補給路は“いのちをだいじに”!」

 補給拠点には攻守優れた星とその隊、約三万の兵力が宛がわれている。
 補給の護衛にも大軍が使われ、道中には斥候を惜しみなく配置した。

「我が軍の戦法は“いろいろやろうぜ”!」

 人海戦術による正攻法から、奇策を入れた十六通りの戦術を臨機応変に選ぶ事が出来る。

「そして後詰めは……“ガンガンいこうぜ”だ」

 始め魏軍に当てる兵力は二十五万、残る半分は予備戦力として待機させる。
 そしてこの地での勝利を決定付けた後、先陣部隊にこの場の制圧を任せて彼等は進軍。
 一気に魏国の首都を攻め落とす手筈だ。 

「何度でも言うぞ華琳。我が軍の勝利は既に決定している」

「……」

 そんな彼の声明を受け、魏軍の軍師である郭嘉が険しい表情を作る。

 ――嫌な士気の下げ方を……。

 魏軍の兵力は五万。眼前の陽軍を相手取るには心許ない数字だ。
 彼らをこの場に留ませているのは、地形の有利よりも華琳に対する忠義による所が大きい。
 要は主に対する忠義で恐怖をかき消しているのだ。
 そんな彼らに袁紹は陽軍の有利を言って聞かせ、兵を数十里横陣に敷いて視覚的に見せ付けた。
 これでは流石の魏軍にも影響が出る。精鋭達は問題ないが、歩兵を始めとした新兵達には堪えられないだろう。

 並みの兵や将なら、即座に白旗を掲げるほどの戦力差に圧力。
 それを受けて華琳は――笑った。

「冗談は御輿だけにしなさい。麗覇!」

 降伏など冗談ではない。
 陽軍が圧勝出来る兵力を揃えた様に、魏軍も勝利出来るだけの準備をしてきた。 

「我が軍の将兵は“百戦錬磨”!」

 夏侯姉妹を始めに名将なら此方にも揃っている。兵達は黄巾以降、実戦で幾度も叩き上げられてきた。大炎には及ばないものの、一人ひとりの錬度ではこちらが数段上だ。

「我が軍の補給路は“要害堅固”!」

 白馬を攻撃と補給の両方を目的とした拠点に改造。
 河に囲まれていることから、背後を取られることもまず無い。

「我が軍の戦術は“随喜応変”!」

 地形を最大限に利用し、一度に相手とる敵戦力を制限。
 人海戦術など用いれば、ここぞとばかりに迎撃して勢いを削ぐ。
 万が一、陽軍が渡河に成功したとしても、後方に下がり新たな河を隔てて対岸で迎えうつ。
 それも、官渡に近づけば近づくほど大軍には険しい地形になる。

「私も宣言するわ――我が軍に負けは無い!」

『オオオオオォォォーーーーッッッ!!』

 それだけの準備、それだけのモノを用意してきたのだから。

 覇王の声明により、先程まで場を制していた名族の圧が音を立てて崩れた。
 魏軍の兵士達の目に恐怖は無い。あるのは主に対する絶対的な信頼と戦意だけ。
 彼らの咆哮を受け、数で勝っているはずの陽軍が肩を震わせた。

「吼えたな“曹操”吐いた唾は飲み込めないぞ」

「もとより承知の上よ“袁紹”」

 真名呼びを止めた事で、お互いに対する認識を変える。
 
 友としてではなく強敵として。
 また真名で呼び合う、それはどちらかが敗北し吸収された時である。

 
 

 
後書き
導入だから文字数はお兄さん許して 
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