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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#12
  DARK BLUE MOONⅣ ~Harmit Tracer~


【1】


 舞い散る火の粉と共に香る、互いの髪の匂い。
 徒の大剣で陥没したアスファルトと禍々しい尾によって爆砕した道路中央部。
 その二つの破壊痕を挟むようにして、蒼炎の美女と翡翠の美男子は屹立していた。
 やがて深い菫色の瞳で花京院の澄んだ琥珀色の瞳を
真正面からみつめた美女が、厳かに口を開く。
「人間じゃ、なかったのね」
「いいえ、ボクは人間です。
ただ、普通とは少し違った 『能力』 を
生まれながらに持っています」
 互いに歩み寄りながら、躰から立ち上る香水のラストノートが
気流に紛れて靡いた。
「その 『能力』 って?」
「誰が名付けたのかまでは解りませんが
『スタンド』 と呼ばれる精神の力です。
この 『能力』 を持つ者は、己の生命力を形容(カタチ)在るモノに幻 象(ヴィジョン)化するコトが出来、
ソレは普通の人間には視るコトが出来ません。
そして、それぞれの特性に応じた超常的な現象を引き起こすコトが出来ます。
最も、原則としてスタンドは “一人一体一能力” ですが」
「……」
 簡易的にスタンドの概念を説明してみたが、
美女の瞳に宿った懐疑的な光は薄れるコトはなかった。
 そして、その彼女の態度に対し花京院に、
失望やそれに準ずる感情は生まれなかった。
 在るのはただ己の宿命に対する諦観、ソレのみだった。 
 やがて消え逝く封絶の気流が、静かに彼の髪を揺らす。
「怖い、と想いますか? このボクのコトを」
 畏怖される事は覚悟して、寂然と告げる言葉。
 しかし美女は不意を突かれたように一瞬瞳を丸くしその直後、
「はぁ!?」
と、その美貌に似つかわしくない頓狂な声をあげた。
 瞳に宿っていた懐疑の光もどこぞへと吹き飛んだ。
「なんでこの私がアンタを怖がらなきゃならないのよ。
まさかアンタ、さっきので私を “助けた”
なんて想ってるんじゃないでしょうね?」
 先刻の疑いの視線など比べものにならない、
高圧的な闘争心を漲らせて美女は己の超至近距離に差し迫る。
「え、あ、いや、そういう意味ではないのですが」
 腰に手を当て指を突き出す前傾姿勢になったコトにより、
開いた胸元が必要以上に誇張されるので花京院は視線を背けたまま美女を押し止めた。
「兎に角、アンタには “ミステス” みたいな特殊能力が在って、
ソレで封絶の中でも自由に動けるってコトね。それだけ解ればいいわ」
「……」
 もっと話が(こじ)れるかと想ったが、
被契約者譲りの磊落な気質なのか美女は勝手に怒って勝手に納得したようだ。
「それに、アンタみたいな能力(チカラ)を持つ者に会ったのは初めてじゃないしね。
マ……マ、マ? 忘れたけど100年くらい前、北米でアンタと良く似た能力を持つ
男に会ったコトが在るわ」
「『スタンド使い』 と会ったコトが在るんですか?」
 驚く場所が違うとは想ったがそれは無視して花京院はマージョリーに問う。
「ええ、自分の身体をロープのようにバラバラに出来る処なんか良く似てるわ。
そう言えば確かに、その能力のコトを 『立ち向かうもの(スタンド)』 とか
呼んでたような気がするわね。今の今まで忘れてたけど」
「その人は、今?」
 幽波紋(スタンド)も “波紋” の一種、その練度如何に拠っては
通常の人間を遥かに超える 「生命力」 を宿すコトが出来る。
「死んだわ。殺されたらしいわよ。私と会って丁度3年後に」
「そうですか……」
 素っ気なく告げる美女に対し、眼前の美男子は名も知らぬその男を憂いた表情になる。
 己と “同属” という事が、そんな表情を生むのだろうか?
 自分は、自分以外のフレイムヘイズが生きようが死のうが
きっと眉一つ顰めないだろうというのに。
 しかしマージョリーは、そんな花京院の態度に理不尽な怒りを感じた。
 理由はよく解らないが、コイツのそんな顔は見たくなかった。
「ほら! そんな100年前のコトより今は 『仕事』 よ!
さっきのバカが要らない真似したコトで、余計に状況が差し迫ったわ。
物見遊山(ものみゆさん)でここに集まる徒が、この先何匹襲ってくるか解ったもんじゃない」
 美女の言葉に押し黙っていた美男子は冷水をブツけられたように顔を上げる。 
「いつものパターンだな。他の徒ブッ殺してる間、
ラミーのクソヤローに存在嗅ぎ付けられてまんまと逃げられる。
毎度毎度本末転倒もいいとこグゴォッ!」
 堅い 『本』 の縁に、ソレより硬い拳骨を叩き落とされて悶えるマルコシアスを
後目に花京院はマージョリーに問う。
「つまり、時間をおけばおくほど、
ラミーを取り逃がす可能性が高まるというコトですね?」
「そーゆーコト。私の存在が気取られてなくても
他の徒がワラワラ集まってきちゃ意味は同じでしょ?
あのクソヤローは他者と一切交わらない亡霊みたいな生き方してるから。
逃走する際に “自在法” を遣うかもしれないわね。
無論生きてる人間を何百人もブッ殺して」
「自分がただ、逃げる為だけにですか……」
「……!」
 そう言って自分を見る花京院の瞳が、いつのまにか鋭く尖っている。
 普段の、見る者全てに安らぎを与えるような彼の表情からは
俄に想像しがたい程の変貌振り。
 強い意志と信念、そして、ソレに反する者に対する圧倒的な冷徹さ。
 そのギャップが、まるで己の分身を視ているような感覚が、
マージョリーの心の裡をゾクリと震わせる。
「解りました。その 「問題」 を解決出来る人の所へ案内しましょう。
出来ればあの人の手を煩わせたくはなかったのですが、致し方在りません」
「あの人?」
 怪訝に眉を顰めるマージョリーに、花京院は告げる。
「その存在を知っている者で在るならば、
“この世のどんな者でも捜し出すコトの出来る人物です”
ボクと同じ 『スタンド能力者』 しかし戦いの年季では遙かに勝ります」
「んな便利なヤツがいんなら何で最初から使わねーんだよ?
こんな七面倒くせぇコトやらずによ」
 マージョリーの腰元でマルコシアスが当然の疑問を口にすると花京院は視線を伏せ、
お前が原因だとでも言うように 『本』 へと顔を寄せた。
「マルコシアスさん」
「あぁ? マルコでいーぜ。
オレ達ァ親友(マブダチ)だろ? カキョーイン」
「そうなんですか……」
 瞳を細めたまま花京院は呟き、自分が知る紅世の王との相違に
釈然としない気分になる。
「ではマルコシアス。貴方にお願いがあります。
“絶対に喋らないでください” これから起こるコト、起きたコト、
何が在ってもスベテです」





【2】

 目当ての人物はやはりホテルの部屋にいた。
 ドアをノックし自分だと告げると二つ返事で扉が開かれた。
 しかし来訪者は自分だけではなくその背後の存在を認めると
おお! という声と共に少々目を白黒させながらも、
やがて紳士的な応対で部屋の中へと招き入れられた。
 脇に大きめのコーヒーカップが置かれた白い大理石のテーブルには
見たこともない大仰な海図や船舶の詳解書、海洋資料等で溢れ返っている。
 コレだけ大変な仕事を一人任せにしてしまったコトへの後ろめたさで
表情を曇らせる花京院とは裏腹に、部屋の主ジョセフ・ジョースターは
若い者はもっと世界を知らねばならん! と言って送り出した時と全く同じ表情で言う。
「花京院、お主もなかなかスミに置けんのぉ~。
香港の街に出るやいなや、こんな美人と連れ添ってくるとは」
 ジョセフは小声でイジワルそうに話し、白い健康な歯を剥き出しにしたまま
うりうりと肘の先で花京院の薄い胸をつつく。
「フフッ、そんなんじゃありませんよ。
何というかまぁ、人助けのようなモノです」
 そんなジョセフの冷やかしを穏やかな表情で受け止めながら、
中性的な美男子は静かに返した。
「なんじゃ、そうなのか? それはまた、なんとも勿体ない」
 そう言いながら上へ下へとシゲシゲと自分を見回すワイルドな風貌の老人を、
美女は一言も発さず何? このジジイという仏頂面で見下ろしていた。
 そんな両者の対照的な態度を後目に、花京院は制服の胸ポケットから
一枚の写真を取りだしジョセフに手渡した。
「単刀直入に言います。この写真の男性なのですが実は、」
 んん? と言いながら写真の老紳士に視線を送るジョセフ。
 その彼に対し花京院は淀みのない口調でサラリと、
「こちらの御婦人の、生き別れた父親なのです」
(なぁッ!? だ、誰が!!)
予期せぬ言葉にマージョリーは声を上げて激高しそうになるが
辛うじて言葉を呑みこむ。
 その彼女の細い腰元でマルコシアスがクックッと笑いを噛み殺していた。
「どうやらいま、この香港の街におられるようなのですが正確な居場所が解りません。
何よりこちらの御婦人、マージョリーさんはビザの滞在期限が迫っていまして
今日と明日の二日しかこの国に居る事が出来ないのです。
なので何とか、ジョースターさんの力をお借り願えないかと想いまして」
「……」
 即興で、微笑混じりにスラスラと嘘八百並べ立てる花京院を見ながら
マージョリーは、実はこいつ凄くコワイ奴なんじゃないかと密かに想う。
 一方説明を受ける老人は彼の言葉を疑う様子はなく、
両腕を組みながらふむふむと頷きながら聞いていた。
「う~む。そういう理由ならば協力するのにやぶさかではないのだが」
 歯切れの悪い感じでジョセフはそう言った後、
再び花京院に顔を寄せヒソヒソ話を始める。
「……しかし、あの御婦人はワシの 『スタンド能力』 のコトを知っておるのか?
幾ら “視えん” とは言ってもな。 『念写』 した後のコトはどう説明する?」
「大丈夫。非常に聡明で理解力の在る女性です。
事前にここで見聞きしたコトは他言しないと了承を取ってあります。カメラは?」
「まぁ君がそう言うのなら、特に心配する事はなさそうじゃが」
 ジョセフからその保管場所を聞き、年季の入った旅行鞄の中から
精巧な一眼レフカメラを取り出した花京院は、
それを大理石テーブルの空いたスペースに置く。
 ジョセフはその前に座り、意志を集中させた瞳でソレに向き直る。
 そして己の右掌を見据えスタンドを発現させる瞬間、
「さて、お嬢さん?」
くるりとソファーの後ろを振り向き腰の位置で腕を組んで佇むマージョリーを見た。
「これから、少々不思議な光景をお見せするが別に怖がる必要はない。
人間なら誰しもが持っている、他人とは少しだけ違った 『能力』 じゃ。
そう、貴女のその美しい姿と同じようにな」
 穏やかな声でそう告げ、まるで真冬の太陽のように温かな笑顔を自分に向けてきた。
 視る者全てに安らぎを与えるようなノリアキのソレとはまた違った雰囲気。
「……!」 
 お嬢さんと呼ばれたコトや、自分に対する畏怖や猜疑が全くない表情に
マージョリーは想わず口籠もる。
 それは当然ノリアキがこの老人に充分信頼されているといったコトの
裏返しなのだろうが、でも何故か、不思議と温かな感情が心に沁みてくる。
「……」
 何も言えずジョセフという老人の顔を見つめ返すしかなかった自分に対し、
彼は笑顔を崩さぬまま前に向き直ると己の右手を高々と頭上に掲げる。
 そして。
隠 者 の 紫(ハーミット・パープル)ッッッッ!!!!』 」 
 壮烈な声でそう叫び、ソレと同時に掲げた右の掌中から
深紫色をした無数の(いばら) が何の脈絡もなく飛び出した。
 周囲に同色の高圧電流のような光を帯び、
その眩耀に拠ってこの世のスベテを見透かすかのように。
 再び眼にする、己とは違うこの世ならざる異能の発現系にマージョリーは
想わず息を呑むが、脇にいる花京院から静かにと眼で諭される。
 すぐさまに老人はその無数の茨を纏った紫の手刀をテーブルの上に置かれた
一眼レフカメラに向け、空間に弧を描く軌道で振り下ろす。
 手撃そのものは当たらず周囲に纏った茨のみがカメラ内部を透化して
反対方向へと突き抜ける。
 やがてシャッターを切ったワケでもないのにフラッシュが(たか)れ、
中から無機質な電子音と共に一枚の写真が吐き出された。
 ジョセフはソレを左手で摘み上げ室内の照明に透かしながら感光具合を確かめ、
「まぁ、こんなカンジかの?」
と背後の美女に手渡した。
「!!」
 見開かれる美女の瞳。
 ずっとずっと追い続けてきた因縁の敵。
 ソレが、はっきりと写真の中にいた。
 淡い照明の降り注ぐどこかの建物の中。
 ガラス工芸らしいアンティークに囲まれた空間の中心に。
 己のイメージをそのまま紙に投射した、
マルコシアスの自在法とは明らかに次元が違う。
はっきりと、今現在の居場所が正確に映し出されている。
 しかも背景までもが鮮明に写っているため、
ソコから位置を特定するコトも可能の筈だ。
 右下に他人のコートの裾らしきモノが映っているが
別に気にもならない。
「ノリアキ!!」
 鬼気迫る勢いで向き直る美女の視線を真正面から受け止め
花京院もその写真を覗き込む。
「ふむ、流石ですね。 “アノ男” の時とは違いキレイな映り方だ。
でも、まだ現像は終わってはいないようです」
 そう花京院に促され視線を戻す美女。
(!?)
 写真の右斜めの位置に、ボンヤリとやがて鮮明に像を結ぶモノがあった。
 不定型なジグソーパズルのピースを一定の間隔を置いて設置したかのような、
簡易の街路図のようなモノがソコに追記されている。
「これは!?」
「言うまでもなく、この街の 『地図』 です。
この×印の部分に、目当ての人物がいるというコトでしょうね。
微細な振動を繰り返していますが、
ソレはこの建物の内部を移動しているというコトで外には出ていないのでしょう」
「――ッ!」
 もうコレ以上ないというくらい正確無比な情報に、
マージョリーは歓喜でそのルージュの引かれた口唇を軋ませた。
「今度こそもう逃がさない!! 行くわよ!! ノリアキッッ!!」
 言うが速いか美女は抱えたブックホルダーを肩にかけ直しドアへ向けて駆け出す。
「解りました。急ぎましょう、ミス・マージョリー」
 それとほぼ同時に花京院も彼女の後を追っていた。
「あ、おい」
 そう言うジョセフを後目に、
「助かった! 礼を言うわッ! ジジイ!!」
「ありがとうございましたッ! ジョースターさん!!」
ドア前で一度振り返り、忙しなく礼ともつかない言葉を残して
二人は脱兎の如く部屋を飛び出していった。
(ジジイ……?)
 美女が初めて自分に言った言葉と普段とは様子の違う美男子に、
一人部屋に残されたジョセフはポカンとなる。
 そして。
「ふむ……ワシも昔は、あんなカンジだったのかのぉ」
 と一人呟き、ぬるくなったコーヒーを口に運んだ。


←To Be Continued……

 
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