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一通のメール

 
前書き
この物語はフィクションではありません。
また、『小説家になろう』でも掲載中です。 

 

 それは、7月18日に届いた、一通のメールから始まった。
 恐らく、CCとBCCを間違えたのであろうと思われる、とある小説サイトから送られて来たメールである。
 仮に、バッドノベルスとでもしておこう。
 だが、この時はまだ、そんなことには気づいてもいなかったし、気に止めてもいなかったのだ。
 その内容にのみ、気がいっていた。
 このサイトは以前から、問い合わせをしても返事が返らず――返ったと言えば、以前に一度だけ、小説の検索機能の不具合を訴えた時だけである。しかも、数度、催促して。
 だから、この日も、今回は問い合わせに対応してもらえるのか、と、そればかりに目が行っていたのだ。
 だが、メールの中身は、問い合わせがたくさんあり過ぎて、すぐには対応できない、という返事だった。もちろん、いつになったら対応してもらえるのか、ということも書いていない。
 がっかりした。
 いや、やっぱり、と思ったのだろうか。
 その両方だったのかも、知れない。
 おれは溜め息をついて、メールを閉じた。




 これが、2ヵ月半後にあれほど大きな問題になり、おれのネットでの立場を大きく左右するものになるなど、この時はまだ欠片も思ってはいなかったのだ。




 おれは凡人である。
 若い頃は小説誌を読みあさり、夢と希望を持って、色々な賞に投稿していた。
 だが、結局、一席になることはなく、二席どまり――最優秀なしの優秀賞がやっとで、終わった。
 そして大人になり、そんなことも忘れ、長年の社会人生活の中、気のおけない友人たちや、同僚たちと愚痴をこぼし合い、世間の波に揉まれて来た。
 そんな中、ネット小説と言う世界があることも、メディアを通じて耳にしていた。
 PCの中には、若い頃に書きあげた小説がある。
 ――これを手直しして投稿してみようか。
 あの若き日には、結局、誰の目に触れることもなく、二席どまりで終わってしまった小説たち――。今なら、たくさんの人に目を通してもらえる場所に置くことが出来る。
 おれはこっそり小説サイトに登録をし、若き日の夢を見返し始めた。




 サイトに集まっている作家、読者の方々は、どうやら若い人たちが中心らしい。
 私――。最初は、その一人称で、コメント欄に返事を書き込んでいたものの、周囲の若さに合わせようと、僕にした方がいいのか、俺にした方がいいのか、そんなことを考えるような小心者ぶりで、結局、シンという三人称で、自分を呼ぶことに決めた。
 もちろん、新参者である自分の名前を覚えてもらうためでもある。
 そして、顔文字一つ打てない『シン』に、若い作家、読者の方は優しかった。
 そして、そんな楽しみを見つけ、一年が経とうとした日のこと、そのメールが届いたのだ。
 
 

 
後書き
 事実のみを書くことをお約束します。
 当該サイトからは、
「○○○ノベルス及び運営の問題点・改善すべき点等を様々な場所で議論頂く事は(○○○ノベルスの「小説」内でそれを行うという事で無ければ)問題御座いません」
 という許可文を、当該サイト内に運営が掲載、また、シンの元にも同じ文書のメールが届いております。 
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