FGOで学園恋愛ゲーム
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十二話:水族館
ぷかぷかと水槽の中を浮かぶマンボウを眺めるぐだ男。
最弱の魚などと揶揄されることがあるが世間に出回っている俗説は基本ウソらしい。
もっとも、ジャンプした程度で死んでいたらとっくの昔に絶滅しているのである意味で当然だろう。
「なんだか死んだみたいにゆっくりしてるねー」
『そうだね、アストルフォ』
隣で楽しそうにマンボウを眺めるアストルフォに相槌を打つ。
何故二人が水族館にいるのかといえば、それは深い理由がある。
ぐだ男の恋路応援隊となったエドモン達は様々な手を回して二人の距離を縮めようと奮闘している計画の一部なのだ。
「あ! 探しましたよ、二人共。もう、飲み物を買ってきている間は動かないでくださいと言ったじゃないですか」
「えー、この部屋からは出てないからいいじゃんべつにー」
「普通の部屋と一緒にするな! どれだけの広さがあると思っている!?」
『ごめん、二人とも』
飲み物を手に勝手に移動していた二人を叱るジャンヌとエドモン。
特にエドモンの方は居たくともない相手の傍に居させられたせいか若干キレ気味である。
彼はこの計画の発案者でなければ間違いなくこの場にいなかったであろう。
「せっかくエドモン君のご厚意でみんなで水族館に来ることができているのですから、逸れないでください」
「俺の厚意などではない! 俺はただ使い道のなかった四人分の無料チケットをぐだ男に渡しただけだ!」
『そして俺はみんなを誘った。それだけだよ』
ジャンヌと話しつつエドモンとぐだ男はアイコンタクトを送り合う。
何だかんだと言いつつエドモンは世話焼きである。
そのため、一人ではデートに誘う勇気がまだ出ないぐだ男のために多くの仲間で遊びに行くという体を取らせることにしたのだ。
『それにしても急なお誘いだけど迷惑じゃなかった?』
「オープンスクールも無事に終わって息抜きしたかったところですのでちょうど良かったです」
「ボクはぐだ男のお誘いなら月にだって飛んで行っちゃうよ!」
二人の爽やかな返事に安心するぐだ男。
というのも『つらいわー。チケットが四枚もあるのに二人しか集まらないわー。他に一緒に行ってくれる人がいなくてつらいわー』といった感じのことを言いながらチラチラとジャンヌを見て言ったせいなのだ。
因みに後でそのことをエドモンに報告すると馬鹿を見る目を向けられ彼の精神に多大なるダメージを与えた。
「とにかく、あまり勝手な行動はするな。迷子にでもなりかねん」
「エドモンが?」
「お前だ! アストルフォ! 子供のように何をしでかすか分からんのはお前だろう!!」
「ひっどいなぁ、もう。ボクだって迷子になんかなったりしないよ」
この中で空気というものを全く読まないアストルフォに釘を刺すエドモン。
「フン、どうだかな。俺はお前に何も期待していない。せいぜい逸れないように―――」
「わぁ! 見て見て! あっちに綺麗なクラゲがいるよー!」
「言ってる傍から勝手に動き出すな!!」
光るクラゲを見つけ、目を輝かせながら走り出すアストルフォ。
その手にはしっかりとぐだ男の手が握られているためにエドモンも無視できずに追いかけていく。
ジャンヌはその様子に苦笑いしながら追いかけていく。
その光景は一見すると家族のようであった。
『綺麗だね』
「うんうん。ぷかぷか浮いてるだけなのに光ってるから幻想的だよね」
このように無邪気に虹色に光るクラゲを見つめるアストルフォ。
しかし、それも束の間。また新しいものを発見すると同時に走り出していく。
「今度はカニだよ。美味しそうだねー」
『水族館で言ってはならないことを……』
「だってホントのことだもん。あ! あっちにすっごく大きな水槽があるよ!」
手を掴まれているために一緒に走る羽目になっているぐだ男はアストルフォに翻弄され続ける。
右に行ったかと思えば左に行く。
まさに元気いっぱいといった様子にジャンヌもエドモンも目を回しながら追いかけていく。
ある意味でここはアストルフォの独壇場となっていた。
「うわぁ! サメだよ、サメ! でっかいサメだ!」
『すごく…大きいです』
可愛らしい笑顔を浮かべながら巨大な水槽の中を優雅に泳ぐサメを見るアストルフォ。
サメの周りには多くの小魚も泳いでおり鱗に光が反射し幻想的な光景を醸し出している。
そんな光景を見ているとふとした疑問がアストルフォの中に沸き起こってきた。
「ねー、どうしてサメは他の魚を食べないの?」
『エドもうん、アストルフォの質問に答えてよぉ』
「ええいッ、俺をどこぞの猫型ロボットのように呼ぶな!」
アストルフォからの無邪気かつ残酷な質問をエドモンに受け流すぐだ男。
押し付けられたエドモンは当然のことながら反抗するが期待の籠った瞳には逆らえない。
「ちっ……サメは強欲な人間と違い、満腹であれば獲物を襲わない。こまめに餌をやっている間は小魚を襲う理由がない」
他にも魚の組み合わせの種類などを工夫して事故が起きないようにしてある。しかしながら。
「そうなんだー。じゃあ、小腹が空いた時はどうなるの?」
「……残酷なことだ」
『お魚さん……』
帽子に手をやり瞳に悲しみの色を浮かべるエドモン。
その表情にぐだ男も全てを悟り目を伏せる。
如何に手を打っていても事故というものは必ず起きるものなのだ。
「そっか、でもお腹が空いたのなら仕方がないか……あ、今度はウミガメだ!」
『切り替えが早い……』
小魚の悲しい現実に触れぐだ男と同じように悲しい顔をするアストルフォ。
だが、持ち前の明るさで暗い気持ちを一掃し再び目についたもの目掛けて走り始める。
勿論、手を繋いだぐだ男を引っ張りながら。
「アストルフォ、貴女は少し落ち着きなさい。ぐだ男君が大変そうですよ」
しかし、振り回されているぐだ男を不憫に思ったジャンヌが窘めるように止める。
もっとも、止められた方のアストルフォは不思議そうな表情を浮かべているだけだが。
「そもそも、どうして手を握っているのですか? そういうことは…その…好き合っている人がやるものです」
「え、そうなの? でも、ボクはぐだ男のこと―――好きだからいいよね!」
恥ずかしそうにアストルフォに注意するジャンヌだったが次の言葉で固まってしまう。
エドモンも無言で体を硬直させ、ぐだ男は突然のことに頬を染める。
ニコニコと笑うアストルフォの時間だけが進んでいく。
『そ、それはつまり…?』
「あれ? ひょっとして君はボクのこと……嫌い?」
不安そうな顔で瞳を震わせるアストルフォ。
ぐだ男はその表情に思わず理性が崩壊して抱きしめたくなってしまう。
だが、そんなことをすれば取り返しのつかないことになってしまいそうなので踏み留まる。
『いや、好きだよ。勿論友達としてだけど』
「えへへ、よかったー」
取り敢えず爽やかな笑みを浮かべて誤解のないように返答をする。
彼の返事にアストルフォは嬉しそうにぐだ男に抱き着いてくる。
そんな様子にジャンヌは溜息を吐きながら注意をする。
「はぁ、あなたがぐだ男のことを好きなのは分かりましたが、異性にそのように抱き着きつくのははしたないですよ」
「んー? 異性?」
「そうですよ。ましてや結婚前の男女がそのような―――」
「―――でも、ボクたちは同姓だよ」
空気が凍る。当然、少し肌寒い程に効いていた空調のせいではない。
アストルフォの爆弾発言が原因である。
エドモンとジャンヌは体が硬直したまま目を動かして二人を見比べる。
どう見ても男なぐだ男に、どう見ても女なしかも飛びきりかわいいアストルフォ。
「ぐ、ぐだ男君は…女の子だったのですか?」
『なんでさ』
「そ、そうですよね。ぐだ男君にはちゃんと…つ、ついていますからね」
以前の事件を思い出して顔を赤くしながらぐだ男、女性説を取り下げるジャンヌ。
しかしながら、そうなってくると残された可能性は一つしかない。
そう、アストルフォは―――
「貴女は……男の子だったのですか?」
「うん。ボクはオトコノコだよ」
―――男性だったのだ。
衝撃の事実に呆然とするジャンヌをよそにアストルフォは微笑みを浮かべ続ける。
「……本当に?」
「ホントだよ」
「エドモン君、私を抓ってください。どうやら性質の悪い夢を見ているようです」
「諦めろ。ここは夢でもなければ地獄でもない。現実だ」
「そんな…うそ…信じられない」
必死に否定しようとするが何も変わらない。
現実とは常に非情なのだ。
「もー、信用ないなぁ。それならこれでどうだ!」
いつまでも信じようとしないジャンヌに業を煮やしたアストルフォがぐだ男の手を掴む。
そして、そのまま自身の胸へと彼の手を導いていく。
「どう? これでわかるでしょ」
『……いくら小さくてもブラジャーは着けた方が』
「もー! ふざけないでよー! こうなったら一緒にトイレに行って―――」
「わ、分かりました! あなたが男性なのは分かりましたのでもう結構です!」
ジャンヌは下を脱いで見せると言おうとしたアストルフォを慌てて止める。
このままでは男同士の怪しげな絵が完成してしまうと恐れたからだ。
「やっと分かってくれた?」
『よかったね。信じてもらえて』
「ぐだ男はあんまり驚かなかったね」
『アストルフォはアストルフォだし。どっちでも変わらないよ』
男でも女でも親愛の念は変わらないという言葉にアストルフォは嬉しそうに頬を染める。
「そっかー、そっかー、でへへ……。ボクも君がどっちでも好きだよ」
『……やばい。もう性別とかどうでもいい気がしてきた』
「ダメです、ぐだ男君! そんなことは主がお許しになりません!」
蕩けたような表情を向けられ危うく理性が崩壊しそうになるぐだ男。
何とか首筋を赤らめたジャンヌの言葉により、一線を越えることなく止まる。
しかし、次も今回のように止まれるかはぐだ男自身にも分からなかったのだった。
「何だか一気に疲れた気がします。今まで彼を女性だと思っていた私は一体……」
『仕方ない。あれは見破れない』
「そもそも理由がフラれて全裸になった友人を宥めるために女装したなんて…理解が追いつきません」
衝撃の真実に未だにショックから立ち上がれないジャンヌを慰めるぐだ男。
現在二人はイルカショーを見るために屋外プールに来ていた。
因みに残る二人はエドモンが気を利かせて別の場所を回っている。
『ローラン……まさか目覚めたのか?』
「その人のことは良く知りませんがなんとなく危険な人のような気がします」
まだあったことのない全裸のことを密かに訝しみながら二人はジュースを飲む。
まだ、ショーが始まるまでは時間があるのだ。
『それにしてもなんで初めにアストルフォじゃなくて俺の性別を疑ったの?』
「その、なんと言いますか。頭の中にオレンジ色の髪の女性が浮かんできて……」
『それが俺…? リヨ…ぐだ…子……うっ、頭が!』
「私も何故か据え置きゲーム機を破壊させられたような…それに、一万年以上生きていそうな…」
二人して謎の記憶に頭を痛める。
特にジャンヌの方は触れてはいけない何かに触れたように冷たい汗が頬を伝っている。
『よし、この件はもう忘れよう。ラスボスを片手で捻りそうな俺なんていないんだ』
「そうですね、忘れましょう。私達の精神衛生のために。……でも、その前に一つ聞いておきたいことが」
『何?』
何かを決心したように瞳に力を入れるジャンヌ。
思わずドキリとしながらも平静を装い尋ねるぐだ男。
「ぐだ男君は……オ、オトコノコが好きなんですか?」
『よし、落ち着こうか。話せばわかる』
自身にとんでもない疑惑がかけられていることを知り真顔で否定するぐだ男。
『そもそもなんでそう思うの?』
「いえ、ぐだ男君とアストルフォの仲がやけに良い気がしまして……勿論、仲が良いのは良いことなんですが」
『好きだけどただの友達だよ。ジャンヌもそういう意味で好きな人はいるでしょ?』
ぐだ男の言葉にそれもそうかと胸を撫で下ろすジャンヌ。
彼女の宗教観では同性愛は基本的にご法度である。
そう、アストルフォの尻を撫でるぐだ男などいないのだ。
「そうですね。隣人愛ですか、それならば納得です。私もそういう意味であれば皆さん好きです」
『嫌いな人はいないの?』
「嫌いな人…ですか? 許せない行為はありますが、嫌うということはないです」
至極当たり前に嫌いな人間はいないと宣言するジャンヌ。
そんな彼女に今度はぐだ男の方が疑問を抱く。
彼女の考え方はどこかおかしくないのかと。
『好きな人はいるのに?』
「…? 主と同じ全ての者への平等な愛というわけではないのですか?」
『いや、その中でも好き嫌いがあるんじゃないの』
「好ましい在り方や嫌悪する在り方はもちろんあります。しかし、如何なる在り方であろうと私は平等に愛しています。それが主の愛ですから」
一切の迷いなどなく言い切るジャンヌにぐだ男は尊い何かを見る。
しかし、同時にもの悲しさも感じるのだった。
『……特別な人はいないの?』
「え…」
『ううん、何でもない。忘れて』
戸惑うジャンヌに首を振り笑って誤魔化す。
彼女の心は聖女だ。誰かを憎むこともなければ誰かを特別に愛すこともない。
何故ならばそれは平等などではないからだ。
好き嫌いはあってもそこに特別なものはない。
恐らく彼女は人としての尊厳全てを奪われても恨み言一つ言わないであろう。
寧ろ相手の罪が赦されるように自らが償おうとするだろう。
かつて人類の原罪を背負い磔になった救世主のように。
その在り方は星のように輝いている。しかし、星には手が届かない。
どれだけ手を伸ばしても人の手には入らない。
子供だってわかることだ。だが、それでもなお―――
『……諦めない』
―――星に手を伸ばし続ける。
例え、届かないのだとしても追っていくことしかできない。
何故なら、一度その輝きに、美しさに魅せられてしまえば後戻りなどできないのだから。
「ぐだ男君…?」
『あ、イルカが出てきた。ショーが始まるよ』
「はい……そうですね」
覚悟を新たにし彼女が気にしないように振る舞うぐだ男。
彼の言葉にジャンヌも視線をイルカに向けるが頭の中では彼女も彼の言葉を考えていた。
―――自分にとっての特別とは何なのか、と。
後書き
ある程度のシリアスもあるのが恋愛ゲームです。
まあ、次回は水着イベントなんですが。
因みに一番どうするか考えているのはジャンヌの水着! ……ではなくアストルフォです(小声)
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