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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第56話「消えぬ違和感」

 
前書き
第3章はここからです。
 

 












  ........暗い。

  ...暗い暗い、闇の中。

  生き物は何も存在しない。そんな闇の世界。そこに私はいる。

  誰も、何も私を認識しない。いや、私がそうなるよう願った。

  ...私に関われば、皆少なからず不幸になるから。幸せになれないから。

  周囲に漂う24個の青い輝き。これらだって、本来は幸せにするはずの存在。

  だけど、私はこれで皆を不幸な目に遭わせようとした。

  だから、私はここにいる。自分で自分を閉じ込めて、誰にも認識されないように。

  誰とも関わらなければ、誰かを不幸にする事はない。

  誰にも認識されなければ、誰かに関わる事はない。

  ...嗚呼、本当にごめんなさい。私がいなければ、貴方達も付き合う必要はなかった。

  ジュエルシードに、シュライン・メイデン...私なんかを主としなくても...。

  シュラインは、こんな私を未だに主としている。

  ジュエルシードは、こんな私を死なせずに生き永らえさせている。

  本当にごめんなさい。こんな私に付き合わせてしまって...。

  貴方達以外は、皆私の事を忘れている。

  私の力が必要だった場面は、きっと都合よく書き換えられているだろう。

  リニスの再契約も、プレシアさんの病気の事も、リインフォースのバグの事も。

  皆皆、都合よく、私がいない記憶に改竄されて解決した事になっているだろう。

  ...それでいい。それでいいんだ。私なんか、いなくても...。

  私は、永遠にここで過ごす。誰にも迷惑をかけず、誰にも認識されず。

  体が、精神が、心が、魂が、全てが朽ち果てるまで、私はずっと...。







   ―――....ごめんね、優輝君....皆....。









〈.....マス...ター......。〉















       =優輝side=





「はぁ....。」

「おいおい。6年生になってまだ一か月経ってないぞ?なんでそんな疲れてるんだよ。」

  教室でつい吐いた溜め息に、友人からそう突っ込まれる。

「いやまぁ、疲れる事が多くてなぁ...。」

  強くなるための特訓も、無理しない程度に頑張っているし、管理局の手伝いもある。
  それらが疲れの要因ではあるが、他にもある。

「(....まだ、違和感を感じる。)」

  ...そう、あの両親と再会する事ができた事件から感じる違和感。
  それがまだ残っているのだ。

「(...まぁ、他にもいろいろあったのも大きいけどさ。)」

  友人が言った通り、僕は6年生になった。
  あれから、僕らはそんな大きな事件に巡り合う事もなく平和だった。

  クリスマスでは翠屋でささやかなパーティーをし、両親もその時に一度帰ってきた。
  クロノとか色んな人もいたから、ささやかどころか豪華だったけど。
  ついでに僕の家の両親の部屋に転送装置が設置された。
  会える時はすぐ会えるようにっていう管理局の配慮らしい。

  正月も普通に神社に初詣に行ったり、ごく普通の正月を過ごした。
  桃子さんが椿と葵の着物を持ってきた時は驚いたけど...。
  あ、二人とも凄く似合ってたよ。

  そして三月。一つ上のアリシアが卒業する月も、特に問題はなかった。
  ...いやまぁ...アリシアが学校でフェイト達と会えないってごねてたが...。

  そんなこんなあって、今は新学期。アリシアも中学で上手くやっているらしい。
  既に容姿と性格から結構人気が出ているらしい。
  ちなみに、アリシアの通う中学は私立聖祥大附属中学校。去年まで女子限定だったが、今年からは男子も通えるようになったとか。

「(最近、夢見が悪いのもあるのか?)」

  疲れの心当たりはもう一つある。
  最近...いや、クリムの件以来から変な夢を見るようになっている。
  毎回内容は忘れているが、最近になって頻度も高まっている。
  おそらく、それも要因の一つなのだろう。

「...ホントに大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。今日は金曜日なんだし、ゆっくり休むさ。」

  明日は朝の特訓を終わらせたら昼まで休むか。











   ―――...これは夢だ。

「...志導君、また宿題貸しちゃったの?」

  見覚えのある教室で、誰かが話しかけてくる。
  夢の中の僕の視点では、その人物の顔が見えるはずなのに、なぜか見えない。
  声色も、しっかりと言葉が聞こえるのにも関わらず、判別できない。

「志導君!」

  場面が変わる。...これは...緋雪達が誘拐された時?
  間違いない。誘拐犯達を緋雪が蹂躙しているからね。
  そして、また同じ人物に呼びかけられた。
  おかしい。ここは()()()()()()()()のに。

「(...記憶の改竄?いや、でも...。)」

  よくわからない。思考がまとまらない。
  まるで、()()()()()()()()()()()かのように。
  そうこうしている内に、また場面が変わる。

「汝らの御心を護りし加護を...。」

〈天駆ける願い、顕現せよ。“Wish come true(ウィッシュ・カム・トゥルー)”〉

  次に見えたのは、また同じ人物がアリサとすずかに向かって祈っている場面だった。
  緋雪もいて、場所がすずかの家から察するに、おそらく誘拐後だろう。
  デバイスと共に紡がれた言葉で、アリサとすずかが光に包まれる。

「(...そうだ...これで二人が再度魅了される事は....。)」

  ....待て。どういうことだ。
  ()()()()()()()()()()()()。でも、こうでなければ“矛盾が生じる”。
  一体、どうやって二人が再び魅了されるのを防いだ?
  ...それが、まったく思い出せない。

「(おかしい...おかしい...!)」

  記憶が混濁する。思考がまとまらない。
  それでも場面は変わりゆく。

「ストップ!そこまでだよ!」

  今度は、王牙との戦いで、介入された所。助けに来たのはまたあの人物。
  ...記憶では、緋雪に助けられた事になっている。

  場面が変わる。今度は“カタストロフ”との戦い。
  椿と“カタストロフ”のボスを転移させる所に...あの人物はまたいた。

  また、場面は変わる。ビルの上で、椿曰く妖と呼ばれる存在の偽物と対峙している。
  共に立つのは、緋雪と椿と葵と...記憶に覚えのない二人の少女と、あの人物。

「(...誰...なんだ....?)」

  どんな場面に変わっても、その人物は存在していた。
  ...そして、また場面は変わる。

「(っ....!)」

  今度は、ジュエルシード25個の暴走。...だが、その中心にその人物がいた。
  顔は未だに認識できないが、その瞳が虚ろだったのはよくわかった。

「(っぁ....!)」

  その人物に、僕は必死に手を伸ばす。助けようと、救おうとして。
  だけど、その人物は突き放すようにそれを拒絶した。
  伸ばした手が空振る。代わりに掴んだのは一つのジュエルシード。





   ―――....ごめんね。優輝君...皆...。....さようなら....。





「■さん....!!」

  聞こえてきた悲しい()()の声に、僕は誰かの名前を叫んでいた。
  ...意識が、遠のく...。夢から、覚める....。





〈....優輝様....。〉





  ...聞き覚えのあるような、ないような。そんな“デバイス”の声が聞こえた気がした。















「っ....!はぁっ、はぁっ...!」

  掛け布団を吹き飛ばし、切れた息を整える。

「今...のは....!?」

  多分、今まで何度も見てきた夢と同じ。
  だけど、今回はなぜか覚えていた。

「くそっ...なんなんだ....?」

  訳がわからないまま、ふと外を見る。

「...夜明けか。もう一度寝る事はないな。」

  遠くが少し明るくなっている。
  しょうがない。もう起きておくか。朝の鍛錬もあるし。

「(...走り込みがてら記憶の整理だ。)」

  眠気覚ましついでに水分補給してから、家を出ていつものルートを走る。

「(今回見た夢も、おそらく今まで見てきた夢と同じ。...感覚的にそう思っただけだが。...唯一違うところと言えば、今回は覚えていた事と...夢の最後。)」

  そう、夢の最後に聞こえたデバイスらしき声。
  なんとなく、覚えている訳ではないが、以前までの夢にはそれはなかった。

「(夢の内容は、一言で言えば、“僕の知らない誰かが今までの事に介入している”...そんな夢だ。)」

  走るペースを乱さず、考えていく。

「(夢の感覚としては、明晰夢に近い...?意識はしっかりあったな。)」

  内容だけでなく、夢の特徴も解析しておく。

「(...問題なのは、僕の記憶との相違点...いや、僕の記憶の矛盾点。)」

  そう。重要なのは夢の内容と僕の記憶の違いよりも、僕の記憶に存在する矛盾点。
  この際、夢は置いておこう。だけど、その矛盾点は見逃せなかった。

「(アリサとすずかの魅了は確かに僕の魔法で解除した。...正しくは緋雪を正気に戻した際暴発した影響だけど。だけど、それだとそれ以降の魅了はどうやって防いでいるのかがわからない。)」

  どうして今まで疑問に思わなかったのか。
  不思議にすら思うほど、それは不自然だった。
  少なくとも、あのタイミングで魅了を防げる魔法は使えなかった。
  ...今ならグリモワールに載っている術式を漁れば行けるかもしれないけど。

「(だけど、あれ以来間違いなく二人は魅了を受け付けなくなった。)」

  一度解けたら再度かからない?
  ...いや、それなら僕は()()()()()()()()()()()()()だ。
  だが、どんなに自分の記憶を再確認しても、()()()()()()()()

「(...よくよく自分の記憶を振り返ってみると、不自然なところが多い。)」

  どう考えても僕や他の人たちでは為せなかった事が所々あった。
  ...そこで、ふと夢で見た内容を思い出す。

「(...そう。あの人物がいれば全て辻褄が合う。)」

  アリサとすずかに魅了が効かなくなるのも、数々の不自然な所も。
  夢で見た内容、その全てが、あの人物がいれば成り立つと、なぜかそう思えた。

  ...気が付けば、走り込みは終わっていた。

「(...一度素振りをして気を切り替えよう。)」

  雑念が入ると剣筋もぶれるからな。
  椿もそろそろ起きてくる頃だろう。椿は早起きだし。
  葵は吸血鬼だから、朝に弱いけど...まぁ、6時くらいには起きるだろ。







「.....ふぅ。」

  しばらくして、いつもの庭での素振りを終わる。
  ふと、家の開けている窓を見ると、椿が訝しげにこちらを見ていた。

「...どうしたんだ?」

「...どこか、雑念が入っていたわね。」

  ...さすが椿。気づいていたのか...。

「これでも思考を切り替えた方なんだがな...。」

「何があったの?」

  夢の事や記憶の矛盾...葵ももうすぐ目覚めるし、話しておくか。





「....なるほどね...。」

「...二人は何か違和感とかはあるか?」

  今までは疑問にすら思わなかった。
  それがおかしく思えて、ふと二人にも聞いてみる。

「分からないわ...。記憶を探っているんだけど...。」

「矛盾が感じられない...いや、感じようと思えないのかな?」

「そうか...。」

  二人でさえ、違和感を感じる事はできない。

「...でも、分かった事はある。」

「ええ、そうね。」

「あたしもわかってるよ。」

  僕らは少し間を置き、一斉に異口同音に言う。

「「「記憶や矛盾に対する、認識の阻害。」」」

  そう。“疑問に思わなかった”。これがキーワードだ。
  今朝気づいた矛盾は、少し考えればすぐ感じる事のできる矛盾だ。
  それなのに気づかなかった...疑問にさえ思わない事にこそ、僕らは疑問に感じた。
  そして、葵も言っていた“矛盾を感じようと思えない”。これではっきりした。
  矛盾などに対して思考が働かない。...その時点でおかしい。
  だから僕たちはそう結論付けた。

「僕自身、夢を見るまで一切気づかなかった。」

「そんな優ちゃんに言われてもまだわからないあたしたち。」

「よく考えれば普通にわかる事よね。」

  だけど、問題となるのは...。

「それを行った存在...。」

「あたし達三人...いや、多分最低でもこの街全ての人に認識の阻害をかけてるんだよね?」

「...いくら式姫とはいえ、私は神の分霊よ?それに影響を及ぼすなんて...。」

  夢の内容からすれば、クロノ達も認識阻害の範囲内だろう。
  つまり、次元世界規模で認識阻害が働いているという事になる。
  それは、まさしく神に匹敵する現象。

「...それほどの事ができる存在って...。」

「それこそ、どこぞの神の仕業...もしくは、神に匹敵する力...ね。」

  そんな存在、いるとすれば...。....っ!

「.....ジュエル...シード...?」

「まさか!さすがにあれでもここまでの力は...。」

「...厳密には、夢に出てきた人物が使用した場合のジュエルシード...。」

「「っ...!」」

  そう、この現象にはあの人物が関係しているのは間違いない。
  それに、夢であの人物はジュエルシードの中心にいた。

「...どの道、僕が感じている矛盾点と夢の中に出てきた記憶にない人物。...それとこの現象は大きく関わっているはずだ。」

「でも、ジュエルシードは虚数空間に...。」

「あれは憶測だ。実際に見た訳ではないだろう?...ましてや、記憶とかが改竄されている時点で、この前のジュエルシードの件全てが怪しい。」

  だからと言って今どうするべきかはわからない。
  それに、今の所僕しか明確な違和感は感じれていないんだ。
  せめて、椿と葵だけでも同じ違和感を共有したいが...。

「...調べよう。」

「え?」

「僕が違和感を感じる場所を、全部調べよう。さすがに次元世界は渡らないけど、調べれば椿や葵も何か気づけるかもしれない。」

  元より、これ以外に取れる行動は限られている。
  ならば、せめて行動した方がいいだろう。

「...わかった。付き合うよ。」

「優輝がそうするなら、私たちはついていくわよ。」

「ありがとう。じゃあ、まずは...。」

  二人も了承してくれたので、すぐに支度を済ませる。
  まず向かうのは...緋雪と僕が魔法に目覚めた場所。







「ここが...。」

「何も変わってないな。」

  海沿いにある使われていない倉庫。
  そこは、かつて誘拐があった時と、なんら変わりない状態でそこにあった。

「...まぁ、そう簡単に手がかりがある訳ないか...。」

  少し調べてみたが、何もない。
  誘拐事件に関しては、表沙汰にならない程度で片づけてしまったからな。

「一応サーチもかけてるが...リヒト、シャル。何か違和感は?」

〈特には。〉

〈私もです。〉

  リヒトとシャルにも何か感じられるか探ってもらっていたが、何も感じられないらしい。

「...次、行こうか。」

  違和感はあるが、何もわからない。
  他にも回る場所はあるので、ここはもういいだろう。





「....くそ...。」

  あの後、様々な場所を巡った。
  王牙と戦った翠屋の前。椿と出会った八束神社などetc...。
  だけど、そのどれもが違和感を感じるだけで何もわからなかった。

「収穫はなし...。強いて言うなら、以前まで感じなかった“違和感”がある程度か...。」

  そう。何気に翠屋前は夢を見る前は違和感などなかったのだ。
  そこを考えると、収穫なしではないようにも思える。

「...いえ、それだけじゃないわ。」

〈椿様の言う通りです。〉

「...なに?」

  どこか思案顔な椿とリヒトが僕の言葉を否定する。
  ふと見れば、葵も椿に同意するように頷いていた。

「...私たちも感じれるわ。貴方の言う“違和感”を。」

「それと矛盾もね。...優ちゃんと一緒にいたからかな?」

〈サーチ自体には何も引っかかりはありませんが...どこかおかしいと、そう思えました。〉

  ...つまり、原因は分からないが、違和感はあると思えるようになったのか?

「でも、肝心な部分は何もわからず仕舞いか...。」

「そうね...。」

  夢に出てきたあの人物については、何もわからなかった。
  それには変わりなく、疲れも出てきた僕らは海鳴公園で少し休む事にした。

「....って、ユーノ?」

「あっ、優輝!それに椿と葵も!」

  ベンチにでも座ろうと思ったら、なぜかユーノがいた。
  手元には海鳴公園で偶に屋台をやっている所のたい焼きがある。

「なんでまたこんな所に。」

「クロノからの調べ物の依頼がようやく終わってね。休暇がてら地球に来たんだ。」

「あー...。」

  ここ半年間、ユーノとは数えるほどしか会っていない。
  その理由が今ユーノ自身が言った依頼関係だ。
  無限書庫と呼ばれる管理局本局にある超巨大データベースの司書。
  それが今のユーノのが勤めている所で、調べればどんな情報でも出てくるらしい。
  だけど、巨大すぎるが故に中身の整理が全然出来ていなく、ユーノが司書になるまで整理は始めてすらいなかったらしい。

  ...で、スクライア一族であるユーノにとって、無限書庫的存在は望む所らしく、文書探索などで頼られているんだとか。
  ...頼られてはいるんだが、クロノにいいように扱われて疲労気味らしい。
  だから、ようやく取れた休暇でのんびりしている。

「ちなみにその調べ物って?」

「ジュエルシード。もう虚数空間に呑まれたから必要ないと思うんだけどね。」

「っ....。」

  ...これはちょうどいいのでは?
  僕らが探し求めている“違和感”には、おそらくジュエルシードも関わっている。
  なら、少しでも情報を...。

「...ユーノ、聞きたいんだけど、ジュエルシードについてどこまでわかったんだ?」

「え?...細かくは分からなかったけど、大体は分かったよ。...まず、ロストロギア...つまり失われた技術だと言われてるけど、厳密には違う。」

「...どういうこと?」

「“技術”そのものが使われていなかったっていうか...。あー、説明するにはまず“天巫女”について説明しないといけないね。」

  今のうちに念のため認識阻害の結界を張っておく。魔法関連の話だからね。
  しかし、“天巫女”か...。導王時代の文献以来見たことない単語が出てきたな。

「天巫女...以前に君たちが行った世界“プリエール”に伝わる一族でね。祈りを現実に反映させるレアスキルを持っているんだ。その祈りの力は個人差はあれどどれも凄まじく、一説によれば死者蘇生に似たこともできたらしいんだ。」

「死者...それは凄いな...。」

  文献にも載っていた事と同じだな。

「...ジュエルシードは当時の天巫女のほぼ全て...25人によって創造されたんだ。...さっき言った、祈りの力でね。」

「...ロストロギアと呼ばれるほどのモノを、人の身で...!?」

「そう。それほどまでに天巫女の力は凄まじい。...それこそまさに、“神の所業”と呼ばれるほどにね。」

  ユーノの言ったそのワードに、ふと“違和感”の何かが繋がりそうな気がした。

「ジュエルシードは本来、願いを歪めて叶える機能なんてなかったんだ。...あるのは天巫女に祈りの力を増幅させる機能だけ。後は膨大な魔力を持っているくらい。...それが変質して違う世界に流れ着いたんだけどね。」

「........。」

「ジュエルシードの本当の力は信じられない程だよ。かつて“プリエール”を襲った災厄...負の感情...そのエネルギーをプリエールから遥か遠い世界へ転移させ、そして打ち消したんだから。」

「っ....!」

  “負の感情”...それに聞き覚えがある気がした。
  重要そうで...だけど、それ以上は思い出せない...。

「....といっても、虚数空間に消えてしまった今、報告するだけして、なんの意味もないんだけどね。」

「...そうか。ありがとう、ユーノ。」

「あはは、なんか面と向かってお礼を言われるのは久しぶりだな。」

「...どれだけ酷使されてきたんだよ...。」

  なんかいつかユーノが倒れないか心配だわ...。

「じゃ、もう少し僕はここにいるけど...。」

「僕らは家に帰るよ。じゃあね。」

「うん。またね。」

  そういってユーノと別れる。





「...天巫女...ジュエルシード....か。」

「...関係、あるのかしら?」

  帰路に就きながら、僕らはユーノからもらった情報を整理する。

「ユーノの言った通り、“神の所業”に匹敵する事が可能ならば、この現象を引き起こす事も可能かもしれない...。」

「じゃあ、ジュエルシードが原因?」

「...どうだろうか...。」

  夢に現れたあの人物の存在を記憶から消す意味...それは一体...?

「(仮にあの人物が天巫女だとして、記憶から消える理由がわからない。...負の感情....消える...?....いや、まさか....。)」

  何かが繋がりそうになる。
  だけど、やはり認識阻害が効いているのか、上手く思考がまとまらない。

「....ん...?」

「どうしたの、優輝?何か考え込んで....。」

  ふと、何かが目に入って、僕の足が止まる。
  椿が考え込んでいた僕を心配して声をかけてくるが、今は耳に入らない。

「あれは....。」

「どうしたの?家なんか眺めて...。」

  僕の視線の先にあるのは、二階建ての一軒の家。
  なんの変哲もない、ただの家なはずだけど...。

「...ねぇ、葵...。」

「うん。あたしも感じるよ。」

  ...椿と葵も感じ取ったみたいだ。

「(...感じる。“違和感”が。...ここには、何かある...!)」

  決定的な“何か”があると、僕の勘が告げていた。









   ―――表札に書かれている“聖奈”という字から、僕は目を離せなかった...。









 
 

 
後書き
記憶改竄の穴を突きながら解決に向かう優輝達。
それよりユーノをただの便利キャラにしてしまった...。ごめんよ、ユーノ。

ちなみに、本編ではまだ語られていない優輝の能力が椿たちに働いています。
そのおかげで二人は“違和感”を感じられるようになりました。 
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