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ソードアート・オンライン 神速の人狼

作者:ざびー
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ー決闘の後にはー

 
前書き
最近、サブタイトルが適当とか思ったり思わなかったり……

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「あっはっはっはっはっ

突如として大爆笑がエギルの店の二階に響きわたった。
お腹を抱えて床の上をのたうち回っているのは今朝行われたデュエルで勝利したシィ。 ひとしきり笑い、目尻に浮かんだ涙を拭うと簡素な作りのベットに二人仲良く並んで腰掛けているアスナとキリトを見遣った。 怒りか羞恥か、ーーおそらく後者だがーー耳まで真っ赤にして俯いている二人の服装は普段とはかなり変わっていた。

まず、キリトだがヒースクリフとの一騎打ちに負け、誓約通り血盟騎士団に入ることとなり、襟首と背中に大きい十字架が刺繍された白の騎士服に身を包んでおり、見事にいつものキリトとは真逆の装いとなっていた。 白の剣士(笑)と、新たな二つなが生まれた瞬間でもある。

一方、シィの愉悦のこもった視線から逃れようとキリトに身を寄せ、プルプルと小さく震えているのは、メイド服を着させられたアスナだった。 無論、自らの意思ではなく、シィとの決闘に負けた結果である。
普段プレートアーマーに隠されているーーシィにはないーー豊かな膨らみが薄い生地を押し上げ、その存在を誇張しており、極短のスカートから突き出した脚は太腿まである白のハイソックスに隠され、僅かに覗く白い肌は艶かしい。
仕事着との機能より、華やかさや可愛らしさに重きを置いて作られただろうそれはアスナ自身のスタイルも合わさり余計にいかがわしいものに見えてしまう。

「……し、シィちゃん。 これいつまで着ればいいの」
「え? 今日一日中、かな?」

羞恥に耐えかねたアスナが今にも泣きそうな、いつもの彼女からは予想できないほとか細い声で訊ねるが、コテンと首を傾げたシィはにこりと微笑むと非情な言葉を突きつける。 仕草は可愛いらしいのに、やってる事は鬼か悪魔のようだ。

「似合ってるから恥ずかしがることないよ! ね、キリトもそう思うでしょ?」
「お、俺……?!

突然、シィに水を向けられたキリトは声を引きつらせながらも、アスナへと視線を向ける。その際に、目線がバッチリ合ってしまい、恥ずかしいのか耳まで真っ赤にして黙ってしまう。無言の状態が続く中、沈黙に耐えきれなくなったアスナが体を捩らせ、そっと囁くように口を開いた。

「に、似合う……かな?」
「あ。 ああ、まぁ、うん。 に、似合ってるぞ」

戸惑いながらも返答を返すキリト。 だが、羞恥心は払拭できておらず、頬を赤く染めながら顔を逸らす二人。 初々しい二人の反応を見たシィは、誰に向けたわけでもなく呟いた。

「もうお前ら結婚しろよ」



「「……なんかドッと疲れた」」

先の乱痴気騒ぎから数刻。 いまだ純白の騎士服とメイド服の装いの二人は憔悴し切った表情でベンチ代わりのベットに腰掛けていた。 一方、元凶であるシィはむふーっと満足そうに微笑んでいた。 自分以外の被害者が増えるのはいい事だ。

「はぁ〜……」
「ん? どったの白いの」

はぁ〜と深くため息を吐き出したキリトを怪訝に思ったのか、シィはこてんと首を傾げた。 心配ないと意思表示なのか、顔の前で手を横に振りつつ、口を開いた。

「いや、俺もついにギルドに入るんだな〜、って思ってさ」
「いいんじゃないか? 住所不定で、闘うこと以外取り柄のないニート剣士に役職がついて」
「ぐはっ……」

何気なく呟いた一言は、キリトのハートにクリティカルヒットしたらしくうっと胸を押さえながら床に倒れこんだ。 戦闘バカ……ニート剣士……とぶつぶつと呟くキリトを一瞥し、苦笑を零すとこれ以上キリトに被害をもたらさないための心遣いか、アスナが強引に話題を変える。

「けど、なんかコスプレ会みたいになっちゃったね〜」

あはは〜と笑い声をあげるものの、その笑みは引き攣っており無理してることが丸わかりだ。 恥ずかしいなら、この話題を出すなよ、と内心呆れていると女性二人の視線が自分へと向いていることに気がついた。 胸中になんとも言えない不安が広がり、冷や汗が頬を伝う。

「……な、なにかな」
「いや、ユーリ君だけ普通だなぁって思って」
「充分普通じゃないんですけどね」

ほら、耳とか尻尾とか……これ以上辱しめを受けろとか鬼ですか貴女?
抗議の意味を込めて、アスナを半目で睨みつけていると何か閃いたらしくシィがポンっと掌を打った。

「そういえば、メイドがいるなら執事(バトラー)も必要だよね!」
「なんか言いだしたぞ、この馬鹿……」

そう言うとアスナとシィが顔を見合わせ、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
この後に起こり得るであろう展開はわかりきっているので、被害に巻き込まれる前に逃走を図ろうと逃走しよう。 そう思うが、足が何かに捕まれピクリともしない。 咄嗟に下に視線を向ければ、ついさっきまで屍のようになっていたキリトが、右足をがっしりと掴んでいた。

「なぁ、ユーリ。 死なば諸共って言葉知ってるか?」
「お前と心中する気はねぇよ、バカ! 離せ!」

濁った眼を向けてくるキリトからなんとか逃れようと自由な左足で足蹴にするが、意地でも逃す気はないらしく、一向に拘束力が弱まる気配がない。 焦りを感じていると、ヒヤリとうなじに寒気が走り、そっと腕を掴まれ、右肩に細い指が添えられた。

「……観念、してくれるよね?」
「ーーーっ!??」

氷のような冷たい微笑を浮かべたアスナが耳元でそっと囁く。 下手なB級ホラーよりもよっぽど恐い。 内心、焦りと恐怖で混乱しているとトドメを刺すかのようにシィが左腕にムギュと抱きついてきた。

「つ〜か〜ま〜え〜た♪」

ニヘヘっとあどけない表情を浮かべる相棒がこの時ばかりは悪魔に見える。 三箇所を押さえられ、もはや逃げる事は不可能。 故に残された選択肢は一つだけ。

「……もう好きにしてくれ」

◇ ◇

「はぁ、なんだかボス戦よりも疲れた気がする

部屋の片付けをしていたアスナがこっそりとため息を吐いた。 すでに『シィちゃんお手製メイド服』から私服へと着替えられているところを見るに、シィの暴走は治まったらしい。
キリトはエギルの手伝いに呼ばれ、シィも「ちょっと急用が」と慌ただしく出て行ったので、エギルの店の二階には、ベッドでうたた寝するユーリとアスナの他にいない。
最終的にもっとも被害を被ったユーリに多少の申し訳なさを感じつつ、掃除を進めていると「……んっ」と小さな息づかいが聞こえた。 うたた寝から、完全に眠りに落ちたらしい。

「……こうしてみるとユーリ君って意外と可愛い、かも」

いつものクールな面影は何処へやら……すやすやと安らかな寝顔を晒す彼を見てにアスナは頬を綻ばせた。そんな寝顔を見つめること暫し。 何か思い立った様子のアスナは一旦掃除の手を休めると、ベッドの端に腰掛ける。 彼がよく眠っているのを確かめると 恐る恐る彼の頭の上でピコピコと動く犬耳へと手を伸ばし、その柔らかな感触に驚いた。 まるで上質なシルクなような手触りに感動しつつ、犬や猫にするように耳の裏側を優しく掻いてみる。 それが心地よかったのか、ユーリはにへらと表情を崩し無防備な寝顔を晒した。 それに庇護欲を刺激され、優しい手つきで頭を撫でるのに夢中になる。
だが、静かな室内にギシリと板が軋む音が響き急速に現実に引き戻される。 音の方向ーー部屋唯一の出入り口である扉が僅かに開けられ、その隙間からシィがジトーッとした目つきでアスナの所業を見ていた。

「ひっ!?」
「しっーー!」

慌てて口を両手で押さえ、悲鳴を堰き止める。 シィが咎めるような視線と共に、口に人差し指を当て「静かに」とサインを送るとなるたけ音を立てずにベッドの側までやってくる。 そして、にこぱーと眩しい笑顔を見せると単刀直入に切り出した。

「で、どうでした? ワンコ(ユーリ)の撫で加減は」
「……気持ち、よかった、です」

感想を述べた手間、何かイケナイことをしているんじゃないかと錯覚に陥り、赤くなったアスナの横では仲間を得て嬉しいのかシィがしきりに頷いていた。
それを横で見ているとアスナはふとあることが脳裏に浮かんだ。

「そういえばさ。 シィちゃんって『結婚』ってどう思う……?」
「はい?」
「その、君たちとっても仲いいし結婚は考えないのかな〜って。 も、もちろんシステム的な意味でだよ?!」

シィは「あぁ、そっちね」と納得するが、首をゆっくりと横に振った。てっきり『結婚』をしてるか、考えてると思っていたので驚くが追求するようなことはせず彼女の言葉を待った。

「いやだってほら。 婚約するとさ、見られたくないものとかも知られちゃうわけじゃん」

この世界で結婚すれば、所持金はもちろんのことアイテム・ストレージまでも共有化され、ストレージ内に隠しておきたい秘密が(つまび)らかにされてしまう。だが、彼女の場合は違うらしく、軽く笑うとちゃうちゃうと手を横に振った。

「ほら、私って色々作ってそれを時々売ってるのね。 で、その作品をこいつにバレるとマズい。 すごくマズイ。 具体的に言うと絶対にボッシュートされる」
「あぁ、なるほど」

なんとなく納得してしまい、アスナは同情した。 もちろんユーリに対してだ。 おそらく今日自分が着せられたメイド服やそれに準ずるものを作ろうとしてるとわかれば、被害が被らないように積極的に阻止しにいくだろう。 というよりむしろ、自分やキリト君のように第二、第三の被害者を出さないようにするために結婚してでもシィちゃんの作品とやらを監視してもらいたいと切に思った。

「あれ?……ふふっ」

そうこうしているうちにシィちゃんがうつらうつらと眠そうに体を揺らし始めた。 ユーリ君の眠気に誘われたのかしら、と微笑を浮かべているとコテンと彼の隣に横になったシィちゃん。 いつにも増してはしゃぎ過ぎたのだろう。 彼らの安らかな寝顔を見ると暫く寝かせておいてあげようと気を利かせ、毛布を取り出すと二人に被せてやる。

「さて、私はもう帰ろうかな」

アスナは胸にほっこりとした温かさを感じつつ、静かに部屋を後にした。


 
 

 
後書き
何をやっているんだ……自分は(白目) 
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