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九尾猫

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第三章

「話してたんや」
「便利やな、妖力って」
「ほんま超能力やな」
「人も猫も長生きせなな」
「こうした力も備わるし」
「そやな、わしも千年生きてや」
 虎猫はこう言った、すると。
 それまで一本だった尻尾が増えた、それも二本どころではなく九本だ。その見事な数の尻尾を二人に見せたうえで言う。
「かなりの力が備わったわ」
「それでその力でやな」
「うち等を泳げる様にしてくれるんやな」
「そや、今からやるで」
 二人に左の前足を向けつつ告げた。
「ええな」
「望むところや」
「泳げる様になる為に来たんやからな」
「ほな今から自分等に妖力をかける」
 九尾猫は二人にこうも言った。
「ええな」
「ほなな」
「頼むわ」
「千年生きた業平猫の妖力じゃ」
 自分の名前も名乗ってだった、そのうえで。
 九尾猫は二人に妖力をかけた、すると二人は米粒の様に小さくなり。
 共にいた富美男の背中に乗せられてだった、九尾猫が住んでいる家に入り。
 家の縁側のところで九尾猫が出してきた硯を前にしてだ、こう九尾猫に言われた。
「硯の中に水を入れた」
「それでそのお水の中でやな」
「泳いで練習せえってことか」
「そや、そうしたらええ」
 こう二人に言う九尾猫だった。
「ええな」
「ほな水着に着替えるわ、今から」
「見たら金取るで」
「千年生きていてそうしたスケベ心があるか」
 とっくに枯れているというのだ。
「そもそも猫に見られて恥ずかしいか」
「それもそやな」
「別にええわ」
「ほな今から着替えるわ」
「そうするわ」
 二人も頷いてだ、そのうえで。
 二人はそれぞれスクール水着と帽子という学校のプールで泳ぐ格好になった。猫達はその格好を見てもだった。 
 水着については言わずだ、こう言ったのだった。
「準備体操してや」
「硯の中に入れるわ」
 猫達はそのままの大きさだ、今の二人から見ればかなり巨大な姿である。
「その水の中で泳ぐんや」
「そうするんやで」
「よし、じゃあ準備体操して」
「やろか」
 二人も意気込んで言う、そして。
 二人は富美男に硯の中に入れてもらってだ、準備体操の後で硯の墨を入れる部分に満たした水の中に入って泳ぎはじめた。
 ここでだ、九尾猫は硯の中の二人に言った。
「思う存分泳ぐといい、浮きやすい筈やしな」
「あれっ、そういえば何か」
「プールの水よりもな」
 二人も水の中で気付いた。
「浮きやすいや」
「沈まへんわ」
「海の水みたいに塩入れておいたわ」
 硯の水の中にというのだ。
「そやからや」
「泳ぎやすいんか」
「そやねんな」
「最初は浮きやすい水で練習してや」 
 そしてというのだ。
「徐々にやってく、溺れそうになったら」
「その時はわし等が助けるさかいな」
 九尾猫だけでなく富美男も言う。
「そやから心配なく泳ぐんや」
「毎日ここで好きなだけな」
「そうすれば誰にも見られんで泳げる様になるで」
「頑張るんやで」
「そうか、ほな頑張らせてもらうわ」
「この夏で泳げる様になるわ」
 二人も硯の中で少しずつだが泳ぎつつ応える。 
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