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九尾猫

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第一章

                  九尾猫
 斎藤紅愛と高木美海はこの時自分達の家の近所の公園、大阪市住之江区にあるそこで二人並んでベンチに座ってだった。
 やれやれといった顔で話していた。二人共まだ小学六年で顔にも身体にも幼さが残る。紅愛は生まれついての癖のある茶色を短くしていて頭の上に大きなリボンを付けている。目は大きくきらきらとしている。美海は黒髪でセミロングにしている、黒目がちの大きな目だ。
 二人共外見はいい、服装も紅愛は脚が目立つミニスカート、美海は半ズボンだ。夏に相応しいラフに格好だ。
 だが二人共だ、今は溜息混じりに話していた。
「泳ぎなあ」
「うち等カナヅチやからな」
 溜息をつきつつ話していた、蝉達の声の中。
「六年にもなってカナヅチってな」
「正直恥ずかしいな」
「泳げたらな」
「ええのに」
 二人は共通の悩みについて話していた。
 そしてだ、紅愛が美海にこんなことを言った。
「うち等だけで練習せん?」
「二人だけで?」
「そや、八条スイミングスクールにでも行ってな」
 二人がいる住之江区にあるスイミングスクールだ。
「あそこで練習してな」
「泳げる様になるんか」
「そうせんか?」
「あそこうちの学校の子めちゃおるで」
 美海は難しい顔で紅愛に答えた。
「そやからな」
「あかんか」
「行ったらカナヅチってわかるで」
「だからこっそりってしたいんやけど」
「あそこはあかんわ」
 八条スイミングスクールはというのだ。
「他の場所やないと」
「他の場所いうても」
「ないか」
「ちょっとな」 
 二人共そこは知らなかった、それでだ。
 たまたま二人がいるベンチの前の砂場にだ、白地に左耳や脚の先が茶色になっていて尻尾も白と茶のストライブになっている猫が来た。首には首輪がある。
 その猫を見てだ、紅愛は言った。
「岡田さんとこの富美男やないか」
「ああ、この猫うちも見たことあるわ」
「ここまで来ることあんねんな」
「ここに結構来るでこの猫」
「そうなんか」
 その猫、どんでんを見て話す。
 そしてだ、紅愛は笑ってだ、猫に対して言った。
「あんた泳ぎが出来るようになる方法知ってるか?」
「何で猫が知ってるねん」
 美海は横から紅愛に言った。
「そんなこと」
「まあそやけどな」
「冗談でも引くで」
 笑って言う美海だった。
「せめて犬にせな」
「犬でも一緒やろ」
「あっ、そういえばそやな」
「そっちも引くわ」
「ほな鼠にしよか」
 笑って言い合う二人だった、二人はこの瞬間までは日常の中にいた。だがその二人に対してだった。
 その猫がだ、こう言ってきたのだった。
「自分等泳ぎたいんか」
「何や、富美男喋ったで」
「ほんまやな」 
 二人は猫の言葉を聞いて目を大きくさせ唇を小さくさせた。 
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