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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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ファントム・バレット編
  第69話死銃事件

 
前書き
ファントム・バレット編、始動 

 
2025年12月7日

今日オレは銀座のちょっと高級な喫茶店に来ている。何故高校生のオレとは縁のなさそうな場所に来ているのかと言うと、ちゃんとした理由がある。とあるビルのエレベーターをから降りてーーー

「いらっしゃいませ」

すぐに設置されているカウンターに立っている店員さんにから挨拶をされた。

「えっと、待ち合わせなんですけど「おーい、神鳴君!こっちこっち!」・・・あの人です」

こんな静かな雰囲気の店で大声で呼ぶなっての。居酒屋で宴会じゃないんだからーーーオレは心の中でそう思い、大声でオレを呼び軽い辱しめを受けさせたーーー眼鏡をかけたスーツの男と同じテーブルの向かいの椅子に座る。

「ここは僕が持つから、何でも好きに頼んでよ」

「じゃあそうさせてもらうぜ。つーか、あんな大声で人を呼ぶなよ。ライリュウって呼ばなかっただけマシだけどよ・・・総務省のクソ眼鏡」

「クソ眼鏡は初めて言われたよ・・・」

この男の名はクソ眼鏡ーーーいや、菊岡誠二郎だったか?総務省仮想空間管理課の人間で、一応オレの兄・龍星の上司だ。何故兄貴の上司にタメ口なのかと言うと、菊岡はALOでウンディーネのプレイヤー・クリスハイトとしてログインしている。コイツはオレたちと仲良くしたいだけと言っているが、多分ALOの調査とか、オレたちの監視とかが目的だな。
オレはこのクソ眼鏡の言う通り、遠慮なくスイーツ三昧させてもらおう。店員さんから渡されたメニューに目を通すーーーうん、中々足下見るような値段だな。流石は銀座、ランクが高いぜ。どれにしようか迷うなーーー迷った時にはこの選択に限る。

「このメニューに載ってるの全部お願いします。領収書は総務省仮想空間管理課に出してください」

「遠慮なさすぎじゃないかな!?どんだけ食べるつもりなの!?」

「遠慮するなって言ったのはアンタだろ?どうせ仕事でオレを呼んだんだ、経費で落ちるだろ。お願いします」

「かしこまりました」

迷った時には全部注文するに限る。まあこのクソ眼鏡が奢ってくれる時限定だけどな。遠慮するなって言われたんだ、これくらい良いじゃないか。

「ご、ご足労願って悪かったね・・・」

「そうだな。現実(リアル)じゃアンタの顔なんて見たくもなかったな」

「つれないなぁ。キミのお友達の明石君たちの社会復帰を全面的に手伝ったのは僕たち仮想課なんだよね」

「・・・思ったより汚ねぇな、アンタ」

そう。翼たちが一足先に現実世界に帰還した後、リハビリやら勉強やらを手伝ったのは総務省仮想空間管理課ーーーSAO事件対策本部のリーダー・菊岡誠二郎だった。オレもこの男には少なからず借りがあるため、頼まれ事を断れないでいる。

「ところで、今日は何故オレを呼んだんだ?SAO関係の話は和人と一緒に随分と話したはずだ」

「ところが、今日はちょっと違っててね。実はキミのお兄さんにも知らせてないんだ・・・」

そう言って菊岡は持参したビジネスバッグからタブレット端末を取り出し、オレに手渡してきた。その画面に映っていたのはーーー全く知らない男のプロフィール。

「誰だ?」

菊岡の話によると、この男の名は茂村保。先月の11月14日に死亡した人間らしい。東京都中野区の某アパートで掃除をしていた大家が異臭に気付いて、玄関の電子ロックを解錠して踏み込んだら、この男の死亡現場を目撃したそうだ。茂村の遺体は死後5日半経過していたため、かなり腐敗が進んでいたらしい。

「部屋は散らかっていたが荒らされた様子はなく、遺体はベッドに横たわっていた。そして頭に・・・」

「《アミュスフィア》か・・・」

《アミュスフィア》を被っていたという事が意味するのはーーー茂村保はVRMMOプレイヤーだったという事だ。
変死という事で司法解剖が行われたが、結果は急性心不全。心臓が止まったという事なのだが、理由は分からないそうだ。まあ遺体の腐敗が進んでいた事と事件性が薄かった事もあって、そこまで精密な解剖は行われなかったそうだ。

「ただ、彼は二日間何も食べないでログインしっぱなしだったらしい」

「・・・その手の話はそんなに珍しくないだろ?」

VRMMOの食事はダイエット用のプログラムが採用されていて、空腹感を紛らわして脳に満腹感を覚えさせるようになっている。だがその食事はただの紛らわしであって、現実の身体ーーー強いては胃袋には何も入らない。分かりやすく言えば、腹の中は空っぽなのに食欲がないって感じだな。ゲーム内での食欲では栄養の摂取が出来ないから、現実でも栄養を摂らないと死亡するというケースが少なからずある。オレたちSAO生還者(サバイバー)も二年間のフルダイブによって何も食べられなかったが、それは入院中に点滴で栄養を摂取していたために生きてはいられた。

「・・・茂村保は何てゲームをプレイしてたんだ?」

「インストールされていたのは、《ガンゲイル・オンライン》・・・知ってるかい?」

「《ガンゲイル・オンライン》、通称GGO。日本で唯一プロがいるMMOゲームだったな」

《ガンゲイル・オンライン》ーーーGGOは《ザ・シード》によって生まれたVRMMOだ。運営会社は《ザスカー》、ゲームコイン現実還元システムによって、ゲーム内での通貨を現実世界の現金として使う事が出来るゲーム。それは全VRMMOの中でも、GGOにしか存在しない。プロというのはそのシステムで20~30万近く稼いでいる高レベルプレイヤーだ。銃撃戦をメインとしたゲームで、射撃武器がなかったSAOとは正反対なゲームだ。
茂村保は10月、GGOの最強プレイヤー決定イベントの《バレット・オブ・バレッツ》ーーーBoBで優勝していた。キャラクターネームはゼクシード。

「じゃあゼクシードは死亡時もGGOにログインしてたのか?」

「いや、《MMOストリーム》という番組にゼクシードの再現アバターで出演中だったようだ。ログで時間が分かっている」

《MMOストリーム》に出演中に死んだって事か。番組は回線が切断されたとしか思ってないんだろうけど、実際は死亡した訳だから誰も気付かなかった放送事故だったんだろうなーーー

「ここからは未確認情報なんだが。ちょうど彼が発作を起こしていた時刻に、GGO内で妙な事があったってブログに書いてるユーザーがいたんだ」

「妙な事?」

それはGGO内の某酒場で問題の時刻ちょうどに、一人のプレイヤーがおかしな行動を取ったらしい。具体的には酒場のモニターで《MMOストリーム》に出演していたゼクシードに向かって『裁きを受けろ』だとか叫んで、銃を発砲したそうだ。それを見ていたプレイヤーの一人が録音していて、動画サイトにアップした。ファイルには日本標準時のカウンターも記録されていて、テレビの銃撃と茂村保が出演中に死亡したのはほぼ同時刻だった。

「偶然だろ?」

「もう一件あるんだよ」

その言葉にオレは驚いた。ゼクシードの死亡と似た案件がもう一件あるんだから。
11月28日、埼玉県さいたま市の某二階建てアパートの一室で遺体が発見された。新聞の勧誘員が中を覗くと布団の上に《アミュスフィア》を被った人間が横たわっていて、中から異臭がーーーって。

「なぁクソ眼鏡。今さらなんだけどよ・・・喫茶店でするような話じゃなくね?」

「確かにそうだね・・・キミは構わずケーキをバクバク食べているけど」

「え、マジで?」

ケーキ遅いなと思いながら話聞いてたけどーーーメチャクチャ食ってた。食欲失せるような話だったのにどんだけ食ってんだ、ドン引きだぜーーーオレの事なんだけど。
まあ遺体の詳しい状態は省くとして、今度も死因は心不全だったそうだ。

「彼もGGOの有力プレイヤーだった。キャラネームは・・・薄塩たらこ?」

「うわっ、変な名前」

その薄塩たらこは、死亡時刻ゲームの中にいた。その時薄塩たらこはGGOの首都、グロッケンの中央広場でスコードロンーーーGGOのギルドの集会に出ていたらしい。そこに乱入したプレイヤーに銃撃された。

「銃撃した奴はゼクシードの時と同じなのか?」

「恐らく。やはり『裁き』『力』といった言葉の後に同じキャラクターネームを名乗っている」

今から聞く名前を、オレは忘れないと思う。何故ならーーー

「《死銃(デス・ガン)

不吉すぎて。

「その二人の心不全ってのは確かなんだろうな?」

「というと?」

ゼクシードも薄塩たらこも《アミュスフィア》を被ったまま死んだんだ。直接的に影響がない心臓が止まるとは考えにくい。実際一年一ヶ月前までーーー

「脳に損傷はなかったのか?」

《ナーヴギア》に脳を焼かれて死んだ人間が4000人いたんだ。

「・・・僕もそれが気になってね。司法解剖を担当した医師に問い合わせたが、脳に異常は見つからなかったそうだ」

ーーー確かに《アミュスフィア》じゃ無理だろうな。《ナーヴギア》は信号素子を焼ききる程の高出力マイクロウェーブで脳を破壊したが、《アミュスフィア》はそんなパワーの電磁波は出せない設計になってる。それはまず形状の違いから見て分かりきってる。《ナーヴギア》は頭部をすっぽり覆えるくらいのヘッドギア型で、内部の三割を内蔵バッテリーが占めていた。それに対し今ではオレが頻繁に使ってる《アミュスフィア》は目元を一週するくらいのリング型で、コンセントを繋がないと使用出来ないし、プレイヤーの体調が悪くなったり回線を切断したら自動的にログアウトが出来る。《アミュスフィア》が今度こそ安全だと言われているのはそれが理由だ。

「それにしても随分と手回しが良いな、クソ眼鏡。こんな偶然と噂だけで出来上がってるようなネタに真面目すぎないか?」

「まあ9割方デマだろうとは僕も思うよ。だから、ここは仮定の話さ。神鳴君・・・ライリュウ君は可能だと思うかい?」

その仮定の話はーーー

「ゲーム内の銃撃によって、プレイヤー本人の心臓を止める事が」

オレがいた世界のーーー《ソードアート・オンライン》の記憶を呼び起こした。
ゲームオーバー=現実世界での死。あの世界ではやり直しなんて利かない、命懸けでぶっつけ本番の世界だった。GGOプロプレイヤーが死亡した、所謂《死銃(デス・ガン)事件》。それはSAO事件とーーー驚く程に似ている。でもーーー

「アンタ・・・一通り検証済みなんじゃないか?残念だがオレは兄貴や弟とは違ってそこまで賢くないんでな、アンタの期待しているような回答は出来ないぞ」

「いやいやいや!僕がライリュウ君にそんな事する訳ないじゃないか。僕はキミやキリト君と話すのが好きなんだよ」

何それ、ちょっと気分悪くなってきた。こんなクソ眼鏡のために時間割いてきたオレがバカみてぇだよ。もうこのクソ眼鏡の声を聞く耳を持たないようにしよう、ナ○トの父ちゃん声だけど聞かないようにしよう。

「やめだ。結論、ゲーム内での銃撃でプレイヤーの心臓を止めるのは不可能。銃撃と二人の心臓発作は偶然の一致」

「待った待った!まだ頼んだケーキ全部来てないよ!」

この男は席を立ったオレをそこまでして引き止めてぇのか。どうせエリート様連中が頭を絞った後だ、今さらオレなんかの出番はねぇだろーーー

「でもキミがその結論を言葉にしてくれてほっとしたよ・・・実は僕も同じ考えなんだ。この二つの死はゲーム内での銃撃によるモノではない」

改めて頼むんだが、とクソ眼鏡の発言は続きーーー

「《ガンゲイル・オンライン》にログインして、この死銃(デス・ガン)なる男と接触してくれないかな?」

「はっきり言ったらどうだ?クソ眼鏡」

ようするにこの男はオレにーーー

「撃たれてこいって事だろ?」

「いやーまあ~」

いやーまあ~じゃねぇよ!!!

「やだよ!!何かあったらどうすんだよ!?バカかお前!?バカだろ!!!」

もう帰ろ帰ろ!何でこんな軽い感じに撃たれてこいなんて言われなきゃいけねぇんだよーーー何をオレの服の裾掴んでんだよ!!!

「さっきその可能性はないって強引に達したじゃないか!!それにこの死銃(デス・ガン)氏はターゲットにかなり厳密なこだわりがあるようなんだ!!」

「分かった!!それだけ聞いてやるから放せ!!いい歳した大人がみっともない!!!」

全く、やっと放してくれたぜーーー何でこんなダメな大人と銀座にいなきゃいけないんだ。

「ゼクシードと薄塩たらこはどちらも名の通ったトッププレイヤーだった。つまり、強くないと撃ってくれないんだよ、多分。かの茅場先生を倒したキミなら・・・」

「無理だよ!GGOってのはそんな甘いゲームじゃないんだ!ゲームコイン現実還元システムで20~30万稼いでるプロがウヨウヨしてんだぞ!!ALOで弓使い(アーチャー)相手に苦戦するようなオレが、威力・スピード共に勝る銃に勝てる訳ねぇだろ!!」

実際オレはSAOでのほぼ完全な接近戦に慣れすぎて、弓なんかの射出武器を装備した相手にギリギリ勝てるかどうかなんだ。前に亜利沙に一回負けたしーーーそれ以上の相手には流石に勝てねぇっての。それもあってALOじゃ魔法を度外視した脳筋ビルドにして、ステ振りを筋力重視敏捷型(ストレングス・アジリティ)型にしたし。
そもそもGGOのプレイヤーたちは他のMMOプレイヤーとは比較にならないレベルに時間と情熱をゲームに注ぎ込んでるんだ。オレみたいな素人がノコノコ出ていっても相手になる訳ない、あっという間に蜂の巣になるのがオチだ。

「《オーバーロード》に期待してるんだったら無駄だ。キリト・・・弟辺りに頼んでくれ。アイツの方が適任だろ」

「待った待った!キリト君よりキミの方が適任なんだよ!確かに《オーバーロード》の事もあるし、それに加えて武道で鍛えた身のこなしもある!ゲームでも現実(リアル)でも、身体能力に関してはキミの方が上なんだ!」

そうは言ってもなーーー確かにオレは武道をやってるから回避技術や動体視力はキリトより上だ。最近はアスナさんのレイピアを多少は避けたり、防いだりも出来るようになった。でも相手が相手だしなーーー

「分かった!プロの相手は荷が重いという事なら、調査協力費という名目で報酬を払おうじゃないか!!」

さらに『コレだけ」とクソ眼鏡は右手の親指、人指し指、中指を伸ばし、オレに見せてきた。報酬をくれるんなら、受けてやらなくもないけどーーー

「なぁ、それ・・・幾らのつもり?」

「え?300万だけど・・・」

300万、かーーー

「おい、菊岡さん。アンタ・・・0が一個足りひんちゃいまっか~?」

「ええっ!?3000万は出さなきゃ受けてくれないの!?」

むしろまだ足りないくらいだ。人の命懸かってんだ、3000万でも安いもんだろ?

「まあそんなに出せないってんならオレはもう帰るけど・・・」

「分かった!!出そう!!出すから受けてくれ!!いや、受けてください!!お願いします!!」

交渉成立だ、チョロいぜ。

「でもよぉ、何でこんなにこだわるんだ?ネットによくありがちなオカルト話じゃないか」

「実はね、上の方が気にしてるんだよね」

そうか、もっと上からの指示なのか。フルダイブ技術が現実に及ぼす影響、それは今や各分野で注目されているそうだ。この《死銃(デス・ガン)事件》がそれを規制しようとする勢力に利用される前に事実を把握しておきたいために、その確信が欲しいらしい。

「でも、直接運営に聞けば早いんじゃないか?」

そう聞いてみたが、そういう訳にもいかないらしい。GGOを運営している《ザスカー》という企業はアメリカにサーバーを措いているらしく、それに加えて現実の会社の所在地や電話番号やメールアドレスも未公開だから問い合わせたくても出来ないそうだ。例の《ザ・シード》公開から怪しげなバーチャル世界は増える一方なのは、そこまで否定は出来ないなーーー

「そんな理由で、真実の尻尾を掴もうと思ったら、ゲーム内で直接の接触を試みるしかないんだよ」

だから死銃(デス・ガン)と接触しろ、かーーー

「もちろん最大限の安全措置は取る。銃撃されろとは言わない。キミから見た印象で判断してくれればそれでいい。行ってくれるね?」

ーーーオレはその言葉に頷くしかなかった。
かつてSAOでの二年間、4000人もの人が命を落とした。一年経って、その記憶も過去のモノになろうとしていた。でも、再び仮想世界で殺人事件が起きて、オレはその世界に呼ばれようとしている。オレは一人でその世界に飛び込もうとしている。まるで誰かが、忘れるなと言っているみたいにーーー
 
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