FGOで学園恋愛ゲーム
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一話:私立カルデア学園
もしも顔も声も同じ双子を好きになったら―――あなたはどちらを選びますか?
それは今年の始業式のことだった。
よく晴れた一年の始まりにはぴったりの日だったと彼は記憶している。
始業式だというのに寝坊をした彼は全速力で校門を潜り抜け教室へと向かった。
しかし、廊下を走った罰か二人の女の子とぶつかりかけてしまう。
何とか持ち前の機転を利かせ自ら転ぶことで衝突を避ける。
もっとも、しこたま体を打つという犠牲からは逃れられなかったが。
「ちょっと! あなた、ちゃんと前見て走りなさいよ!」
「廊下を走ること自体ダメです! て、それよりも大丈夫ですか?」
頭上から鈴のなるような声が聞こえてくる。
謝罪と無事を伝えながら頭を上げる。
そこで彼は―――運命に出会った。
「どうかされましたか?」
じっと見つめられキョトンとした顔で小首を傾げる心配してくれた女の子。
聖女のような慈愛に満ちた表情に太陽のように明るい金色の髪。
そして吸い込まれるようなアメジスト色の瞳。
「あなた、もしかして……頭でも打ってボケたのかしら?」
呆れたように、かつ、見下したように笑うもう一人の女の子。
まるで魔女のような危険な色気に満ちた笑み、月光のようなシルバーブロンドの髪。
見る者を虜にして放さない黄金の瞳。
『……大丈夫、何でもない』
見惚れていたことを隠すように彼は掠れた声を出す。
立ち上がり埃を落としながら盗むようにもう一度二人を見る。
同じ背丈に、同じ顔だち。細かい部分は異なるがそれでも同一人物かと見間違う。
二人は双子なのだろうと確信する。そしてもう一つ、彼はあることを確信した。
自分は―――双子の姉妹に一目惚れをしてしまったのだと。
「……先輩、先輩。起きてください」
体を揺すられて自分が夢を見ていたことを理解する。
どうにも背中が痛い。どうやらまた廊下で寝てしまったようだ。
今は夏なので冷たい床に避難したのだろうかと考えながら彼、ぐだ男は大きく伸びをする。
『おはよう、マシュ』
「はい。おはようございます、先輩」
寝起きに優しい後輩の無邪気な笑みが五臓六腑に染み渡る。
この淡い紫色の髪の眼鏡っ娘が何故ぐだ男の家に自然にいるのか。
その理由は当人にしか分からないが彼は深くは気にしない。
「先輩は本当にレムレムするのが得意ですね。もはやレム睡眠の達人です」
一つ下のこの後輩との出会いは中学の時怪我をしていた彼女を助けたのが始まりである。
それ以来、ひどく慕われ恩返しを理由にこうして朝起こしに来てくれたりする。
二人の間に恋愛感情はないが、その絆は固く、家族と言っても差し支えはない。
「さあ、もう時間も遅いので早く朝食を食べて学校に行きましょう」
特に反論することもないので頷いて支度を始める。
その後朝食を食べてマシュと共に登校する。
途中で季節外れの転校生と曲がり角でぶつかる、といったイベントもなく学校に到着する。
「では、先輩私は一年生の校舎なので、ここで」
『ありがとう、またね』
途中、一年生のマシュと別れ自分は二年生の校舎に向かう。
校舎の中といっても廊下は蒸し風呂に近いので足早に教室を目指す。
しかし、廊下の先に見知った影が見えたので足を止め声をかける。
『おはよう、ジャンヌ・オルタ』
高鳴る胸を抑えるように爽やかな挨拶をする。ジャンヌ・オルタというのはあだ名だ。
ジャンヌだけでは姉のジャンヌと紛らわしいので彼女自身が決めた名である。
因みにオルタと付けたのは何だかカッコいいという理由らしい。
「ああ、あなた? 一々挨拶なんてしないでくれる、鬱陶しいわ」
『でも、前は何も言わなかったら無視するなって怒ってたよね?』
「あ、あれは偶々よ! 偶々!」
開口一番に邪険に扱われるがぐだ男は気にも留めない。
以前であれば傷ついたセリフではあるが毎度同じようなことを言われるので慣れたのだ。
ケンカを売っているようだが、これは、彼女の不器用なコミュニケーション方法なのである。
『たまたまかー』
「そ、そうよ、偶々……って、何よ! その生暖かい目は!?」
『たまたまかー』
棒読みで繰り返しながら生暖かい目で見つめる。
同じクラスになり気づいた彼女との付き合い方は素直でないことを理解することだ。
ヤンキーのような目でメンチを切ってこられても怖気づかない。
相手のペースに乗ったり、自分のペースに乗せることが重要なのだ。
「なんだ、騒がしいと思ったら、またお前達か」
『おはよう、エドモン』
二人の騒ぎを聞きつけたのか教室からぐだ男の親友であるエドモン・ダンテスが顔を出す。
やれやれといった風ではあるがいつものことなので対して気にした風でもない。
「ああ、おはよう。それと余りグズグズしているとチャイムが鳴るぞ。もっとも、お前はその程度のことを気にするほど繊細でもないか」
『それほどでも』
「褒めてなどいない! とにかく、自分のクラスに早く行け」
『なんだかやけに気合が入ってない、エドモン?』
いつもであれば不良ぶっているために規則をさほど気にしないエドモン。
しかし、今日は事情が違うのか気合に満ち溢れている。
「今日は一時間目にファリア神父の倫理の授業があるからな。貴重な時間を無駄にするわけにはいかん」
目に炎を滾らせやる気に満ち溢れるエドモンにぐだ男はあっさりと納得する。
ファリア神父は一時期荒れていたエドモンを導いた言わば恩師。
その人物の授業ともなればやる気に満ち溢れるのも納得する。
もしも、この場に居るのがぐだ男とエドモンだけであればこの話はここで終わっていた。
しかし、この場にはもう一人、神や信仰といったものが大嫌いな人物がいた。
「あら、あんな貧乏神父の話のどこが面白いのかしら? あんな綺麗ごとなんて通るわけないでしょう。神も奇跡もないのですから」
ジャンヌ・オルタである。
神経を逆撫でするようにワザと丁寧な言葉使いで話しかける。
もし、これがファリア神父のことでなければエドモンもいつものことと流していただろう。
しかし、恩師への侮辱は許せなかった。
「神や奇跡の否定などどうでもいい。だが、俺の前でのファリア神父への侮辱は高くつくぞ?」
「うふふ……どう高くつくのか言ってくれないと分かりませんよ?」
一瞬にして険悪なムードが流れる。
最近こんなことばかりだなと諦めの境地を開いたような顔でぐだ男は遠くを見つめる。
まさに喧嘩が始まるといった瞬間、混迷した場に救世主が現れる。
「何をしているんですか、二人とも」
「げっ」
「ち、またお前か」
『おはよう、ジャンヌ』
エドモンと同じクラスの姉のジャンヌである。
生徒会長を務める彼女はその責任感から騒ぎを聞きつけて来たのである。
「おはようございます、ぐだ男君。それよりも二人とも、喧嘩はいけませんよ」
「う、うるさいわね。こいつが悪いのよ!」
「ほう、喧嘩を売ってきたのはお前だったと記憶しているが?」
互いに指を指し合い罪の押し付けを図るエドモンとジャンヌ・オルタ。
そんな二人を見てジャンヌはやれやれと首を振りため息をつく。
「はぁ……二人の仲が良いのはよく分かりました」
「「違う! 違う違う!」」
『息ピッタリだね』
これまた同時に否定の言葉を発しマネをするなとメンチを切り合う二人。
この二人、なかなか素直になれないという点ではよく似ている。
『あ、チャイムのなる一分前だ』
「く……仕方ない。ここで幕引きとしよう」
「ふん、あんたのせいで遅刻するなんて馬鹿馬鹿しいから引いてあげるわ」
そして何より、見た目と違って真面目なところがある。
渋々といった感じではあるが二人とも自分の教室に戻っていく。
「ぐだ男君も早く教室に行かないと先生に怒られてしまいますよ」
『そうする。ありがとう、ジャンヌ』
少したしなめる様な言葉に俺を返すと微笑みを返される。
その笑みに思わず頬が熱くなるがジャンヌの方は少し不思議そうな顔をするだけである。
「いえ。あ、この間は生徒会の仕事を手伝ってくれてありがとうございました。今度何かお礼をさせてくださいね」
『気にしないで』
「いえ、それだと私が納得できないので―――あ」
お礼をしているところでチャイムの音が校舎に響く。
慌てて話を切りジャンヌは頭を下げる。
「それでは、お礼の話はまた今度に」
『またね』
最後にそう言い残してジャンヌは教室に戻っていく。
その時にふわりと舞い上がったスカートに思わず目を引き寄せられる。
それでもすぐに頭を振りぐだ男は自分の教室に駆けて行く。
チャイムが鳴り終わる寸前に扉に手をかけ、勢いよく飛び込み叫ぶ。
『セーフ!』
「アウトー!」
大きく手を広げたぐだ男に対し片手を上げ、アウトのポーズをとる教師。
長い黒髪に活発そうな瞳、まさに元気なお姉さんといった女性。
その名も玄奘三蔵、あだ名は三蔵ちゃん。ぐだ男のクラスの担任である。
『そこを何とか、三蔵ちゃん』
「こら、三蔵先生、もしくはお師匠様って呼びなさいって言ってるでしょ」
ぐだ男の呼び方にぷりぷりと怒りながら叱る三蔵ちゃん。
ここ私立カルデア学園に採用されて三年目の国語の教師。
今年晴れて初担任となったが中々先生と呼んでもらえずにいるのが目下の悩みだ。
ただし、生徒からの親しみの現れなので敬意がないわけではない。
『お師匠様、お願いします』
「今日でギリギリは何回目?」
『2回目です』
「うーん、御仏の顔も三度だし……しょーがない、次はないからね」
『ありがとうございます』
何とか遅刻の烙印から逃れ一息をつき席に座るぐだ男。
そこへ隣の席の友人が声をかけてくる。
「怒られなくてよかったねー、ぐだ男」
『そうだね。そう言えばアストルフォは遅刻しないよね』
「ボクは朝の空気が好きだからね。まあ、暖かいお布団も大好きだけどね、あははは」
隣の席のアストルフォ。あどけなさの中に可憐さを兼ね備えた見た目美少女の友人だ。
考えるよりも体を動かすほうが早い人間の典型だが、優しさと勇敢さも兼ね備えている子だ。
「すまない、先生が話すので今は黙ってくれないか。でないと今度こそ怒られてしまうだろう。出過ぎた真似だとは思うがすまない」
「あ、ごめんねー」
『ごめん、それとありがとう、ジークフリート』
二人の私語を注意してきたのはジークフリート。
隣の席の気さくなアイドルかつクラスの委員長だ。
自身の大柄な背のせいで後ろの人が黒板を見られないかもしれないと考え。
常に猫背のような姿勢で椅子に座っているほどの謙虚な好青年だ。
「礼を言われるようなことはしていない。それよりも気分を害していないだろうか」
『こっちが悪いから謝らなくていいよ』
「そうか……すまないな」
「あはは、また謝ってるよー」
しかし、少々腰の低すぎるところがあるので徐々に矯正していっている最中だ。
彼が謙虚さを捨てる日が来るのかどうかはまだ誰も知らない。
「はいはい、それじゃあ今日の連絡をするわ。最近は暑いから室内にいても細目に水分補給をするように。それと最近変な笑い方をする変質者が出るみたいだからみんな気を付けるのよ」
なんとなく頭の中に2メートル越えで『デュフフ』と笑う男を思い浮かべるぐだ男。
しかし、流石にそんな男はいないだろうとすぐにそのイメージを焼却する。
「それから期末テストの期間に入るから、みんなしっかり勉強するようにね。これで連絡は終わり。今日も一日勉学に励むように!」
「もうそんな時期かー、授業は好きだけどテストは嫌だなぁ」
『授業が好きなだけ凄い』
アストルフォと話をしながらカバンから教科書を出す。
「一時間目の教科ってなんだったっけ?」
『バベッジ先生の数学』
前のテストの成績は芳しくなかったので今回は頑張ろうと心に決めるぐだ男。
しかし、人間一人で頑張ろうと思っても中々続かないものだ。
友人と一緒に勉強会を開いてみるのもいいかもしれない。
「はぁはぁ…お姉様の汗の香しい香り……プライスレスです」
「くっつくな! このテケテケ槍女!」
美少女を抱きしめる美少女。
必死に引きはがそうとするジャンヌ・オルタ。それに恍惚とするブリュンヒルデ。
愛の形とは人それぞれである。
「あぁ…この罵倒…お姉様からの愛が籠った罵倒が気持ちいいです…!」
「ああ! もう! こうならないために暑いのを我慢して外にいたのに、教室に戻ったら意味ないじゃない!!」
どうやらジャンヌ・オルタが先程廊下にいたのはそうした理由かららしい。
三蔵ちゃんも言っていたようにこまめに水分補給をするべきだろう。
「ちょ、あんた気づいてるなら助けなさいよ!」
『友人と一緒に勉強会を開いてみるのもいいかもしれないな』
「聞こえないフリしてんじゃないわよ!」
ぐだ男の恋物語はまだ始まったばかりだ。
後書き
メインはジャンヌ二人の√ですが、それが終わったら別√もあります。
後、まだ鯖は増えます。
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