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英雄伝説~光と闇の軌跡~(碧篇)

作者:sorano
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第44話

~オルキスタワー~



ロイド達が部屋の中に入るとオズボーン宰相は窓ガラスの傍で外を見つめていた。

「―――失礼します。オズボーン宰相閣下。」

「クロスベル警察、特務支援課、お招きにより参上しました。」

「……入ってきたまえ。」

口元に笑みを浮かべて言ったオズボーン宰相の言葉を聞いたロイド達はオズボーン宰相に近づいた。

「―――この光景、実に見事だ。地上をこの高さから見下ろせるような建造物を人間が作りだせるとは……フフ、かつて栄華を誇ったという古代文明に届く所業だろうな。」

「……確かに。」

「1200年前のゼムリア文明のことですね。」

「ああ、何でも魔法みたいに便利な文明があったそうだが。」

オズボーン宰相の言葉にロイドは頷き、ティオが呟いた言葉の説明を補足するかのようにランディが続けた。

「単なる理想郷というわけでは必ずしもなかったようだ。昨年、リベールの異変時に出現した巨大な浮遊都市……あれもゼムリアの時代に建造され、そして人の手で封印されたそうだ。人の可能性と愚かさの象徴として。」

「人の可能性と、愚かさ……」

「その……ずいぶんお詳しいのですね?」

オズボーン宰相の呟いた言葉を聞いたロイドは真剣な表情で呟き、エリィは不安そうな表情で尋ねた。

「フフ、それほどでもない。特にクロスベルに関してはヨアヒムなる教団司祭ほどにも真実に至っていないだろう。」

「……!」

「そんなことまで……」

そして口元に笑みを浮かべて言ったオズボーン宰相の話を聞いたロイドは表情を厳しくし、ティオは不安そうな表情で呟いた。

「フフ、それにわからない事があるからこそ世の中というものは面白い。手の内が全て見えた遊戯(ゲーム)など退屈の極みというものだ。そう思わないか?ワジ・ヘミスフィア。」

「……ふぅん。僕の名前もご存知なのか。いや、逆に名前しか知らないということかな?」

「いや、さして興味が無いというだけのことだ。”闘神”の継承やメンフィルに屈服させられたシュバルツァー家の跡継ぎ達が何を考えているかの方がむしろ興味をそそられるな。」

「……あんた………」

「……俺とエリゼの事もやはりご存知でしたか………」

口元に笑みを浮かべて言ったオズボーン宰相の言葉を聞いたランディは目を細め、リィンは真剣な表情で呟き

「”帝国軍情報局”……素晴らしい情報収集能力をお持ちのようですね。」

「フフ、それほどでもない。……実際、マクダエル市長と”聖皇妃”の関係はヨアヒムなる教団司祭が起こした事件が起きるまで全くわからなかったからな。」

「………………………」

ロイドの質問に答えたオズボーン宰相の話を聞いたエリィは不安そうな表情で黙り込んでいた。

「エレボニア帝国政府代表、ギリアス・オズボーンだ。諸君のことはレクターから色々と聞いている。それでは残りの休憩時間、話に付き合ってもらおうか?」

そしてロイド達はそれぞれソファーに座ってオズボーン宰相と話を始めた。



「……それで、宰相閣下。お話に付き合うというのは一体どういう……?」

「どうやら、大抵のことはすでにご存知みたいですが。」

「なに、単なるおしゃべりだ。もしくは意識調査と言い換えてもいいだろう。」

「意識調査……」

ロイドとティオの疑問に答えたオズボーン宰相の話を聞いたノエルは不思議そうな表情をした。

「ああ、直截に尋ねよう。……君達はこのクロスベルがどれだけ持つと考えている?」

するとオズボーン宰相は不敵な笑みを浮かべて信じられない事を尋ねてきた!

「ッ……!」

「また露骨な質問だね……」

オズボーン宰相の質問を聞いたロイドは唇を噛みしめ、ワジは疲れた表情で言った。

「フフ、別に他意はない。ただ栄枯盛衰は歴史の常――――滅びなかった国は存在しない。ましてや導力革命によってあらゆるものが加速し始めたこの時代において……この因縁の地がどこまで現状のままでいられると思う?」

「……そ、それは…………」

オズボーン宰相の質問を聞いたエリィは不安そうな表情で答えを濁し

「――――い、いつまでもです!守ろうという意志が自治州の民にあるのならば!」

「ノエル……」

ノエルは真剣な表情で叫び、ノエルの言葉を聞いたロイドは驚いた。

「そう、意志は常に重要だ。時に趨勢(すうせい)をひっくり返し、歴史そのものを動かすこともまれではないだろう。人は無力な存在ではない。私もその可能性を信じている。」

「そ、それじゃあ……」

オズボーン宰相の話を聞いたノエルは明るい表情をしたが

「―――だが、その意志同士がぶつかり合った場合はどうだ?」

「……!」

口元に笑みを浮かべて尋ねたオズボーン宰相の質問を聞いて驚きの表情で黙り込んだ。

「簡単だ―――小さな意志はより大きな意志に呑みこまれ、その火勢を大きくするだろう。そして生まれた業火が地上に幾つも現れた時……あらゆる正義と倫理は灼熱に溶け、世界は一面の炎に包まれる。――――そんな光景が容易に幻視できるのではないか?」

「……ぁぁ………」

「……ううっ……!」

「…………………………」

そして不敵な笑みを浮かべて言ったオズボーン宰相の言葉を聞いたティオは身体を震わせ、ノエルは悔しそうな表情で唸り、ランディは目を細めて黙り込んでいた。



「……確かに……両帝国や共和国に比べたら『小さな意志』かもしれません……ですが……大きな炎が小さな炎を必ず飲みこむとは限らないでしょう。かつてエレボニアの侵攻を退けたリベールのように……!」

一方ロイドはオズボーン宰相から視線を外して呟いた後真剣な表情でオズボーン宰相を睨んで言った!

「あ……」

「12年前の『百日戦役』か……」

「確かに当初はエレボニアの圧勝と言われていたけど、実際は制圧する事はできず、逆に領地を削り取られたからな……」

ロイドの言葉を聞いたエリィは明るい表情をし、ワジは静かな笑みを浮かべ、リィンは口元に笑みを浮かべて言った。

「フフ、その通り。意志には『強さ』が問われる。リベールの小さくも強き意志が帝国の大きくも乱れた意志に見事打ち克ったということだ。それは確かにクロスベルにとって一つの教訓と言えるだろう。―――果たしてクロスベルの民にリベールの民ほどの誇りと強さが備わっているかは知らぬが。」

「……!」

「……………………」

そして不敵な笑みを浮かべて言ったオズボーン宰相の言葉を聞いたロイドは表情を厳しくし、エリィは複雑そうな表情で黙り込み

「そ、備わっています!以前ならともかく今はヴァイスハイト局長やギュランドロス司令達がいるのですから!」

ノエルは必死の様子で答えた。

「――――”六銃士”達か。フフ、確かに彼らには人を惹きつける力、強き意志の両方が備わっている。……かつて帝国を退けた”剣聖”カシウス・ブライトのようにな。――――しかし果たして彼らは本当にクロスベルを守る為に存在しているのかどうか疑問だが?」

ノエルの言葉を聞いたオズボーン宰相は口元に笑みを浮かべた後不敵な笑みを浮かべて尋ね

「……そ、それは……」

オズボーン宰相の疑問を聞いたノエルは言いよどみ

「これはあくまで私の予想だが、彼らはいずれ2大国から反逆し、逆に呑みこむつもりでいると思っているがね。」

「……………!」

「……………………」

(………確かにヴァイスさん達なら本当にやりかねないんですよね……かつても他国を制圧して、自国を繁栄させたと”影の国”でセレストさんが教えてくれましたし……しかもヴァイスさんの話だと、ギュランドロス司令達はヴァイスさんの故郷を奪い取る為に何度も戦争を仕掛け、ヴァイスさん達の国と戦い続けたそうですからね………そんな2人が揃い、互いがクロスベルの防衛、軍備のトップに立ち、さらにリウイ陛下までも力を貸してくれるかもしれない状況となった今、本当に戦争を引き起こす可能性が出てきているんですよね…………)

(……まあ局長やオッサン、2人とも野心を隠さない上、警備隊の連中には戦争が起こった時かのような戦闘訓練をしているしな…………)

不敵な笑みを浮かべて言ったオズボーン宰相の言葉を聞いたロイドは真剣な表情になり、エリィは不安そうな表情で黙り込み、ティオは複雑そうな表情になり、ランディは目を細めて考え込んでいた。

「フフ、休憩時間も終わりだ。話はここまでとしておこう。―――ああ、帝国政府からは特に勲章を贈るつもりはない。下手に『平民』に勲章を贈ったら貴族勢力がうるさいのでね。」

その後ロイド達は部屋を出た。



「……お前達、運が良かったな。あれほど上機嫌な閣下はあまり見られるものではない。」

ロイド達が部屋を出るとエレボニア軍将校は意外そうな表情で言い

「え……」

「おいおい……なんの冗談だ?」

将校の言葉を聞いたロイドは呆け、ランディは目を細めて尋ねた。

「お前達のことを気にいったということだろう。重い言葉かもしれんがまずは受け止めてみるがいい。―――私の立場から言えたことではないがな。」

ロイド達に伝えた将校は部屋の中に入って行った。

「……途轍もなかったわね。」

「つうか、化物すぎんだろ……」

「……ああ、なんていうか立ってる次元が違う気がする。―――ティオ、大丈夫か?」

「はい……何とか。あの人から伝わってきた炎のイメージが強烈すぎてめまいを起こしましたけど……」

「無理ないよ……あたしですら何か見えた気がしたもの……」

「それにとんでもない”覇気”を晒し出していたな……リウイ陛下ほどではないとは言え、普通の人間が出せるような覇気ではないよ……」

「”鉄血宰相”か……まさに怪物って感じだね……クロスベル程度なら一呑みしてしまいそうだな。」

「―――でも、俺達を(なぶ)るために呼び出したわけでもないだろう。大統領や殿下もそうだけど……俺達に興味があったというのも嘘じゃないと思う。なら、いい勉強をさせてもらったと考えた方がいいかもしれないな。」

「フフ、言うじゃない。」

「……貴方のそういう所はちょっと真似できないわね。」

「ああ……ポジティブすぎんだろ。」

「ロイドのその前向きさには俺も見習わないとな。」

口元に笑みを浮かべて言ったロイドの言葉を聞いたワジやエリィは静かな笑みを浮かべ、ランディは笑顔になり、リィンは口元に笑みを浮かべ

「で、でも確かに……落ち込んでも仕方ないですよ!」

「そうですね……得られた教訓は活かさないと。」

ノエルは真剣な表情で言い、ノエルの言葉にティオは頷いた。

「とにかく休憩時間も終わりだ。ダドリーさんの所に戻って、会見の結果を伝えておこう。」

その後ロイド達はダドリーに会見の結果を伝えた後、警備に戻った。



そして『西ゼムリア通商会議』の後半が始まった…………! 
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