魔女に乾杯!
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11部分:第十話
第十話
第十話 五人対紫の魔女
「うう・・・・・・」
「これはどうかしら」
使い魔達の中にはもう眠りに入っている者達もいる。五人ももうすぐ落ちそうであった。
だがここで春奈が立ち上がった。そして青いステッキを振った。
「皆、これで!」
「きゃっ!」
五人と使い魔達に水が降り注いだ。それで眠気を飛ばしたのだ。
「もう、春奈ちゃん酷いよお」
「御免なさい、他にどうしたらいいかわからなくて」
「けれどこれで眠くはなくなったわね」
「うん」
五人は完全に立ち上がってそう言い合った。
「さて、紫の魔女さん」
今度は美樹が彼女を見上げていた。
「今度は私の番よ。てやっ!」
緑のステッキを振ると竜巻が出て来た。それで紫の魔女を撃とうとする。だが魔女はまた笛を口にした。
「風も」
「そうはいかないわよ」
今度は赤音が動いた。彼女は光を放った。
竜巻は消すことができた。しかし光はそうはいかなかった。光が魔女を直撃した。
「ああっ!」
「やった!?」
「いえ、まだよ」
魔女は空中に浮きゆっくりと着地してきた。特に怪我もないようであった。
「迂闊だったわ。光を使う娘がいたなんて」
「驚いた?」
赤音は得意気に魔女に対して言った。
「私は光の魔法を使えるのよ。これは防げないでしょ」
「さっきのはね。けれどこれからは違うわよ」
「あら、強気ね」
「強気じゃないわ。だって」
そう言うと再び笛を口にした。
「私も光は使えるから」
「また音楽を」
今度は宝石の歌であった。グノーのオペラ『ファウスト』のソプラノの曲である。
無数の光が魔女の身体を包んだ。そして辺りを照らす。
「これなら貴女の光も通用しないわね」
「うっ」
その光で自分の光が相殺されることはあきらかであった。赤音は絶句せざるをえなかった。
「さて、どうするの?」
「それなら私が」
梨花が出た。黄色いステッキを出す。
「これで」
地響きがした。彼女は地の魔法の使い手なのだ。
「空に飛び上がっても無駄よ。地面がおっかけてくるから」
「そうみたいね。じゃあ」
曲を変えた。マーラーの巨人だった。
岩の巨人が姿を現わした。彼は魔女を自分の手の平の上に置き守った。それで梨花の魔法を防いだのだ。
「今度は巨人で」
「どう、音楽の力は偉大でしょ」
「それでも」
五人は魔女を一斉に取り囲んできた。
「あたし達五人いれば」
「貴女でも」
一斉に魔法を放ってきた。これはさしもの魔女もかわすしかなかった。彼女は再び木の上に位置した。
「危なかったわ。まさか五人一度に来るなんて」
「どう。一人一人じゃ貴女に負けるかも知れないけれど」
「五人いれば負けないわよ」
「そうみたいね」
五人を見下ろしてそう言葉を返した。
「五人で一つの力なのね。わかったわ」
「五人で一つ?」
「そうよ。それがわかったから今日はもういいわ」
そう言って箒を出しそれに跨った。
「待って、何処へ行く気なの」
「今日のところはこれでね。引き分けってとこで」
「逃げるつもり?」
「いえ」
華奈子に答えた。
「仕切りなおしってとこかしら。校旗はもういいわ」
「もういいの」
「そうよ。そのかわり今度は」
くすりと笑った。
「別のものを賭けたいわ。それか決闘か」
「決闘」
「私と貴女達のどっちが凄いかね。どう、受ける?」
「受けない筈がないでしょ」
「華奈子ちゃん」
「やい紫の魔女」
「何かしら」
「あたしはね、売られた喧嘩は絶対に買う主義なのよ。それはわかってるでしょうね」
「ええ」
魔女は頷いた。
「じゃあこれからも宜しくね。私も負けたくはないから」
「それはこっちの台詞よ。絶対に負けないからね」
「わかったわ。それじゃ皆」
魔女は箒を進めさせながら言う。
「また会いましょう。次は負けないわよ」
「こっちこそ!」
華奈子の言葉が夜の学校に響いた。紫の魔女はその声を聴きながら満月の中に消えていくのであった。
第十話 完
2005・6・4
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