μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜
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第33話 過度の友情(後編)
わ、私は一体どんな現場の様子を聞いてるのでしょうか.......
確か私は第2回ラブライブが開催されることを大地さんに伝えようとして連絡をしました
途中までは大地さんと会話するのが楽しかった
一方的に熱く語ってただけのような気がしちゃうけど......
『なんで!!!なんでなの!!!!!なんで今ここに私がいるのに他の女の子と楽しそうに電話するの!?やめてよ!お願い!お願い!私を見て!!!私だけを見ててよ!!!!』
この女性の声は聞いたことない
誰なのかな?
それに.....もしかして......私、聞いちゃいけない事を聞いてしまったのかな?
大地さんは女性の事を《未遥》と呼んでいた
まさか.....大地さんの彼女...なのかな?
いや、多分違うよね?《他の女の子と楽しそうに電話するの!?やめてよ!》と言ってたくらいだから未遥さんは大地さんのこと好きなんでしょうね
うう....でも、なんだか胸のあたりモヤモヤするよぉ....
大地さん、付き合うのかな?
『未遥........』
表情はわからないけど、すごく困惑した声でその名を呼んでる
『うっ.....うっ....どうしてよ.....私は大地くんの事が好きなんだよ?....,ずっとずっと前から....』
『......なんなく気づいてた.....でもお前なら....俺が恋愛に興味無いって知ってるから言ってこないだろうって思ってたから』
『うん...だから今まで我慢してきた。大地くんがどんなに女の子に優しくしても、頭を撫でても....私は我慢しようって頑張ってきた』
未遥さんの言う通り、大地さんはとても優しい
私も大地さんの優しさに助けてもらった、きっとみんなも大地さんの優しさを知ってるはず
そして.....同じ人に恋をしているということも
もちろん、私も.....
きっと未遥さんも大地さんに心を奪われた人なんだな.....
『さっきの電話の相手...誰?μ'sの子でしょ?』
『そうだが.....君の考えてるような関係じゃない』
『嘘よ......だって....大地くんすごく嬉しそうな顔してたもん....大地くん、昔はそんなに人前で笑う人じゃなかったもん...』
訴えと共に嗚咽の混じった声が電話越しに聞こえる
切らなきゃ
でも.....この先どうなっちゃうのかな?
聞いちゃダメなんだろうけど、気になるよ...
『大地くんは私の前でしか笑わなかった!その笑顔が私に向けられていたんだって、嬉しかった!私だけに向ける笑顔、私だけにくれる優しさ、私だけに教えてくれる辛さ、私だけの大地くんの隣......私の居場所はここなんだって!思ってたの!』
『お前.......』
『大地くんが今まで苦しんできたってのはわかってる......それにつけ込むなんて思ってない。ただあなたの隣に寄り添っていたいだけなの!!』
『み、未遥...少し落ち着け---』
『落ち着くのは大地くんの方だよ!!!!!!!!』
あまりの怒声に暫し静寂がやってきた
大地さんの部屋の雰囲気はもちろん、私の耳元での出来事のはずなのに
部屋全体に広がる重たい空気
私の部屋はアイドルのグッズだったりポスターだったり....
中学の時に書いていた絵本だったり
自分で言うのも変な気がするけど、とても可愛らしい部屋
だけどそれは一瞬にして切羽詰った状況になってしまった
どうしよう.......こ、怖いよ.......
『.......して?』
『え?』
『どうして.......大地くんはそこまでμ'sに心を許してるの?』
『心を許すって....お前』
『彼女たちは大地くんの何を知ってるの?』
なんとなく....この先を聞いちゃいけないような気がする
『何を....?』
『その大切な仲間は大地くんの事をちゃんと理解しているの?』
『....何を言いたい』
『大地くんが記憶を無くしてるってこと、知ってるの?』
冷や汗が全身から吹き出しているのがわかる
多分私は2人が交わした会話の大半はよく理解していない
なにがなんなのか.......
いや、たとえ理解していたとしてもすぐ忘れちゃう
でも.....私の胸を締め付けているのは未遥さんの告げた一言
「.......っ」
口に出そうとしているのに声が出ない
震えている手を動かし、私はそっとスマホの電源を切り、それを眺めながら震える体が収まるまでじっとしていた。
だけど、いつまで経っても震えは止まらない
ショックが強すぎて頭が混乱している
それでも何とか喋ろうと口を動かす
「記憶が......無いって......」
私の声は今までにないくらい掠れていた。
.......記憶.....喪失?
.................なんで?
〜☆〜
「.........」
俺の知っている未遥は、こんなんじゃ無かった
容姿や笑顔、持ち前の明るさで女子だけでなく
未遥が苦手としていたにも関わらず男子からも人気は高かった
自分が先頭に立って何かをするわけでもなく、それこそ
ことりと同じ様な立ち位置でクラスを支える彼女は
自分勝手な事は決して言わなかった
どんな時も相手の顔色を伺い、相手にとって1番ためになるアドバイスや助言をしてくれる頼もしい女の子だった
俺もその頼もしさに何度助けられたか......
だけど......だけど今ここにいる彼女はそんな頼もしさや優しさなんて微塵も感じない
「ねぇ、どうなの?」
じわりと距離を詰めてくる未遥に合わせて俺は一歩、また一歩と後退る
「し、知らない.....何も、伝えてない」
「そう........」
俺は別に話したくないから話さなかったわけじゃない
話したところで過去を変えられるわけでもないし、何かできるなんて思っちゃいないから
「私は....大地くんと一緒にいたい。そんな何も知らない女なんかに渡したくない!!」
もしこれがいつもの未遥からの告白だったら
どうなっているのだろうか
恋愛が興味無いとはいえ、間違いなく未遥に惹かれていたのは事実だし自覚もしてる
俺は未遥の期待に応えると思う
それが未遥の望んでることだろうし、俺も心のどこかでは望んでるかもしれない
じゃあ....《今》の未遥は?
未遥は俺の事が好きだと言った
これは本心からの想いだ
だけどそれと同時に並べられる言動がわからない
大地くんは私のモノ
大地くんの笑顔は私だけに向けられていいもの
大地くんの隣にいていいのは私だけ
大地くんの優しさを受けるのは私だけ
どこか...焦っているように見える
誰にも渡したくない......そんな焦り
「何が....未遥をそこまで変えたんだ?」
「何も変わってないよ?私は私。大地くんの事が大大大大大大大大大大好きな大槻未遥だよ?」
「俺が知ってるの未遥はそんな笑い方や言い方はしない!!」
未遥が惨めで...可哀想に思えて思わず目を伏せる
だって......未遥は泣いてるんだ
しかもただ泣いてるんじゃない
歪な笑みを浮かべながら涙を流しているんだ
顔がくしゃりと歪み.....好意、悲愴、困惑、焦燥
様々な感情が入り乱れている
俺が......俺が未遥をここまで苦しめていたのか?
「大地くん....私を受け入れて....私は君がいなくてずっと寂しかったの。そして後悔したの。《ちゃんと想いを伝えておけばよかったな》って.....だから私は大地くんにこうして告白したの。私は大地くんが好き.....大地くんも私の事が好きよね?だってクリスマスのデート....私の誘いを快諾してくれたもん。クリスマスって大事な人と過ごす大切な1日だって知ってるよね?だから私とデートしてくれたんだよね?私の事が好きだから一緒に手を繋いでパフェ食べたり服を買ってくれたり、ゲーセンでプリクラ撮ってくれたり、お昼ご飯少し高いフレンチレストランに連れて行ってくれたり......私が払うって言ったのにそれを制して全部払ってくれたんだよね?映画にも連れて行ってくれた.......クリスマスプレゼント....私がマフラー無くしたからって新しいのプレゼントしてくれた。ほら、私達カップルじゃない。ははっ.....ははは...!」
狂気に満ちたその笑みは俺の滲み出る汗と恐怖を一気に掻き立てる
俺が未遥を苦しめてここまで凶変させてしまったのなら
俺が元に戻すしかない
俺が好きな未遥は.....自分勝手な事を言う子じゃない
相手の気持ちを最優先に考える未遥に惹かれたんだから!!!
「俺は......未遥が嫌いだ」
「..........え?」
「俺は......お前が嫌いだ」
「..........」
今の未遥にとって痛恨の一言を放つ
俺だってこんな事は言いたくなかった
ましてや俺の《初恋》かもしれない相手に拒絶の言葉を投げつけたのだから
「俺を好きになってくれたのは素直に嬉しい。支えたくれた未遥に感謝してる。お前の気持ちに応えたいって思ってる!!だけど!!!こんなの間違ってる!!!好きだから相手の事を縛って身勝手な想いだけズラズラ並べて押し付ける....そんなのは違う!!相手をを尊重し、助け合い、相手を一番に考えることが《恋愛》なんじゃないのか!?」
「私はいつでも何処でも大地くんを1番に考えている!!!!!」
ピリピリと張り詰める緊張感
俺も未遥も沈黙し、時計の針の音だけが響く
ごくり、と生唾を飲み未遥の反応を伺う
お願い....正気に戻ってくれ........
これ以上お前の豹変した姿なんて見たくない
「.............ははっ....ははははっ.......嫌い.......嫌い.....ははっ」
「みは.....る?」
俺の願いは虚しく、未遥は空っぽの目と共に顔を上げる
依然として表情は凍りついた笑みのまま
ドンッ
「なっ!!!!」
俺は未遥にされるがままに押し倒され、
両手をガッチリホールドされる
未遥のやつ....どこにそんな力持ってたんだよ!!
振りほどこうにも未遥の力は尋常じゃないくらい強く
男の俺でさえ動けない
「未遥!離せ!」
「大地.....くん.....ちゅつ」
俺は.....未遥とキスしてるのか?
ぐいぐいと自分の唇を押し付けてくる未遥に対し、俺はされるがまま硬直する。そのまま未遥は腕を離し、俺の首に手を回しながら、貪欲に貪るようなキスをしてくる
「んっ....ちゅうっ.......ちゅるっ.....」
フレンチなキスから一気にディープなものへ変わる
「ちゅっ!ちゅうっ!んはっ、ちゅるっんんっ!」
「っ!!!」
待て!未遥!!
驚きのあまり俺は束縛から解放されるべく藻掻く
だが藻掻いても藻掻いても未遥はキスを辞めようとせず、むしろさらに濃厚にキスを求めてくる
未遥は俺の口内に舌を侵入させ、唾液を送り続ける
息が続かなくなり《はぁっはぁっ》と吐息が俺の顔にかかる
「んんっ...ぷはっ!!!」
「はぁっ.....はあっ....」
さすがに未遥を酸素が足りなくなったのか一旦唇を離す
その時に垂れた唾液の糸が引いて、艶めかしさを感じさせる
死ぬかと思った
「はぁっはぁっ......ふふ、これで....大地くんは私のモノ....私の大地くん。嫌いだなんて言わせないよ?ははははっ.....」
一方未遥は嬉しそうににこにこ笑う
笑っているんだけど目は泣いていた
悲しいんだ......きっと彼女もわかっていたんだ
こんな事、間違ってるって
「ははっ.....大地くん......」
未遥は怯えるように頭を抱え自分の感情が支離滅裂となっていた
俺は立ち上がりそして
パチンッ!
未遥の空っぽの笑いに続いて乾いた破裂音
無意識に俺は右手を振り上げ、そのまま未遥の頬へ振り切っていた
女の子を叩くなんて外道だ
つかそもそも女の子を叩くこと自体初めてだ
「.............」
こんな事をした未遥への憤りとか恐怖とかも入り混じってるけど
なにより未遥が変わってしまったことへの悲しみと俺が傍にいてやれなかったことへの後悔の方が強かった
「ごめんな......未遥」
「え?」
叩かれた頬をさすりながら俺の謝罪の言葉に驚く
「俺が自分の気持ちに素直になって未遥の傍にいればよかった.......」
「え?大地くん?」
「俺がもっと....未遥の気持ちを最優先に考えればよかったんだ....」
「ち、違うよ?大地くんに私だけを見て欲しかっただけなんだよ?」
「本当にそれだけか?」
「え?」
「本当に見て欲しかっただけなのか?」
「..........」
「本当は未遥の気持ちに気づいてたんだ.....そして俺の君に対する気持ちも」
自分の胸元に手を置き、ぎゅっと力を込める
「だけど怖かったんだ。仮に俺が告白して....もし君の気持ちがそうじゃなかったら.....関係が壊れるんじゃないかって怖かったんだ」
「わ、私は......」
肩を震えさせて怯えた子鹿のような未遥の手をそっと取り、未遥の目を見て俺は告げる
「だから.....ごめん!俺が間違ってた.....俺が君を変えてしまった!!ごめん!.....ごめん.....!」
未遥に罵詈雑言されても構わない
叩かれても、殴られても構わない
もう未遥と仲良しになれなくても.....それは俺の犯した罪だから
あの時の居心地の良さを守ろうとたったそれだけの為に未遥を苦しめた俺の責任だから
もう一度やり直したいなんて思ってない
これで未遥が許しても、俺自身が俺を許せない
「.......」
未遥は無言のまま俺を見つめる
未遥の近くで頭を下げているから表情はわからない
だけど俺の手の甲に1粒、2粒と雫が落ちてくる
「どうして私.....こんな風になっちゃったのかな?」
その声は俺の好きな甘く、それでいて透き通った聞き慣れた声
つい数時間前まで交わした、未遥の声
「初めは大地くんを『助けたい』、『支えたい』って思ってたはずなのに。いつしか『笑顔が見たい』、『隣にいたい』って思い、気がついた時には『大地くんの笑顔は誰にも渡さない』、『大地くんの優しさ、隣には私だけのもの』って思ってた」
ポタポタと落ちる涙は暖かくて未遥が戻ってきたんじゃないかと..そんな気がした
「顔を上げて?」
そう言われ、恐る恐る顔を上げる
「....大地くん....ありがと♪」
未遥はあの時のように....『友達になろう』と言ったあの時のように微笑みをくれた
「大地くんは.....もう私は必要じゃない。君には君の事を大切に思ってる仲間がいる。だから.....大地くんは......私がいなくてもちゃんとやっていけるんだね.....」
「.....ははっ...な、なにを偉そうに言ってるんだか。さっきまで俺の事独占しようとしてアツアツのキスしてきたくせして」
「ちょっ、ちょっと掘り返さないでよ!!あれでも私のファーストキスなんだからね!!」
頬を膨らませて照れる未遥を見てると『やっぱり未遥は未遥だな』っと思う
さっきまでの雰囲気は雲に隠れ一切見せることはなくなった
「俺も一応そうなんですがね....そこんところあんまり気にしちゃいないけどさ」
「そうなの?あ、私がファーストキスの相手で嬉しい?嬉しいでしょ?」
「お前なぁ.....あの雰囲気で嬉しいもクソもあるか。これでも喰らえ」
「いたっ!!もう!いきなりデコピンなんて痛いじゃない!」
そんなお怒ってるの笑ってるのか、嬉しがっているのかわからない未遥をそっと抱きしめる
「未遥.....」
「大地.....くん。.....もうまたそうやって誤解されるような事を」
「いいんだよ。俺の気持ち知ってるならそれで」
「......ほんと...女たらしね。せっかく....わ、私は.....うっ....大地くんの事を...あ、諦めようとしてたのに....ふえっ......大地くんの温もり感じちゃってたら....諦められない、じゃないの」
涙で掠れはじめた声を聞きながら、俺は強くより強く抱きしめる
それに答えるように俺の背中に手を回す
「俺は未遥に会えてよかった、未遥がいなかったら....あのまま重圧に押し潰されてた.....俺を助けてくれて、ありがとう。俺を好きになってくれて....ありがとう!!!」
「私こそ.....いつも傍にいてくれて嬉しかった。頭を撫でてくれて嬉しかった。ありがとう.....大好きだよ....大地くん」
俺たちはお互いに足りないところを埋めてきた
俺に足りない『人の温もり』
未遥に足りない『愛情』
お互いできること、出来ないことがはっきり分かれていたからこそ
2人は惹かれ合った
だけどお互い自分の気持ちを隠し、現状維持をしてしまった結果
『依存』が生まれた
俺達はすれ違ったまま....時を共に過ごしてしまったんだ
「もしね」
「うん?」
「....もし、辛くなったらいつでも私のところにおいで?....私はいつでも歓迎するから」
「........わかった」
妙に夕焼けが眩しいと感じた
〜☆〜
「はい、350円のお釣りで〜す!ありがとうございました〜!!」
よし、後10分で閉店の時間だ
ファイトだよっ!
とはいえ、この時間帯は殆どお客さんが来ない
いつも雪穂7時前に店閉めの準備するから
穂乃果もそろそろ閉めようかな
そう思い、店のユニフォームを脱ごうとする
ガラガラガラ
と、お客さんが来てしまった
危ない危ない
「いらっしゃいま.....あ!大くん!!!」
なんとなんと!!大くんが久しぶりにウチにやって来た!
なんだろう...心無いか目が充血してる
寝不足?でも今朝は普通に元気だったし
気のせいかな?
「大くん!良かったらウチに上がってよ!ほむまんご馳走するよ!」
「.........いや、いつもの餡蜜黒砂糖入で頼む」
「え?あ、うん、わかった」
ぼそぼそと小さな声で注文する大くんに疑問を覚える
(なにかあったのかな?目のあたり腫れてるし充血してるし.....まさか、泣いてたの?)
軽食スペースの椅子に腰掛ける大くんをちらちらと横目で見ながら、餡蜜を準備する
なんとなく.....昔の大くんと重なってるような.....
「はい、お待ちどうさま」
「......ありがとう」
餡蜜をテーブルに置いても尚、食べる仕草をしない
ただ餡蜜を見つめてぼ〜っとしている
時々すでに暗くなった外を眺め、また視線を餡蜜に戻す
「どうか....したの?」
勇気を振り絞って聞いてみた
「........人ってさ......」
「ん??」
「どうして........相手の事を好きになっちゃうんだろうな」
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