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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第一部 PHANTOM BLAZE
CHAPTER#12
  VERMILION&PLATINUM DANCE

【1】

 部屋に、重い沈黙の(とばり)が舞い降りた。
 アラストールの言葉を通して語られた、
DIOの途轍もない存在に全員が感応し、
その場にいた全ての者が言葉を閉ざすこと以外を余儀なくされる。
 その重苦しい沈黙の中、ようやくジョセフが口を開く。
「あの日……君がズタボロの姿で帰ってきた夜……そんな事が有ったのか?
強敵だとは言っていたが、その相手がまさかあの、『DIO』だったとは……」
 動揺を隠せぬ表情で、脇にいるシャナを見るジョセフ。
「すまぬな。盟友(とも)よ。隠すつもりはなかったのだが、
機が来るまで黙って置いた方が良いと我が言ったのだ。
もし真実を知れば、お(ぬし)]]の性格上すぐさまに屋敷を飛び出し、
彼の者に挑み掛かって行きかねんのでな」
「む、う……そ、それは」
 違うと否定したかったが、確かにアノ時本当の事を聞かされていたら
果たして自分を抑える事が出来たかどうかは正直自信がない。
 何しろ『波紋使い』ではない普通の人間である妻のスージーですら、
惨たらしく傷ついたシャナの姿に動転し、
“次からは私も一緒に付いていくッ!”
と言って聞かなかったのだから。
「……」
 承太郎は、鋭い眼光でシャナの胸元のアラストールを見つめていた。
「なるほどな。この空条 承太郎に喧嘩を吹っ掛けてくるだけあって、
なかなかヤりやがるみてーだな。そのDIOのヤローはよ」
 取りようによっては傲慢とも受け取れる承太郎の言葉に、
いつもならここでシャナのツッコミが入る所だが
今少女に彼の言葉は届いていなかった。
(逃げた……私は……“逃げた”……ッ!)
「屈辱」 が胸の内に甦り、全身が己に対する怒りで燃え上がる。
(アラストールの “フレイムヘイズ” であるはずの……この私が……!)
 肩を震わせるそのシャナの心情を敏感に察知したジョセフが、
小刻みに揺れるその小さな肩に、そっと自分の右手を乗せた。
「……ッ!」
 いつもの凛々しさは影を潜め、シャナは今にも泣き出しそうな瞳でジョセフを見る。
 その視線を黙って受け止め、ジョセフは静かに穏やかに、そして優しく言った。
「シャナ。逃げた事を恥じる必要は全くない」
 顔に刻まれた、巨木の年輪を想わせる深い皺の数に裏打ちされた、威厳のある声。
「ワシもかつて、若き頃。「神」に匹敵する強大な力を手に入れた
『究極生物』と戦わねばならなかった時、最初は逃げた。
相手の正体も解らない、能力も解らないでは勝機はゼロに等しいからな」
 そう言うとジョセフは突然何かを思い出すように顎髭に手を当て、
そして少し俯いた。
 そのまましばらくしてその顔を上げると、
「 “人間の偉大さは恐怖に耐える誇り高き姿にある” 」
と一息に言った。
「ッ!?」
 言われたシャナはキョトンとなる。
「ギリシアの史家、プルタルコスの言葉だ。古き 『戦友』 の受け売りだがな」
 そう言うとジョセフは、少しだけ淋しそうな表情をその顔に浮かべ、
自嘲気味に笑う。
「その男」 は、もうこの世界にはいない。
 今は此処(ここ)とは違う別の世界で、
“JOJOのヤロー、オレのセリフでカッコつけやがって ”
とでも言っているのだろう。
「君は、 「恐怖」 を知った。
あとはそれを乗り越え、「成長」 に変えていけば良い。
それが「生きる」という事だ。
ワシも “アイツ” も、そうやって強くなっていった」
「アイツ?」
 シャナのその質問に、ジョセフは穏やかな微笑だけで応じた。
 その瞳には、微かに切なげな色があった。
 もし “アイツ” が現在(いま)、“この場所にいたとしたら”
果たして一体、何と言っただろうか?



“マンマミヤー! 可愛らしいお嬢さん! 貴女(アナタ)が御無事で本当に良かったッ!
御安心ください! この私が全力で貴女を御護(おまも)り致します!!”




 とでも言ったのだろうか?
 もっと共に生きていたかった。
 喩え一分でも、 一秒でも。
 同じ 『宿命』 を背負う者として、共に切磋琢磨し、
辛い時も苦しい時も、互いの存在が自分を支えてくれた、
本当の “親友” だったから。
 互いが互いの、「誇り」そのものだったから。
 自分の家族を、見せてやりたかった。
 自分の孫を、逢わせてやりたかった。
 そして。
 最近出来た、紅い髪と瞳を持つ、誇り高く心底負けず嫌いなもう一人の 「孫」 も。
 そのもう一人の孫に、ジョセフは優しい口調で言い聞かせるように告げる。
「大丈夫じゃ。君ならその 「経験」 を(かて)に、今よりもっと強く
「成長」 する事が出来る。このワシが保証するよ」
 目の前の少女、その小さな姿に何故か、
かつて偉大なる 『風の戦士』 に啖呵(たんか)を切った若き日の自分が折り重なった。
(乗り、越える? 「成長」 ?)
 身体の 「生長」 が止まった、フレイムヘイズで在る自分には、
いまいちピンとこない話だった。 
 だが、奇妙な説得力が実感としてあった。
 その自分の心情を知ってか知らずかジョセフは、
春の陽光のような優しい微笑みを向けてくる。
「得体の知れぬ、それも “アノ男” を相手に、
よくたった一人で孤独に闘ったと思うよ。その小さな躰でな。
シャナ。ワシは君を誇りに想う」
「……ッ!」
 ジョセフのその穏やかな言葉に、シャナは何故か目頭が熱くなった。
 反射的に俯いて目蓋の裏に力を込める。
 自分も含めて、今まで逃げた事を(ののし)るフレイムヘイズはいても、
褒めてくれる者など決して誰もいなかった。
 そしてそれは、当たり前の事だと思っていた。
 今でもそう思っている。
 では、なんなのだろう?
 いま心の中を流れる、この温かな気持ちは?
「ッ!」
 不意に、頭の上に熱を感じた。
 空条 承太郎が、自分の頭にポンッと手を置いていた。
 そして。
「良かったじゃねーか。死なずにすんでよ」
 (くだん)の剣呑な瞳で自分を見つめながら、彼は静かにそう言った。
 ぶっきらぼうな言い方だが、手の平から伝わる熱からは
本当に自分の身を労り、無事を喜んでくれているのが感じ取れた。
 感情を無闇に表現しないという性格は、
同時に己の感情を偽らないという事にも繋がる。
 苦しんできた者には、慈悲を。
 傷ついてきた者には、慈愛を。
 差し伸べずにはいられない。
 それが、例え終わりのない 「悲劇」 の始まりだったとしても。
 何度も。何度でも。 
 それが、ジョースターの血統の者。
 それが、何百年にも渡り受け継がれてきた 『黄金の精神』
「ヤローの腕一本ブッた斬ったんだろ? オレの 「分」 残しといたンだよな?」
 変わらぬ静かなトーンで再び承太郎は言った。 
 慰めなのか戯れなのか、ともあれDIOにも勝る響きで耳に届く承太郎の言葉。
 手から伝わる暖かな熱、水晶のような静謐さと気高さを併せ持つ怜悧なる美貌、
陽光に煌めくライトグリーンの瞳と両耳のピアス、仄かな麝香の匂い。
(……え!? う、うそ、やだ! ちょっと待って!?)
『星の白金』の真名に恥じないそれら全ての要素に、
浄化の炎を遙かに凌駕する温もりを感じ
 ()けた心に不覚にも涙腺が決壊しかけたシャナは神速で部屋を飛び出した。
 顔を見合わせる承太郎とジョセフの耳元に洗面所の方から
勢いよく流れる水の音が聞こえてくる。
 しばしの間。
「……」
 アラストールに渇かしてもらったのか水滴一つ無い顔で、
檜の床を踏み鳴らしながらゆっくりと戻ってきたシャナは
承太郎をキッと睨み付けると件の如く
「うるさいうるさいうるさい!」
と遅いリアクションを返した。
 灼眼でもないのに目が微妙に赤いのが気になったが、
ジョセフも承太郎も何も言わなかった。
「しかしまさに、九死に一生とはこの事だった」
 何事もなかったかのようにアラストールが話を続ける。
「もしあのまま彼の者との戦いを続けていたら、
この子、シャナもまたこの小僧のように 「肉の芽」 で下僕にされていただろう」
「そしてこの少年のように、数年で脳を喰い尽くされ死んでいただろうな。
或いは――」
 ジョセフは憐憫(れんびん)の表情で、畳に横たわる花京院を見つめる。
 そのジョセフの言葉に、承太郎の瞳が(いぶか)しげに尖った。
「死んでいた? ちょい待ちな」
 承太郎の視線が祖父であるジョセフの両眼を真正面から鋭く射抜き、
それから脇にいるシャナを一瞥する。
「この花京院のヤローはまだ」
 そう言葉を発する承太郎の背後からスタンド、スタープラチナが
その獅子の(たてがみ)のように長く雄々しい髪を揺らしながら勢いよく出現する。
「死んじゃあいねーぜッ! シャナ!」
「了解ッ!」
 承太郎が片膝をつき両手で花京院の頭部を固定するのと同時に、
シャナの髪と瞳が、“炎髪灼眼” に変わる。
 そして即座に華奢な躰をフレイムヘイズの黒衣が拡がって包み込んだ。
「オレのスタンドで! こいつの 「肉の芽」 を引っこ抜く!」
 承太郎は簡潔に言うと、スタープラチナの手が素早く精密な動作で
花京院の額に埋め込まれた 「肉の芽」 に伸びた。
「早まるな! 承太郎ッ!」
 ジョセフは驚愕の表情で、孫である承太郎に叫ぶ。
「騒ぐんじゃあねーぜ! ジジイ! 気が散るから静かにしてろッ!
こいつの脳をキズつけずに 「肉の芽」 を摘出(てきしゅつ)する……
オレの 『スタンド』 の 「指先」 はッ!
目の前で発射された弾丸を一瞬で掴み取るほど 「精密」 な動きが出来る!」
 承太郎が集中力で研ぎ澄まされたそのライトグリーンの瞳で
「肉の芽」 を見るとほぼ同時に、彼に折り重なるようにして出現している
スタープラチナの指先が微塵の躊躇なくソレを摘んだ。
「やめろッ! その肉の芽は “生きている” のだ!!
なぜ肉の芽の 「一部」 が額の外に出ているのかわからんのか!
優れた外科医にも摘出できないわけがそこにあるッ!」
 外部からの刺激に反応した 「肉の芽」 が、一度生々しく(うごめ)くと、
露出した触手が毒蛇のように鎌首を(もた)げて延び、
高速で頭部を固定する承太郎の生身の手へと襲いかかった。
「摘出しようとする者の 「脳」 にッ!
ソレは侵入しようとするんじゃああああああああああああ――――――――ッッ!!」
 ジョセフの痛切の叫び。 
 そのドリルのような触手の先端が承太郎の手に突き刺さる瞬間、
ソレは突如音もなく真っ二つに両断された。
「何ッ!?」
 ジョセフは、その両目を見開く。 
 斬られた触手はすぐに、その宿主譲りの驚異的な再生能力で瞬時に元に戻り、
再び承太郎の手に潜り込もうとする。
 が、“それよりも速く” その触手全体が “燃え上がりもせずに” 蒸発した。
「!」
 いつのまにか、承太郎のそのすぐ真横にシャナが大刀を片手に構えて立っていた。 
 その手には、溶鉱炉の中で融解した鋼のような峻烈(しゅんれつ)なる色彩の刃が握られていた。
 刀身の周囲に揺らめく陽炎が舞い踊る、灼紅(しゃっこう)の大太刀。 
 ソレは。
 DIOとの戦いによって己の未熟さを悔いたシャナの、
血の滲むような鍛錬の結晶の末に生み出された、新しい炎刃の(カタチ)
“火炎そのもの” ではなく、熱をより強力に円環状に集束させ、
加粒子に近い状態で刀身内部に宿らせる。
 その為に持続力は低下し、存在の力も多く喰うが威力は飛躍的に上昇した。 
 強靭無比。閃熱(せんねつ)の劫刃。
『贄殿遮那・煉獄(れんごく)ノ太刀』
 本能的に危機を察知したのか 「肉の芽」 は、
花京院の額の皮膚と癒着していた触手を全て剥離(はくり)させ
本体を摘出しようとする承太郎へと一斉に襲い掛かった。
 しかしそれら全部まとめて朱の軌跡を描いて空間を疾走する
紅蓮の劫刃に両断され、そして今度は再生前に全て蒸発する。
「UUUUUUUGYYYYYYYYYYYY―――――――――――!!!!」
 スタープラチナの引き絞られた指先に掴まれている 「肉の芽」 の本体は、
奇声を上げて蠢き再び触手を量産し始めた。
 ものの数秒で先程の数の倍はある触手が再生を完了し、
死体に群がる禿鷲のように大挙して承太郎の生身の手へと襲い掛かる。
「ッッシィィィ!!」
 しかしそれすらも、キレのある喊声と共に瞬時に空間を疾走する
灼熱の斬撃によって全てバラバラに斬り落とされた。
「その調子だ! 「肉の芽」 の触手を一本たりともこっちによこすんじゃあねーぜ!」
「うるさいうるさいうるさい! 誰に向かって言ってるの!」
 出逢って一日の二人が、まるで十年来の相棒(パートナー)同士のような
優れた連携を見せつける。
(いかせるわけ……ないでしょ……おまえの所になんか……絶対にッ!)
 シャナはそう強く己の胸に誓い大刀を振り乱した。
「ッッ!!」
 不意に、頑なに閉じられていた花京院の両眼が見開く。
 清廉な琥珀色の双眸が、真正面から承太郎の姿を捉えた。
「…………空……条……? お……まえ……」
 眼前の事態がとても信じられないのか、花京院は驚愕の表情で承太郎を見る。
「ジッとしてな。花京院。動けばテメーの脳は永遠にお陀仏(だぶつ)だぜ」
 承太郎は花京院が目覚めた事など意に返さずそれだけ告げると、
全身の神経が指先で一体化したような精密な動きで
微細な振動すら起こさず 「肉の芽」 の本体を抜いていった。
「む……ぅぅ……」
 ジョセフは、今、自分の目の前で行われている
壮絶なる光景に想わず息を呑んだ。
(ワシの孫は、いや、孫 “達” は……全くなんて奴らだ……ッ!
承太郎は熟練の外科医でも不可能な 「肉の芽」 の摘出手術を行っているにも関わらず、
その手(さば)きは冷静そのもの……! 
本体もスタンドも震え一つ起こさず精密機械以上に、力強く正確に動いているッ!
対してシャナは、微塵の誤差もなく触手のみを切り裂き、
承太郎の身体数㎜の位置まで正確に探知している!
それなのに承太郎本人にはキズは(おろ)か焼け焦げ一つ付いておらんッ!)
「…………………………………………」
「はあああああああぁぁぁぁッッ!!」
 静と動。
 二つの絶技が、半径3メートルにも満たない空間の中で互いに折り重なって交錯する。
「ッッ!!」
 シャナは。
 胸が、奇妙な高揚に充たされているのに気がついた。
 自分は今。
 使命以外、“戦い以外の事で” 贄殿遮那(カタナ)を振るっている。
“戦う為にではなく” 誰かを護る為に、助ける為に。
 今までの使命とは、全く違う剣の使い方。
 しかし、悪くない。
 悪くは、ない。
 その口元に、いつしか微笑が浮かんでいたのにシャナは気づいていなかった。
(悪くない)
 胸の奥、体の芯、足の底から、力が叫ぶように湧き上がってきた。 
(悪く、ないッ!)
 灼紅の大太刀に灼眼が映え、笑みが頬に強く刻まれる。
 それと同時に、斬撃の廻転が加速度的に上昇した。
(ここだッ!)
「肉の芽」の本体が花京院の額から半ば露出した所で、
承太郎はその下部から伸びている骨針が脳の致命点を通り過ぎた事を確信する。
「ッッッッラァァァァ!!」
 音速の手捌きで素早く 「肉の芽」 の本体を花京院の額から摘出すると、
スタープラチナは即座に両手で、周囲で蠢く触手の束を全部まとめて引っ掴み
その怪力でバラバラに引き千切った。
「コオオオオオオオオオォォォォォォ――――――――――――――!!!!」
 その背後で、ジョセフが既に『波紋の呼吸』を練り始めていた。
(驚いてばかりもいられんッ! ワシとて歴戦の 『波紋使い』
まだまだ若いモンにゃあ負けはせんッ!)
 やがて。
 その全身から迸る、煌めく山吹き色の生命光が右手に集束していく。
「50年振りに行くぞぉぉぉぉぉぉ―――――――――――!! 太陽の波紋ッッ!!
山 吹 き 色 の 波 紋 疾 走(サンライトイエロー・オーヴァードライヴ)――――――ッッッッ!!!!”」
 ジョセフの渾心の叫びと共に高速の掌打が撃ち落とし気味に触手本体に叩き込まれ、
「肉の芽」 は鉄扉(てっぴ)に流弾がブチ当たったかのような
音を立て瞬時に跡形もなく蒸散した。
「な……?」
 血が伝うこめかみを手で押さえながら、花京院は呆然とした表情で承太郎を見る。
「……」
 承太郎はまるで何事もなかったようにすっと立ち上がると、
花京院に背を向けて歩き出す。
 その背に向けて、花京院は動揺と困惑を隠せない表情で訊いた。
「空条 承太郎。何故君は……敵である筈のボクを、自分の危険を冒してまで助けた?」
 その花京院の問いに、承太郎は背を向けたままで答えた。
「さあな……そこンところが、オレにもよくわからん」
「空……条……」
 感極まった表情で、 花京院は喉の奥に何かが詰まったように押し黙る。
「あと “こいつ” のサポートがなけりゃあできねー芸当だったぜ。後で礼いっときな」
 承太郎はシャナの紅い頭をむんずと鷲掴みにすると、そのまま部屋を出ていった。
「!」
 瞬時に真っ赤となったシャナが黒衣を翻して後を追う。
「こら! 待ちなさい! おまえ!」
「褒めてやったんだがな」
「うるさいうるさいうるさい! やり方が問題大なのよ! おまえの場合!」
 徐々に遠くなっていく二つの声。
 それを肩を震わせながら聞く花京院の瞳で、微かに光るものがあった。
「……」
 ジョセフはそれから目を逸らすと、静かにそこから立ち去った。
 庭で、鹿威しの澄んだ音が静寂した空間に響き渡る。
 その中心で、包容なる淑女が。
(お母さんは……ちゃんと解っているんですからネ♪)
 見る者全てを安息に包み込むような温かな笑顔で、純白のシーツを広げていた。

←To Be Continued……
















『後書き』






人の生命(いのち)を大事にしない『使命』に意味はあるのでしょうか?
更に言えば人の精神(こころ)を大事にしない『使命』に意味はあるのでしょうか?

はいどうもこんにちは。
灼眼のシャナ原作に、ホントうんざりするくらい出てくるこの『使命』という
単語ですが、言えば言うほど安っぽく得体の知れない嫌悪感と虚無感を抱くのは
ワタシだけでしょうか?
少なくもワタシは微塵も「共感」出来ませんでしたし心も震えませんでした。
(アナタは燃えましたか? それとも萌えましたか?)
大体人の生命を蔑ろにして、そして「世界のバランスだけ」保ってどうするんだと?
結局「自分が滅びたくないだけ」なのに、
ソレの一体どこが『崇高な使命』なのだと。
「自己保身」なら莫迦な政治家だって頼まれなくてもヤっています。
結論から云うとコレは本質的に愚劣な新興カルト宗教と同じ考えで、
作中でシャナがウザいくらい使命使命と連呼しているのは、
実はその信者が「尊師! 尊師!」と叫んでるのと同じコトなのです。

ジョジョを例に出して説明しましょう。
ジョジョ原作で『使命』という言葉を使うのは、
真っ先に6部のプッチ神父、7部のヴァレンタイン大統領が浮かびますが
(ブラック・モアとかもそうですネ)
このラスボスの二人ですら「人の生命を蔑ろ」にはしていないのです。
その『使命(目的)』が『人類の救済』『アメリカ国民永遠(とわ)の繁栄』で
在るために「多少の犠牲はやむ負えない」「痛み無き改革などない」
という「行動理念」が主人公側(徐倫、ジョニィ等)と「対立」
してしまうだけなのであり、人それぞれ考えや価値観は違いますから、
神父や大統領の方が好きという人もいて
それはソレで成立してしまうのです。
(ピンチの時の4番バッター、
「敬遠」するか? 正々堂々「勝負」するか? と同じコトです)

故に「人の生命を大事にしない者」に『使命』という言葉を使う「資格」は無い、
というよりソレは『使命』では無い、『エゴ(身勝手な自己満足)』だという方が
正確でしょう。
誰も助けてない、救おうとしていない、そもそも「助けたり救う気がない」
正にどこかの宗教団体と同じコトで「人類救済」を(うた)いながら
「毒ガス」を撒く、その『使命(エゴ)』が「人間を大事にしていない」から
起こる最悪の結末です。
おそらく「人間助けるために戦うのはベタだから、
世界の存在のバランスを守る使命を持つキャラしよう」と
安易に考えたのでしょうが、
その『使命』の「意味」が解ってないからこの体たらくです。
“人を大事にしない『使命』など存在し得ないのです”
軍人、医者、政治家、警察官、学者、弁護士、料理人、
更には飛行機のパイロットや船のキャプテン、
あらゆる業種スベテがそうです。
だから『本当の使命』を描写するため今回の展開に成りました。
原作のシャナじゃ花京院を助けません。
世界のバランスに関係ないし、人を大事にしてないからです(ましてや「敵」を)
しかしそんなモンで崩れるバランスなど崩れてしまえと想いますし、
そんなヤツに守ってなど欲しくないというのが本音の処です。
「私は私で勝手にやるわ。他の事なんかしらない」とドヤ顔でいうのは
一見カッコつけてるように見えますが
実は『責任』というコトから逃げているだけの非常にカッコ悪い言葉です。
ソレを『使命』という言葉で誤魔化しているのですから
そりゃ○ウムと同じと言われても何も弁解出来ません。
ワタシが作中で「使命」「フレイムヘイズ」とあまりシャナに言わせないのは
「尊師」「オ○ム」と同レベルの低次元な言葉を言わせたくないからであり、
彼女を原作の“呪い”から解き放ち『空条 シャナ』として再構成する
ストーリーだからと言えるのかもしれません。
・・・・多分大丈夫でしょう、吉良 吉影ですら8部では
結構良いヤツになってたのですから、
今の彼女は土の中で眠ってる「定助」みたいなモノですネ。
長くなりましたがソレでは。ノシ
 
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