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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第60話甘くてほろ苦い

2025年2月14日

今日は町中ハートの装飾まみれ。女目線で言う所謂ーーー勝負の日、バレンタインデー。女性が友達や恋人などにチョコレートを渡す、男女問わず楽しみに、そしてドキドキするイベントである。女性は好きな相手に渡せるかどうかでドキドキするのだろうがーーー男性は貰えるかどうかでドキドキしているだろう。何かさっきクラインからーーー本名、壷井遼太郎からメールが届いた。その文面にはーーー

【リュウの字、今日バレンタインなのによ~、オレ今のところ一個も貰ってないんだよ~!まだ昼前ってのもあるけどよ?流石に一個もないとなるとな・・・お前も多分貰ってねぇだろ?女子から貰うと嬉しい黒いアレだよ、アレ!】

こんなメール、送り先オレじゃなくてもいいだろーーーこのおっさん現実(リアル)でも仮想(バーチャル)でもこのキャラか。モテるように下心丸出しみたいな態度を取らなきゃ良い話じゃねぇか。【貰うって何をだ?カラスの死骸か?そんなの貰っても嬉しくも何ともないぞ】って返信してやろうかーーー

「竜くん?どうかした?」

「あー、悪い。何でもない。次は何を買うんだ?」

「え~っと、次は・・・」

クラインに返信しようと思ったけど、オレが今ーーー亜利沙と一緒にいるってあのモテないおっさんが知ったら後々めんどくさいから無視しよう。
そこまで深刻な怪我じゃなかったため、案外すぐに退院出来たオレは今日、亜利沙の買い物に付き合っている。別にデートとかじゃなくて、亜利沙の夢が叶うチャンスのために準備を手伝っている。
亜利沙の夢は水泳選手として、オリンピックに出場する事だ。半年くらい前にスイミングスクールを見学していた大会関係者の人がそこにいた亜利沙をスカウトされたのだけど、オレと未来の事もあったから保留にしていたらしい。だからオレたちが現実に復帰した今は勧誘を受け、アメリカのチームに留学という扱いで入団する事にしたそうだ。入団って言っても日本の12月後半には帰国するそうだから二度と会えない訳じゃないし、亜利沙の夢を応援しよう。というか亜利沙なら多分何の問題もないと思う、だって中一で水泳部のエースになった奴だもん。そもそも200m泳いで15秒切った奴だ、そんな甘い話じゃないけど、少なからず世界レベルでも通用すると思う。

「そういえば、未来ちゃんはどうするって言った?ALO始めるかどうか」

「やるって言ってたぜ。みんながいるから安心出来るんだろうな」

実はALOは須郷の元SAOプレイヤーを実験台にした違法実験が世間に報道されて、ALOのサーバーは当然ながら停止された。いや、それだけじゃない。《レクト》が開発していた5~6タイトルのVRMMOも開発・発売も中止になり、《レクトプログレス》は倒産した。その他の《レクト》の製品も発売中止になり、《レクト》本社も大ダメージを受けた。それで《レクト》のCEOをやっていた明日奈さんの親父さんはCEOを辞任した。でも和人の計らいからか、ALOの運営会社が新しくなり、なんとかALOの復活は出来た。
未来も回復し次第、ALOをプレイするそうだ。SAOであんな目に遭ったのに、それにALOであんな恐ろしい目に遭ったのに、我が妹ながら酔狂なモンだなーーーオレも他人の事言えねぇか。一番の理由はみんながいるからーーー弾がいるからだろうな。

「種族は何にするって言ってた?」

「プーカだってさ。あいつ歌うの好きだから」

「確かに未来ちゃん歌上手だもんね~・・・」

最初はインプにしようか迷ってたけど、みんなで説得してなんとかプーカになってもらう事は出来そうだ。何故頑なにインプになる事を阻止しようとしたかと言うと、インプの容姿が原因だろう。インプの羽はコウモリに似ていて、女性プレイヤーの装備は腰を露出したーーーハイレグ水着の上に鎧を着たような装備だからだ。まあそれくらいだったらオレは別に良いと思っていた。かんなの余計なコメントがなければなーーー

『未来がインプになると・・・ちょっとムチムチしてるから淫魔(サキュバス)に見えそうやな~♪』

ーーーそれだけは兄として絶対に阻止しなければならない。

「あ!そういえば竜くん、何でインプに転生しちゃったの!?」

「幻惑魔法の反動がデカイだろ?最悪誰かに噛みつくぞ。まあ前から興味はあったし」

実はALOの運営会社が変わって、アップデート5.0で実装予定だった転生システムを実装したからそれを利用した。幻惑魔法が使えなくなるけど、インプならではの暗視能力と屋内での短時間の飛行が出来るようになった。影から闇になって、自分でもどんどん暗い領域に足を踏み入れてるような気がしなくもないけどーーー楽しめればそれでいい。




******




買い物も全部終わって、オレは相当な量の買い物袋を持っている。まあオレが持つって言った訳だけどーーー

「そんなに持ってもらっちゃってごめんね?竜くん肉体的にはかなりキツいはずなのに・・・」

「全然平気だよ、良いリハビリになるし。そもそもオレ、今とんでもない怪力だぜ?」

確かに二年間のフルダイブですごく衰弱してたし、ALO事件の後に入院してたけどもうそこまで痛くないし、ドーピングの影響でこの荷物も全然重くないからな。SAOでずっと重い剣を振り回してたから、それと比べてるのかもしれないけど。
そういえば龍星の発明で左腕に信号素子のマイクロウェーブを当てて、ドーピングの効果を消せるとか言ってたな。もっと早くそうしてくれれば良かったのに。お陰で寝返り打って壁破壊した事もあったぜーーーまあその壁の向こうは父さんのフィギュアコレクションとかガラクタしかなかったから大して問題ないけど。

「あ!もう家着いたよ!」

「あ、着いたか。ここが亜利沙の家・・・」

デカイなーーー今どき珍しい和風建築だけど、結構良い家柄なのは分かるぞ。

「私の家、結構色んな分野で成功しててね。叔父さんなんて武道の達人で道場開いてるんだ。婿入りだから名字が違うんだけど・・・南雲白夜(なぐもびゃくや)って知ってる?」

「南雲白夜!?」

え?ウソ?まさか、あの人がーーー亜利沙の叔父さん!?

「知ってたんだ・・・すごい過剰反応だけど」

「・・・チビの頃からそこで武道を習ってた。娘の木霊(こだま)とは幼なじみだ」

「ウソ!?」

マジだ。オレがSAOで《体術スキル》を習得したのは白夜おじさんのーーー師範の教えてくれた武道の影響がデカイ。通り魔事件の後からやめちゃったけど、なんとなく忘れられなかったのかな。しかも師範の娘でオレの幼なじみの木霊と従姉妹とは、案外世間って狭いんだなーーー

「え~っと・・・じゃあ買い物終わったみたいだから、オレ帰るな」

「あ!ちょ、ちょっと待って!!」

今ごろ師範と顔を合わせられないと思って帰ろうとしたけど、亜利沙に呼び止められた。その直後、亜利沙は急いで家の中に入っていったーーー急いでるからなのかすごい音が鳴ってる。時々タイヤが擦れたような音も聞こえるしーーーあ、息切らしながら戻ってきた。

「ハァ・・・ハァ・・・」

「お、おい、大丈夫か・・・?」

「大丈夫・・・それよりコレ・・・」

「?」

息を切らしながら戻ってきた亜利沙が、オレにピンク色の小箱を手渡してきた。これはーーー

「chocolate?」

「えへへ・・・貰ってくれる?」

え~っと、これはーーー友チョコってやつか?それともお礼チョコ?何か少し揺らすとコロコロ音が鳴るな。トリュフチョコレートか。『かなり自信あるんだ』って言ってる辺り、手作りチョコ?なんか嬉しいな、女の子からこんなの貰うと。

「ありがとな。アメリカ行く時は、みんなで出迎えに行くよ」

「うん。日本に帰るまで、《リトルギガント》の完全復活はお預けね」

オレはチョコを受け取って亜利沙と短い会話を交わして、帰路への歩みを進めた。口の中に、甘くてほろ苦いチョコレートを放り込みながらーーーそうだ、まだ返信してなかったな。




遼太郎side

【ピロリン♪】

「お!やっと返してきやがったな!」

二時間くらい前にリュウの字に送ったメール、ようやく返信してきやがったぜ!全く!やっぱあいつもチョコ貰えなかったか!?まあこれで顔がよくてもチョコを貰える訳じゃねぇってのがあいつも身に染みて分かっただろ。キリトの野郎は美人妻が作ってくれんだろうけど、流石にリュウの字はそんな相手いねぇかぁーーー

【女子から貰うと嬉しい黒いアレ?ゴメン、もう食っちゃった】

野郎、裏切りやがった。しかもーーー

「何写真まで添付してんだコラァァァァァァ!!!!」

バレンタインなんてーーーなくなっちまえばいいのに!!
 
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