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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

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第26話 崩れる予感




ピンポーン










「んぁ?」







まったく朝からなんなんだ?

俺はインターホンを無視して朝食に手を付ける

うん、やっぱりパンはこんがり焦げ目のついた時が1番上手いよな




サクッ




ん〜!この味たまんね〜!!







ピンポーンピンポーンピンポーン







「ったくうるせぇな〜、母さ〜ん、誰か来たよ〜」




俺は二階にいる母さんを呼ぶ。せっかくの朝食が台無しだよ....







「大地出て〜、母さん今てが離せないの〜」




「あぁ?ったくしゃーねーなー」




コーヒーを啜り、渋々立ち上がる

つーか本当にうるせぇな、ピンポンピンポン鳴らしすぎだって

迷惑極まりないぞ




ガチャリ




「はい?どちら様で---「大く〜〜〜んっ!!!!」




ぼふっ




「うわぁっ何!?」




開けた直後俺に体重がのしかかり後ろに倒れ込む

朝から目の前に広がるのはサイドで髪を結って前髪を黒のヘアピンで止めている少女。

高坂穂乃果が満面の笑みを浮かべて俺の胸に顔をすりすりする。




「な、なんだよ穂乃果....朝から」




声はいつもどおりだが、穂乃果の胸があたり、心臓の鼓動がドクンドクンと速まる




「大くん....やったよ!!遂に来たよ!!!」




「来たって.....何が?」




穂乃果はずいっと顔を寄せて太陽の笑顔で告げる













「ラブライブだよ!ラブライブ!!ランクが上がったんだよ!」







「.....え?それって.....」




確か合宿中に確認した時は29位で『後少しだ頑張ろ〜』ってみんなで励ましあっていた

それからランクが上がったとなると.....




「ほら、見て見て」




穂乃果はスマホを取り出してウェブを開いて見せてくる










そこには確かにμ'sのランキングが19位と示していることが確認できた




























「おっはよ〜海未ちゃん!ことりちゃん!」




「おはようございます」 「おはよう穂乃果ちゃん♪」




神社前で4人は集合し、そこから一緒に学校へ登校することがまぁ...日課みたいになっている。

俺はできれば朝は静かに登校したいのだが、穂乃果がそれを断固拒否するのだ




「海未ちゃん見た!?19位だよ!19位!!」




「はい!私も驚きのあまり家で叫んでしまいました」




「遂に来たんだな.....おめでとう」




俺は本当に嬉しかった




設立当日はこの3人でライブをし、空席の多い講堂で廃校を止めたいという発端から全て始まった




それが今日までに6人人が集まり、ラブライブ出場向けて頑張ろうと意気込んでいたのがつい最近の出来事みたいだ。




「.......」




ふと、ことりを見ると悲しげな表情をしていた

その表情は一体どこからくるものなのか俺にはわからなかった




多分、誰にもわからないだろう




「ことり?」




「....えっ?」




俺はことりの頭を撫でて元気を出させる




「大丈夫か?」




「.....うん、大丈夫」




大丈夫と言うも俺は不安で仕方がなかった




「大くん大くん〜!」




どさっ




そんな俺を置いて穂乃果が後ろから抱きついてくる




「ちょっ穂乃果!朝からお前抱きつき過ぎだぞ!」




「ええ〜っ!いいじゃん〜!ラブライブ出場できるんだって思うといても立ってもいられなくて〜」




「だからって俺に抱きつくな〜!」




傍から見るといちゃついてる俺と穂乃果を見て




「......今日は私も抱きついたいです///」




ぎゅっ




「ちょっ!?えええっっ!?う、海未.....!?」




前から海未がぎゅっと抱きしめてきた

あんな照れ屋な海未が俺には抱きついてくるなんて!!




ご褒美ですか!?μ'sをここまで導いてきた俺にご褒美なんですか!?




「今だけ....ですからね///」




海未の表情は俺の胸で隠されているため見えないがきっと真っ赤にしているに違いない。


































放課後、部室にて
















「うわぁ〜っ!出場したらライブできるんだ〜っ!!」




「すごいにゃ〜!!」




穂乃果と凛がパソコンでラブライブの舞台をチェックして盛り上がっていた

俺も脇からのぞき込む。予想以上にすごい舞台だ。




アイドルの踊る舞台の周りを水で囲まれ、バックの巨大なスクリーンにはデカデカと『LoveLive!』と表示されていた

これだけで、本線は盛り上がること間違いないと確信した




「なにうっとりしてんのよ!.....ぐすっ....ら、ラブライブ出場ぐらいで...」




にこだってうっとりしながら見てたじゃないか

目から汗が流れてますよ〜にこさん




「...(ごしごし)。まだ喜ぶのは早いわ決定したわけじゃないんだから、気合いいれていくわよっ!!」




「その通りよ」




「絵里さん.......」




「穂乃果、ちょっといいかしら?」




絵里さんがパソコンの前に立ち、カチカチッとマウスを動かして別のサイトを開く




「これは.....『七日間連続ラブライブ』......??」




開いたサイトはA-RISEのホームページ。そこにはラブライブ出場に向けた最後の大詰めとしての活動が詳しく記載されていた




「へぇ〜...A-RISEすごいね〜」




穂乃果はまじまじとイベントの詳細を見る




「そんなにやるのかにゃ〜」




「ラブライブ出場チームは2週間後の時点で20位以内に入ったグループ。どのスクールアイドルも最後の追い込みに必死なん」




「20位以下に落ちたグループだって、まだ諦めていないだろうし....今から追い上げてなんとか出場を勝ち取ろうとしているスクールアイドルもたくさんいる。」




「つまり、これからが本番ってわけね」




「でも実際今できることって限られているんだろ?A-RISEみたいに七日間連続ライブなんて.....無理だろ」




真姫は腕を組んで考え込む....




「そうね.....普通に考えて今できることをするべきだと思うわ」




「ストレートに考えればそういうこと。喜んでいる暇はないわ」




「よぉしっ!今できることをもっと頑張らないと!!」




穂乃果は気合を入れ直し、ぐっと立ち上がる




絵里さんや希、真姫は冷静な様子ではあるが、穂乃果やにこ、凛は興奮し、花陽はこの状況に戸惑っているようだ




そりゃな....あの時から比べると現実離れしているからな




「君達みんななら大丈夫だよ。努力してきた結果がこれなら心配ないよ。みんな自信持っていこう!」




「大地くん....ええ、そうね」




絵里さんの微笑みがみんなに伝染していき、花陽や海未も笑顔にさせた。










「.........」




......どうしてもことりの様子がおかしい....

この状況が不安だ、というのならまだわかる

だけどことりのそれはラブライブに関しての表情じゃないことがなんとなくわかってきた




あ、




ふと海未と目が合った。

俺は目線をことりに向け、すぐに海未に戻す




「.....(こく)」




どうやら海未もことりの異変に気づいているらしい

任せても大丈夫のようだ










「大く〜ん♪」




「おいこら....///穂乃果なんなんだよ///抱きついてくるな!暑苦しいって!」




海未とアイコンタクトをしているところに穂乃果がダイビングしてくる

嬉しいけど.....嬉しいけど今はダメ。みんなに見られてるって




「えへへ...///だって嬉しいんだもん♪」




「だからっていちいち俺に〜抱きつくな〜」




コアラのように抱きつく穂乃果を剥がそうとしてもしつこいくらいにくっついてきて離れない




俺の腕に当たってる意外と大きい胸が形を変えて俺を誘惑してくる




.....あれ?穂乃果胸成長した?







「にゃ〜っ!!凛も〜っ!!」




ドガッ




「いったっ!凛まで!首っ!首締まってる!!」




後ろから凛が首目がけて突進してくる




胸の感触はこれから頑張れ!レベルだけど甘い匂いが俺の気分を高める




「ならウチも〜」




もにゅん♡




「かっ.......の、希....」




今度は穂乃果と反対の腕に希の豊満な胸が接触してくる

谷間に腕が挟まれて理性とブラザーがまずい事になってきた




「さ、3人とも......離してくれ....」




「ん〜?ウチ、大地くんが何言ってるかわかんな〜い♪」




ちょっ!上目遣いは無しだって!!

タンマ!!ほんとタンマーーーーーーーっ!!!!!!


































「「まったく!いい加減にしなさい!!」」













真姫絵里コンビのダブル鉄拳を喰らってようやく落ち着いた





































「コホン!とにかく、さっき大地くんが言ったように今から特別な事を今からやっても仕方ないわ。まずは今目の前にある《学園祭》に向けて、精一杯いいステージを見せること」




ひと悶着あってから絵里さんが話を戻し、まとめる




「それが目標よ!」




穂乃果とにこの目にはメラメラと炎が燃えていた













「よしっ!そうとなったらまずはこの部長に仕事を頂戴!」







「いいわよにこ...うってつけの仕事があるわよ」




「え....なに?」




絵里さんの微笑みはなにか企みが含まれていた































音乃木坂学院は昔から歴史と伝統のある女子高である

かといって勉強、部活と目立つようなところは多いわけではない

現に廃校になりかけていただけはある

そんな音乃木坂で唯一人がたくさん集まる行事がある







誰もが楽しく過ごせる二日間、音乃木坂の『文化祭』

生徒数が減っても尚、中庭や校門付近では1年生と2年生が縁日を催し、

3年生が講堂で演劇を披露する




今年はあまりにも生徒が少ないため、最近卒業生ばかりの先輩や昔卒業したおばさんが手伝いに来てくれるらしい

だからこそ、近所の学生、子供達、親子連れはもちろんのこと、わざわざ遠くから来てくれる人もいる。

特に女子高ということで男性の人が多い。年齢は問わずして...







そういえば.....中学時代にも一度だけ母さんと来たな

あの時はそんなに音乃木坂に興味なかったから『女子しかいないな〜』程度の感想しかなかったけど




コホン。とまぁ話が逸れたわけだが....




音乃木坂の講堂での行事は3年生の演劇の他に、部活ごとの催し物がある

ただし、部活ごとの催し物には決まり事があるみたいで.....
















ガラガラガラガラ........コンコンコンコン......



















「《帰宅部》!午後2時からの1時間の講堂の使用を許可します!」










「やったぁぁっ!!!さくらちゃん!やったー!」




「よかったね〜っ!!」
















「......なんで講堂の使用がくじ引きなわけ?」




「昔から伝統らしくて.....」




にこがむっつりとして眉をひそめる




つまり絵里さん曰く.....




講堂を使用するにはくじ引きで金のボールを当てないといけないらしい

それ以外はハズレで講堂が使えないとか....

絵里さんも眉をひそめる










.....つか、あんまりツッコミたくないんだけど、《帰宅部》って講堂使用する意味あるの?なにするわけ?




そもそも部活動に《帰宅部》が存在すること自体驚きなんだけど




「それでは茶道部どうぞ」




「は、はい!」




茶道部の生徒2人が前に進み、深呼吸してからガラガラを回す







ガラガラガラガラ.........コンコンコンコン




茶道部の出したボールの色は......







「茶道部!午後3時からの1時間の講堂の使用を許可します!」




「「やったぁぁっ!!!」」




二連続で金のボールが出てきた。

にこにもプレッシャーがかかる







「にこちゃん!がんばって!穂乃果も応援するから!」




「ぐっ....い、いくわよ!」




ズンズンと足音を鳴らしてガラガラの前に立つ先輩

その脇で穂乃果が『ファイトだよっ!にこちゃん!』と応援する




「そ、それではアイドル研究部....どうぞ」




にこは担当の生徒を凝視して威圧をかける




「見てなさい....!」




「が....がんばってください」




担当の生徒顔が引き攣ってるぞ....




にこがハンドルに手を掛ける




その様子を隣から応援する穂乃果




そして後ろから見守る俺、絵里さん、希、海未、ことり、1年生組

希は何か数珠みたいなのを手にして拝んでいる










「よし!うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」




気合を入れてにこはハンドルを思い切り回す



















ガラガラガラガラガラガラガラガラ........!







コンコンコンコン......
































































「どーーーーしよーーーーーっ!!!!」




「だ、だってしょうがないじゃない!くじ引きで決まるなんて知らなかったんだから!」




「あー!開き直ったにゃっ!!」




「うるさ〜い!」




「ううっ...!なんで.....!?なんで外れちゃったのぉっ!?」




「ど〜しよ〜っ!!!うわ〜っ!!!」




「まぁ、予想されたオチね」




「にこっち...ウチ、信じてたんよ...」




「まさかここまで運のない先輩だったとは.....マジで使えねぇ」




「海未ちゃん....私達これからどうなるの?」




「そんなこと私に聞かれましても....私だって混乱して頭が一杯一杯なのです!」




「うるさいうるさいうるさ〜いっ!!!悪かったわよ〜っ!!」







にこが引いたボールは白......講堂の使用が許可されなかったことを意味していた。

屋上にやってきてそれぞれが悲愴に明け暮れ、悩む結果となった。

なんてこった......




「みんな、気持ちを切り替えましょう。講堂が使えない以上他のところでやるしかないわ」




そんな時にみんなの気持ちを救ってくれるのは我らの生徒会長、絢瀬絵里さん。どんな時も臆せず、状況把握もしっかりやってくれる優れたお方




おかげでみんなの顔に真剣さが戻り、気持ちを切り替えた様子がわかる




「そうだな.....グラウンドも体育館もおそらく運動部系が使うだろうし.....残る場所となると....」




俺が考え込み、ふとある考えに達する




「そうだ....いいこと思いついた」




「それは?」




海未が首をかしげて尋ねる




「さぁみんな....俺たちにとって最高の場所がある。それはどこだ?」




いきなりの質問に十人十色の反応を見せる




「あ!!わかった!」




穂乃果がクイズの問題を当てたように手を叩いてみせる




「「「「「「「ええっ?」」」」」」」




「ここだよ!ここ!ここに簡易ステージを用意すればいいんじゃない!」




「ここって....まさか!」




その通り、屋上でライブをしようということだ。




「屋上ならお客さんもたくさん集められるだろうし!」




「屋外ステージってこと?おもしろそうやん!」




「確かに人はたくさん集められると思うけど」




「ことりちゃん、ここはわたし達にとっても大切な場所だよ。ライブをやるのに相応しいと思うな!」




屋外はμ's結成された時からずっと練習場所として使ってきた

俺たちの...想いが詰まった屋外で最高のライブを披露する

それはとてもすばらしいことじゃないか




「でも、それならどうやって屋上に人を呼ぶの?」




「確かに....ここならたまたま通りかかるということも無いでしょうし」




「下手すると1人も来なかったりして」




「ええっ!?それはちょっと....」




「1人も来ないとか....穂乃果達のファーストライブの時みたいだな」




「むっ?大くんそんなことを言うのは酷いと思うよ」




しまった、口に出ていたか...反省反省




「花陽ちゃん!だったらおっきな声で歌おうよ!」




「はぁ〜、そんな簡単なことで解決できるわけ---「校舎の中や外を歩いているお客さんにも聞こえるくらい歌おうよ!」




穂乃果がにこの愚痴を華麗に遮り、ポジティブな意見を述べる

にこよ....今回ばかりは君に発言権はないぞ、あきらめろ




「そしたら!みんな興味を持って観に来てくれるよ!」







穂乃果のいい所はどんなときもめげずにポジティブに物事を考えて行動すること。あまり深く考えることはないが、そういうところがみんなを笑顔にしてくれる




「ふふっ....♪」




ほら、こうやって絵里さんも笑うわけだ




「穂乃果らしいわ」




「え?ダメ?」




絵里さんは穂乃果の前にたって手を握る




「いつもそうやってここまで来たんだもんね。《μ's》ってグループは」




「絵里ちゃん.....えへっ♪」




今日の穂乃果の笑顔は一段と太陽のように輝いていた











































帰り道にて







「うわぁ〜!!ライブ楽しみだな〜!!ね!ことりちゃん!」




俺、穂乃果、ことり、海未の4人でいつものごとくのんびり帰宅していた




穂乃果の頭の中にはライブの事しか無く、笑顔でことりに話をふる




「..........」




「...?ことりちゃん?」




「え?う、うん...そうだね...楽しみだね!」




ことりは無理に笑顔を作る。だけどやっぱりすぐにしゅんと肩を落とす




「だよね〜!文化祭が待ち遠しいな〜っ!!」




違和感ありありのことりに見向きもせず穂乃果は赤く染まった空を眺めながら歩く




「ことり.....」




海未はことりの肩に手をのせて、心配そうに見つめる




「......」




俺は海未の側に行って耳元で囁く




「なんですか?」




「(海未....今日はことりと一緒にいてやれ。話を聞ければ聞いて欲しい)」




「(わかりました....穂乃果は?)」




「(穂乃果は俺と一緒に帰る。任せたぞ、海未)」




こくりと頷いたのを確認して




「よし、穂乃果。俺ほむまん食いたくなった。奢れ」




「ええ〜?穂乃果も今月ピンチなんだよ!ダメ〜」




俺は無理矢理穂乃果の背中を押して穂乃果の家に向かう




「いいからいいから〜!」




「ちょちょっと大くん!押さないでって、あれ?ことりちゃんと海未ちゃんは?」




「なんかあの二人用事あるとかでどっか行った」




「そっか〜。穂乃果に一言かけてくれてもよかったのに」




ぶつぶつ言いながら2人でまた歩き出す




本当に穂乃果はことりの異変に気づいていないみたいだった

























----------------------------

ことりside







部屋....物が少なくなってきたなぁ〜




机、教科書、ベッド、服、アルバム




それ以外の私物はもう部屋の隅で山積みになっているダンボールの中




私は真っ暗な部屋の中で1人ぼんやりと立っていた




「穂乃果ちゃんや大地くんに伝えなきゃいけないのに.....」




まだ何も伝えられていない

本当は言わなきゃいけない




穂乃果ちゃんと居られて楽しかったよ、と。

今までありがとう、と

私は自分の夢を叶えるために大事な友達や場所を犠牲にするね、と




だから.....ごめんね、と




でも穂乃果ちゃんはラブライブだけしか見ていないから私の話なんて聞いてくれそうにない。私の異変に気づいた海未ちゃんや大地くんは心配そうに私を見ていた







コンコン







「.....どうするの?」




お母さん.....




「こんなチャンス、滅多に無いわよ?」




私は.....




「うん....」




「.......」




「お母さん。お母さんは行ったほうがいいと思う?」




それはある意味最後の逃げる理由だったのかもしれない

お母さんが『行って欲しくない』と言ってくれれば、私も行かないで済む

だからお母さんにそう言って欲しかった

本当は私も行きたくない




「それは自分で決めることよ。人に流されてはダメよ」




私の予想していたのとは裏腹にお母さんはきっぱりと言い切った




「私は.......」




どうしてなの?どうして私はここに残りたいって言えないの?




「みんなにちゃんと話なさい、そうすればきっといい答えが見つかるはずよ」













----------------------------










「は〜い!それじゃあここで休憩をとりましょ」




「ダメだよ絵里ちゃん!ここのステップもう一回やろう!」




「ええっ!?穂乃果、休まないとみんな体が持たないわ」




「やるったらやるの!ここをこうして....こんな感じでステップ踏めばかっこいいよ!」




「穂乃果待ちなさい!ステップ変えるつもり!?」




「ダメよ穂乃果、みんな疲れてるし、ここでステップ変えたら慣れるのに時間がかかるわ」




「大丈夫だよ!私、今燃えているから!」




なんか次の日から穂乃果が熱血少女になっていた

振り付けを変える〜だとかまだ練習する〜だとかで穂乃果、絵里さん、にこと口論している




「しかし穂乃果、他の曲もおさらいしないといけないのでやはり振り付けを変えるのは難しいかと....」




海未のもっともな意見に穂乃果は




「頑張ればなんとかなるんじゃないかな?」




と、不安いっぱいの返答を返す




「わ、私自信ないよ.....」




「μ'sの集大成のライブにしなきゃ!ラブライブの出場がかかってるんだよ!」




「まぁ確かにそれも一理あるね」




希が相槌を打つと穂乃果は目に炎を宿して燃え上がる




「だよねだよね!ことりちゃんもそう思うよね?」




「.....え?う、うん、そうだね.....」




心ここにあらずって状態のことり




その状態に気付かずベラベラと話し続ける穂乃果




2人の様子を不安そうに見つめる海未




「穂乃果、落ち着け」




これは止めないと収集がつかなくなりそうなので俺は穂乃果を静止させる




「これ以上みんなにオーバーワークさせるな。適度の休憩も大切なんだよ」




穂乃果の肩に手をのせる




「何言ってるの大くん!ラブライブは今のわたし達の目標なんだよ!そのためにここまで来たんだもん!」




「穂乃果!」




声を荒らげても穂乃果はビクともせずむしろ睨み返してくる




「なんで?後少しで手が届きそうなんだよ!夢の舞台まで数日しかないんだよ!ここで立ち止まってる暇なんてないんだよ!」




穂乃果にも頑張る言い分があるのだろう

だけど.....




「凛ちゃん、大丈夫?」




「だ、大丈夫にゃ.....ちょっと疲れただけにゃ」




「無理しすぎよ凛は、ほら水よ」




「ありがと真姫ちゃん....」







1年生だけじゃない、希やにこやことり....海未や絵里さんまで肩が上下しているじゃないか

ここはマネージャーとしてみんなの事を考えなければならない




「穂乃果....いくら後少しだからといって休憩なしはだめだ。みんな怪我をしてラブライブ出られなくなったら元も子もないだろ!」










「でもここで諦めたらラブライブ出場が---「穂乃果!!!!!!」




いきなりの怒声にビクンと穂乃果は反応する




何事かと俺に注目が集まる




「穂乃果.....頑張るのはいいことだ、それ自体に文句が言いたいわけじゃない。だか周りをよく見てみろ!!みんな疲れてるんだ!!どうしてそれがお前にはわからない!!」




目を見開いた彼女はゆっくりと顔を動かして今どんな状態なのか確かめる




「........」




ぺたりと座り込む花陽、真姫




ベンチに座り込んで息を切らす希




屋上に寝転がる凛




そして不安げに穂乃果を見る絵里さん、海未、にこ、ことり




「.......」




「この状況を見てまだ続ける気があるか?」




「.....ごめんねみんな」




自分の失態に気づいた穂乃果は俯いて謝罪する




「よし...いい子だ。穂乃果も少し休め」




穂乃果の頭を撫でて休むように声をかける





























































「ふぅ......」




土砂降りって嫌だよな...気分が憂鬱になるよ

集中力の切れた俺はシャーペンをくるくると回しながら窓の外を眺める




家に帰ってからというものずっと降り続けている

明日は学園祭

みんな大丈夫だろうか.....




穂乃果の暴走っぷりにはとてもじゃないが安心して見ていられない

それにことりだってそうだ。

あんまり表に出て喋るような子じゃないけど、最近さらに口数が減ったのも事実だ。海未が何が掴んでいればいいのだが....










悔しいなまだNo brand〜♪知られてないよNo brand♪

な〜にもか〜もこ〜れか〜ら暑い♪気分♪







突如スマホが鳴り出した。着信音は新曲『No brand girls』

文化祭でμ'sが歌う最初の曲である

テンポが早くてクセのある振り付けで結構苦戦している。




そんなことはいいか...スマホの手に取り、相手を確認する




ナイスタイミングだ海未。ちょうど俺も聞きたいことがあったんだよ




「海未か、どうした?」




『夜分遅くにすいません、あの...今時間大丈夫ですか?』




「あぁ、問題ねぇ」




『実はですね....先日ことりから教えていただきました。元気の無い理由を....』




ごくり、と喉を鳴らして次の言葉を待つ




「理由.....とは?」
















『.........留学、です』




「な、なんだとっ!?」




思わずがガタッと椅子から立ち上がり唖然とする

聞き間違いじゃないだろうか、いやしかし.....留学って...




「それって...いつだ?」




『文化祭の2週間後の日曜日に、日本を発つそうです』




「そんなに早いのか.....文化祭後って.....あと十数日しかないのかよ!?」




今日は10月12日.....期間が無さすぎる




「それは....いつから決まってた事なんだ?」




ここまで急な展開だとは思えない。ずっと前から留学の話が合ったんじゃあないだろうか....




「すみません。そこまで聞く余裕私にはなかったです....」




俺は頭をフル回転させて記憶をたどる

留学........留学.......お別れ.......ん?お別れ?......あ




まてよ....確か絵里さんが加入する前に....










『あなたは自分の叶えたい夢より今の時間、場所、友達を大切にしたいですか?それとも叶えたい夢に向けて全てを犠牲にして追いかけますか?』



















.....そうだ。この時だ!

この時からことりは知っていたというのか!?

しかし.....それにしては期間がありすぎるな。

こんなに時間があったのにどうして相談してくれなかったんだろうか...




「いやその前に....だから....」




『大地?どうかしましたか?』




「あ〜いや...なんでもない」




「それで.....私はどうしたらいいのでしょうか?」




海未はか細い声で尋ねる。きっと辛いのだろう....辛くないわけなんてない

海未にとって穂乃果と同等にことりのことを好きなはずだ

小さい頃からずっと一緒に過ごしてきたのだから尚更.....




「とにかく、文化祭が終わったらすぐみんなに伝えるべきだ。もちろんことりの口から」




「で、ですがことりがちゃんと話してくれるかどうか....」




「話してもらえないのなら海未や俺が代わりに言う事だってできる。でもそれじゃダメなんだ、ちゃんと本人が伝えなきゃ....ダメなんだ」



















雨は止む気配はない。むしろ、もっと酷くなっている

雨の落ちる音が俺の焦る気持ちを更に引き立てる




頼む......無事に文化祭が終わってから....時間があれば....




俺は後悔した。なぜあの時....ことりと一緒に帰った夕方の帰り道。

俺は追求しなかったのだろうか....




悔しさのあまり、ギリリッと歯を食いしばった

























----------------------------







生憎、文化祭当日は雨となった。

昨日よりは降っていないが、こう悪天候だといつまた土砂降りになるかわからない。




衣装に着替えたμ'sの顔にも影が差す。




「うわぁ〜、すごい雨にゃ〜」




「お客さん全然見当たらないよ〜?」




「この雨だもの....しょうがないわ」




最悪だ.....文化祭で客が来ないとか。




「みんなダメだよ。暗くなってちゃ、アイドルは笑顔が大切だろ?」




暗い雰囲気をなんとかしようと俺はらしくもなくスマイルをつくる




「.......なんかキモチワルイ」




ばっさりだ〜!!ひでぇよツンデレ姫




「大地くんがそうやって笑うと、なんて変なこと考えてそうだにゃ」




「ちょっと凛ちゃん。そんなこと言っちゃダメだよ」




こんな状況でも俺の立場は変わらない....か




不憫だな俺も。




「ん?」




部室の隅で海未とことりが深刻そうな顔をして話し合っている




多方、留学の話をしているのだろう







「あれ?穂乃果は?」




絵里さんに言われてみれば.....やけに静かだなと思えばリーダーの穂乃果が来てないぞ




「まさか....遅刻とか言わへんやろね?」




「ま、まさか....ね」




やけに胸騒ぎがする

確かに穂乃果の寝坊は日常茶飯事。

朝練もよくサボるし、遅刻だって今に始まったことじゃない




だけど、このざわざわした感じはなんなんだろうか....




と、




「みんな〜.....おっはよ〜....」




噂をしてたらなんとか。穂乃果が遅れてやって来た




だけど何か変.....元気がないように見える




「穂乃果!」




「遅いわよ」




「ごめんね〜海未ちゃん、にこちゃん....」




直後、穂乃果はバランスを崩して隣のことりへ倒れ込む




「穂乃果ちゃん!?大丈夫?」




「ありがとことりちゃん、大丈夫〜大丈夫〜....」




その声はやけに小さく、穂乃果も喉を押さえてうなる




「穂乃果?声がちょっと変じゃない?」




「え!?そ、そうかな?のど飴舐めとくよ」




顔を真っ赤にして目もなんだかとろんとしている。

そして、声の違和感とふらつき




......間違いない




俺は確信した







「穂乃果、まずはすぐに着替えて。他のみんなは屋上に行って待機してて」




「え?でも穂乃果は?」




「心配しないでよ絵里さん。俺だってマネージャーなんだ。これくらいしないとな.......それに.....」




「それに?」




「まぁいい!話は後だ!さぁみんな!気合入れていくぞ!」




「「「「「「「「おーーーーーーっ!!!」」」」」」」」




「お、お〜....」




























「穂乃果」




「なに?大くん」




穂乃果が着替えるのでドア越しに話しかける




「お前......風邪ひいたな?」




「......あはは、バレちゃった?」




「まったく.....あれ程無理するなっていっただろうが....」




「うん。大くんの言う通りだったね.....ごめんね」




ドアの向こう側で布擦れの音がし、少し緊張してしまう




「まったく.....バカ穂乃果」




「う〜....そんなこと言わないでよ。」




「無理するんじゃねぇぞ。ライブ中無理だと思ったらすぐ止めろ」




「で、でも、そしたらみんなが---「俺はお前が心配なんだよ!!」




「え.....?」




「そりゃみんなにラブライブに出場して欲しいさ。その為に毎日汗水流して練習やってきたんだ。だけどさ....俺はみんなにぶっ倒れるまで練習して欲しいなんて思ってない」




着替えが終わったらしく、「開けるね」と言ってドアを開ける




やはりまだ顔が赤い。俺は穂乃果の額に自分の額を当てて確認する




「ちょ.....///大くん?」




「やっぱり.....熱あるじゃねぇかよ」




ビシッ




「いたっ!」




一発デコピンをかます




「いいか穂乃果、絶対無理はするなよ」




俺は穂乃果を強く抱きしめた。穂乃果の笑顔が消えるなんて嫌だった

悲しむ顔を見たくなかった







『ごめんね.......ごめんねだいくん.....』







どうして今になってやってくるんだよ....

今はそんなのに構ってる場合じゃない




「.....うん、わかった」







穂乃果もギュッと抱きしめ返す








































----------------------------




雨は相変わらずザーザーと降り続けているが、なんとかライブを行う。

俺は一般の方の中に紛れ込んでその様子を伺う







雨の中なのに客がぞろぞろとやって来る

雨だけどそれ以上に見る価値のあるライブだと思って来てくれるのだろう....その様子を見て嬉しく思う反面、頭の中は具合の悪い穂乃果の顔がちらついて不安に思う




「それじゃあ!行こう!」




穂乃果の掛け声とともにμ'sは舞台へ上がる

そして、拍手の音が雨音をかき消す




お願いだ....神様でも仏様でもなんでもいい....

今日のライブを無事に終わらせてくれ.....










ダンスを間違えたっていい、歌詞を忘れたっていい。

心の底から無事に終わることを願うばかりだ







ギターの前奏と共にμ'sのライブは始まる




『No brand girls』


































確かに観客の心を鷲掴みにしていたと思う。

この曲は元気な女の子の青春を強く印象づけるものとして海未が作詞してくれたもの。

そして、μ'sのダンスを見て、歓声を上げる人がいれば、サイリウムを振って応援する人もいる。

かなり出来の良いライブになったと言っても過言ではないだろう































バタンッ!!!







「「「「「「「穂乃果っ!?」」」」」」」










何が起こったのか頭の処理が追いつかず、立っていた。

あれ....?ライブは?穂乃果は?倒れた?




ダンスをやめたメンバーが穂乃果の倒れた穂乃果の周りに集まった時にようやく思考が動き出した




「穂乃果ぁっ!!!!!」




俺は観客を押しのけて押しのけて穂乃果の元に駆けつく。




「穂乃果!しっかりしろ!穂乃果!穂乃果!」




俺は穂乃果の上半身を起こし、揺さぶる







「すいません!メンバーにアクシデントがありました!」




ざわざわ五月蝿い観客に絵里さんが一言告げる




「穂乃果ちゃん!」




「どうしよう....熱が高い」




「絵里!ライブ続けるわよね!」




そんな中にこは意欲を示す。




「にこっち....穂乃果ちゃんはもう無理や....それに見てみ?」




希が穂乃果に視線を向けた後、観客の方へ視線を変える




観客は状況を察したのか、少しずつ屋上から離れていく

その中に亜里沙や雪穂の心配そうな顔を見つける




......もうだめだ




俺は気絶した穂乃果を抱きしめ、呆然とするしか出来なかった
















止みかけていた雨が一段と強くなり始め、俺の砕かれかけている心に容赦なく響く














 
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