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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第一部 PHANTOM BLAZE
CHAPTER#8
  CRAZY PLATINUM LIGHTNING ~雷吼~

【1】

 花京院の操る幽波紋(スタンド)法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の全体が、
完全に少女の外へと抜き出された。 
 承太郎の幽波紋(スタンド)星の白金(スター・プラチナ)』 に
頭部を鷲掴みにされたその姿は異星人、
或いは未来人の様な形態(フォルム)
甲殻類がその身に纏うようなプロテクターを局部に装着していた。
 鮮やかなエメラルドグリーンの、
その全身はまるで深海生物のように発光を繰り返している。
「花京院! これがテメーのスタンドかッ! 
緑色でスジがあってまるで光ったメロンだな!」
 承太郎は、スタープラチナが頭部を拘束したスタンドを()め付ける。
「引きづり出した事……ッ! 「後悔」するぞ……!
空条……承太郎……ッ!」
 スタンドと本体を結ぶ法則(ルール)による影響で、
頭蓋を圧迫する苦痛に堪えながら花京院は口中を軋らせた。
「ケッ! 強がってんじゃあねー。 
額にスタープラチナの指の痕がくっきり出てんだよこのタコ。
このまま……テメーのスタンドのド(タマ)をメロンのように叩き潰せば
“テメーの頭も潰れる” ようだな? ちょいと締め付けさせてもらうぜ。
そして気を失ったところでテメーをオレのジジイの所へ連れて行く……
DIOのヤローの事を洗いざらい喋ってもらうぜ!
テメーが望もうと望むまいとなッ!」
 そのとき、承太郎のスタンド、スタープラチナが眼前の異変を捉えた。
花京院のスタンド、『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の手の平から
緑色のオイルのような液体が湧き水のように滔々と沁み出ずり、
絶え間なく下方へと溢れだしていた。
「花京院ッ! テメェ! 今更妙な真似をするんじゃあねえ!!」
 そう叫んで頭部への圧迫を強めようとスタープラチナの手に力が籠もる。
 そのとき、だった。 
「かはッッ!!」
 突如、腕の中の吉田 一美が口から血を吐いた。
 その返り血が、承太郎の顔にかかる。
「ッッ!?」
 その事に、承太郎は一瞬呆けたような顔になり、
その影響でスタンドは完全な無防備状態になる。
「くらえ……我がスタンド、 『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』 の……」
 艶めかしく動くスタンドの掌中で、
緑色の液体が水中の軟体生物(アメーバ)のように浮き上がり、
そしてうねりながら攪拌(かくはん)され、集束していく。
 ソレは、やがて硬質な翡翠の「結晶」と化し、
眩い輝きを以て一斉に弾けた。
「!!」



『エメラルド・スプラッシュッッッッッ!!!!!』



「前をみなさいッ! 承太郎ッ!」
 己が流法(りゅうほう)名を高々と宣告した花京院の声とほぼ同時に、
我へ返ったシャナが咄嗟に叫んだ。
 しかし、二人の声はどちらも承太郎には届かなかった。 
 スタンドの重ね合わせた両掌から一気に射出された、
エメラルドの波に覆われる無数の翡翠結晶徹光弾。
 ソレが棒立ちになっているスタープラチナの無防備の胸へ
モロに「着弾」しそして深々と挿し貫いた。
 スタンド操作の「極意」とも呼べる、『幽波紋流法(スタンド・モード)』の直撃を
受けたスタープラチナの胸部は、瞬時に抉れて膨張し引き裂かれ、そして最後は爆散する。
 衝撃で、背後に弾き飛ばされたスタープラチナとその影響で引っ張られた承太郎は、
生い茂る木々を幾本も圧し折りながら地面と平行に空間を滑走し、
天に向かって(そび)え立つ樹齢700年の巨木に激突してようやく止まった。
「が……は……!」
 巨木の幹から力無く崩れ落ちる承太郎の口から、
生温かい血が夥しい量で吐き出される。
 更にスタンド「本体」である彼の胸部にも、
スタープラチナ同様凄惨な裂傷が浮かび上がり、
多量の鮮血が間歇泉のように噴き出した。
「な、なんて威力……ッ!
私が手こずった 『星の白金(スター・プラチナ)』 をたったの「一撃」で……ッ!
それにあんな複雑な「構成」を一瞬で編み上げるなんて……!」
 花京院の華麗かつ壮絶な『幽波紋流法(スタンド・モード)』に
驚愕の声をあげるシャナ。
「むぅ……彼奴(きやつ)、人の身で在りながら “王” に匹敵する力を携えている……!」
 両足をT字に開いた体勢で立ち、右腕を水平に構えて差し出した
威風堂々足る姿に、アラストールは敵といえど想わず声を漏らした。
「『エメラルド・スプラッシュ』……我がスタンド、
法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の体液に()えたのは、
破壊のエネルギーの(ヴィジョン)……
君のスタンドの「胸」を貫いた。
よって、君自身の内蔵はズタボロだ」
 冷たい声色でそう呟いた花京院は、
遙か遠くに吹き飛ばされた承太郎にそう告げる。
 更に、ソレよりももっと冷たい声で。
「そして……その女生徒も……」
 そう言った花京院が指差した先、前方の地面に仰向けに倒れていた
吉田 一美が再び喀血(かっけつ)した。
(!!)
「あ……あ……ッ!」
 声にならないか細い悲鳴を上げ意味なく空に伸ばした手が、
やがて糸の切れたマリオネットのように弧を描いて地面に落ちる。
 土の上に、口から静かに流れ落ちる少女の血が染みていった。
「いったはずだ……ボクの『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』に攻撃を仕掛ける事は……
“その女生徒を傷つけるコトだと”
ボクのスタンドは君より遠くまで行けるが広い所はキライでね……
必ず何かの中に潜みたがるんだ……無理に引きずり出すと怒ってしまう……
だから喉内部あたりを出るときにキズつけてやったみたいだな……
君が 「悪い」 んだぞ……? 空条 承太郎……これは君の責任だ……
これは空条……君のせいだ……君がヤったんだ……
最初から大人しく殺されていれば、この女生徒は無傷で済んだんだ……」
 花京院はその秀麗な美貌をやや歪め、忌々しそうに吐き捨てる。
「くっ! おまえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 
 あまりにも身勝手な花京院の言い分に、シャナの怒りが燃え上がった。
 灼眼の煌めきが増し、炎髪が鳳凰の羽ばたきのように火の粉を空間へ振り撒く。 
「……」
 その花京院の言葉に対して何の反論もせず、承太郎は無言で立ち上がった。
 俯いている為、表情は伺えない。
 しかし全身から血を流しながらも、
重い足取りでゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
 その彼の足跡には、無数の血の痕が紅い(わだち)となって残った。
「ほう? 立ち上がる気か? 愚かな。
ただ殺される為だけに死力を尽くすとは。
大人しくしていればこのボクに 「奥の手」 を使わせた事に対して敬意を表し、
楽に殺してやったものを」
「!」
 シャナが紅い灼眼でキッと花京院を睨むが、
すぐ敗残兵のようにボロボロな姿のままこちらに歩み寄って来る
承太郎に向き直って叫んだ。
「承太郎! おまえはもう戦える状態じゃない! 後は私に任せなさい!
この男 『法皇の緑』 は私が討滅するッ!」
 しかしもう、シャナの声は承太郎に届かない。
 もう誰の声も、今の彼には届かない。
「……」
 承太郎は地面の上に倒れている吉田 一美の傍まで来ると、そこで足を止めた。
 胸元から血を流す承太郎の身体から幽波紋(スタンド)
星の白金(スター・プラチナ)』 が静かに抜け出る。
 そしてそのスタンドの両腕が、吉田 一美の小柄な躰をそっと抱きかかえた。
 少女のその躰は、想像していたよりも、もっとずっと軽かった。
 歩きながら半透明のスタンドの手が口元の血を拭い、
野生の花々が群生している草むらにそっとその身を横たえる。
 もう決して誰にも触れさせないように。
 もう決して誰にも傷つけさせないように。
 承太郎の脳裏に、先刻のあどけない笑顔が甦る。
 名も無き花に囲まれた少女は、本当にただ眠っているようにみえた。




 彼女に一体、何の「罪」が在ったのか?
 少女はただ、自分の為に行動しただけだった。
 彼女なりに精一杯、自分に出来る事を考え、一生懸命それを実行しただけだった。
 しかし。
 その少女は、今。
 いま……






 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!






 空間が蠢き空気まで震撼(ふる)えるような途轍もないプレッシャーが承太郎の全身から、
(ほとばし)る白金の『幽波紋光(スタンド・パワー)』と共に発せられる。
 その顔を伏せたまま、承太郎はようやく口を開いた。
「このオレ……空条 承太郎は……いわゆる……
「不良」のレッテルをはられている……
ケンカの相手を必要以上にブチのめし、
いまだ病院から出てこれねえヤツもいる……
イバルだけで能なしなんで気合を入れてやった教師は、
もう2度と学校へは来ねえ……!
料金以下のマズイ飯を食わせるレストランに、
代金を払わねーなんてのはしょっちゅうよッ!」
 承太郎はそう叫んで口中の血を吐き捨てた。
 ビシャッ、と草むらが彼の鮮血で染まる。
「だがッ! こんなオレにも! 吐き気のする 【悪】 はわかる!!」
 承太郎が血塗れの手で拳を握るのと同時に、隣でスタープラチナも力強く拳を握る。
 その拳は煌めきを放ち、周囲に舞い散る燐光は、ダイヤモンドよりも気高く輝いていた。
「【悪】 とは!! テメー自身のためだけに!!
弱者を利用し踏みつけるやつのことだッッ!!」
「!?」 
 承太郎がいきなり顔を上げた。
 瞳孔を見開き歯を剥き出しにして軋らせる、完全に “キレタ” その風貌は、
歴戦のフレイムヘイズであるシャナでさえ想わず気圧される程のモノだった。
「ましてや「女」をォォォォォォォォォォ――――――――――ッッッッ!!!!
キサマがやったのはソレだッッ!! ア~~~~~~~~~~~~~~ンッッ?!
テメーのスタンドは被害者自身にも見えねえし! わからねえ! だからッ!」
 承太郎が学帽の鍔に走らせた二本の指が、
全身から迸るスタンドパワーの影響で光の「軌跡」を描く。 
「オレが裁く!!」
 全身で渦巻く途轍もない怒りを、
永い血統の歴史によって培われた精神の力で制した承太郎の風貌。
 怒りは臨界を超え、運命を司る感情、『正義』となって昇華した。
 その何よりも気高き光が、ライトグリーンの瞳へと宿る。
 熱く。激しく。燃え尽きるほどに。
 その勇猛果敢な双眸で自分を見る承太郎に、
花京院は穏やかな微笑で以て応えた。
「フッ、それは違うな。 【悪】 ? 【悪】 とは敗者のこと。
「正義」とは勝者のこと。生き残った者のことだ。過程は問題じゃない。
敗けた者が【悪】なんだ。君が言っている事は、弱者の遠吠えに過ぎない」
 冷淡にそう告げると花京院は再び先刻同様、両手を艶めかしく動かした。
 連動してスタンド、ハイエロファント・グリーンも同じように動く。
「さらばだ、空条 承太郎。くらえ……とどめの……
『エメラルド・スプラッシュ』をッッ!!」
 再び、ハイエロファント・グリーンの両掌に緑色の光が集束する。
 そして、開いた両手から無数の翡翠光弾が先程以上の輝きを持って弾けた。
「スタープラチナァァァァァァァ――――――――ッッッッ!!!!」
 承太郎の咆吼と共に、彼の守護霊であるスタンド、スタープラチナが
疾風迅雷の如くその身体から高速で出現した。
 その余波で周囲に旋風が巻き起こる。
 木々の枝を揺らし、木の葉がざわめくほどに。
 スタープラチナは白金のスタンドパワーで覆われた剛腕で
即座に十字受けの構えを執り、軸足を大地が陥没するほど強力な踏み割りをつけると、
まるでカタパルトで射出されたように放たれた『エメラルド・スプラッシュ』に
音速で突撃し緑色の結晶光弾を真正面から受け止めた。
 スタープラチナはそのまま軸足で踏ん張ったまま花京院の流法、
『エメラルド・スプラッシュ』に気圧される事なくその場に立ち塞がり、
やがて両者の放つエネルギーは膠着状態に陥る。
「こ、こいつッ!? このズタボロの身体の一体どこにこんな底力(チカラ)が!?
それにこのパワーッッ!!」
 花京院の美貌が驚愕で引きつる。
 しかし長年の経験によりすぐさまに動揺した自分を(いさ)めてその表情を引き締めた。
「フッ……! いいだろう……真剣勝負というのも嫌いじゃない。
パワーだけが 『スタンド使い』 の絶対的戦力差でないという事を教えてやる!!」 
 そう叫んだ花京院が再び、ピアニストのように艶めかしくも無駄のない
動きで指先を動かしながら腕を何度も交差させると、
やがてハイエロファント・グリーンの盲目の瞳が発光し、
中間距離で停止する流法 『エメラルド・スプラッシュ』 の後押しをするように
両手からエメラルドグリーンの光が放射された。 
 それを呼び水とするが如く、承太郎の身体からも白金に輝くスタンドのエナジーが迸り、
スタープラチナの内部へと注入される。 
 二つの強力なスタンドパワー同士が真正面から激突し、
空間が飴細工のようにぐにゃりと歪んだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「はあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 承太郎は両手をズボンのポケットに突っ込んだまま。
 花京院は右腕を水平に構えたまま。
 互いに、猛る。 
 力が拮抗している以上、その勝敗を決するのは互いの精神力。
 相手の気迫に一時でも気圧された方が敗北する。
 空条 承太郎と花京院 典明。
 特異な才能を持つ二人の『スタンド使い』の能力(チカラ)は完全に互角だった。
 しかし。
 そのとき。
“起こり得ない事態がそこで起こった!”



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!





『オォォォォォラァァァァァアァァァァァァァ――――――ッッッッッッ!!!!!!』




 まるで魂すらも軋むような、慟哭の咆吼を同時に上げる承太郎とスタープラチナ。
 そして両者の咆吼に呼応するが如く、
その生命の脈動と精神の胎動が具現化したかのように、
白金色に輝く無数の光が、スタープラチナの全身から発せられた。
「うぅッッ!?」
「むぅぅ!!」
 突如、目の前で顕現した光の波に照らされたシャナとアラストールが、
ほぼ同時に声をあげる。
 その光の中心部。
 スタープラチナから発せられた光は白夜の太陽よりも明るく周囲を照らし、
電磁波のようにバリバリと音を立てながら爆ぜ、放電を繰り返し、
そして激しく炸裂(スパーク)した。
「な、何ィッッ!?」 
 花京院の放った必殺の流法(モード) 『エメラルド・スプラッシュ』は
その光の波に呑まれ、やがて徐々にその直進力と貫通力とを失っていく。
「うぅ……ッ! 目……目がくらむッ! 限界なく明るくなるッッ!!
一体何!? この 『光』 は!?」
 光に目をやられないように黒衣の袖で視界を覆ったシャナに対し、
「むう! 馬鹿な! 信じられん! “彼奴の存在の力が増大しているッ!” 」
突如胸元のアラストールが叫んだ。
「ウソでしょ!? アラストール! “怒って強くなれる” なら
誰も苦労なんてしないわ!」
 眩い光に照らされ、シャナの炎髪と灼眼も白く染まった。
「うむ……確かに通常の(ことわり)ではそうだ。戦闘中に我を失う等愚の骨頂。
だが思い返して見よ。彼奴(きやつ)は、何の戦闘訓練も受けていないにも関わらず
フレイムヘイズであるおまえと互角に渡り合った。
人の身でありながら “封絶” の中で動き、数多の『燐子』をたった一人で粉砕した。
そして現に今も、手練れの異能者を相手に全く引けをとっておらん……!」
「そ、それ、は……」
 鋭敏な頭脳を持つ筈の少女も、理から外れた事象に対しては押し黙るしかない。 
「お前には黙っていたが、我には初めから解っていた。
彼奴の運命の「器」は、常人のソレではない。
彼の者、 “幽血の統世王と全く同じ” なのだ」
「え!?」
 予期せぬ、言葉。
 承太郎とDIO。
 光と闇。
 流星と世界。
 バラバラの記号がランダムにシャナの思考の内に点灯する。
「俗な言い回しになるが、今はこう云うしかないだろう……
『例外』 或いは 【特異点】 と……」



『ッッッッッッラァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!』



 交差したその両腕を、スタープラチナが超音速で押し拡げた。
 ズンッッ!! という臓腑の隅々にまで鳴り響くような重低音と共に
輝く無数の翡翠光弾は全て、粉微塵になって跡形もなく消し飛んだ。
 砕けたエメラルドの飛沫が、煌めきながら空間に散華する。
「バ、バカな!? 『エメラルド・スプラッシュ』 を “パワーのみで” 全て消し去るとはッ!
……ハッ!?」
 驚愕の表情を浮かべる花京院の目の前に、
白金色に輝くスタンド、スタープラチナが音より(はや)く迫っていた。
「は、疾い! うぐうッッ!?」
 即座に神速のスタープラチナの右拳が、
ハイエロファント・グリーンの顔面に撃ち込まれる。
 そのスピードが衝撃を上回った為、
本体とスタンドは一刹那遅れて後方へと弾き飛ばされる。
“しかしそれより疾く” 再びスタープラチナが花京院の眼前に迫った。
「敗者が 【悪】 か! それはやっぱり! テメーの事だったようだなッ! 花京院!!」
 承太郎が逆水平に構えた右手で花京院を指差し、叫ぶ。
 MAXスピードに達し、最早見えなくなったスタープラチナの超速の拳が
スタンド、ハイエロファント・グリーンに向けて全弾総射された。  



『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!』




 白金に輝くの拳の狂嵐により『法皇の緑(ハイエロファント・グリーン)』の全身に、
隈無く拳型の刻印が撃ち込まれる。
「がッ!? ぐッ!? ぐはッ!? うぐッ!? ぐうッ!?」
 花京院の細身の身体にも、それに連動して刻印が刻まれていく。



『オラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァ―――――――!!!!!!!』




 叫ぶ承太郎の脳裏に、一人の少女の姿が浮かんだ。
 淀んだ【悪】に踏み(にじ)られた、何の罪もない少女の姿が。
 ソレが裡なる火勢を煽りスタンドはさらに加速していく。







『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
裁くのはッッ!! オレのッッ!! 
スタンドだあぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッッッッッッッ!!!!!!!』



 承太郎の決意の叫びと共に摩擦熱で火を噴いたスタープラチナ渾心の右ストレートが、
撃ち下ろし気味にハイエロファント・グリーンの左胸に撃ち込まれる。
 ドギュッッ!!  という着弾点から拡がる、全身が痺れるような振動波を
その身に感じる間もなく花京院はスタンドと共に遥か後方へと超音速で吹き飛んだ。
 そして先刻の承太郎をトレースするように木々を何本も圧し折った花京院の躰は、
梵字の刻まれた石碑に激突し亀裂の走った石面にその全身を縫いつけられると
間歇泉のようにソノ躰の至る箇所から真紅の鮮血を噴き出した。
 (さなが)ら、「磔刑」に架けられた殉教者のように。
「な……なん……て……凄まじい……スタンド……能力……ッ!
見事……だ……空条……承……太郎………………」
 肉体は疎か精神と五感まで破壊された花京院は、
声にならない声でそれだけ呟くと意識を闇に呑みこまれた。
 承太郎は、スタープラチナと同じ撃ち下ろしの構えのまま、大地に屹立していた。
 俯いたまま身体を朱に染め、まるで血に飢えた獣のように息を荒げている。
 全身血に(まみ)れ、そして傷だらけのその無惨なる姿は、
木々から漏れる緩やかな陽光の下、何故かシャナの胸を打った。
 まるで、今は無き 「天道宮」 の聖堂に飾られている一枚の絵のように、
美しく荘厳に感じられた。
「…………アイツ……凄い……」
「恐るべし……『星の白金』……空条 承太郎……」
 あらゆる感情が綯い交ぜになり、最早言葉もないシャナの胸元で
銀鎖に繋がれたアラストールが呟いた。


【2】

「シャナ。オメーに頼みがある」
 血塗れの花京院を片腕で軽々と抱え上げ、
地面の上に降ろした承太郎がシャナに言った。
「う……ぅ……」
 花京院は、かろうじて死を(まぬが)れたようだ。
 額から断続的に血を流し、呼吸音も微かだが死んではいない。
「オメーが昨日やってたそのジザイホーとやらで、
この女の 「傷」 と今の 「記憶」 を消せ。
ブッ壊れた街を 「修復」 出来るんだ。
それぐれぇ出来る筈だ」
 そう言って花京院から少し離れた位置で意識を失っている少女、
吉田 一美を指差した。
「不可能よ」
 そう言ってシャナはゆっくりと首を振った。
「昨日のは “封絶” 内だったからトーチで修復出来たの。
コイツが傷を負ったのは因果閉鎖空間ではない現実世界。
トーチなんかじゃ治せない」
 その答えをあらかじめ予想していたように承太郎は落ち着いた口調で言った。
「誰も残り滓を使えとは言ってねぇぜ。 “オレのを” 使え。
その、 “オレ自身の存在の力” とやらをな」
「バ、バカ! そんな事したらおまえ!」
 自らの存在の力を消費する事は、体力の消耗というよりも怪我に似た形で現れる。
 体調が万全の状態でもその 「痛み」 は相当なものだ。
 それなのに負傷したこんな状態でそれを行えば、後の事は想像するのも恐ろしい。
「うむ。確かに、貴様自身の存在の力を使えば不可能ではない」
「アラストール!?」
 信じられない、と言った口調のシャナの代わりに胸元のアラストールが応えた。
「しかし “フレイムヘイズ” でない者が
そんな事を行えばどうなるか我にも解らぬ。
貴様、死ぬかもしれんぞ」
「ナメんなよ。ンな事でビビり上がるようなシャバイ気合いじゃあ、
「不良」はヤってられねーぜ」
 微塵の動揺もなく承太郎は言い放った。
「記憶の操作もまた問題だ。自在法はそう都合良くは出来ていない。
この娘の記憶を(いじ)るという事になると、
その反作用によって “貴様の存在はこの娘から完全に消える” 事になる。
貴様を 「軸」 にして起こった出来事を消すという事だからな。
良いのか? それで?」
「好都合だ。やりな」
 これにも承太郎は即答した。
「むぅ……」
 あまりにも明瞭な受け答えに、アラストールが小さく呻く。
 承太郎の 「胆力」 と 「覚悟」 の程を試す為に、多少事実を誇張して言ってはみたが、
予想に反して承太郎が全てをあっさりと受け入れ、全てをあっさりと差し出してくるので、
不意に老婆心に近い感情が 『紅世の王』 ”天壌の劫火” の裡に湧いた。
「……貴様? 本当にそれで良いのか?
“この娘にとってそちらの方が残酷” だとは、」
「同じ事を二度いう必要はねーぜ……」
 アラストールの言葉が終わる前に、承太郎は学帽で目元を覆いながら遮った。
「オレの傍にいれば、必ずまた同じ目に会う。
ロクでもねぇ事に関わって死ぬこたぁねー」
「……」
 傍を渇いた風が通り過ぎ、シャナの黒衣の裾を揺らす。
 承太郎の目元は学帽の鍔で覆われているので、その表情は伺えない。
 だが、感情も目も言葉も必要なかった。
 その存在だけで、アラストールには充分だった。
 承太郎の全てが、伝わった。 
 その想いも、何もかも。
「……うむ。ならば最早語らぬ。
貴様がそれで良いというのならば……」  
「……」
 自分の胸元で、明らかに含みのある言葉でアラストールが言った。
“男同士にだけ解る” 事があるのだろう。 
 シャナは胸元のアラストールを見つめる。
 アラストールには、一体何が解っているのだろう?
 シャナは承太郎の前に立つと、その凛々しい灼眼でライトグリーンの瞳をみた。
「いいのね? 言っとくけど、半端じゃなく痛いわよ」
「痛い」という部分を強調してシャナが言う。
「くどい……とっとと始めろ」
「手ぇ出して」
「……」
 シャナは差し出された承太郎の血に塗れた手に、
少し赤くなって自分の小さな手を重ねて繋ぐと
瞳を閉じて自在式を編む為に精神を研ぎ澄ました。
「はあああああぁぁぁぁぁ」
 鋭い声と共にシャナの足下に封絶の時とは違う、
深紅の火線で描かれた紋章が浮かび上がる。
それと同時に繋がれた手から承太郎の白金色に輝く存在の力が流れ出した。
「!」 
 自分を……体などではなく、自分そのものを削るかのような薄ら寒い喪失感。
 その感覚が全身の傷の至る所に絡みつき、やがて悲鳴を上げ始める。
 全身を蝕むような、その痛み。 
 まるで、同じ箇所を何度も何度も切り刻まれているようだった。
「……う……ぐぅ……!」
 全身を生き物のように這い回る苦痛に、
想わず呻き声が漏れそうになるが承太郎は耐えた。
 耐えなければならない 「理由」 があった。
 目の前で横たわるこの少女は、もっと苦しかったはずだから、
もっと辛かったはずだから。
 シャナが振り子のように何度も指を振り翳すのと同時に、
承太郎から抜け出た白金色の光が煌めきながら
吉田 一美の華奢な身体を螺旋状に包んでいく。
 優しく、そっと、スタープラチナの腕がそうしたように。
 そして、やがて、靡きながらも消えていく。
 制服の血糊も、躰の傷も、涙の痕も、悪夢の記憶も、
そして、承太郎への想いも、全て。
 輝く白金の光に包まれて……
「空条……君……」
 漏れ出る光が消え去る寸前、吉田 一美の口から声が漏れた。
 閉じた瞳から、涙が一筋流れ落ちる。
 最後の涙。
 承太郎の存在が宿った、最後の雫。
 その声に承太郎が、本当に小さく呟いた。
 風に消え去りそうな、小さな声で。 
 あばよ、と。
 その独り言が、シャナには聞こえた。
 シャナにだけ、聞こえていた。


←To Be Continued……


 
 

 
後書き
はいどうもこんにちは。
①「相手を傷つけないために突き放す」のと
②「自分が傷つかないために相手を“騙して”一緒にいてもらう」
さぁ「正しい」のはどっち?
というクイズ形式(???「はい、ここでクイズです」)にしたかったのですが
②の方があまりに最悪過ぎるので成立しませんでした・・・・('A`)
答え③どころかまさか「④」のヤツがいるとは、
猟奇殺人犯(サイコパス)には一見「普通っぽい」のが多いとは聞きますが
言い得て妙といったカンジですネ。

『進撃の巨人』で例えると、ライナーとベルトルトが正体を現して
裏切った部分に当たると想うのですが(あの日どんな顔で瞳で~♪)
その言葉を借りて要約するなら
「おまえ・・・・自分の所為で人喰いのバケモノが襲ってくるって知ってたんだよな?
オレ達や、他のクラスメートが喰われるかもしれないって解ってたんだよな?
なのに何で、平然とした顔でオレ達と話してたんだ?
一体なに考えて、机くっつけて弁当食ってたんだ?」
というコトになりその○○○○ーがヘラヘラ笑ってたり
弁当貰って赤くなってる他全てに吐き気を催さねばなりません。
正に
???「吐き気を催す【邪悪】とは! 何も知らぬ無知なる者を!
   “自分の為だけに利用することだ!”
   「自分の利益」のためだけに利用することだ!」
という表現がドンピシャで、
主人公のアレは「自分の所為で関係のない生徒が喰われる」コトよりも
「吉田サンに弁当と好意を貰って自分が楽しむ」コトの方が
よっぽど重要だったんでしょう。
つまり「人の命<<<<<<<<(越えられない嘆きの壁)<<<<<<自分の楽しみ」
という図式がいとも容易く出来上がってしまうのであり
(『D4C』とはよくいったモンだ・・・・・('A`))
佐藤と田中は「復讐」も選択肢に入れてもっと怒らなければなりません。
(まぁあっさり許しちゃう辺りが「ご都合主義」以外の何モノでもないのですが)

・・・・マンガ史上、そしてストーリー作品史上、
ここまで『最低』な主人公が他にいたでしょうか?
ワタシが作中に「出さない(出せない)」というのも
良く解ってもらえると想います。
こんなヤツ、まともな感覚があれば誰も好きになりようがないでしょう。
そういう前提を踏まえて見れば、2巻最後の「挿絵」など
非常に悍ましい部分を切り取って描写しているというコトに気づくと想います。
(作者とそのキャラがソレに「気づいてない」というのがまた悍ましい)
書いててワタシもイヤな気持ちになってきたのですが、
そーゆーモノは一度吐き出してスッキリしないと良いモノ描けないので
御容赦戴きたいと想います。
ソレでは。ノシ 
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