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英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)

作者:sorano
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第75話

~IBC~



「……完全に気絶したか………」

ヨアヒムが乗り移っていた警備隊員の状態を確かめたダドリーは静かな口調で呟いた。

「い、今のは………」

「どうやら全く別の場所から操っていたみたいですね………しかも……かなり離れた場所かもしれません。」

「もしかして……そこから警備隊全員を操って!?」

「ついでにルバーチェも操っているでしょうね。」

「チッ……ヨアヒム本人を叩かない限り、どうしようもねぇってことかよ!?」

「せめて居場所が判明していれば手はあるのだけど……」

警備隊やルバーチェが操られている理由がわかったランディは舌打ちをし、ルフィナは厳しい表情で考え込んでいた。



「―――居場所は判明している。」

「え………」

するとその時アリオスが答え、アリオスの答えを聞いたロイドは呆けた。

「エステルとヨシュアが”教団”の拠点(ロッジ)を発見した。場所はクロスベル北東にある”アルモリカ古戦場”―――そこに行方不明者達が入った痕跡を発見したそうだ。ちょうど今、潜入経路を調べてもらっている。」

「古戦場………あんな場所に!」

「確かに何かありそうな遺跡でしたけど………」

「だったらそっちを叩けば……!」

「……そう簡単な話じゃない。どうやら東クロスベル街道にも相当な戦力が展開しているようだ。主にマフィアどもらしいがな。」

「いずれにしても……戦力は限られている。せめて(アシ)さえあればな。生憎、警察の車両はあらかた警備隊に奪われてしまったようだ。」

状況を打開できることにロイド達は明るい表情をしていたがダドリーが苦々しい表情で答え、セルゲイは真剣な表情で現状を答えた。



「くっ………」

「………徹底していますね。」

「参ったわねぇ……こんな事ならいざという時の為に車も購入しておくべきだったわね。」

二人の話を聞いたロイドは唇を噛みしめ、ティオは静かに呟き、レンは疲れた表情で溜息を吐いた。

「!?その紋章……!まさか……”西風の旅団”か!?」

一方ゼノとレオニダスに気づいたダドリーは血相を変え

「ほう~?自治州の警察やのに、俺達の事を知っているとはな。」

「クロスベル警察の情報収集能力もなかなかのものだな。」

ゼノとレオニダスは自分達を知っている事に感心していた。



「………何故お前達がこの場にいる。しかも先程の状況を見る限りロイド達と共に戦っていたようだが………」

「しかもメイドに執事までいやがるな……そこのメイド達もそうだが今も港湾区で戦っている連中も全員”Ms.L”の関係者か?」

アリオスは真剣な表情でゼノとレオニダスを見つめて問いかけ、セルゲイはレンを見つめて問いかけた。

「―――左様でございます。”L”様は先日ご自身が所有されている別荘が何者かの襲撃によって破壊された事を耳にし、クロスベルでただならぬ事が起こっている事をお察し、我々を派遣したのです。―――有事が起こった際、クロスベルの民達にその牙を向ける”敵”からクロスベルの民達を守る為に。」

「何だとっ!?」

「ふえ?ジョーカーさんったら、一体何を……モガ。」

(ジョーカーが咄嗟についた嘘を台無しにする真似は止めなさい。)

レンの代わりにジョーカーが咄嗟に自身が思いついた嘘を答え、それを信じたダドリーは驚き、首を傾げているフェリシアの口を塞いだフローラはフェリシアに耳打ちをした。



「まさかここで”Ms.L”の名が出るとはな………何故”Ms.L”はそこまでするのだ?」

重々しい様子を纏って呟いたアリオスはジョーカーに問いかけた。

「”L”様は受けた恩は必ず倍にして返す大変義理堅い方でして。”とある事情”で窮地に陥っていた”L”様を救って頂いた方がクロスベルを大切に想う方だった為、クロスベルを守るように我々を派遣した……ただそれだけです。」

「……そのMs.L女史を救ったという人物は何者なのだ?」

ジョーカーの説明を聞いて考え込んでいたダドリーは真剣な表情でジョーカーに訊ねた。

「誠に申し訳ありませんがその人物については私達も”L”様より教えられていなく、存じておりません。そちらの方々の加勢をしたのも、今クロスベルで起こっている事態について何か存じていると判断し、”偶然加勢しただけ”です。」

ダドリーの質問に対するジョーカーの答えが最初から嘘だとわかっていたロイド達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせ

「………話はわかった。クロスベル警察を代表して現在起こっている非常事態解決の為に加勢してくれた事に感謝する。できれば、以後非常事態が落ち着くまでこちらの指示に従って頂きたいのだが?」

ロイド達の様子に気づいていないダドリーは静かな表情で頷いた後真剣な表情でジョーカーに問いかけた。

「それは………」

「…………」

「―――わかりました。非常事態が解決するまでは以後そちらのご指示に従いましょう。」

ダドリーの問いかけに対して一瞬言葉を濁したジョーカーはレンと僅かな時間で視線を交わし、レンが微かに首を縦に振るとすぐに答えた。



「ご協力に感謝する。それで……何故”西風の旅団”までこの場にいる?」

「俺達も”Ms.L”絡みや。俺達の”依頼人”である”L”はそっちの執事さんが言っていた人物とは別の人物であるそこのレン嬢ちゃんに以前助けてもらった事があってな。それでレン嬢ちゃんが”特務支援課”にしばらく出向する事を聞いて、”ルバーチェ”と既に直接対決もした事もある”特務支援課”にレン嬢ちゃんが所属したら”ルバーチェ”の”報復”とかで嬢ちゃんが危ない目に遭う事を危惧して、嬢ちゃんがクロスベル在中でピンチの時だけ助っ人をしてくれという”依頼”でさっきまで手を貸してやっていたんや。」

「何だと!?ブライト、お前は今の話について知っていたのか!?」

ゼノの話を聞いて驚いたダドリーはレンに訊ね

「ふふっ、クロスベルでレンがピンチになったら助けてくれる人がいる事は”L”お姉さんから聞いていたけど、まさかそれが”大陸最強の猟兵”と名高い”西風の旅団”だったとはレンも驚いたわ♪」

「ハア…………」

レンは小悪魔な笑みを浮かべて答え、平然と嘘をつく様子のレンにロイド達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、ルフィナは呆れた表情で溜息を吐いた。

「……それでお前達はこれからどうするつもりだ。我々がこの場に駆けつけた事でレンの窮地はひとまず去った事になるが。」

「……依頼人の要請(オーダー)である護衛対象の窮地が去った今俺達がこの場にいる意味はない。後の事はお前達に任せてこの場を去り、一端状況を見守らせてもらうつもりだ。」

「―――ならば、今君達は”フリー”と言う事でいいのかな?」

そしてアリオスの問いかけにレオニダスが答えたその時聞き覚えのある男性の声がロイド達の背後から聞こえてきた。



「この声は………!」

声を聞いて驚いたロイド達が背後へと振り向いたその時

「ロイド―――――!」

ディーター総裁とマリアベル、シズクと共に建物から現れたキーアが走り出してロイドに抱きついた。

「キーア………」

「みんな、無事でよかったよ~。」

「……ああ。心配してくれてありがとう。」

安堵の溜息を吐いているキーアにロイドは微笑み

「それにおじさまとベル、シズクちゃんまで……」

自分達に近づいてきたディーター総裁たちに気づいたエリィは驚いた。



「ふふ………皆さん、お疲れ様ですわ。しかしキーアちゃん。無茶をしてくれますわね?」

「そ、そうだよ……!安全かどうかも確認していないのにいきなり走っていくから……!……あんまり無茶しないで……!」

マリアベルはロイド達を労った後キーアを注意し、シズクもマリアベルに続くようにキーアに注意をした後心配そうな表情をした。

「ご、ごめなさぁい……」

「……フフ。シズク、無事で何よりだ。」

シズクに怒られて謝っている様子のキーアを微笑ましく見守っていたアリオスは静かな笑みを浮かべてシズクを見つめ

「うん……お父さんも……!」

声をかけられたシズクは嬉しそうな表情で答えた。



「外の騒ぎが収まったと聞いてね。様子を見に来たのだが………とにかく、全員無事で何よりだ。それよりも……”西風の旅団”、だったね。話によると君達は”Ms.L”女史の依頼を終えた事になるから今私が君達を雇う事は可能かな?」

「お、おじさま!?一体何を………」

ロイド達を労ったディーター総裁はゼノとレオニダスに訊ね、その様子を見守っていたエリィは驚いた。

「あんたは何者や?」

「―――失礼。IBC総裁のディーター・クロイスだ。」

ゼノに名前を訊ねられたディーター総裁は自己紹介をし

「………かのIBCの総裁殿か。俺達を雇いたいとの事だが、どのような依頼内容だ。」

「依頼内容については少しだけ待っていてくれ。まずは彼らが車がない事について困っているとの事だからね。話はその事を解決してからだ。」

「へ…………」

「―――初めまして。特務支援課のセルゲイです。それで……何とかできるというのは?」

レオニダスの問いかけに答えたディーター総裁の答えを聞いたロイドが呆けている中セルゲイが一歩前に出て自己紹介をした後ディーター総裁に訊ねた。



「ガレージに私のリムジンがある。防弾だし、かなりの速度だから強行突破には打って付けだろう。」

「ほう………」

「確かにそれなら……!」

「ならば、乗り込むメンバーを選ぶ必要がありそうですね。ここの守りも必要でしょうし、私の他には………」

ヨアヒムの元に向かう手段がある事にセルゲイは目を丸くし、ダドリーが明るい表情をしている中瞬時に判断したアリオスはヨアヒムの元に向かうメンバーについて答えようとしたが

「………いえ。どうかここは俺達に行かせてもらえませんか?」

「なに………?」

「い、いきなり何を!?」

「ふむ………」

仲間達と共に黙って考え込んでいたロイドが仲間達を代表して申し出、ロイドの申し出を聞いたアリオスはダドリーと共に驚き、セルゲイは考え込んでいた。



「………ヨアヒムの狙いは恐らくキーアただ一人です。キーアを奪われたらその時点で俺達の負けですが………逆に言えば、キーアを守り抜いて彼を逮捕できれば俺達の勝ちです。」

「その意味じゃ、このビルは絶対に守りきる必要がある………確実な戦力を残すべきだぜ。」

「恐らくアリオスさんが残れば、ここは鉄壁の守りになるはず……」

「課長たちと警官隊の応援があれば完全に死角も無くなるかと。」

「それに遺跡の方には既にエステルとヨシュアが先行しているのでしょう?二人とレン達とアーシアお姉さんが合流すれば、戦力は十分よ♪」

「……なるほどな。」

「もう、レンちゃんったら……勝手に私まで勘定に入れて………でもまあ、レンちゃん達の考えも理解できるわ。」

ロイド達の説明を聞いたアリオスは納得した様子で頷き、レンが既に自分まで突入メンバーにいれている事に呆れたルフィナは気を取り直して頷き

「り、理屈はわかるが………」

「―――駄目だな。」

ダドリーは言葉を濁してロイド達を見つめ、ロイド達の説明の中に欠点がある事に気づいたセルゲイはロイド達にとって予想外の答えを口にした。



「え………」

「肝心な事を忘れているぞ。お前らの中で、車の運転ができるヤツはいないだろうが。」

「あ………」

「そ、そう言えば………」

「しかも”普通の運転”じゃなくて、”強行突破の運転”だものねぇ。」

「ならば、ここは私が―――」

セルゲイの指摘を聞いたロイドは呆け、エリィとレンは疲れた表情をしている中ダドリーが運転手を申し出たが

「いや、お前には警官隊と”Ms.L”の私兵達の指揮とアリオスのサポートを頼む。ここは俺が行かせてもらおう。」

セルゲイが運転手はダドリーではなく自分が務める事を申し出た。



「ええっ!?」

「課長……車の運転なんてできたのかよ?」

「これでも警察学校じゃ、車両運転の教官も兼任していた。まあ、任せておけ。」

「意外な経歴ですね………」

「………助かります。どうかよろしくお願いします。」

「――話は決まったようだね。”西風の旅団”の諸君。私の依頼内容は彼ら――――”特務支援課”の協力者として彼らと共にヨアヒムの元へと向かう突入メンバーになって彼らに加勢して欲しい。」

「お、おじさま!?どうしてそんな事を………」

車の運転手や突入メンバーについての話が決まった後ゼノとレオニダスに依頼内容を答えたディーター総裁の話を聞いたエリィは驚いてディーター総裁を見つめた。



「―――”西風の旅団”の噂は私も耳にしている。”ゼムリア大陸最強の猟兵団”の一角の猟兵団に所属している猟兵…………この非常事態で目の前に”最強の戦力”がいるのに、使わない手はないだろう?」

「ま、そいつらが戦力として”最強”の部類なのは否定できねぇッスけど、何で俺達に加勢させるんッスか?市内に散っている警備隊の制圧やこのビルの防衛としての戦力に使った方がいいんじゃないんスか?」

ディーター総裁の意見に疲れた表情で同意したランディは真剣な表情で問いかけた。

「彼らは”猟兵”だ。集団行動で動く警察と共に動くより、遊撃士のように少数精鋭で動く君達の所の方が本領を発揮できると思うんだ。」

「い、いや~……”少数精鋭”は言い過ぎだと思うのですが………」

「ハハ、謙遜する必要はないで?今の(ぼん)達は”少数精鋭”と言われて当然の強さやで。………話はわかった。総裁殿の言う通りそっちの方が俺達としてもやりやすいけど……猟兵(おれたち)に依頼をするには当然”報酬”も必要なのはわかっているよな?」

「先に言っておくが数万、数十万ミラと言った”はした金”では俺達”西風の旅団”は依頼を請けないぞ。」

ディーター総裁の説明に苦笑しているロイドに指摘したゼノは不敵な笑みを浮かべてディーター総裁に問いかけ、レオニダスはゼノの問いかけを補足した。



「ハッハッハッ!IBC総裁を甘くみないでくれたまえ。――――1億ミラでどうだい?」

「い、1億ミラ!?」

「1億ミラなんて、”国”が依頼するレベルの金額だぜ………」

「………まあ、どこかの誰かさんはその3倍の金額を”たった”と言い切った事もあるけどね。」

豪快に笑った後莫大な金額の報酬を口にしたディーター総裁の答えを聞いたロイドは驚き、ランディは疲れた表情で呟き、ルフィナはジト目でレンを見つめ

「うふふ、その”どこかの誰かさん”って一体誰の事かしらね♪」

「フッ………」

「フフ………」

「クスクス……」

ジト目で見つめられて笑顔で答えたレンの様子を見たロイド達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中、その様子をジョーカー達は微笑ましく見守っていた。



「クロスベルの未来と君達のようなクロスベルの”正義”を目指している若者達の命を1億ミラで守れるのなら安いものさ。」

「おじさま……」

「もう、お父様ったら……せめて一言私に言って欲しかったのですが。」

ディーター総裁の答えを聞いたエリィは驚き、マリアベルは溜息を吐いた後真剣な表情でディーター総裁を見つめた。

「クク、さすがIBC総裁。躊躇いもせずに1億ミラも出すなんて、太っ腹やな。」

「敵拠点に突入する特務支援課と遊撃士達の助力で分け前を考えると一人5000万ミラか。悪くはない条件だが………」

一方ゼノとレオニダスは口元に笑みを浮かべて答えた後一瞬レンに視線を向け

「……………」

「――――ええやろ。その依頼、引き受けた。」

「どうやら三度(みたび)共闘する事になったようだな、”特務支援課”。」

視線を向けられたレンが僅かに首を縦に振るとそれぞれ依頼を引き受ける事を了承した。



「はい、よろしくお願いします……!」

「やれやれ……まさかかつての”宿敵”の連中と三回も共闘する事になるとはな。」

(というか二人は”レンさん―――Ms.Lの依頼を今も請けている最中”ですから、レンさんが後で二人にこっそり頼めばディーターさんがわざわざ1億ミラも支払う必要もなかったのでは……?)

(やん♪それは言わないお約束よ♪)

レオニダスの言葉にロイドが明るい表情で頷き、ランディが疲れた表情で溜息を吐いている中、ジト目のティオに小声で指摘されたレンは笑顔で答え

「―――アーシア、市内を離れられない俺達の代わりに頼む。」

「はい!」

アリオスの言葉にルフィナは力強く頷いた。



「………ロイドたち、行っちゃうの………?」

するとその時キーアが心配そうな表情でロイド達を見つめて声をかけた。

「ああ………でも大丈夫だ。絶対にキーアのところにみんなで戻ってくるからさ。」

「ええ……もちろんよ。戻ってきたらまた料理を手伝ってちょうだいね?」

「あ………」

ロイドとエリィの言葉を聞いたキーアは明るい表情をし

「確かにキーアが手伝ってくれたら魔法みたいに美味しくなりますし。」

「だったらいっそ、派手にパーティでもやろうぜ。知ってる連中全員、支援課に集めまくってよ。」

「うふふ、賛成♪とても賑やかで楽しいパーティになりそうね♪」

ティオの後に提案したランディの提案を聞いたレンが微笑んだその時ロイドはキーアに近づいてキーアの頭を撫でた。

「………キーア。本当は心細かったんだな。昔のことを覚えていなくて自分が誰かもわからなくて……ゴメンな、気付いてやれなくて。」

「ロイド………うん、何だかちょっとずつ、胸がモヤモヤしてきちゃって………でも………ロイドたちがいてくれてゼンゼン寂しくなかったよ………だから………だからね………!ゼッタイに無事に戻ってきて………!」

「ああ………約束だ!」

こうして……ロイド達はルフィナと”西風の旅団”と共に”古戦場”にある遺跡にいるヨアヒムを捕える為にセルゲイが運転する車で向かう事になり……準備が整ったロイド達は車に乗り込み、セルゲイは車の運転を開始した――――


 
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