針
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第二章
針はまだあった。太腿に局部、それにだった。
「後ろにも刺さってますね」
「それに舌まで」
「もう何本も何本も刺さって」
「こんなのはじめてですよ」
「滅茶苦茶じゃないですか」
麻酔をかけて眠らせた上で針を取っているその患者を見てだった。看護士達は話す。
そして津上はだ。針を一本ずつ丁寧に取りながら言ったのだった。
「針を抜いたらな」
「はい、まずはですね」
「それからですね」
「傷の消毒とかするからな。しかしこの針の数はな」
「百本越えましたね」
「遂に」
「二百はあるな」
それだけの数があるとだ。言う津上だった。その間も針を抜いている。
「こんなに多いなんてな」
「本当におかしな患者さんですね」
「誰がこんなのしたのか」
「ちょっと滅茶苦茶な」
「有り得ないですよ」
「だな。全くな」
津上はそのまま手術を続けていく。そしてだった。
消毒や手当ても済ませて病室に入れてからだ。彼はだ。
看護士達にだ。こう話したのだった。
「とりあえず傷による影響はないけれどな」
「それでもですよね。あれだけのことをしたのは」
「一体何処の誰でしょうか」
「奇麗な人だから彼氏にでもされたんでしょうか」
「別れ話のもつれとか」
「別れ話で普通あんなことする奴なんていないさ」
手術を終えた津上はマスクや手袋を外した。そしてだ。
帽子も外すとだ。黒髪を左右だけ切って上を伸ばしてだ。細面で白い顔の整った顔立ちの青年が出て来た。その彼が苦い顔でこう言ったのだった。
「ぶん殴るかナイフとかで刺すとかだよ」
「じゃああんなに針で刺してってのはですか」
「何百本もってのは」
「普通ないですか」
「ああ、ないな」
こう言うのだった。
「あんなネチネチした苦しみ抜くやり方はな」
「じゃあ一体誰が」
「あんなことしたんでしょうか」
「相当な変態なのは間違いないにしても」
「一体」
「患者さんから聞いてみましょうか」
看護士の一人がこう言った。しかしだった。
その看護士の言葉にだ。津上はこう返した。
「ああ。あの患者は絶対に言わないな」
「誰にやられたのかはですか」
「絶対にですか」
「言わないな。俺の予想が正しいとな」
「先生の予想がですか」
「正しいとですか」
「ああ、言わないな」
そうだとだ。津上は確信して言った。
「それでまた来るぞ」
「退院してからもですか」
「そうなりますか」
「その時はもっと酷いことになってるかもな」
津上は眉を顰めさせて言った。
「覚悟はしておくことだな」
「もっと酷いって」
「針よりもですか」
「じゃあ一体どうなるのか」
「わからないんですが」
看護士達は津上のその言葉に首を傾げさせる。しかしだ。
津上だけは確信していた。そのうえで彼は一仕事終えた後の一服のコーヒーを飲んでいた。そしてそのうえでだ。彼はその次の時を見据えていたのだった。
患者は退院した。やはりどうしてそこまでの怪我になったのかは誰に問われても何も言わなかった。警察に言うことを勧める者もいた。しかしだった。
彼女は頑として聞かずだ。警察等にも何も言わなかった。それでだ。
彼女は何も語らないまま退院し病院を後にした。それで話は終わった。
しかしそれからだ。一ヶ月してだった。
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