提督がワンピースの世界に着任しました
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第16話 話し合いは続き
俺達が現在の拠点としている人食い島について、一通りを話し終えた。そして話題は変わって、俺達がどこからやって来たのかについて、その源流となるだろう大日本帝国の事について話し始めよう、というような状態になっていた。クローバーさんも、早く聞きたそうに待っている。
ただ、俺はこの話題についてどう話し始めて良いのか、本当に話すべきなのか躊躇っていた。
先程話した人食い島という拠点については、現在も存在している場所で、クローバーさんも知っていた島の話だったので案外スムーズに話せた。
けれど、大日本帝国については異世界についての事情だと考えている。そんな事を話して、クローバーさんが異世界という存在を信じてくれるだろうか。もしかしたら、嘘の話だと思われたり、正気を疑われたりして、信用を失ってしまうかもしれない。そんな未来の予想が、俺の頭をよぎった。
けれど、思い切って自分たちは異世界からやって来た、という内容について嘘を交えずにそのまま話してみる事にした。
クローバーさんに話してみようと思い至った訳は、短時間の会話からでもクローバーさんの人柄をわずかでも知って、少なくとも悪人でないことを感じて理解していたから。それに、知識欲が強くて非常に頭が良い人なのだろう、と言うことも分かっていたから嘘に矛盾があれは、それからバレてしまうのではないか。下手に嘘を言ってしまったら、異世界という不思議を信じてもらえない事よりも、不味い事態だと思う。
おまけに、原作の主要キャラでニコ・ロビンという者が居て、彼女は麦わらの一味で、考古学者だったという事を思い出していた。
今話をしているクローバーさんも、考古学者として世界を回ったという話を聞いて、接点がありそうだと感じていた。もしかしたら、何らかの関係があるのか、それとも未来において主人公たちと何かしらの関係があるのでは無いのか、と推測していた。
今後の方針としては、ワンピースの原作に関わるか関わらないかは決めていないけれど、原作との間接的な接点はなるべく作っておいて、情報収集するためのツテは大事にしていきたいと考えている。だから、関係の可能性があるクローバーさんとの関係を、ここで断ち切らせたくは無いという打算が働いていた。
色々と考えてみた結果、これからする異世界の話を中途半端にせずに、信じてもらえるか信じてもらえないかイチかバチかに賭けてみよう、と思って話すことにした。
大日本帝国について、この国が経験した戦争の数々、そして話した内容については異世界で起こった出来事だということを、俺の知識を根拠にして簡単に短くしてクローバーさんに伝えてみた。
クローバーさんは、人食い島の時に比べて更に集中した様子で聞いていて、途中は口を挟もうとはしなかった。そして、最後まで聞き終えると立派なヒゲを撫でながら深く考えこんだ。
「異世界とはなぁ……」
「私たちの知っている世界と今の世界とで余りにも違いすぎていて、そうではないか、と推測しました」
一番に引っかかるであろうと予想していた部分に、クローバーさんもやはり引っかかっているようだった。ただ、半信半疑といった様子でクローバーさんが言葉を漏らす。俺は、その疑問に向けて言葉を差し込んだ。
「いや、過去にも違う世界から来たという証言や、元の場所に戻してと嘆いた人達が言った町や国の名が、調べても存在しないという様な事があったらしい」
「その人達は、その後どうなったのですか?」
「殆どが、その後のことについて詳しくは書いていないかった。そして、続きが有ったとしても”違う世界”だったり、”元の世界”という存在は確認できなかった、という記述で終わっているんじゃ」
「……」
正気を疑われたりしている訳ではなかったようで、ひと安心していた。けれど、異世界から来たと証明する手段は思いつかないので、完全に信じてもらえている訳でもないようだった。
***
随分話し込んでしまって、気がつけば既に図書館の中に入ってくる光がオレンジ色になっていた。それから、大事なことを忘れていた。
「紹介が遅れましたが、彼女たちは艦娘と呼ばれる存在。こちらが天龍、そして夕立、吹雪に、舞風です」
「オレが天龍」「私が夕立♪」「吹雪です。宜しくお願いします」「舞風です!」
皆の事を紹介する前に話し合いが始まってしまった為に、話し合いが粗方終わった所を見計らって遅れてしまった彼女たちの紹介をしっかりと済ませる。
「皆さん、よろしくじゃ。しかし”艦娘”とは、また知らない新たな言葉が出てきたのぉ。興味深い!」
先の遠征で出会った海軍の人達には詳しく話さなかった事を、クローバーさんには教えておく。ここまで事情を説明して今後付き合っていったら、彼女たちの事もいずれ知る事になるだろうし早めに伝えておいたほうが良いだろう。
艦娘の事をクローバーさんに、俺も分かる範囲で説明していく。
「人造人間のようなものか……?」
「人造人間?」
クローバーさんの疑問の言葉は、誰にも向けていない、無意識で呟かれた言葉だった。俺が聞き返すと、しまったというような苦い顔をするクローバーさん。どうやら、本当に無意識で出た言葉だったようで、しかも聞かれたら不味いというような類の言葉だったらしい。
けれど、クローバーさんは詳細を話してくれた。
「人造人間とは、海軍本部で技術研究が進めている物じゃ。ただ、海軍の軍事機密として情報封鎖されていて、名称以外は詳しいことはワシも知らなんだ。語感から察するに、機械の人間を作ろうとする計画なんじゃろうと、わしは思っておる。艦娘達の話を聞いて、ソレを思い出したんじゃ」
先に出会った海軍達について、造船技術や彼等から手に入れたマスケット銃等を見ていたら、機械によって人間を作ろうとするような技術を、海軍が開発しているという話には違和感を覚える。けれど、どうやら海軍に対する技術的に遅れているという印象は間違いなのかもしれない。
***
結局、話し合いが終わってクローバーさんと別れる頃、図書館を出た時には外が暗くなっていた。
俺は、今回のクローバーさんとの話し合いで得た情報を整理するため。クローバーさんは、今回の俺達がもたらした情報を裏付けできるような資料が無いか確認するために、一旦別れることになった。
そして、次にもう一度話し合いを行う約束も取り付けておいたし、次回の話し合いの後に人食い島にクローバーさんを招待する事も申し合わせていた。
「提督、あんなに情報を出しちゃって良かったのか?」
「知りたい事を教えてもらうために、こちらも誠意を持って対応しないと駄目だと判断したから、出来る限りはな。天龍達に相談なく事を進めたのは、悪かった」
「提督がそう判断したんなら、大丈夫さ!」
「ありがとう」
こうして、クローバー博士との初めての会合は終わった。予想していたよりも得られる答えは少なくて落胆もしたけれど、少しの重要な情報を手に入れた事と、クローバー博士と好意的な関係を結べた事は大成功だったと言える。
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