英雄伝説~菫の軌跡~(零篇)
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第65話
~ウルスラ病院・研究棟~
ロイド達が目を通したファイルには驚くべき人物が載っていた。
「まさか………こんな………」
「………クク、世も末だな。まさかハルトマン議長さえも取り込まれていたとは………」
「どうやら何かの弱味を握られて協力させられてたみてぇだが………この”楽園”ってのは何なんだ?」
資料に載っていたハルトマンの写真を見たエリィは信じられない表情をし、銀は嘲笑し、ランディは目を細めてファイルに書かれてあるある単語を見つめていた。
「ひょっとしたら教団の拠点の一つかもしれません………」
「……ええ、そうよ。そしてそのロッジの制圧を担当したのは私達よ。」
ティオの推測にルフィナは静かな表情で頷いて答えた。
「え……も、もしかしてルフィナさんも教団の制圧作戦に参加されていたのですか……!?」
「ええ。ちなみにそのロッジの制圧作戦に参加したメンバーはロイド君、みんな貴方が知っている人達よ。」
「え……一体誰なんですか?」
エリィに訊ねられたルフィナは頷いた後ロイドを見つめ、ルフィナの言葉が気になったロイドが訊ねたその時
「――――イオンお兄さんにアリエッタお姉さん、レイスお兄さん、そして………―――ルークお兄様よ。」
「ルークさん達が………―――!!と言う事は……!」
「レンさんがいた教団の拠点ですか………」
レンがルフィナの代わりに答え、レンの説明を聞いてある事を察したロイドは血相を変え、ティオは辛そうな表情でレンを見つめていた。
「ほう……?クク、なるほど。”小剣聖”や”Ms.L”の誕生のカラクリはこういう事だったのか。」
「うふふ、”天才”のレンは転んでもただは起きないって証拠よ♪」
「ったく、あんな凄惨な過去をあんな風に語るなんて見かけとは裏腹にたくましい嬢ちゃんだぜ……」
「ふふっ……わたしもレンさんのああいう所は見習うべきですね……」
「ティオちゃん………」
興味ありげな様子でいる銀に小悪魔な笑みを浮かべて答えるレンの様子をランディは苦笑しながら見つめ、静かな笑みを浮かべているティオの様子をエリィは優しく見守っていた。
「いずれにせよ、ハルトマン議長は”彼”に弱みを握られていた。そして”彼”がクロスベルに潜伏するのをルバーチェに手伝わせたのか………」
「更に自身が行動を起こす際の”駒”として扱う為にルバーチェに”グノーシス”という”切り札”を与えたのでしょうね………」
「……許せない………自治州代表の一人でありながら何という愚劣なことを………こんな人のためにおじいさまは長年苦労してお父様はクロスベルを捨てて……………」
ロイドとルフィナの推測を聞いたエリィは静かな怒りを纏ってファイルに写っているハルトマン議長の写真を睨みつけ
「エリィ…………………」
「……………………」
ロイドとティオはそれぞれ心配そうな表情でエリィを見つめていた。
「………感慨に浸かるのは早い。この黒いファイルによればグノーシスを製造している場所は病院ではなく別の場所のようだ。そして出荷リストによれば………マフィア以外にもかなりの量がどこかに流れているらしい。」
「………ああ。どうやら”彼”はここ以外にも拠点を持っていることになる………ひょっとして行方不明の人達はそこに………?」
銀の話に我に返ったロイドは頷いた後考え込み
「………あり得そうですね。一体どこにあるんでしょう………?」
「恐らくクロスベル州内であるのは確かだと思うのだけど……」
「その、マフィア以外の卸し先ってのも気になるな。おい、まさか”黒月”とかいうオチじゃねえだろうな………?」
「うふふ、もしそうだったら”黒月”も一緒に検挙できるわね?」
ティオとルフィナがそれぞれ考え込んでいる中ランディは目を細めて銀に問いかけ、レンは意味ありげな笑みを浮かべて銀を見つめた。
「フッ、あのツァオがそんな物に手を出すほど可愛気があるものか。可能性があるとすれば、どこぞの野心的な製薬会社………もしくはテロリストや猟兵団、各国の諜報機関もあり得るだろう。」
「フン、確かにな………」
「つくづくクロスベルという地の特異性が恨めしくなるわね………」
「………ああ………――――こちらの白いファイルも確かめてみよう。」
黒いファイルを見終えたロイド達はまだ見ていない白いファイルに目を通し始めた。白いファイルにはなんとたくさんの子供達の写真が写っていた。
「………っ……!」
「こ、これは………」
「ふむ………6年前の”儀式”の被害者たちか。」
「この子達が………」
「………外道が………こんなものを………」
写真を見たティオは辛そうな表情になり、エリィは怒りの表情になり、銀は静かな様子を纏って呟き、ルフィナは辛そうな表情でファイルに写っている子供たちの写真を見つめ、ランディは静かな怒りを纏って呟いた。
「……………………………ごめん、ティオ、レン。中を確認していくぞ………」
「……謝らないでください。どうか……そのまま確認してください。」
「レンもティオと同じ意見よ。」
「ああ………」
ティオとレンの言葉に頷いたロイドをめくっていくと幼き姿のティオの写真を見つけた。
「………あはは………この頃の表情に比べたら………少しはマシになりましたよね?」
「………っ………」
「ティオ………」
「……言うまでもないわ………」
「はは………見違えるほど可愛くなったと思うぜ。」
涙を流しながら呟いたティオの言葉を聞いたロイドは辛そうな表情になり、エリィとランディはティオに微笑んだ。
「……お世辞でも嬉しいです。ロイドさん―――どうか確認を。」
「……わかった。」
ティオに続きを促されたロイドがファイルにのページをめくり続けると今度はレンとユウナの写真があった。
「あ………」
「こいつは……」
「………レンさん………ユウナさん……」
「………………」
「……ふむ……もう一人の方はお前と容姿が似ているが……まさか双子か?」
「……ええ。レンにとってこの世で一人しかいないレンの大切な双子の妹よ。」
「レンちゃん………」
銀の問いかけに静かな笑みを浮かべて答えたレンの答えを聞き、レンが険悪の仲であったユウナを”妹扱い”する程まで姉妹関係が改善されている事にルフィナは驚きの表情でレンを見つめていた。
「………………………」
そしてロイドがファイルのページをめくり続けるとファイルの間に驚くべき人物が写った写真が挟まっていた。
「………ッ………!?」
「キーアちゃん………!」
「………そんな………」
「野郎………まさかとは思ったが………!」
「入院させなくて正解だったわね。」
(この球体はまさか………!だとするとこの写真に写っている子供は恐らく………)
写真に写る人物―――球体の中に眠っているキーアを見たロイド達が様々な想いを抱えている中写真に写っている球体が何であるかを考え込んでいたルフィナはある仮説を思い浮かべると複雑そうな表情で写真に写っているキーアを見つめていた。
「例の競売会でお前達が保護した少女か。この写真だけ新しいようだが、最近撮ったものということか………?」
「ああ、多分そうだろう………クソッ………!最初から知っていたのか………!」
「わたしたちがキーアをここに連れて来た時……”彼”は何喰わぬ顔で検査入院を勧めてきたんですね………」
「ふふっ……おそらくそうでしょうね。」
そしてティオが呟いたその時聞き覚えのある少女の声が聞こえてきた!
「なに………!?」
「この声は……」
声を聞いた銀は驚き、ロイドは驚いた後声が聞こえた方向に視線を向けた。
「あ………」
「どうしてここに………」
「おいおい………マジかよ!?」
「…………ユウナ。」
するとなんと窓縁にユウナが座っており、ユウナを見たティオ、エリィ、ランディは驚き、レンは複雑そうな表情でユウナを見つめた後ロイド達と共にユウナに近づいた。
「……気配を感じなかった……どうやら姉共々只者ではなさそうだな?」
「うふふ……あなたと同じくらいにはね。―――改めて自己紹介を。”戦天使の遊撃士(エンジェリック・ブレイサー)”レン・ブライトの妹にして”身喰らう蛇”の執行者、No,ⅩⅤ―――”殲滅天使”ユウナよ。うふふ、お見知りおきを。」
銀の問いかけに対して小悪魔な笑みを浮かべて微笑んだユウナは自己紹介をした。
「”身喰らう蛇”……なるほど”痩せ狼”の同類か。」
「あら……ヴァルターの事を知っているの?」
銀の口から出た意外な人物の名前を聞いたユウナは目を丸くして銀を見つめた。
「前に一度、やり合った事がある。結局、決着がつかずに取り逃がしてしまったがな。」
「うふふ、生前の彼も同じように思っているでしょうね。ユウナが”結社”に戻っていれば一緒に誘ってもよかったけど………それともブルブランあたりを誘った方が喜んでくれたかしら?」
「クク………かの怪盗の名まで出てくるか。”身喰らう蛇”……なかなか興味深い連中だ、」
ユウナの話を聞いた銀は不敵な笑みを浮かべてユウナを見つめていた。
「うふふ、あなたみたいな人が今までスカウトされていないのはむしろ不思議な気もするけど………クスクス……何か理由でもあるのかしら?」
「戯言を……」
「ユウナ……ひょっとして”結社”も関与しているのか?この研究室の主が起こそうとしている企みに?」
「うふふ………それは無いわ。ユウナはあくまで個人的な理由でこの地に留まっているというだけ。………―――ヨアヒム・ギュンター。聖ウルスラ医科大学准教授にして”D∴G教団”幹部司祭……全ての”儀式”の成果を集めて闇に消えた”グノーシス”の開発者。…………これでやっとユウナの知りたい全てが揃ったわ。」
「………そうか、君は………」
「あの白いファイル、ですか……」
ユウナの話を聞いたロイドとティオは辛そうな表情をした。
「ふふっ、アタリはついていたけど決定的な証拠は無かったから………それはおねえちゃんも同じなんじゃないかしら?」
「………………」
「レンちゃん………」
ユウナの問いかけに肯定も否定もせず目を伏せて黙り込んでいるレンをルフィナは心配そうな表情で見つめていた。
「―――”彼”のケガも治ったし、お兄さんたちにも助けてもらった。これでやっと………この地に留まる理由は一つだけになったわ。」
「え…………」
ユウナの言葉の意味がわからなかったロイドが呆けたその時ユウナは立ち上がった。
「―――エステル達に会ったら伝えておいてちょうだい。ユウナを捕まえられる最後のチャンスをあげるって。うふふ………無駄な努力だとは思うけど。」
「君は……一体何をするつもりなんだ?」
「この地のユウナは”仔猫”………気まぐれに観察するだけの存在。お兄さんやおねえちゃん達を助けるつもりもあえて邪魔するつもりもないわ。でもまあ………一つだけ忠告してあげる。あの子は多分、全ての”鍵”。くれぐれも奪われないことね。クスクス………言われるまでもないと思うけど。」
「………全ての”鍵”……」
「ひょっとしてキーアちゃんの事………!?」
真剣な表情で言った後口元に笑みを浮かべたユウナの話を聞いたロイドは呆け、エリィは真剣な表情で尋ねたが
「うふふ………そろそろユウナは行くわね。………おねえちゃんは”ユウナの姉”なんだからヨアヒム如きに殺されたりなんてしたら、絶対に許さないわよ。それでは皆様――――良き夜を(グーテン・アーベント)。」
ユウナは小悪魔な笑みを浮かべて答えを誤魔化してレンに視線を向けて自身のメッセージを伝えて上品な仕草で会釈をした後、ロイド達を見つめたまま窓から飛び降りた!
「な………!?」
「おいっ……!?」
それを見たロイドとランディが驚いたその時、何かの機械音が聞こえた後、”パテル=マテル”の片手に乗ったレンがロイド達の正面に現れて軽く会釈をした後、パテル=マテルはウルスラ病院から去って行った!
「わ、わたしたち…………夢でも見ているの………?」
「”身喰らう蛇”…………あそこまでの技術力だなんて……」
「うふふ、”身喰らう蛇と敵対しているどこかの組織”も同じくらいだと思うけどねぇ?」
「幾らなんでもその”どこかの組織”は”身喰らう蛇”の技術力には並べないわよ………」
「フン……どうやら認識を改める必要があるようだな。」
「ったく、あの秘書野郎といい、常識外れすぎんだろ………」
「………ああ……だが、どうやら彼女は事件には関わっていないようだ。…………黒幕の正体も判明して、その狙いも朧げだが見えてきた。こうなったら急いでクロスベル市に戻って―――」
仲間達が様々な思いを抱えている中気を取り直したロイドが仲間達に提案しかけたその時ロイドのエニグマが鳴りはじめた。
「あ………」
「すごいタイミングね………」
鳴りはじめたエニグマに気付いたロイドは驚き、エリィは真剣な表情で呟いた後、ロイドは通信を始めた。
「はい、特務支援課、ロイド・バニングスです!」
「良かった、無事だったのね。―――私よ。警備隊のソーニャ・ベルツ。」
「ソーニャ副司令………!今、どちらにいるんですか!?」
「ちょうど病院に到着した所よ。これから部隊を突入させるけど問題ないかしら?」
「そ、そうですか………―――マフィア達は一通り制圧している状態です。病院内の人達に声をかけて保護してあげてください。」
「わかったわ。また後で合流しましょう。」
そしてロイドは通信相手―――ソーニャとの通信を止めた。その後警備隊が突入してマフィア達を拘束し、病院内の人達の保護を始めたり、看護師達を纏めている師長やセシルに状況を聞いたりしていた。
~ウルスラ病院・病棟屋上~
「やれやれ………これで一安心って所か。」
「ええ………でも、まだ気が抜けないわ。」
「………そうですね………あの秘書さんの予告ではまだ何かあるみたいですし………」
「ああ、副司令と話したら急いでクロスベル市に戻ろう。」
「うふふ、夜は始まったばかり………病院での出来事は”挨拶代わり”で”ここからが本番”でしょうね。」
「洒落になっていないわよ………」
警備隊の行動を病棟の屋上で見守っていたランディは安堵の溜息を吐き、エリィの呟いた言葉にティオとロイドは頷き、意味ありげな笑みを浮かべて呟いたレンの言葉を聞いたルフィナは疲れた表情で答えた。
「フフ………どうやらここまでの様だな。」
「”銀”………行くのか?」
「クク、これ以上付き合う義理はあるまい。ツァオへの報告は十分だし、私は私で守るべきものがある。お前達と同じようにな。」
「え………」
「あなた、一体………」
銀の話を聞いたロイドとエリィは呆けた。
「……今宵は会う事はあるまい。だが、夜はまだ長い………くれぐれも気をつけるがいい。」
ロイド達に警告をした銀はロイド達に背を向け
「ああ………ありがとう!」
「ま、一応礼を言っとくぜ。」
「……お疲れ様でした。」
「……今回の件に力を貸してくれて本当に助かったわ。」
「うふふ、また一緒に協力する時が来るといいわね♪」
「フ………さらばだ。」
ロイド達の労いの言葉を受けた後人間離れした動きで病院から去って行った。その後、ソーニャやノエルと合流したロイド達は手早く事情を説明し………警備隊の車両でクロスベル市まで送ってもらえることになった。
「……そう。急いで街に戻るのね。」
「ごめん、セシル姉………本当だったら復旧の手伝いをしなくちゃいけないのに……」
自分達がすぐにクロスベル市に戻る事を知ったセシルにロイドは申し訳なさそうな表情で答えた。
「ふふっ、気にしないで。警備隊の方々もいるし、あなた達はあなた達にしか出来ないことをするべきよ。……キーアちゃんの身が危ないかもしれないんでしょう?」
「ああ………正直、ヨアヒム先生の狙いはまだはっきりとはわからない。この混乱した状況で俺達がどう動くべきかも……でもキーアは……あの子だけは必ず守ってみせる!」
「私も………同じくです。」
「絶対に………守ります。」
「ま、危ない野郎の元には意地でも戻させないッスから。」
「うふふ、あの程度の相手にレン達が負ける訳がないじゃない♪」
「過信は禁物よ?まあ、今回の件が落ち着くまでは私も彼らに力を貸すつもりよ。―――”どこかの誰かさんの代わり”にね。」
「ふふっ……大切なのは、あなた達が何をどう守りたいかだと思う。それさえ見失わなければ、きっと答えは出せるはずよ。大丈夫……あなた達ならきっとやれるわ。」
決意の表情で語るロイド達にセシルは微笑んだ。
「セシル姉……ありがとう。」
「……そう言って頂けると本当に心強いです。」
「フフ、言おうとしてた事をほとんど言われてしまったわね。―――拘置所の方も襲撃されて警備隊も相当混乱しているけど………ベルガード門の部隊と連携して事態の収拾に当たらせてもらうわ。長い夜になりそうだけど………お互い、頑張って乗り切りましょう!」
「はい………!」
「ま、せいぜい気張らせてもらいますよ。
ソーニャ副指令の言葉にロイドとランディはそれぞれ力強く頷いた。
「それじゃあ、ノエル。大至急、ロイド君達をクロスベル市に送ってちょうだい。可能な限り急いで、ただし事故らないようにね。」
「了解しました(イエス・マム)!」
そしてロイド達はノエルが運転する装甲車によってクロスベル市に向かった。
「さてと………病院内の復旧に戻りましょう。セシルさん。研究棟に案内してもらえる?」
「ええ、わかりました。」
ロイド達が去った後ソーニャに言われたセシルはソーニャが病棟に向かった後ロイド達が去った方向を見つめ
(みんな、どうか気をつけて。)
ロイド達が去った方向を見つめてロイド達の無事を祈り、その後ソーニャ達と共に病院の復旧作業を始めた―――――
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