不器用なマジシャン
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7部分:第七章
第七章
「どうして私をここに」
「あのですね」
一呼吸置いてからだ。亮太は答えた。
「実は」
「実は?」
「御話したいことがありまして」
亮太はその顔をやや俯けさせた。そしてだ。
あらためてだ。こう言うのであった。
「御呼びしました」
「御話ですか」
「あの」
手を一旦後ろにやってそれからだ。
切り札を出した。ところがだ。
前に戻した両手に持っているものはだ。何とだ。
トランプのカードだった。亮太はそのカード、ハートのクイーンを見て目を丸くさせた。そうしてそのうえでこう言ってしまったのだった。
「あれ、何でトランプが」
「トランプですよね、それは」
「はい、そうです」
それはその通りだとだ。亮太も答える。
「これはトランプです」
「トランプが何か」
「ちょっと。違いまして」
あたふたとしてだ。トランプをなおした。
そのうえでだ。またこう言う彼だった。
「これではなくてですね」
「トランプではなくて?」
「これを」
今度は手を一閃させて出した。今度こそはと思った。
しかし今度はだ。出してしまったのは。
一羽の鳩である。彼が手品でよく出す白い鳩だ。それだった。
それを出してしまってだ。彼はまた言ってしまった。
「おかしいな。こんな失敗はいつもしないのに」
「平和ですよね、鳩といいますと」
「はい、平和です」
それはその通りだと答える亮太だった。このこともだ。
しかし言いたいことではなかった。彼が今言いたいのはだ。
それでだ。その鳩もだ。
慌ててなおした。生きている鳩だがそれでも何処かになおせる。彼のマジシャン、それも天才と言われている由縁が出ていると言えた。
そのうえでだ。また言う彼であった。
「もう一度出しますから」
「もう一度ですか」
「今度こそは」
自分に言い聞かせる言葉である。その言葉を出してだ。
香にだ。それを差し出した。それは。
花束だった。赤い薔薇の花束である。彼はそれを彼女に差し出したのだ。
そしてそのうえでだ。こうその香に話した。
「これをどうぞ」
「花、ですか」
「あの、それで」
「はい、わかりました」
香は微笑んでだ。亮太に対して述べた。
「それではですね」
「受け取ってくれますか?」
「河原崎さんなら」
こう言ってだ。香はだ。
その手をそっと出してだ。そのうえで。
花束、紅のそれを受け取った。そうして言うのであった。
「そうさせてもらいます」
「有り難うございます」
「これからも宜しく御願いします」
微笑みをそのままにして。亮太に話した。
「笑顔で」
「そうですね、笑顔で」
亮太も微笑みで応える。そうしてだった。
二人の交際がはじまった。それを聞いてだ。
小津はだ。彼のマネージャーにこう話すのだった。
「二人は順調みたいですね」
「そうね。本当に」
マネージャーも彼の幸せに笑顔になっている。そのうえでの言葉だった。
「よかったわ」
「はい、ただ」
「ただ?」
「河原崎君ってあれだったんですね」
ここでこう言うのだった。
「土壇場になると。失敗するタイプだったんですね」
「そうね。普段はそんなことはないのに」
マネージャーもはじめて気付いたことだった。彼のマネージャーである彼女もだ。
「いざってなると。ああした緊張しきる場面だと」
「そうなるんですね」
「それ気をつけないと危ないわね」
マネージャーは困った、といった感じの笑顔で話した。
「舞台にも影響するしね」
「ですね。それじゃあそういうことも気をつけて」
「彼の世話をしていかないとね」
「はい、いざという時は不器用なマジシャンのフォローを」
小津も笑顔で言う。こう彼のことを話したのである。
そのうえで彼の幸せを見守るのだった。温かい笑顔で。
不器用なマジシャン 完
2011・4・2
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