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オムレツ

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第一章

                 オムレツ
 アンドレ=ラベルの朝のメニューは決まっている。
 パンとオムレツだ、後はその日による。
 しかしパンは当然としてオムレツは外せない、何はともあれ彼は朝にオムレツを食べないと一日がはじまらないのだ。
 それでだ、妻のエレノワールにも言うのだった。
「何といってもね」
「朝は、よね」
「これだよ」
 自分の前の妻が焼いてくれたオムレツを見て言うのだった。
「オムレツがないとね」
「あなたはね」
「そう、何にもならないよ」
「本当にオムレツ好きよね」
 エレノワールは自分の席から向かい側の席にいる夫を見て言った。見事な腰まであるもみあげのところは縦ロールにした金髪で目は青い、細面で睫毛は長く長身で気品のある外見だ。
 アンドレも髪は長い、やはり長身で細い顔で流麗な眉を持っていて瞳の色は彼も青だ。仕事は作家であり漫画の原作もしている。
 その夫にだ、エレノワールは言ったのだ。
「朝はこれがないとだから」
「そう、僕はね」 
 実際にとだ、アンドレは微笑んで答えた。
「やっぱりね」
「朝はオムレツよね」
「とにかくこれに尽きるよ」
「どんなオムレツでも」
「そう、オムレツがないと」
 それこそというのだ。
「はじまらないよ」
「そういうことなのね」
「それにね」
 アンドレはさらに言った。
「オムレツを食べているとわかるんだ」
「その一日が」
「そう、どんな感じになるのか」
「執筆の状況も」
「若し食べる調子がよかったら」 
 その時はというと。
「執筆も調子がいいし。それにね」
「私がどんなオムレツを作るかでも」
「そう、それを見てもね」
「一日がわかるのね」
「そうなんだ」
 こう妻に話すのだった。
「そしてオムレツにかけるものは何かでも」
「わかるのね」
「その時の僕の状況がね」
「機嫌がいいか悪いか」
「どんな精神状況かね」
「私がプレーンオムレツを焼いたら」
「その日は僕達は仲良くやれて」
 こう話すのだった。
「ぐちゃぐちゃした感じになっていたらね」
「喧嘩をする」
「そしてケチャップをかけたらね」
 アンドレ自身がだ。
「僕は機嫌がよくてね」
「そのかけるものによって機嫌が悪かったりとか」
「それがわかるんだよ」
「意識しなくても」
「意識したことはないよ、君もオムレツを意識して作っていないね」
「その時の気分でよ」
 作る方のエレオノールにしてもというのだ。
「作っているわ」
「そうだよね」
「けれどオムレツで色々わかるのは」
「不思議な話だね」
「本当にね」
「けれど僕の場合はそうなんだ」
 アンドレは、というのだ。
「オムレツによってね」
「一日がわかるのね」
「何もかもがね、ある程度ね」
「オムレツに支配されてる人生ね」
「ははは、そうかもね」 
 エレオノールの今の言葉にだ、アンドレは笑って返した。 
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