忘れ形見の孫娘たち
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
12.麻耶さんのワッシャワッシャ
みんなが片付けを手伝っくれたおかげで、ホールの引き払いは思った以上に早く終わった。そのため予定より早く『わくわく大自然キャンプ場』に到着。食材が現地に届くのを待って、総勢二百人弱の大バーベキュー大会が幕を開けた。
「ちょっと一航戦! これじゃ私たちが食べる分がなくなるでしょ!! つーか私が焼いた肉をひょいひょい取ってくのはやめてッ!!」
「あら。私はてっきりあなたが私のために焼いてくれているものとばかり思っていたわ五航戦。ひょいぱくひょいぱく」
「いいじゃないの瑞鶴。肉の一枚や二枚ぐらい……」
「翔鶴姉は甘いんだから!!」
いつぞやも聞いた阿鼻叫喚が加賀さんや瑞鶴さんたちがいるエリアから聞こえてくる。あそこは肉の消費スピードがとても速い。赤城さんといったか……見ているとあの人も加賀さんと同じかそれ以上のスピードで肉を焼き、平らげている。恐るべきスピードだ……。
「うーん……いいところデース……紅茶が美味しいネー……」
「金剛お姉さま。この比叡、お姉さまのために肉を焼いてきます!」
「榛名もご一緒します!!」
「では私は金剛お姉さまと共に紅茶を楽しみましょうか」
巫女さんコスプレで身を包んだ四人は、この糞暑い中パラソルを立て、野だての紅茶版とでも言うべき屋外ティータイムを楽しんでいる。大自然の中でのティータイムというのもオツなものだろう。楽しんでくれているようで何よりだ。
「カズユキ! あっちに川があったぞ川!! あたいたちと一緒に遊ぼうぜ!!」
「一人前のれでぃーは川泳ぎが得意なんだから!!」
一方で僕は涼風や小学生ぐらいの子たち数人に周囲を囲まれ、川遊びへと勧誘されている。すまん涼風。実は徹夜のダメージが今頃になって響いてるんだ。今けっこう身体がだるくて眠いんだよ……。
「ぇえ~?! 私たちとも遊んでくださいよー!!」
「ごめん五月雨ちゃん……でも僕は昨日徹夜したんだ……」
「でもおじさんたちは元気ですよ?」
五月雨ちゃんの抗議を聞き、僕は自然と妙高さんたちがいるエリアを見た。妙高さんと那智さん、そして二人の妹である足柄さんや羽黒さんと共に、うちの父ちゃんと母ちゃんは大騒ぎしていた。時々『ムッはァァああ妙高さん! みょうこーうさーん!!』『那智さま!! ああっ……麗しき那智さまッ!!』という叫び声が聞こえていた。あの夫婦はまだまだ現役な用で何よりだ。父ちゃんも母ちゃんも元気で素晴らしいっ。
「あのおじさんたちはね……煩悩をひねり出してなんとか頑張ってるんだよ……」
「?」
「じゃあさじゃあさ! 鈴谷のねーちゃんが一緒に来たら、カズユキも元気になるんじゃねーか?!」
聞き捨てならない涼風の一言には容赦なく身体が反応するようだ。僕は涼風のほっぺたを両手で挟み込み、容赦なくグリグリした。
「んぐッ?!」
「余計なことをいちいちのたまうのは……その口かッ……!!」
「てやんでぃ……あたいは何も……間違ったこと言ってねー……ぞッ!!」
「それが余計な一言だって……言うんだよッ……!!」
「あれー? かずゆきって涼風ちゃんと仲いいよねー?」
鈴谷はまためんどくさいタイミングで合流してくれる……両手に肉や野菜の乗った紙皿を持って、さっきまで別行動を取っていた鈴谷が僕らの方に近づいてきていた。
「仲良くなんかあるかッ! 今も余計なことを口走る涼風を折檻していたところだッ」
「ぶふっ……ひょっとしてかずゆき、涼風ちゃんに惚れた?」
「いやそれはない」
「心配いらねーぞねーちゃん! あたいは人のものに手を出すなんて野暮なことはしねぇ!!」
まだそういう余計なことを言うか涼風はッ!! 僕は今まさにすす風邪のほっぺたをぐりぐりと挟み込んでいる両手に力を込め、さらに力強くサンドしてやった。
「ちくしょう……あたいは……間違ってねぇ……ぞッ!!」
「だからその……余計な一言はやめろと……何度も……ッ!!」
「ぶふっ……どうするかずゆきぃ? ニヤニヤ」
「お前もニヤニヤするのはやめろ鈴谷ッ」
涼風への折檻もそこそこに、僕は鈴谷と共に少し休むことにした。涼風たちはぶーぶー文句を垂れていたが、こればかりは仕方ない。子供の無尽蔵の体力についていくには、僕は疲労が蓄積しすぎているのだ。それさえなきゃ僕だって川に入ってすいすい泳ぎたかったよ……
「はい肉。全然食べてないでしょ?」
「ん。ありがと」
「どういたしまして」
みんなから少し離れたベンチに二人で腰掛ける。鈴谷が僕に渡してくれた紙皿には、たくさんの肉と野菜が乗っかっていた。
「鈴谷が焼いてくれたの?」
「そうだよー。鹿島さんが“焼いて持って行ってあげなさい”って」
鹿島さん……あなたに持ってきて欲しかったです僕は……。鈴谷が焼いてくれた肉と野菜は、特別美味しいわけでもなくかといって不味いというわけでもない、焼肉のタレの味が口いっぱいに広がる普通の肉と野菜だった。
「ねーかずゆきー」
「ん?」
「ありがとね。さっきの告別式」
お互い並んで座っていて、ふたりともがみんなの方を見ているため、僕からは鈴谷の表情は見えなかった。でもその声色は、いつになく真面目な表情で僕に語りかけているであろうことを僕に伝えていた。
「突然どうしたのさ?」
「さっきの。“お前のがんばりのおかげで今日がある”っての」
二度は言わんぞ鈴谷。だって恥ずかしいから。
「そう言ってくれて、鈴谷がやったことって無駄じゃなかったんだなー……みんなの役に立てたんだなーって思えた」
「……そっか」
「うん。だからありがと。提督の孫がかずゆきでよかったよ」
そう言ってくれるとぼくもうれしい。爺様の孫でよかった……そうやって疲れきった頭でぼんやり考えながら、鈴谷が持ってきてくれた肉を食べ尽くした時だった。
「おう……和之」
僕と鈴谷の前に、摩耶さんと鳥海さんが来てくれた。摩耶さんは両手に肉がてんこ盛りの紙皿を持っている。その摩耶さんの少し後ろで、鳥海さんが微笑みながら僕らを見つめていた。
「は、はい?」
「和之……肉、持ってきてやったぞ」
「あ、ありがとうございます」
「おらっ……鈴谷も……」
「あ、ありがと……」
僕と鈴谷につっけんどんに差し出された紙皿。僕らが受け取ったその紙皿には、こぼれ落ちてしまいそうなほどに焼けた肉がてんこ盛りに盛られている。こぼれ落ちてしまわないよう、注意深く受け取った。
「あのさ」
「はい」
「礼を言わせてくれ。お前に」
「はいな?」
「アタシたちのためにひこざえもん提督の告別式をやってくれて、本当にありがとな」
「……」
「直接言いたかったんだ。お前には、本当に感謝してる」
摩耶さんは、言葉を選びながらゆっくりそう言ってくれた。……よかった。彼女は爺様とお別れするタイミングを探していたみたいだった。今日がそのタイミングになったんだとしたら、告別式を開いた甲斐があったってもんだ。
……でも、それと同時にちょっとした疑問が生まれた。直球で聞いてみるか。
「でも摩耶さん」
「あン?」
「んじゃ告別式の会場で会ったとき、なんでぶっきらぼうだったんですか?」
「ああ、あのときか……」
そうだ。摩耶さんのあのとげとげしい態度。あれはどう考えても“あとで直接お礼を言いたい態度”には見えない。今思い出してもそうだ。あれはどう考えても、僕に対して敵意むき出しか、あるいは……
摩耶さんはほんのり赤いほっぺたをポリポリとかきながら、ちょっと恥ずかしそうに答えてくれた。
「……なんかさ。アタシ混乱したんだ」
「?」
「お前を見たときにさ。すぐに和之だってわかったよ」
「爺様に似てるからですか?」
「違う。なんかさ。お前を見たときに、すごく懐かしくなったんだ」
懐かしい? 懐かしいって何だ? 摩耶さん、なんか不思議なことを言う人だな……
「アタシもよくわかんないんだけどさ。なんかお前を見たときにすごく懐かしいって思って……」
「……」
「んでさ。“おっきくなったなー”とか、“変わってないなー”って思ったんだ」
「そうなんですか? 爺様から僕の話を聞いてたからなんですかねぇ?」
「かもしんねーけど、なんかアタシもよくわかんなくてさ。それで混乱しちゃったんだ。ごめんな。ぶっきらぼうな態度とっちゃって」
そっか。別に怒ったり敵意むき出しだったりしてたわけじゃなくて、僕を見て混乱してたのか……確かに今ならわかるかも。なんとなくあの態度は、予想外の出来事に頭がついてきてなかった態度だったのか……
でも不思議なこともあるんだねぇ。僕を見て“懐かしい”だなんて。まるで昔の僕のことを知ってるみたいな口ぶりだ……。
「麻耶さんこそ、来てくれてありがとうございました」
「あん? なんでお前がアタシに礼を言うんだよ?」
「来てくれるか不安だったんです。余計なお世話じゃないかって……ひょっとしたらただ辛くなるだけなんじゃないかって、ずっと不安でした」
「そっか」
そして僕も、摩耶さんに対してずっと不安を抱えていたことを告白した。心の何処かで僕はずっと不安を感じていた。爺様にとって特別な存在だったはずの摩耶さん。それは彼女にとっても同じはずで、摩耶さんにとっても爺様は特別な存在だったはずだ。
今回の“グッバイひこざえもんプロジェクト”は、悪く言えば爺様の死を無理矢理叩きつける行為だ。悲しみに打ちひしがれている人に対して『爺様は死んだんだ』と乱暴に事実を受け入れさせる行為だ。それでもみんなは……摩耶さんは受け入れてくれるのか、正直不安で仕方なかった。
だから、僕は摩耶さんから『ありがとう』と言ってもらえて、フッと両肩が軽くなったことを感じた。よかった。これで完璧だ。“グッバイひこざえもんプロジェクト”は大成功だ。もう思い残すことはない。やってよかった。本当に……やってよかった。
「本当に……ありがとうございました……ひぐっ」
「おいおい……何泣いてるんだよーお前は泣く側じゃないだろー?」
「いや、あの……なんかホッとしたんです……ひぐっ……」
「ったくよー。これであのひこざえもん提督の孫ってんだから……」
ちょっと困ったような……でもニカッと眩しい笑顔を僕に向けてくれた摩耶さんは、さめざめと泣く僕の頭をガッシと掴んでワッシャワッシャと撫でてくれた。
「ありがとなー! 和之ッ!!」
「あ……」
僕の頭に思い出される、とてもとても幼いころの記憶。爺様がまだ元気で、婆様もとても可愛くて、二人によく遊んでもらってた頃の、今日みたいな夏の日の思い出。
『かずゆきー!! よくやったなぁー爺様はうれしいぞー!!』
『やめてじいさま! 頭ワシャワシャしないで! いたい!!』
『ブァハハハハ!! 婆様直伝の頭ワシャワシャはまだかずゆきには痛いかッ!!』
『ちょっと……やめてくださいあなた……若いころのことなんて……』
『婆様もな? 若いころはこうやってよく俺の頭をワッシャワッシャしたもんだ!!』
『そうなの?』
『そうだぞー。初めてやられた時はな? 爺様も痛かったんだぞー?』
『その辺にしていただかないと……あの時みたいにワシャワシャしますよ?』
『こわっ』
……やっと分かった。爺様がこの麻耶さんを秘書艦にした理由が分かった。思い出したよ爺様。
「あん? どしたー? 和之?」
「いや……なんか爺様と婆様思い出して……」
「ぶふっ……やっぱお前ら血が繋がってんなぁ和之」
「?」
「提督もさ。アタシがワッシャワッシャしてやったら“アイツを思い出した”つって泣いたんだよ」
マジで?! あの爺様が?!!
「アタシもさ。あのひこざえもん提督のこと、なんだか他人に思えなくてさ」
「そうだったんですか……摩耶さん、痛いっす」
「わりぃわりぃ。ついな!」
やっぱ爺様は、この摩耶さんに若い頃の婆様を見ていたんだ。……だから爺様は選んだんだ。みんなの中で、婆様にそっくりな摩耶さんを。
僕の抗議を眩しい顔で受け流しつつワシャワシャし続ける摩耶さんは、今度はそのまま鈴谷の方を見た。
「鈴谷ー」
「ん?」
「お前がさ。ひこざえもん提督が来なくなってみんなが混乱してる中、一人で取り残されて苦しんでたのは知ってる」
「……」
「本当はさ。アタシたちがお前のフォローをしなきゃいけなかったんだ。お前が取り残されてみんなにそのことを打ち明けられなくて寂しかったのに……アタシたちは自分のことだけで精一杯で……」
「そんな……仕方ないじゃん。大切な人が突然来なくなったら、そらみんな悲しいし、なんでだろうって不安になるよ」
「うん。そのとおりだ。だけどアタシたちはそれにかまけて、お前も苦しんでるのにフォロー出来なかった。他のみんなはいいけど、アタシは秘書艦だ。その秘書艦のアタシが、新人のお前を気遣ってやれなかった」
「いいのに……気にしなくていいのに……」
摩耶さんの突然の独白に恐縮しっぱなしの鈴谷が妙に新鮮で面白い。そう言うなよ鈴谷。麻耶さんの気持ちを汲んでやろうぜ。
「でもさ。そんなアタシたちのためにお前は頑張ってくれた。こんな素敵な機会をくれた。……ホント、お前には感謝しかないよ。ありがとう」
「いいのに……ホントに……鈴谷はただ……」
「ホント……サンキューなッ!!」
「うん。……鈴谷こそ、ありがと!」
鈴谷の言葉を受け、麻耶さんは鈴谷の頭にも手を伸ばし、思いっきりワシャワシャしていた。やはり鈴谷にとってもそのワシャワシャは痛いらしく、顔は嬉しそうだけどとても痛々しい悲鳴を上げていた。
「いだだだだ! 摩耶さんマジ痛い!!」
「へへんッ。摩耶様とひこざえもん提督からの感謝のワシャワシャだッ!」
お互いに感謝しあう二人を見て、僕は那智さんの一言を思い出していた。
――鈴谷は、仲間と打ち解けられてなかった
でももう、その心配はないようだ。
「ありがとなー鈴谷!」
「いだい! 分かったから摩耶さんマジやめて! いだいしぃぃいいいい?!!」
「ブヒャヒャヒャ!! アタシとひこざえもん提督からの二人分の感謝だからだよッ!!!」
もう大丈夫だ。鈴谷が孤独感を感じることはないだろう。鈴谷の頑張りが結実したんだ。……よかったな、鈴谷。
「じゃあな! お前らもたんまり肉食えよ!!」
「うん! 行こうかずゆき!」
「おうっ」
鈴谷に手を引かれ、麻耶さんからもらったてんこ盛りの肉が零れないよう、僕はみんなの元に行く。
「ほらほら早くッ! みんなにかずゆきのこと紹介するからッ!!」
「待てッ! 溢れるッ! 肉が溢れるッ!!」
「二人共! アタシが焼いた肉をこぼしたら承知しないからなッ!!」
若いころの婆様にそっくりな摩耶さんに見守られ、鈴谷と一緒に手をつなぎながら。
その後は大変だった。鈴谷の姉妹? たちに紹介され鈴谷との仲をからかわれたり……
「ところで和之さん。鈴谷とは今後どのような間柄になっていくおつもりかしら?」
「逆に聞きますけどどういう仲だとお疑いなのでしょうか熊野さん?」
「それは……ふふっ……言わずともおわかりでしょう?」
「いーえさっぱりわかりません」
瑞鶴さんに煽られて加賀さんと肉の早食い競争をしてみたり……
「和之。五航戦の味方をするというなら容赦しません。キリッ」
「和之ッ! 一航戦に負けたら承知しないわよッ!!」
「よくわかんないけどかずゆき負けるなー!」
「一秒で一枚肉を食べる加賀さんに勝てるはずがないだろうがッ!!」
酔っ払った那智さんに妙な絡まれ方をしたり……
「和之ッ。鈴谷はいい女だぞ? 末永くよろしく頼むッ」
「何が“よろしく”なんすかッ?!!」
「うわー……鈴谷としてはどう反応すりゃいいんだろうこれ……」
涼風や五月雨ちゃんたちとドッジボールしたり……
「いだッ?! 涼風ッ! 僕ばっかり狙うんじゃなくて鈴谷も狙えッ!!」
「てやんでぃッ! いっつもあたいのほっぺたをグリグリする仕返しだべらぼうめぇッ!!」
「わ、私が……和之さんのこと、守ります!!」
「ごめん。守ってくれるのはうれしいんだけど、どうして僕のシャツの裾をガッツリ掴んでるのかな五月雨ちゃん?」
「それは、あのー……和之さんを誘導して守ろうかと……」
「ぶふっ……こら和之のシャツが破れるのも時間の問題だね」
鹿島さんに脳を溶かされたり……
「和之さん?」
「……はい」
「鹿島は練習巡洋艦ですけど……付き合えない練習もありますからね?」
「一体何すか?! 鹿島さんが付き合えない練習とは……一体何なのですかッ?!」
「ふふっ……ね? 鈴谷?」
「……」
大淀さんから感謝の言葉をもらえたりした。
「和之さん。この大淀、久しぶりに任務娘としての腕前を存分に発揮させていただきました」
「いやいや、こちらこそ大淀さんがいて助かりました」
「本当にありがとうございました。……鈴谷もお疲れ様」
「ありがと! 大淀さんもお疲れ様!!」
かくして鈴谷たちのための爺様の告別式“グッバイひこざえもんプロジェクト”は大成功のうちに夕方に幕を閉じた。キャンプ場の片付けも終わり、皆それぞれの帰る場所へと引き返す。僕たちは自分の家へ。そして摩耶さんたちは摩耶さんたちの帰る場所へと、バスに乗って引き返していった。
うちに戻った僕はそのまま自分の部屋に戻った。居間では疲れきった父ちゃんがぐったりと寝転がり、母ちゃんはゆっくりとお茶を入れてくつろいでいるようだ。居間からはテレビの音と父ちゃんのいびきと、母ちゃんがお茶を入れるために台所でごそごそやっている音が聞き取れる。爺様と婆様の遺影がある和室も、これでしばらくはお役御免だ。明日からはあの傍若無人な爺様も静かに眠れることだろう。
「ふぃー……おつかれー……」
自分の部屋の畳の床にぐったりと寝転がり、天井を見上げて寝転がる。ヤバい。まぶたが重い。……今寝てしまったら妙な時間に目が覚めて眠れなくなりそうだ……でもヤバい……
「うん……おつか……かず……ゆ……」
なぜか大淀さんたちとは一緒に帰らずにこっちに来た鈴谷は、僕にくっついて部屋まで来て、僕よりも先に『うりゃー』だか『おりゃー』だか言いながら寝転がっていた。僕に付き合って鈴谷もほぼ徹夜で今までずっと起きてた上にキャンプ場で大はしゃぎだったんだからそら眠いだろう……『うりゃー』にほとんど元気がなかったもんな……。
「ヤバ……ねむ……」
「うん……ヤバい……」
あかん。まぶたが重い。重症だ。鈴谷の声がこんなに耳に心地いいとは……。
「うう……」
「んー……べしっ……べ……しっ……」
こら鈴谷……べしべし言いながら僕の足を叩くな……僕の腹を枕にするのはやめろ……あ、でも鈴谷の頭ちょっと心地いいかも……
「いいじゃん……枕ないんだ……し……」
「そっか……なら……仕方な……クカー……」
「スー……スー……」
ページ上へ戻る