世界をめぐる、銀白の翼
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
ディケイド ~蒔風、少しキレる~
「引っ張んないで!!お願いだから引っ張んないで!とれる!とれちゃうからぁ!」
「まったく・・・せっかくオレがタイミングよく出ていこうと思ってたのに」
蒔風とユウスケが屋敷の外に出て、話をしていた。
ユウスケが蒔風のどこを引っ張っていたかは、ご想像にお任せする。
「なにしに来たんだお前ら」
士と天馬が後から付いてくる。
と、もう用はすんだからと、蒔風が天馬を鞘に収めた。
その光景を目の当たりにして、士とユウスケが反応した。
「もう驚かないぞ、オレは」
「なんだ今の!すげーー!!」
士は蒔風の力を少しは知っているのでさほど驚かないが、ユウスケは蒔風の力を見るのはこれが初めてだ。
十分すぎるほど驚いてくれている。
「ありゃ、ユウスケは知らなかったっけか?」
と言って、蒔風が簡単に天馬たちの事を教え始めた。
そしてそれが終わったと同時に、ドシャッ!とビルの陰から海東が倒れ込んできた。
一体何があったのか、体中ボロボロで、歩くこともままならないようだ。
だがそんな体になってもまだ、先ほど持っていたクーラーボックスは手放していない。
さすがというかなんというか。
「どうした海東?」
「何やってんだお前?」
「海東さん!!大丈夫ですか!?」
蒔風と士がドライに反応し、ユウスケが海東に駆けよって身体を起こす。
と、それと同時、海東を追ってきたのか、そこに異形の怪人が現れた。
身体は黒くなった血液の色をしていて、その体中にいくつもの目が付いている。
外道衆「チノマナコ」
この世界にやってきたライダーを調べるために、、送り込まれた怪人だ。
「なんだぁ?あんな眼玉野郎に負けたのかお前は」
「いや待て蒔風。あいつが持ってるのって・・・」
蒔風が回答をおちょくるように言うが、士が促した先を見ると、確かにチノマナコの手にはディエンドライバーが握られてるではないか。
「あっはっは!なんだお前。泥棒のくせに盗まれたのか」
「なにやってんだか・・・大方そいつに気を取られてやられたんだろうよ」
士が笑い、蒔風がクーラーボックスを指して指摘しながらあきれる中、ユウスケが海東に肩を貸して起き上がらせる。
「ユウスケ、介抱してやれ。丁重にな。恩は高く売るもんだ」
「厄介だぞ?怪人がライダーの力だからな」
「全く問題ないな」
「そうだけどさ」
ヴォン!
士がカードを取り出し、眼前に構える。
「変身!!」
そしてそれを反転させてバックルに挿入、バックルを回転させて変身する。
[Kamen Ride---DECADE!]
「お前はそのままでいいのか?」
「オレはこのままでも強いの」
「そうか・・・行くぞ!!」
「ヲオオオウウウウアアアアア・・・・・・」
ドンドンドンドオン!!
チノマナコが言葉にならない唸り声をあげて弾丸を撃ちながら突進してくる。
蒔風がそれをスライディングでかわし、チノマナコの片足を両足で挟み取りバランスを崩させる。
崩れるチノマナコの体の頭部をナイスなタイミングでバッティングするディケイド。
チノマナコの体から火花が散るが、ディエンドライバーの力か、それともチノマナコ本来の力か、全く効いていないようだ。
頭をポリポリと掻いて、なんだこいつら?みたいなジェスチャーをとる。
「この野郎・・・」
「あの目全部つぶしてやろうか・・・」
あまりにもこちらを馬鹿にした態度のチノマナコに、蒔風とディケイドがいらついた声を出す。
そもそも、あーうー、うをおおうう、とさっきからやかましく呻き続けているのだ。
しかも時々不愉快なほど大声で騒いでくる。
そりゃ二人のイライラゲージも溜まる。
と、そこを通りかかる謎の男が
「はぁはぁ・・・畜生・・泥棒野郎も追わなきゃなんねえのに・・スシチェン・・・っぐ・・・」
何だか寿司屋の大将のような格好をした青年がよろよろと歩いてきて、戦いに割り込もうとする。
しかし体力の限界だったのか、その場に崩れ落ちてしまった。
その男に向かってディエンドライバーの銃口がゆらりと向けられる。
「っつ!?おい、まずいぞ!!!」
ダッ!!
その状況に血相を変え、蒔風が一気に青年の元に辿り着く。
しかし、辿り着いたはいいがあの体勢では弾くこともできないだろう。
銃口から弾丸が飛び、それがまっすぐに蒔風へと延びていく。
「蒔風!!」
ディケイドが叫ぶ。
しかし、蒔風の顔には笑みが。
この男は弾く必要を考えなかった。
地面に手が付いていればそれだけでいい。
「畳返し!!」
バゴン!!バガッ!!
跳ね上がった地面に、弾丸が命中し、少しだけ削る。。
その光景に士は少し驚いたが、蒔風の言葉にハッ、としてチノマナコに向きなおした。
「士!!あの野郎はまかせる!!」
「そうさせてもらう!!変身!!」
[Kamen Ride---DEN-O!]
蒔風が青年を連れていく背後でディケイドがさらに変身した音が聞こえた。
だがそんなことを気にしてる場合ではない
とりあえずこの青年を安全なところに連れていくことが先決だ。
とりあえずその場を離れ、ベンチに腰掛けさせる。
「すまねえな・・・」
「気にするない」
「にしても情けねえ・・・泥棒野郎にイカちゃん盗られるし、外道衆とは怪我のせいで戦えねえし。はぁ~あ~」
「なんだ?おまえ、シンケンジャーだったのか?」
「おうとも!オレこそがシンケンジャーが一人、シンケンゴールドよぉ!っていたた・・・」
彼の名前は梅盛源太。
彼の言う通りシンケンゴールドとして戦う戦士だ。
だが先ほど「泥棒野郎」に大切な相棒であり、武器でもあるイカちゃんこと「烏賊折神」を奪われてしまい、それを追っていたのだそうだ。
「なあ、そいつってさ、バカみたいに偉そうにして、指ピストルにして撃ってくる男か?」
「そ、そいつだそいつ!!知ってんのか!?」
「知ってるけど・・・」
どうやら海東がさっきから持っていたクーラーボックスにはその「烏賊折神」が入っていたのだろう。
源太の話によると、海東を一度は追い詰めた時、チノマナコが襲撃してきて海東はディエンドライバーを奪われたのだそうだ。
そして狙われた海東を守って自身も怪我をした、ということだ。
「お前・・・損な性格してんな~」
「うっせい」
「だが嫌いじゃない。烏賊折神も海東も守るかー」
「それは褒めてんのか?」
「誉めてます」
「そ、そうか・・・へへっ」
鼻を掻いて満更でもない源太に蒔風が言う。
「ちょっとここで待っててくれ。あいつ始末してくるから」
「お、おい待ってくれ!!外道衆と戦うのは一般人じゃ無理だ!!」
「大丈夫。一般どころかオレぁ異端だからな」
そう言ってディケイドの元に走っていく蒔風。
「ホントに大丈夫かよ・・・・ん?」
そこで源太が何かを見かけた。
それはユウスケに運ばれる海東だ。
再び標的を見つけ、その眉間に青筋がまた浮かぶ。
「あの野郎・・・もう逃がさないぜ!!いたたた・・・」
ヨタヨタと追いかける源太。
それに気づかずユウスケ達は歩いていく。
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蒔風がディケイドを見つけた時には戦いは終わっていたようで、たったいまディケイドコンプリートの隣から何らかのライダーの影が消えていったところだ。
「終わったのか?」
「いや、逃げられた。あの野郎、バカ力のくせして逃げ脚がはやい」
「それは仕方がないな・・・」
「次は必ずとっちめる!!」
「はぁ・・・・」
蒔風は活躍の場がなくなってしまったので少々肩を落としながら先ほど助けた源太の元に向かった。
しかし、源太は海東を追って行ってしまったので、そこにいるわけもない。
自力で動けたなら問題ないだろうと二人は納得し、その場を去っていった。
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その日の夕暮
いくつもの高層ビルの並び立つ街中
そのうちの一つの屋上に、チノマナコはいた。
もはやまともな言葉は発しておらず、唸り声だけを呻き上げている。
しかし、その使い方だけはよく知っているようだ。
カードを取り出し、装填する。
[Kamen Ride]
「へぇン・・・しィン・・・」
[DEEND!]
ドンドンドンドン!!ヴァアン!!
ディエンドライバーがいつもとは違う唸り声をあげて、変身音を発する。
チノマナコの頭部と肩にディエンドの装甲が装着される。
この世界に、最初のライダーが誕生してしまった瞬間である。
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ちなみに夜
「イカちゃんどこだーーーーー!!!出て来やがれってんだ泥棒野郎ーーー!!!」
ふらふらの体で海東とユウスケを追い切れるわけもなく、結局見失って街を探し回る源太がいた。
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次の日
士と蒔風は町を歩いてチノマナコを捜索していた。
夏海とユウスケも他の場所を回ってるはずだ。
「どーもこの世界は落ち着かない」
「そりゃそうだ。お前はライダーの世界しか知らないんだから」
「お前はそれ以外の世界も回ってんだっけか?」
「おう。むしろライダー世界の方が少ないぜ?」
そして捜索場所を海に沿った街道に移し、歩みを進める。
そこに一人の青年が立ちふさがった。
「お前・・・殿さまじゃないか。家臣はどうしたんだ?」
そこにいたのは丈瑠だった。
何やら厳しい表情をしており、糾弾するかのように二人に訊いてきた。
「お前らは昨日の・・・まあいい、お前らのうち、どちらがディケイドだ?」
「オレだ」
「この人」
「んで・・・なんか用か?」
士がディケイドだとわかるとそちらを向き、疑問を投げかける。
「お前が世界の破壊者だというのは本当か」
「まったく・・・またそれかよ・・・」
「この世界がおかしくなっているのはお前のせいらしいな」
「だ~か~ら~・・・畜生、またお前か!!」
士がうんざりした声を出しながら街道から上に伸びる階段の方を向き、言った。
「鳴滝!」
その声に応じて灰色のオーロラと共に一人の男性が現れた。
鳴滝である。
「そうだディケイド。私だよ。・・・シンケンレッド!ディケイドを倒すんだ。こいつはこの世界を破壊する!!」
その言葉を聞いて丈瑠が黙っていられるわけがない。
変身ツール、「ショドウフォン」を構え、臨戦態勢に入る。
それに対し士もカードを取り出し、互いに威嚇する。
「おいおいおいおい。ちょっと待てよおっちゃん。あんた・・・誰だ?」
「初めまして。私は預言者。鳴滝と名乗っております、翼人どの」
「・・・その呼び方やめろ」
「では蒔風殿。あなたにも協力願いたい。ディケイドは世界の破壊者です。今のうちに倒しておかなければ大変なことになる!!あのように!!!」
鳴滝が指をさした方向にディエンドチノマナコ(以降Dチノマナコ)が現れた。
その装甲の「スキマ」から先日も数多く出現していたアヤカシ、「ナナシ」を出し、こちらに迫ってくる。
「チッ!一筆奏上!!」
宙に「火」の文字を書き反転、それがエネルギーとなって身体を覆う。
丈瑠がシンケンレッドに変身し、チノマナコに立ち向かっていく。
それに加勢しようとする士と蒔風だが、鳴滝のオーロラによって阻まれてしまった。
「みろ、ディケイドのせいでああしてこの世界にライダーが誕生してしまった。この世界にライダーなど必要なかったのにだ!これもディケイドが元凶だ。即刻この世界から去れ!」
「おい待てよ。それはいくらなんでも」
「蒔風殿!!世界を渡り、その秩序を守る翼人のあなたならわかるはずです!各世界は浸食されてはならない。物語はあるべき姿をすべきだ。そうでしょう!?」
「・・・悪いがそんなの知らねえな」
オーロラのせいで遠くなっている戦闘音をBGMに蒔風が言う。
「物語なんざ、こうしてオレがこの世界に来た時点でもう違ってるんだ。だったらなるべくいい方向に持ってくべきだろ?」
「しかし!奴は「破壊者」です。そんな者が」
「すべてを破壊する力なら、すべての悪を退かせる力にもなりうる」
「な・・・ん・・・・」
「それに「ディケイドディケイド」って、士本人を見てやってくれよ」
「・・・あなたは・・・翼人ではないのですか?」
「オレは確かに翼人だよ。でも、世界だとか物語に干渉はする。これはな、オレの物語でもあるんだよ」
「・・・ディケイドの「破壊者」の力は本人の意志とは関係ありません。いずれ後悔しますよ」
「かもな。だけど、オレは士達と出会い、共にいることを後悔はしない」
「・・・・翼人・・・世界の救世主・・・」
「んでもって、どっかの世界では「破滅と共にある者」らしいけど?」
「・・・・・・・」
シュウゥゥゥゥゥゥ・・・・・
オーロラと共に鳴滝が消える。
それと同時にシンケンレッドがDチノマナコを退かせたようで、変身を解いて再び士達に向き合う。
「さっきの男といい、「ライダー」と呼ばれる力といい・・・お前たちは何者なんだ?」
その問いにいつも通り士が答える。
「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えとけよ?」
と、自信満々に士が名乗りを上げた瞬間
「てめえも泥棒野郎の仲間かぁ!!!」
一体どこで聞いていたのか、騒がしい声と共に源太が疾走してきて、士に掴みかかろうとする。
「源太!?今までお前何やってたんだ!?」
それを丈瑠が止める。
そこで源太が蒔風に気付いた。
「お、兄ちゃんは昨日の!ありがとな、あん時は」
「いや、まあいいんだが。あの後どうしたんだ?」
「あの泥棒野郎を見かけてな、追っかけたんだが、こっちの調子も悪くてな。見失っちまったのよ」
「それで今日も駆け回っていたのか?」
「そう!!それでそこの!あの泥棒野郎と仲間なんだろう!?」
源太が士を指さして叫んだ。
それに士が反論する。
「オレとあいつは仲間じゃない。それに蒔風から話は聞いたが・・・イカ盗んでどうするってんだ」
「源太っち。少なくとも士は泥棒じゃない。悪党ではあるが」
「おい!!」
「な~?目つき悪いだろ~?だから世界の破壊者って言われてみんな信じちまうんだよ」
「たしかに、そう言われてもしょうがないな」
「うんうん。で、そこのライダーってのが泥棒野郎の仲間じゃないってんなら、兄ちゃんは知ってんのかい?」
「昨日知ってるって言ったのに・・・」
「おおお!!じゃあ案内してくれ!!まったく、ライダーなんざロクなもんじゃねえや。変なアヤカシは出るわ、イカちゃん盗まれるわでもう散々だ。おいそこのライダー野郎も、とっとといなくなっとけ。厄介を持ちこまないでくれよな!ライダーなんざ皆同じだ!!」
その言葉にムッ、とする蒔風。
確かに源太の言うことは理解できる。
何せ彼が一番の被害者なのだから、そう思ってしまうのはしょうがないことだ。
それでも蒔風は黙っていられなかった。
いや、理解できるからこそ反論することにした。
「ちょっと!!そんな言い方しなくてもいいじゃないですか!!」
しかし、実際に反論したのは蒔風ではなく、ちょうどその場に士達を呼びに来た夏海だ。
反論しようとしていた蒔風が「ありゃ」と出鼻をくじかれてすこしズッこける。
「士君は違います。今までもたくさんの世界を救ってきたんです!!」
「あー、それは俺からも言わせてもらおう。「ライダー」だとか「世界」だとか、そんなくだらない固定観念に縛られていてよくこの世界を守れるもんだ」
夏海と蒔風が言う。
その言葉に、源太が黙る。
確かにその通りだ。
今までだってあれだからこうだ、なんて思いこみで失敗してきたことは多かった。
それをこんな場所であらためて言われて、源太が少し落ち込む。
「それに、泥棒なら知ってます」
「居場所も知ってるって言ったろ。この直情バカが。全く昨日は少しは見所があるかと思ったんだがな」
「ホントにか!?あとバカとはなんだ兄ちゃん!!」
夏海の言葉に嬉しがり、蒔風の言葉に少し怒る源太。
喜怒哀楽の激しい奴である。
そこにさらに蒔風が追撃を掛ける。
「バカはバカだ。いや、「バカ」という単語を使うこと自体、「バカ」という単語そのモノに失礼だな。しかし残念なことに「バカ」としか言い表せないんだから、そう言うしかあるまい?だから「バカ」と言われるたびに「あまりにも愚かで「バカ」としか呼ばれようにない自分を許してください」と馬と鹿とこの言葉を作った古代人に向かって謝罪しておけ、バカ。とっとと博物館と動物園に行って謝ってこい。頭ン中もキンピカピーですか?コノヤロー」
その蒔風の言葉に夏海が若干引いて、青ざめている。
士すらも、うわこいつひでえ、といった顔をしている。
「蒔風さん・・・それはちょっと・・・」
「蒔風、それは言い過ぎだ」
二人が蒔風に注意する。
「そうか?こう言った理解力のなくてあれだこれだと決めつけにかかるバカがオレは何より嫌いなんだが」
「そ、そうなのか?」
「おう。ま、それはそれとして、ほら、泥棒のとこまで案内してやっから、ついてこいよ」
「・・・はい・・・・・・・」
地獄の底まで落ち込んだ源太と、それを支える丈瑠。
二人が士と夏海と共に進む後を、蒔風も後を追って足を進める。
(まっずい―――最近なかったけど、そろそろ歪みが・・・来てる・・・・)
頭を押さえながら、さっきの源太に対する言葉を思い返しながら、一滴の脂汗とともに蒔風は彼らの後をついていった。
to be continued
後書き
アリス
「今回蒔風少し怒りましたね」
いや、作者に悪意はないですよ?
シンケンゴールドファンの皆様、すみませんでした
アリス
「あれ?でも次回でも同じような口論が確か・・・」
そこは秘密
アリス
「次回、蒔風プッツン」
ではまた次回
実体があるとかないとか関係ないんだ。そこに存在することにはな。
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