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3部分:第三章
第三章
「ゆっくりと過ごそうよ」
「わかったわ。じゃあ土曜ね」
「楽しみにしていてね」
こうしてだった。二人はだ。その土曜日に淳司の実家でバイエルン料理、そしてワーグナーにまつわるその食べものを食べることにしたのだった。そうしてだ。
香菜は淳司のその実家に来た。そこでだった。
リビングにある大きなテレビでだ。ワーグナーのオペラ、ローエングリンを観た。そのオペラはというと。
まさにロマンだった。白銀の騎士が美貌の姫の窮地を救いに水辺からやって来る。その姿を観てだ。
香菜はテレビの前で息を飲みだ。思わずこう言った。
「凄い、何か夢みたい」
「どう?凄いでしょ」
リビングの隣のキッチンからだ。淳司の声がしてきた。
彼は丁度そのバイエルン料理を作っていた。その中から応えてきたのだ。
「そのオペラは」
「オペラはテレビとかで結構観てきたけれど」
「どんなの観てきたの?」
「モーツァルトとかね」
言わずとしれた音楽史上最大の天才と言われている人物だ。
「フィガロの結婚とかね」
「ああ、あれね」
「他にはヴェルディとかも」
「イタリアの作曲家だね」
「アイーダ好きよ」
ヴェルディの代表作の一つだ。古代エジプトを舞台にしたかなり派手な作品だ。
その作品も観たとだ。香菜は画面を前に淳司に述べる。
「あれはいいわね」
「結構知ってる?オペラのこと」
「少し観た位だから」
そこまではというのだ。
「私もね」
「そうなんだ。じゃあワーグナーは」
「今観るのがはじめてよ」
「そうなんだね」
「けれど。凄いわね」
はじめて観るワーグナーの作品はだ。どうかというのだった。
「こんな夢みたいな舞台が本当にあるなんて」
「気に入ったみたいだね」
「ええ、とてもね」
実際にそうだと答える香菜だった。そしてだ。
オペラは進みだ。その結末まで観てだ。
ほう、とした顔でだ。彼女は言うのだった。
「悲しい結末だけれどそれでも」
「感動した?」
「ええ、満足したわ」
悲しみはあった。だがそれ以上にだ。
画面の前で満足してだ。淳司に言ったのである。
「観てよかったわ」
「そう言ってもらえると何よりだよ」
「長かったけれどそれでも」
どうだったかというのだ。今度は時間にまつわる話だった。
「また観たいわ」
「そうだね。それじゃあね」
「お料理できたの?」
「うん、できたよ」
丁度いい具合にだ。そっちもだというのだ。
「じゃあ早速食べようか」
「ええ、それじゃあね」
こうしてだった。キッチンのすぐ傍のテーブルの上にだ。彼はそのバイエルンの郷土料理を次々と持って来た。それはどういったものかというと。
まずスープだ。それはだ。
巨大な肉団子が中に入っていた。それを見てだ。香菜は目を点にさせて自分の向かい側に座って同じくその肉団子を前にしている淳司に尋ねた。
「これ何?」
「だからバイエルンの郷土料理だよ」
「それはわかるけれど」
「うん、このスープだよね」
「下手なハンバーグより大きいけれど」
その肉団子がだ。とにかくだというのだ。
「こんなスープはじめてよ」
「そう言うと思ったよ。それでもね」
「これがバイエルンのスープなのね」
「そのうちの一つだよ」
「凄いわね」
その目が点になったままの話だった。
「これはね」
「まあとにかくね」
淳司はだ。その呆然となっている香菜に言った。
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