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FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~

作者:山神
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ワガママ

 
前書き
スプリガン12全員集合しましたね。
てかラーケイドがアクノロギアを倒す可能性を秘めてるなら、妖精の心臓(フェアリーハート)なんか狙わずラーケイドを極限まで強化した方がいいんじゃないだろうか・・・念のための保険ってこと?ゼレフ心配性だなぁ。 

 
カミューニside

「ラクサスさん!!ラクサスさん!!うわぁ~ん!!」

目の前にうつ伏せに倒れ、血の海に浮かんでいる状態のラクサスを見て、シリルは体を揺すりながら大号泣しているみたいだ。そんな彼の体を侵食していた模様が、少しずつ左腕に戻っていているようだ。

「セシリー!!来い!!」
「わかった~!!」

近くの草むらに隠れていたセシリーを呼び寄せ、彼女とともにシリルとラクサスの元へと駆けていく。

「ラクサスさん!!しっかりして!!」
「シリル!!落ち着け!!」

いまだに涙が止まっていない様子のシリルの肩に手を乗せ、体を揺する。それに気付いた彼は、こちらを振り向いたのを感じた。

「カミューニさん!!ラクサスさんが・・・ラクサスさんが・・・」
「落ち着いてってばシリル~!!」

俺の服を掴んで泣きついてくるシリルをセシリーも落ち着けようと奮闘するが、なかなか彼が冷静になることはない。そんな水竜の頭に、俺はそっと手を乗せた。

「大丈夫だ、ラクサスはまだ生きてる」
「え?」

涙を拭う少年に顎で倒れている男を見るように指示する。彼はそちらにゆっくりと振り返ると、微かにではあるが、ラクサスが息をしていることに気付いた。

「ただ、ラクサスはかなり危険な状態だ。すぐに治療をしないと間違いなく死ぬ」
「治療・・・」

ここまで言えばわかるだろうと思っていたが、まだ頭が混乱しているらしく、これからどのように行動すればわかっていない。俺はシリルの頭に乗せていた手を、背中へと移動させていく。

「今ラクサスを救えるのはお前だけだ!!」
「お・・・俺だけ・・・」
「そうだ!!仲間だろ?助けてやれよ」

そう言って背中を押すと、シリルはコクンッとうなずいた後、血の上に倒れているラクサスを治すためにそのそばへとしゃがむ。

「ごほっ・・・お前ら・・・本当アホだな」
「「!!」」

シリルがラクサスの治癒を開始したのとほぼ同時に、二人の奥から一人の男が痛む体を押さえながら立ち上がるのを感じる。

「敵庇って大ケガしてちゃあ、世話ねぇぜ」

先程から暴走したシリルの力に圧倒され、ほぼ瀕死の状態だったノーラン。そいつは、動くことすら困難であるはずの体でその場に立ち上がっていた。

「まぁいい。シリルの治癒力はウェンディやシェリアより劣る・・・今のうちに、ぶっ殺してやるぜ」
「チッ」

回復魔法が使えると言っても、シリルのそれは他の回復魔導士(ヒーラー)たちより劣っている。つまり、ラクサスの傷を治すまでには時間がかかるということだ。

「仕方ねぇ・・・俺が時間を稼いでやるか」

治療中はシリルは戦うことはできない。ラクサスも戦闘不能だし、ここは俺がやるしかないだろう。

「僕も手伝うよ~!!」
「サンキュー。助かるぜ」

目が見えていない俺を援護してくれるというセシリー。彼女の好意をありがたく受け取り、ノーランに向かおうとした。その時、

「ラクサスさんの治療、終わりました」

水色の魔力をラクサスの体に押し当てていたシリルが、落ち着きを取り戻した声でそう言った。

「マジか!?」
「早~!!」

予想の何倍も早い時間でラクサスの治療を終わらせたシリルに、俺もセシリーも、戦おうとしていたノーランも驚愕している。

「確かに治ってるみたいだな」
「シリルすごいよ~!!」
「へへっ」

傷ついたはずの部位を触ってみると、貫通していたはずのその部位は確かに塞がっていた。セシリーはラクサスを治したシリルに嬉しそうに飛び付き、飛び付かれた少年も照れたようにハニカんでいる。

(でもなんでこんなに早く治せたんだ?今までのシリルじゃこれほどの力は・・・)

友の回復を喜ぶよりも先に、そんな疑問が頭に浮かんでいる俺は、意外と現金な奴なのかもしれない。でも、その疑問は、今までの戦いなどの流れからおおよそではあるが、予想することができた。

(天空の滅悪魔法か)

シリルの腕に刻まれた黒い模様。それは、さっきまでは彼の魔法を邪魔していたのだが、暴走状態の時は滅竜魔法と合わさり、強力な力を放っていたと思われる。
未完成だったものがウェンディたちのことを聞き、怒りで己の物にできたとしたら、治癒の力が上がっているのもうなずけるか。

「なるほど・・・自分の力で物にしたと言うわけか。
だが!!模様が消えたお前には、もう俺を止めることはできねぇだろ」

模様が元通りになってしまったシリル。さっきまでノーランを圧倒していたのは、その模様が体を蝕んでいたのもある。だけど・・・

「シリル、よく聞け」
「カミューニさん?」

シリルの頭に手を乗せると、俺は彼の耳元でそっと呟くように話しかける。

「今、俺もラクサスも戦える状態じゃない。ノーランを止められるのは、お前だけだ」

目が見えないとはっきり言ってあいつを倒すことはできそうにない。その節を伝えると、シリルは顔をうつ向ける。

「でも俺・・・またさっきみたいに・・・」

どうやら暴走していた時の記憶がわずかながらにでも残っているらしく、またああなってしまうのではないかと心配しているシリル。なら、その不安を取り除けるような声をかけるか。

「お前がさっき暴走したのは、ウェンディたちが死んだと()()()したからだ」
「か・・・勘違い?」

こちらを覗き込むように顔をあげたシリルに、小さくうなずく。

「安心しろ、ウェンディは生きてる」
「!?」

俺の言葉を聞いたシリルは、ビックリしたのか、俺の服を掴む。

「本当ですか!?ウェンディが生きてるんですか!?」
「あぁ。お前の手、見てみろ」

そう言うとシリルは自分の左手を見つめる。その左手には、水色に光る宝石がついた指輪が輝いている。

「絆の指輪は、身に付けている者が片方でも死ぬと両方とも砕けるんだ。だが、今お前の手にそれがついてるってことは?」
「ウェンディは無事・・・ってことですか?」

彼のその言葉にうなずくと、シリルは嬉し涙を流し、顔を手で覆う。

「本当なんですね・・・大丈夫なんですね・・・」
「あぁ」

嬉しそうに何度も何度も確認するシリルを見て、少し罪悪感が芽生えてくる。本当は絆の指輪にそんな効果なんかない。いや、もしかしたらあるのかも知れないけど、それは俺が知るところではない。
だけど、今はシリルを落ち着けるのが最優先だ。それに、ウェンディなら大丈夫なような気がする。妖精の尻尾(フェアリーテイル)は結構強運の持ち主が多いからな。

「ウェンディは無事だ。そして、あいつと笑顔で再会するには
ノーランを倒さなければならない。わかるな?」
「・・・はい!!」

顔をゴシゴシと拭いて気合いを入れたシリルは、両手で拳をを強く握り立ち上がる。

「お前はもう滅悪魔法は使えない。その実力じゃあ、俺には勝てない!!」

地面を蹴りシリルへと突撃してくるノーラン。それに対し、少年は静かに構え、敵が向かってくるのを待つ。

「シリル!!危ないよ~!!」
「待て」

シリルがノーランが接近しているのに動こうとしないのを見て慌てたセシリーがそう言うが、俺はそれを片手で制止する。

「今のシリルなら大丈夫だ。それはお前が一番わかるはずだろ?」
「・・・うん!!そうだね~!!」

一瞬迷ったみたいだったが、すぐに考え直し元気にうなずくセシリー。後ろでそんなやり取りが行われていることに気付いていない少年は、迫ってくる悪魔に魔法の照準を絞っていた。

「水天竜の・・・鉄拳!!」
「!!」

目と鼻の先にまで迫ってきていたノーランに、水と風を合わせた拳を打ち出すシリル。

「ぐっ!!」

ノーランは予想の上を行く速さで放たれたそれに反応できず、攻撃を受け後方へと飛ばされる。

「今の風って~?」

彼のさっきの攻撃を見て、何かを感じ取ったセシリーは頭に疑問符を浮かべている。それはおそらく・・・

「この・・・!!」

地面に着地した悪魔。彼はキッとシリルを睨みつけると、雷の槍を生成し投げ放つ。

「水天竜の・・・翼撃!!」

自分の魔法である水とは相性がよくないはずのノーランの魔法。しかし、彼は魔力を纏わせた腕を振るい、その攻撃を蹴散らしてみせる。

「バカな・・・なんで・・・」

あっさりと魔法を払い除けられたことに驚いているのか、はたまた俺と同じところに驚いているのか判断には困るが、ノーランは明らかに動揺しているのが感じ取れる。

「カミューニくん、シリルの風って~」
「あぁ。わかってるよ」

ズボンの裾を引っ張ってくるセシリーを抱え込み、戦いの行く末を見守ることにする。

「なんで・・・模様が消えてるはずなのに・・・!!」

立ち上がろうとしながらシリルの左腕で視線が止まったノーラン。彼の目にはおそらく、色濃く浮き出た黒い魔法の模様が映っているのだろう。

「すごい・・・魔法の力が上がってる気がする・・・」

左手をグーパーしながらそう呟いた水の竜は、自分の力が以前よりも増していることに驚きを隠せないでいる。彼の水天竜は本来、自身の水の魔法と、ウェンディの天空魔法が混ざり合ってできた魔法だった。だけど今放っている水天竜の魔法は少し違う。
俺には見えていないから、感じ取れる魔力からでしか言えないが、おそらくは水の滅竜魔法と天空の滅悪魔法が合わさりあっている魔法になっているはず・・・

「すげぇな、シリルの奴」

俺が感心していると、横たわっているラクサスが目を覚ます。彼は正気を保ったまま、敵を圧倒しているシリルを見て感嘆の声を上げていた。

「ラクサスくん!!気がついたんだ~!!」
「あぁ・・・動けねぇけどな」

一度体を貫かれたことで出血量も多く、まともに体を動かせないといった様子のラクサス。むしろ生きてる方が不思議なレベルだが・・・それを言うのは邪道だろう。

「お前のおかげでシリルも元に戻ったぜ。ありがとな」
「あいつは同じギルドの仲間だ。当然のことだぜ」

短く言葉を交わし、拳を合わせる俺とラクサス。二人は拳を離すと、妖精と悪魔の戦いを繰り広げている場所へと視線を向けた。

「これならいける!!」

さっきの暴走のおかげで完全に滅悪魔法を物にしたシリルは、勢いそのままにノーランへと突進していく。

「その動きを止めれれば!!」

それを見てノーランは砂を拾うと、それを向かってくる竜に向かって投げつける。その砂は一粒一粒が姿を変えていき、剣の雨となってシリルに向かっていく。

「見える!!」

逃げ場がないようにすら思える無数の剣の舞。だが、シリルにはそれが一切当たらない。
少年は魔水晶(ラクリマ)を入れた瞳を水色に輝かせると、迫り来る剣のほとんどない間をヒョイヒョイと避けていき、敵に進軍を進めていく。

「ウソだろ!!そんなことが・・・」

無傷でほとんどない間を通ってくるシリルに思わず目を疑う悪魔。彼が怯んでいるその隙に、彼は男の目の前へとやって来ていた。

「水天竜の・・・鉤爪!!」
「うおっ!!」

シリルの足が悪魔の顔を蹴りあげる。ノーランはそれでよろけ倒れそうになるが、ギリギリのところで耐えると、少年の頭を鷲掴みにした。

「ふざけるな・・・ふざけるな!!仲間を想う気持ちなんかで勝てるはずがないんだ!!そんなものがあるなら、俺はとっくに今まで殺した奴等に呪い殺されてる!!それなのにお前は・・・」
「それは違うよ、ノーラン」

敗北が目の前まで迫ってきていることを悟ったノーランは、苛立ちを込めた口調で捲し立てる。しかし、シリルはそれに動じることなく、自身の頭を掴む腕を掴むと、力尽くでそれを引き離した。

「俺もウェンディやみんなを守りたい、その気持ちが俺たちを強くしているんだと思ってた。でも、そうじゃなかったんだ」
「は!?」

腕を捕まれ身動きが取れないノーランは、少年が何を言っているのかわからず間抜けな声を出す。

「俺はウェンディとシャルルと、セシリーやギルドのみんなとずっと一緒にいたい!!みんな俺たちのワガママだったんだ!!誰も失いたくない・・・笑顔で明日を迎えたい・・・誰よりも仲間と生きていたい!!全部俺たちのワガママだ!!」

掴んでいた腕から手を離した水竜。彼は目の前で唖然としている男に正体し、魔法の構えに入っていた。

「お前はワガママな奴が勝つといった。だったら妖精の尻尾(俺たち)は誰よりも勝てるギルドだ!!みんながワガママで、真っ直ぐな人たちだから!!
お前みたいな奴が、俺たちの道を遮れるわけがねぇんだ!!」

強い想いを口にした少年は、青き水と白銀の風を口の中へと集めていき、悪魔の男を一直線に見据える。

「竜魔の咆哮!!」
「うわあああああああ!!」

大気を切り裂くほどの勢いで放たれた水の竜であり、天空の悪魔である少年の一撃。それを受けた悪魔は、悲鳴を上げて宙に舞い、地面へと叩き付けられた。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

呼吸を乱し、肩で大きく呼吸をしているシリル。彼は深呼吸をすると、血まみれになっているノーランを見下ろし、口を開いた。

「俺はみんなを守れるんだったら、誰よりもワガママになってやる」

強い光を宿した目をした少年の決意の一言。その姿に、見ているものたちは思わず笑みを浮かべたのであった。












 
 

 
後書き
いかがだったでしょうか。
シリルが完全に天空の滅悪魔法を修得しました。
これにより彼の天使に滅LOVEへの道が近付いてきましたね。
シリル「え?マジで?」
ここからは一気に事態が進んでいきます。45巻の分とか46巻の分とかほとんど飛ぶと思いますので、あらかじめご了承ください。 
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