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媚薬

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3部分:第三章


第三章

「名前は」
「俺の名前か」
「そう。名前は」
「松田健一郎」
 強く低い声、メタリックな響きのある声でだ。こう言ったのである。
「医学部の教授に招かれた」
「そうか。医学部か」
「専門は脳外科だ」
 それだというのだ。
「宜しくな」
「わかった。私は」
「話は聞いている」
 健一郎の方からだった。津波に言ってきた。
「緒田津波博士だな」
「知っているのか」
「この八条大学工学部教授、そして」
 さらにだった。津波は。
「天才科学者だったな」
「天才かどうかはわからないが」
 とはいっても自信に満ちた声ではある。
「私がその緒田だ」
「そうだな。そのことは知っていた」
「そうか」
「これから宜しくな」
「こちらこそな」
 こうしたやり取りをしてだった。二人ははじめの挨拶をしたのだった。
 この場はこれで終わった。しかしであった。
 津波は己の研究室に戻ってからだ。何かしら造りながらこう言うのだった。
「松田教授か」
「ああ、医学部のですね」
「そうだ。あの若さで教授か」
「あの人も二十九歳でしたね」
 何故かこの年齢が問題になる。比佐重が言うのだ。
「僅か二十九歳で教授って」
「凄い話だ」
「まあ博士にしてもですね」
 比佐重は津波に対して言う。今彼は津波の頭の上に寝そべっている。その姿はどう見ても生身の猫だ。ロボットにはとても見えない。
 その彼がだ。また言うのだった。
「二十四歳で大学に入られて」
「うむ」
「二十五歳で助教授で」
 流石だった。相当な速さである。伊達に無数の博士号を持っている訳ではない。
「それで二十六歳で教授ですから」
「私にとっては当然のことだ」
「その博士と同じ位凄い人ってことですね」
「医学会ではこう呼ばれている」
 その健一郎がだ。どうかというのだ。
「ブラックジャックとな」
「天才ってことですね」
「専門は確かに脳外科だが他のあらゆることができる」
 その脳外科に留まらないというのだ。
「内科も何もかもだ。できるのだ」
「医学の天才ですか」
「そうだ。まさにブラックジャックだ」
 ブラックジャックは外科のみだ。しかしだ。その彼はというとだ。
 医学ならあらゆることができる。彼もまた天才と言えた。
 その彼についてだ。津波は言うのだった。
「ようやく出会えた」
「出会えたとは?」
「外見も好みだ。性格もワイルドでいい感じだ」
 そうだというのだ。それもだ。
「いいな」
「いいってことは」
「そうだ。惚れた」
 表情も口調も変わらない。だが。
 その顔に微かに赤くなっていた。それでだった。
 そのうえでだ。こう言うのだった。
「素晴しい」
「えっ、博士も遂にですか」
「是非交際したいが」
「それで結婚ですね。博士よかったですね」
「何かいいのだ」
「ですから。三十前で結婚できて」
 こう言うとだ。今度は。
 津波は比佐重の髭を引っ張る。すると比佐重は。
 
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