会いたかった
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4部分:第四章
第四章
「いいかな。ドーナツね」
「ええ、わかってるわよ」
女の子達は感心してくれている顔から真剣な顔になって僕に応えてきた。僕の手にはミスタードーナツの白い箱がある。その中にドーナツ達がある。
そのドーナツ達が入った箱を女の子達に向けて差し出した。女の子達も受け取ってくれた。
そのうえで僕に。真剣な顔で言ってくれた。
「確かに受け取ったから」
「後は任せてね」
「あの娘にすぐに届けるから」
「そうするからね」
「頼んだよ」
僕も真剣な顔で女の子達に告げる。こうしてだった。
お見舞いのドーナツは届け終わった。ここまで一気だった。そしてその一気のまま終わらせて。
学校に戻って部活に出てだった。後は家に帰って日常生活を送った。
けれどその間ずっと彼女のことを考えていた。明日元気に登校してくればいいと。
そのことばかり考えて朝を迎えた。朝になるとすぐにだった。
僕は身支度を整えて学校に向かった。バスと電車を乗り継いで商店街、まだどの店も開いていないそこを通って行って学校に来た。すると。
校門から下駄箱に来たところでだった。後ろから声がした。
「おはよう」
「その声は」
聞き忘れる筈がなかった。あの娘の声だった。
声の方を振り向くとだった。黒いショートヘアに垂れ目の小柄な娘がうちの学校の制服を着て立っていた。その顔はにこにことしている。
その娘が彼女だ。僕の彼女だ。
彼女が僕に対して笑顔でこう言ってきたのだ。
「それで有り難う」
「風邪、よくなったんだ」
「うん。昨日よく休んだしお薬も飲んだから」
「そう。よかったね」
「それにね」
笑顔で。彼女は僕にさらに言ってくる。
「君がお見舞い買って来てくれたから」
「ドーナツ。食べたんだ」
「美味しかったよ」
僕にとって一番の言葉だった。
「だから。本当に有り難うね」
「そう。あのドーナツを食べてくれて」
「風邪の時って甘いものもいいから」
糖分はすぐに栄養になる。だからだった。
「だからなの。けれどそれ以上にね」
「ええと。まだあるのかな」
「気持ち。受け取ったから」
だから余計に元気になったと。僕に言ってくれた。
「それでなの」
「そうなんだ。受け取ってくれたんだ」
「だから有り難う」
また僕にこの言葉を言ってくれた。
「君のお陰で元気になったよ」
「いや、僕のことなんていいよ」
「いいの?」
「僕だってね」
下駄箱のところで彼女と向かい合って。そのうえで彼女に言った。
「君が学校に来てくれて」
「私が学校に来てくれてたの」
「そう。とても嬉しいから」
彼女の顔を見られた。それだけでだった。
「だからいいんだ。それだけで嬉しいから」
「私がこうして学校に来ているだけで」
「嬉しいからね。それでいいからね」
「そうなの。そう思ってくれて私に」
「うん。そうだよ」
「じゃあ私。これからもね」
これまで以上に明るい顔になって。僕に言ってきた。
「風邪、ひけないわね」
「あれっ、何でそうなるの?」
「だって。私に何かあったら」
今度は少し苦笑いになって。彼女は僕に言ってきた。
「またよね」
「うん、その時はね」
「そうでしょ。寮まで来てくれて」
「迷惑かな、それって」
「そこまで心配してもらう訳にはいかないから」
これが彼女の言葉だった。
「だからね。そんなことになるより」
「風邪をひかないでいてくれるんだ」
「他の病気もよ。それに」
「それに?」
「私に一日会えなくて不安だったのよね」
彼女は僕に今度はこう尋ねてきた。
「そうだったのよね」
「当たり前じゃない。本当にさ」
僕は彼女の今の言葉にすぐに言い返した。自分でも必死な顔になっているのがわかる。
「会いたかったよ。本当に」
「そうよね。君日曜でも部活がなくても学校に来てね」
若しくは彼女と待ち合わせてデートだ。寮生なので僕の方から学校のあるこの町まで来る。だから僕は毎日この町に来ていることになる。
「そうしてくれてるから」
「会えないなんて本当に」
「それ君だけじゃないから」
こう僕に言ってきた。
「私もだから」
「君もなんだ」
「そうよ。昨日一日寮の自分のお部屋で寝ていて」
それでだというのだ。
「君に会えなかったから。だからね」
「辛かったんだ」
「同じなのよ。会えないと辛いっていうのはね」
僕だけじゃなかった。それは。
「私もだから。それでなのよ」
「もう病気にはなりたくないんだ」
「絶対にね。本当にね」
彼女はここで満面の笑みになって僕にこう言ってきた。
「会いたかったわ」
「うん、僕もだよ」
僕も笑顔になって返した。本当にそうだった。
僕達はやっと会えた今この時を心から喜んでいた。そのうえで。
流石に抱き締め合う訳にはいかなかったけれど笑顔を見せ合った。会いたかったからこそ。
会いたかった 完
2012・6・4
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