英雄伝説~光と闇の軌跡~(3rd篇)
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第111話
~アルセイユ・ブリッジ~
「…………配置、完了しました。」
アルセイユに乗船し、導力機関を操作できる為臨時クルーとなったミュラー、ヨシュア、リシャール、ティオ、ティータはそれぞれが操作する装置の椅子に座り、アルセイユの艦長であるユリアは艦長椅子に座り、静かな表情で乗船している全員に言った。
「始祖様。どうか始めてください。」
ユリアの言葉に頷いたクローゼはセレストに視線を向け
「――――わかりました。それでは皆さん………意識を集中させてください。この”白き翼”が大空へと舞い上がる姿………そんな光景をイメージするといいでしょう。」
視線を向けられたセレストは頷いて、ケビン達を見回した。
「了解ですわ。」
「あはは………簡単に思い浮かびそうね。」
そしてケビンとエステルは頷き
「この船は初めてですが………さぞ美しい光景でしょうね。」
「………まさかアルセイユに乗船できるだけじゃなく、直に導力機構に触れ、さらに操作の一部も任せてもらえるとは思いませんでした………」
アルセイユに初めて乗るリースは微笑み、ティオは静かな笑みを浮かべ
「凄い………!まさか空を飛ぶ船があるなんて………!」
「私も船が空を飛ぶ所を見たり、体験したりするのは初めてなの!」
「飛行船がない時代の僕達にとって驚くべき事だね………」
「ええ………船が空を飛ぶなんて、夢みたいです………」
「フフ………人々が夢見た大空への旅は現実になるのですね………」
「フッ………まさか人の身でありながら、空を飛ぶ事を体験する事になるとはな………」
「ええ………このような貴重な体験、私達にとって大切な思い出になりますね………」
飛行船がない時代のナユタ、ノイ、アドル、エレナは興奮したり驚きの表情になり、フィーナは微笑み、ヴァイスは口元に笑みを浮かべ、リセルは微笑んでいた。
「そ、そういえば……昔、逮捕された時にこの船でレイストン要塞まで連行されたんだっけな………くそ、あれから僕の人生はメチャクチャに………」
一方唯一アルセイユに嫌な思い出があるギルバートは疲れた表情で溜息を吐いたが
「そこの御方………どうか協力をお願いします。皆の思いが一つにならなければこの”翼”は甦ることはない………何でしたら一人で”庭園”に残りますか?」
「そうね。これから向かうのは最終決戦地。足手纏いは不要よ。」
「全くじゃ。エステル達の恩情で乗せてやっているというのに、そのような態度なら無理やりにでもこの船から下ろすぞ?」
「協力する!協力しますってば!まったく………ブツブツ………どうして僕までこんな………」
セレスト、ファーミシルス、リフィアの言葉に慌てて首を横に振って答えた。
「やれやれ………」
「うふふ………ほんと、面白いお兄さんね。」
(………”結社”もよくこのような奴を未だに所属させているな………)
ギルバートの様子を見たエステルは呆れ、レンは口元に笑みを浮かべ、レーヴェは呆れた様子でギルバートに視線を向けた。
「………さて。それでは始めましょうか。」
そしてセレストは全員を見回して静かに言い、片手を前にかざした。すると全員から淡い光を放った!
「おお………」
「こ、これは………」
「まあ………」
「ほう………」
その様子を見たケビンとリース、イリーナは驚き、リウイは興味深そうな様子で声を出した。するとアルセイユ全体が光を放ち、そして動き出した!
「――――起動完了。”アルセイユ”………いつでも発進可能です。」
導力機構を操作し、状態を確かめたユリアは静かな笑みを浮かべて言い
「ピュイ!」
「やったぁ………!」
「わーい!みんなの気持ちが一つになった証拠だね!」
「フフ、そうだね………」
ジーク、ティータ、ミントははしゃぎ、ツーヤは微笑み
「ふう………さすがに緊張したね。」
「これで準備は整ったか………」
ヨシュアは安堵の溜息を吐き、リシャールは静かに頷いた。そしてユリア達の様子を見たクローゼはケビンに視線を向け、尋ね
「ケビンさん………どうしますか?」
「ええ………出発するとしましょう。”星層”の外側―――”影の王”が待ち受ける不毛なる荒野の彼方へ。」
「承知しました。……ユリアさん、よろしくお願いします。」
ケビンの答えを聞き、ユリアに身体を向けて真剣な表情で指示をし
「了解です。………王室親衛隊所属、巡洋艦”アルセイユ”―――これより最大戦速をもって”星層”を離脱する。機関始動、発進せよ。」
指示をされたユリアはそれぞれの導力機構の近くに座っているクルー達に指示をし
「イエス、マム!」
クルー達はそれぞれ力強く頷いた。そしてアルセイユは飛び始め、すざましい速さで”星層”の中を駆け始めた!しばらく星層を飛んでいると景色がさまざまな幻想的な景色に変わった。
「す、凄い………!」
「これが”星層”の真の姿か………」
幻想的な景色にアネラスやミュラーは驚き
「綺麗……」
「フッ………まるで万華鏡だね。」
サティアやオリビエは微笑みながら景色を見つめた。
「時速3000、3100、3200………え………ちょっと、待って下さい。3500………3800………4300………時速5000セルジュに到達しました!」
一方アルセイユの速さを報告していたティオは速度の数値を見て驚きの表情になって報告した。
「なに………!?」
「現在のアルセイユの最大戦速(3600セルジュ)を大幅に上回るなんて………」
ティオの報告を聞いたユリアとクローゼは驚き
「フフ………以前乗った時より速く感じていましたけど、私の気のせいではなかったんですね………」
「?………リタ………乗った事………ある………?」
クローゼの話を聞いたリタは微笑み、その様子を見たナベリウスは首を傾げ
「どうやら理論的な限界値まで性能を引き出せたようですね。これも皆さんが思いを一つにしてくれた証拠でしょう。」
理由がわかったセレストは微笑み
「ビ、ビックリです………」
「5000セルジュ………未知の領域ですね。」
理由を知ったティータは微笑み、ティオは静かな表情で呟いた。
「この速度なら目的地までそれほどかからへんかもな………」
「………”星層”の領域はまだ脱けられないのでしょうか?」
「いや………距離的にはそろそろのはずだ。」
ケビンとリースの言葉にリシャールが答えたその時、ティオの目の前にある装置が赤く光った。
「前方に帯状の障壁を確認!後120秒で接触します!」
「機関全速、主砲発射準備!連続砲撃による界面突破を敢行する!」
ティオの報告を聞いたユリアは指示をし
「了解!」
砲撃担当のミュラーは頷き、砲撃を開始した!すると先を阻む光の壁はアルセイユの主砲の連続砲撃によって破壊されて大きな穴をあけ、アルセイユは開いた穴を通って星層を脱出した!星層の外―――そこは植物は存在せず、崩れた建物だけがある荒野だった。
「………こいつは………」
「これが”星層”の外側………」
景色を見たアガットとリースは驚き
「まさに不毛の荒野ね………」
シェラザードは真剣な表情で呟き
「何もなくて、寂しい場所です~………」
「そうね………」
サリアとシュリは不安そうな表情をした。
「目的地の座標に関してはすでにお伝えした通りです。このまま真っ直ぐ進めばじきに到着できるでしょう。」
「はあ………これで一息つけるわね。」
セレストの話を聞いたエステルは安堵の溜息を吐き
「凄い速かったね、ノイ!」
「う、うん!こんな凄い体験、初めてなの!」
ナユタとノイははしゃぎ
「凄かったな………これほどの速さが出る飛行船………いつか作ってみたいな………」
「……ハア………貴方の場合だと本当に作りそうだから、その時の事を考えると頭が痛くなってくるわ………」
「フフ、ウィルならいつか必ず作れますよ………」
ウィルは微笑んだ後考え込み、ウィルの言葉を聞いたエリザスレインは疲れた様子で溜息を吐き、セラウィは微笑み
「うふふ………なかなか楽しかったわ。”グロリアス”や”モルテニア”ではこれほどの速さは出せないし。」
「アルセイユと違って、あの2艦は戦闘用に造られてあるから、それは仕方ないわよ……」
レンは口元に笑みを浮かべて呟き、レンの言葉を聞いたプリネは苦笑した。
「しかしこの広大さ………”影の国”というものがこれほどの場所だったとはな。」
「ふむ、これが”輝く環”のサブシステムに過ぎないとは………本当に”環”が破壊されたのか、今でも信じられないくらいだね。」
「ええ………そいつには同感ですわな。破壊されたにしても、スケールがでかすぎる………………(やっぱり、あの時奴が回収できなかったものは………)」
一方ジンとオリビエは考え込み、2人の言葉に頷いたケビンは”リベル=アーク”でワイスマンを滅した時に出会い、去り際に放ったカンパネルラの意味ありげな言葉を思い出し
「ケビンさん、どうかした?」
ケビンの様子に気づいたエステルは首を傾げて尋ねたが
「いや………大したことやあらへん。今回の事件には直接関係なさそうやしな。」
「?」
「……………」
ケビンの曖昧な答えにさらに首を傾げ、リウイは静かな表情で黙ってケビンを見つめた。するとその時、再びティオの前にある装置が赤く光った。
「なっ、一体これは…………後方200セルジュに小型の飛行物体を感知!」
「なんだと!?」
「こ、こんな場所に他の飛行艇が………!?」
驚きの表情のティオの報告を聞いたユリアとクローゼが信じられない表情をしたその時
「………いえ。どうやら”星層”からの追撃者のようですね。」
真剣な表情のセレストが警告し
「追撃者………!?」
「何者だ……!?」
警告を聞いたケビンとセリカは驚いた。
「モニター展開!後部カメラで飛行物体を捉えてくれ!」
「………了解しました!」
セレストの警告を聞いたユリアの指示に頷いたヨシュアは装置を操作し、モニターを出して、後方から迫ってくる飛行物体の正体を見れるようにした。するとアルセイユの後方からはなんと白銀のドラギオンが迫り、徐々にアルセイユに近づいて来ていた!
「あ、あれは………!」
「”黒騎士”と共に出て来た機械人形………!」
「白銀のドラギオン………!」
「………見た事のない色だな………」
後方から迫って来るドラギオンを見たエステル、アドル、ヨシュアは驚き、レーヴェは真剣な表情でモニターを睨んでいた。
「………まずいです。アルセイユ以上の速度です。このままだと補足されます。」
「………取り付かれたら厄介だな。あの機体には一度、アルセイユを落とされている。」
「………くっ………」
ティオの報告を聞いたミュラーとユリアは苦々しい表情をして考え込み
「空中戦用意!反転しつつ敵竜機を迎撃する!」
すぐに結論を出したユリアは指示をし
「………ならば俺もドラギオンを呼んで、加勢する!」
「うふふ。勿論、レンもパテル=マテルを呼んで、手伝うわ♪」
「くふっ♪あんな玩具、すぐに落としてあげるよ♪」
「こうなったら、飛行できる人達も一緒に戦って、落とすわよ!」
レーヴェ、レン、エヴリーヌ、エステルはそれぞれ提案をした。すると
「………いや。それには及ばない。」
不敵な笑みを浮かべたギルバートが予想外な言葉を口にし、ブリッジにいる全員は驚いて振り向いてギルバートを見た。
「え…………」
「な、なんや兄さん………やぶから棒に。」
そして驚きの表情のユリアが戸惑っているケビンと共に見つめたその時
「フッフッフ……とうとう君達にこの僕の真の実力を披露する時が来たようだね。」
なんとギルバートは不敵な笑みを浮かべた後、信じられない言葉を口にした。
「へっ………」
「だ、大丈夫!?」
「もしかしてどこかで頭を打ったの??」
「………下の医務室で休んだ方がいいのでは?」
ギルバートの言葉を聞いたケビンは呆け、エステル、ミント、リースは心配した様子でギルバートに言った。
「ははは!まあ、そこで見ていたまえ!真のヒーローの活躍ぶりをね!」
一方ギルバートは得意げな様子で笑い続けた後、ブリッジから出て行ってどこかに向かった。
「………行っちゃった。」
「な、なんなのよ………?」
ギルバートの行動にアネラスは呆けた様子で呟き、エステルは戸惑った。
~アルセイユ・艦首~
「フフフ………ようやく………ようやく僕が主役を張れる時が来たようだな………!」
一方艦首に来たギルバートは不敵な笑みを浮かべた後、空を見上げて片手を上げ
「もし、この世界が人の想いを反映するのなら………出でよ!蒼穹よりもなお青い!雲海を切り裂く僕の翼(G-アパッシュ)よ!」
大声で高々と叫んだ!すると艦首の近くに空飛ぶ機械兵器―――G-アパッシュが現れた!
「ははは!よくぞ来た、G-アパッシュ!」
G-アパッシュを見たギルバートは不敵な笑みを浮かべた後、操縦席に乗り込み
「”身喰らう蛇”所属、第38強化猟兵部隊中隊長、ギルバート・スタイン………これより敵竜機の攪乱および迎撃を行う!」
なんと、白銀のドラギオンに向かって行った!
~アルセイユ・ブリッジ~
「…………………………」
一方ギルバートの様子をモニターで見ていたエステルは口をパクパクさせて絶句し
「あら?確かあの人形兵器は………」
「あの時の人形兵器か………!」
「まさか人が乗れたなんて………」
ギルバートが乗る人形兵器に見覚えがあったリタは首を傾げ、ケビンとリースは驚いた。
「あ、あの機体………!?やっぱり山猫号を襲ったのはあいつだったんだな………!」
一方かつてギルバートが乗るG-アパッシュに自分達―――山猫号が仕事の途中で襲撃された事を覚えていたジョゼットは怒りの表情でモニターに移るG-アパッシュを睨み
「……なるほど。考えたな………あれなら機動性だけなら、ドラギオンと同じだ。」
レーヴェは静かな様子で頷いた後、口元に笑みを浮かべて呟いた。そしてG-アパッシュに乗ったギルバートはG-アパッシュに付いている武装を次々と放ち、何発かを白銀のドラギオンに被弾させた。
「上手い………!」
「………正直、驚きました。」
ギルバートの様子をモニターで見ていたリースとツーヤは驚き
「へえ、やるじゃない!」
「ヘッ………ただのヘタレかと思ったら根性見せるじゃねえか。」
「うんうん!見直しちゃいましたよ!」
シェラザード、アネラス、アガットは感心していた。
「ふむ、しかしあれでは撃墜するのは難しそうだな。」
「………そうですね。やはりこちらも反転して迎撃した方が………」
一方ミュラーは難しそうな表情で呟き、ミュラーの呟きに頷いたユリアは提案をしようとしたその時
「………それには及ばないと言っただろう!」
ギルバートの声が艦内に響き渡り、そしてモニターにギルバートの顔が映り
「あ。」
それを見たユリアは呆けた声を出した。
「いいから先に行きたまえ!どうせ僕が付いていっても戦闘の役にはあまり立たない!ならばここでせいぜい目立たせてもらうさ!」
「………君は………」
ギルバートの提案を聞いたユリアは真剣な表情でモニターを見つめ
「なあに、撃墜できないまでもこのまま攪乱することはできる。頃合いを見て離脱してそっちに追いつかせてもらうさ。」
「……………………了解した。武運を祈る。」
ギルバートの説明を聞き、静かに頷いた。
「フッ、そちらこそね!」
そしてギルバートは通信を切り、モニターは真っ暗になった。
「ギルバート………」
「やれやれ………良い所を持っていかれたな。」
「ま、あいつの腕なら多分心配ないんじゃない?ボク達の山猫号もかなり苦戦させられたし。」
ギルバートの決意を知ったエステル、ジン、ジョゼットはそれぞれ微笑み
「確かに………ここは兄さんを信じるか。」
「………せめてもの無事を女神達に祈るとしましょう。」
「イーリュンよ………どうか彼をお守りください………」
「アーライナよ………彼に御力を………」
「戦の神マーズテリアよ………彼の者にご加護を………」
ケビン、リースは頷き、ティナ、ペテレーネ、シルフィアはその場で祈った。
「………そうだな。―――機関、再び全速!このまま目的地まで一気に駆け抜けるぞ!」
「イエス、マム!」
そしてアルセイユは再び加速し、ドラギオンとギルバートから離れて行った。
「フッ………これぞヒーローの醍醐味………ああっ!僕ってばなんて恰好イイッ!」
去って行くアルセイユを背にギルバートは不敵な笑みを浮かべた後、自己陶酔に陥っていたがある事に気づいて表情を変えた。
「!へっ………?」
驚いたギルバートがドラギオンを見つめ続けると、なんとドラギオンの後方から新手のドラギオンが2体近づいて来た!
「ちょ、ちょっと待った!それは幾らなんでも反則だろ!?待ってアルセイユ!ゴメンやっぱり今のナシ!」
増援のドラギオン達を見たギルバートは慌ててアルセイユに通信したが
「って、もう通信範囲外かよ!」
既にアルセイユは通信範囲外まで離れており、助けを呼べなかった。そしてドラギオン達は攻撃の構えで一斉にギルバートが乗るG-アパッシュに向かい
「うわあああん!助けて女神さまぁあっ!!」
ギルバートは情けない声で泣きながらドラギオン達に背を向け、G-アパッシュを操作して必死にドラギオン達から逃げて行った………………
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