息を潜めて

「だからな」
「はい、もう艦内の空気がです」
「かなり悪化しています」
「ですから」
「もうそろそろと思っていました」
「そうだ、だがだ」
　上昇するがともだ、ゴルトマンは慎重な口調でさらに言った。
「潜望鏡で周りを調べてからだ」
「はい、それからですね」
「海上に出るのは」
「それからですね」
「アザラシはだ」
　ゴルトマンはここで寒い海にいるこの海の哺乳類の名前を出した。
「シロクマに何時狙われるか知っているか」
「息つぎですね」
「その時でしたね」
「息をしようと海に出るその時」
「そこを待ち伏せされていますね」
「そうだ、その時がだ」
　まさにというのだ。
「一番危ない」
「だからですね」
「その時こそ慎重に」
「そういうことですね」
「姿を見られた潜水艦は只の的だ」
　それに過ぎないというのだ。
「アザラシは海の中を素早く泳げるがだ」
「我々はそうはいきませんね」
「生憎」
「だからだ、慎重にだ」
　そうしてというのだ。
「出て行くぞ」
「はい、そうしてですね」
「周りを見てから」
「そうしてですね」
「美味い空気を吸うぞ」
　彼等が何よりも好きなそれをというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
「まずは」
「海面近くまで上昇だ」
　ゴルトマンはこう指示を出した、そして。
　一旦だ、海面と空を確かめだ。ゴルトマンはほっとした顔で言った。
「いない」
「いませんか」
「ああ、敵はな」
「それでは」
「上昇だ」
　こうヴァルターに晴れた顔で言った。
「いいな」
「わかりました」
「そしてだ」
「はい、艦内の空気の入れ替えとですね」
「皆に美味い空気を吸わせてやれ」
　こうも命じたのだった。
「わかったな」
「了解です」　
　こうしてだった、艦は海の上に出てだった。
　船員達は交代で船の外に出て空気を吸った、そして艦内のその空気も入れ替えた。勿論ゴルトマンとヴァルターも出た。
　外はまだ暗くあまり見えない、だが。
　ゴルトマンは笑みを浮かべてだ、ヴァルターに言った。
「やはりな」
「はい、外はいいですね」
「空気が美味い」
　こう言うのだった。
「何といってもな」
「それが一番いいですね」
「生きてな」
　そしてというのだ。
「こうしていられるのが一番だ」
「全くです、それでですが」
「あの海域に行った他の艦だな」
「どうなったでしょうか」
「全艦無事ならいいがな」
「それでもですね」
「戦争をやっているからな」
　それでと言うのだった。