昔のご馳走
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第二章
「そして皆さんにも召し上がって欲しいのです」
「そういうことですか、では」
「それではですな」
「馳走になります」
良沢も他の者達も源内に頭を下げる、そしてだった。
皆源内の屋敷の広間に座り馳走が運ばれて来るのを待った、その待つ間だった。皆果たしてどういった馳走が来るのかと話した。
「さて、馳走といいましても」
「色々ありますからな」
「山海の珍味もあれば」
「もう食べられないものもある」
「ではこの度の馳走は何か」
「それがわかりませぬな」
「そうですな」
中川淳庵も言う。
「私にも何が出て来るか」
「ですな、源内殿はです」
玄白が言うことはというと。
「時折突拍子もないことをされますが」
「人を驚かせることが好きですな」
「そうしたところがありますな」
こう淳庵に言う、そして。
良沢はここでもだ、気難しい顔で言った。
「全く、学者であり武士でありながら」
「それで人を驚かせることが好きとは」
「よくないというのですな」
「全くです」
こう玄白と淳庵に言うのだった。
「あの方の悪いところです」
「良沢殿はいつもそう言われますな」
「源内殿のことは」
玄白と淳庵は気難しい顔のままの良沢に言った。
「学者、武士としては軽率だと」
「何でも興味があればすぐに手を出すと」
「商売のことも言うとか」
「他にも色々と」
「いささか以上に軽いところが」
どうにもというのだ。
「それがしはどうかと思います」
「しかしですな」
「決して源内殿はお嫌いではありませぬな」
「お招きにはいつも応じますし」
「そしてよくお話もされますし」
「嫌いかと言われますと」
良沢は二人に己の源内への感情を素直に話した。
「そうではありませぬ」
「やはりそうですな」
「お嫌いではありませぬな」
「はい、あの様にあらゆる学問を修められ」
それこそ蘭学も他の学問もだ。源内はこと学問においてはまさに古今東西あらゆるものに見事なものを見せているのだ。
「それにです」
「そのお人柄もですな」
「嫌いではありませぬな」
「妙に愛嬌のある御仁です」
源内の人柄はそうだというのだ。
「ですから」
「それで、ですな」
「決してお嫌いではなく」
「お招きにも応じ」
「お話もされますな」
「左様です」
見れば口元が微かに微笑んでいる、それが良沢の源内への感情だった。
「それでこの度もですが」
「ご馳走と聞いて」
「それが一体どうしたものか」
「興味がおありですな」
「あの方が何を出されるか」
「さて、何が出て来るのか」
良沢は座っていながらもそわそわとしている感じだった。
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