政岡
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第三章
「そっちでもええ、とにかくや」
「実際にその舞台を観て」
「勉強するで。ええな」
「落語の稽古も勉強で」
「そうしたものを観るのも勉強やさかいな」
「わかりました、ほな」
「そうするで、まあ今も勉強してるけどな」
鰻丼を食べ続けながらの言葉だ。
「わて等は」
「といいますと」
「鰻や」
「鰻?」
「鰻からもや」
今食べているこの魚からもというのだ。
「勉強出来るで」
「落語のですか」
「ここの鰻は蒲焼を中に入れるな」
「はい、御飯の」
「これも独特やしや、それにや」
「それに?」
「大阪の鰻はな」
その鰻のことをだ、惣流はさらに話した。
「あれやろ、腹から切るやろ」
「捌く時に」
「けど江戸、東京はちゃうんや」
「あっ、そうなんでっか」
「あっちは背中から切るんや」
「それは何でまた」
「さっきお武家さんの話が出たやろ」
武家の話をだ、惣流は玄朴にまた話した。
「あっちはお武家さんやろ」
「そうですけど」
「そやからや」
「お武家さんの町やからですか」
「あっちは背中から捌くんや」
「何でまた」
「腹から切ったやどないや」
惣流は玄朴に問うた。
「お武家さんが」
「切腹でっか」
「それや、そうなるさかいな」
「向こうでは、ですねんな」
「腹から切らんでや」
「背中からですか」
「そうするんや」
こう弟子に話した。
「向こうはな」
「成程、わかりました」
「そうしたこtごもわかるとな」
「ちゃいますか」
「落語のネタになるしな」
「落語は何でもネタになる」
「何からでも勉強出来る」
それこそというのだ。
「歌舞伎も食いものも」
「どれでもでっか」
「そや、そやからあんさんもな」
「もっともっとですか」
「色々なことから勉強するんや、ええな」
「わかりました、ほな」
玄朴も頷いた、そしてだった。
彼はその腹から切った御飯の中にある鰻を楽しんだ。落語のことを思いながら。
政岡 完
2016・1・19
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